すきだらけや
くにすらのに
第1話
「お前らいっつも夫婦漫才してんな」
たぶんこの一言がきっかけだった
一年生の時の自己紹介で、自分と同じく同中のやつがいないわかった隣の席の山本さん
同中がいなければキャラ変してもバレないと思って、自分から女子に話しかけたことなんてほとんどないモブ男子が「俺もなんだ」と声を掛けた
そのあとどう会話を広げていいかわからず、山本さんが付けている大きなリボンに「でっかいちょうちょ?」と小学生みたいなイジりをした
「んなわけないやん
まさかの関西弁にクラスの注目が一気に集まったっけ
俺らがマネするエセ間再現じゃなくて、関西出身のお笑い芸人が話すような、一回聞けば本物だとわかる
「山本さんって関西出身なの?」
「絶対そっちの方が可愛いよ」
「家にたこ焼き機あるってマ!?」
関西から東京に引っ越してきているんだ
高校生という新しいステージに突入してみんな浮足立ってるんだろう
だけどそれは山本さんだけではなかった
たまたま隣の席に座っていた俺もまた、少しゆるやかなペースで山本さんと一緒にクラスカーストを上っていく
「吉田くんのボケは小学生レベルやねん
「じゃあこれからの季節は救世主だな
「あかん
「別に芸人目指してるわけじゃないし」
「そういう意識の低さがボケレベルの低下を招くんや
「え……なんで?」
「バン!」
「……え?」
「あーーーー! もうウチが1から特訓したる
「酷くない? 生きる権利すらないの?」
「ない
「ならないよ!? 高一の時点で進路が迷走してるとか嫌だからね!」
こんな感じの会話を毎日のように繰り広げていた
山本さんはノリが良くて会話を引っ張ってくれるから自然と話が膨らむ
女子としてではなく、性別を超えた
そんな風に認識していたのに急に夫婦扱いされて彼女を見る目が変わってしまった
夏服になってから山本さんの体のラインが鮮明になり、とても魅力的な曲線を描いていることを知った
彼女は俺にツッコミを入れる時に容赦なく叩いてくる
意識しだした途端に山本さんに声を掛けらなくなった
山本さんのツッコミあってのポジションなのは自覚しているので、俺の高校生活は早くも終わりを迎えたかもしれない
「隙だらけや!」
「いてっ!」
教室にいるのが気まずくて廊下をボーっと歩いていると後頭部に衝撃が走った
日頃からどつかれている俺じゃなければたぶん死んでる
「小学生レベルでもボケとかんと仕事なくなるで?」
「仕事って
「ちゃうちゃう
「言ったって? 何を?」
「はぁ……ほんまにボケとるね
そう言って山本さんはくるりと振り返り教室へと戻っていった
なんのことか意味がわからずじんじんと痛む後頭部を押さえて俺はトイレに向かう
「夫婦漫才!」
声がした方を振り向くと、山本さんは廊下をダッシュで駆け抜けていった
先生に見つかったら注意されるだろうけど幸いなことに人の気配はしない
俺も山本さんも別に芸人を目指しているわけじゃない
なんなら薬学部を目指してると前に言っていた
かく言う俺も将来はパソコン関係の道に進みたいと考えている
だからこれは高校生の間だけの
俺達にとって大事なのは漫才ではなくその前の2
「って、まだ早いっての」
自分のツッコミは山本さんに比べると弱い
戻ったらしっかりどついてもらおう
すきだらけや くにすらのに @knsrnn
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