第4話 鉄の毛を持つ熊

「こんにちは」

 鍛冶屋の扉を開きシロが挨拶する。

「こんにちは、いらっしゃい」

 顔を出したのは長く黒い髪の赤い眼をしたお姉さん。

 俺も続けて挨拶をする。

「こんにちは」

 お姉さんはカウンターに、手に持っていた金づちを置き言った。

「私はトウカ。見ての通り鍛冶屋だ。よろしく」

 トウカさん。鋭い目つきをしているせいか少し兄のような存在にも思える。

「私はシロ。よろしく」

「あ、俺はクロです。よろしくお願いします」

 何だか勢いで自己紹介してしまったが本題はこれからだ。

 が、俺が口を開く前にトウカさんがそれを遮った。

「で、今日はどういった用かな?」

「あ、はい」

 俺は反射的に返事をした。

 ……え~と、自分の剣を? オリジナルの剣を? 何て言えばいいんだ……。

 俺がそんな言葉選びをしているとシロが先に口を開いた。

「自分だけの剣、作りたい」

 ありがとう。シロ!

「はい。そうなんです」

 俺も取り敢えず同意の意志を示す。

「ん~とじゃあ、特注って事でいいのかな?」

 よかった。伝わった……。

「うん。それで」

「はい」

 トウカさんは「分かった」と頷くと続けて言った。

「ところでさ、二人ともちょっと頼まれてくれない?」

 今度は俺の口が直ぐ動いた。

「というと?」

 トウカさんはカウンターに置いてある椅子に腰かけ話しだした。

「実は今素材を切らしてて、取って来て欲しいんだ」

「なるほど」

 俺はいつになく自然に口が回っていた。

 ゲームの中だろうか? そんなことはいいか。


 トウカさんに頼まれた素材は3つだった。

 鉄鉱石、べアリオンの鉄毛、剣魔石を取ってくればいいらしい。

 場所は全て剣山。

 便利なことにこのゲームには図鑑の共有機能というものがあり、3つの素材に関するモンスターと素材の詳細をトウカさんから共有してもらった。

「それと貸してもらったツルハシ3本に、この刀、断丸たちまる

断丸たちまる、かっこいい」

 シロは俺が手に持っている断丸を見ながらそんなことを呟いている。

「それなら、シロに預けます」

「いいの?」

「はい」

 そんな目を輝かせられたら、な。

 俺はシロに断丸を手渡し、言った。

「取り敢えず行きますか」

「うん」


 道中。

「ウサギ、可愛い」

 シロがそんなことを呟いていた。

 見てみると二本の角を生やしたとても愛らしい見た目のウサギに、シロが手を伸ばしていた。

 よく見るとウサギの上にはHPバーと『鬼面兎きめんうさぎ』と書いてあった。

 モンスターか!

 俺は咄嗟に叫んだ。

「シロ! 離れろっ!」

 するとシロは直ぐ後ろ側に飛びのいた。

 と同時に鬼面兎はこちらに角を向け、猛スピードで突っ込んできた。

 その形相はまるで般若の面のような、まさしく鬼の形相だった。

「可愛かったのに……」

 シロは残念そうに呟くと、先程渡した断丸を引き抜き、それを構えた。

 俺の出番は……無さそうだな。

 シロは顔色をあまり変えていないが、鬼と対峙したような恐怖感を感じる……。

 どうやらここにも鬼がいたみたいだ。

「閃光斬」

 シロがそう言った直後、鬼面兎は消散した。

「すっきり」

 シロは満足そうにそう言い刀を納めた。


 そんな調子で俺たちは、道中のモンスターを討伐しながら剣山へ向かった。


 剣山。

 それにしても本当に剣のような山だ。

「さて、先ずは洞窟の鉄鉱石ですか」

「うん」

 俺たちはどうぞ入ってくださいと言わんばかりに開いた洞窟の入り口に入って行った。


「結構暗いんですね」

「大丈夫。実はこのツルハシ、光る」

 シロはアイテムポーチから取り出したツルハシを掲げた。

 すると柄と鉄の部分の交差している部分についている金具みたいなものが輝きだし、辺りを照らした。

「よく知ってましたね」

 さっきの鬼面兎のことは知らなかったから多分ゲーム内の知識を全て詰め込まれているわけでは無いと思うけど……。

「トウカさんにこっそり教えられた」

「何でこっそり?」

「わからない。でも、いい所を見せてやれとかなんとか……」

 あの人は何がしたかったんだ?

「確かによく分かりませんね……。でも助かりました」

「うん。助かった」

 俺たちは更に奥に足を運ぶ。


 それにしてもモンスターがいない……。

 システム側のミスか? いや、それなら直ぐに対応されているはず……。

 なら仕様ということ。そして、こういう時は大体大きなモンスターがいる。

 そんなことを考えていると、ドスーン、ドスーンと言った感じの地響きが聞こえてきた。

 来たか。

「シロ、断丸の準備をお願いします」

「急にどうしたの?」

「さっき地響きがしたでしょう?」

「うん」

「恐らくあれはべアリオンが歩行したことによる地響きです」

「なのでその断丸で毛を切り落とします」

「わかった。任せて」

「頼みますよっ!」

 俺たちは地響きのする方へ走った。

「いました!」

 それにしても大きい。この洞窟の通路を覆いつくすほどの巨体だ。

 俺は剣を構えべアリオンと対峙する。

 べアリオンは大きなその目を赤く輝かせ俺の方に向かってきた。

 スピードはそれほどないか。俺はこのまま引き付けていればシロが断丸で鉄毛を切り落としてくれるはず。

 俺は洞窟の隅にあった僅かな窪みに避難したシロに目線を送ると、了解とばかりにシロは微笑んだ。

 べアリオンの体がその窪みを通りすぎると同時に俺は叫んだ。

「頼みました!」

 シロは無言でうなずきべアリオンの巨体に跳び乗った。

 よし。これで一つ目ゲットだ。

 俺が心の中でそう呟いた直後。カキンッ! と言う金属音が洞窟内にこだました。

 まさか、切り落とせなかったのか……?

 俺は走りながらシロに呼びかける。

「シロっ! 大丈夫か?!」

 見るとシロは再び剣を構えて、頷いていた。

 そして……。

「閃光斬」

 シロがそう言うと、先程より高く、長い。キィィーン! という音が鳴った。

 あれでもダメなのか……。なら、どうすれば……。

 そんな考え事を始めると、同時にべアリオンの歩みが止まった。

 そして体をぶんぶんと振り始めた。

 どうやら背中のシロに気づいてしまったらしい。

「シロ! いったん戻って下さい!」

 シロは刀を納め俺のいる方へ。

 べアリオンも引っ付いていたものがいなくなったのに気付いた様子でまたこちらに赤く輝くその目を向け再びこちらに向かってきた。

 さて、どうしようか……。現状で一番火力の高いと思われる閃光斬がしのがれたとなると……。

「……ロ」

 多分俺が速撃・参を使っても結果は目に見えているし……、何度も繰り返し攻撃を当てて無理やりへし折るか? でもそれじゃあ時間がかかりすぎるし……。

「クロっ!」

「あ、はい!」

「一人で何考えこんでるの?」

「そりゃあ、どうやって鉄毛を切り落とすかを」

「そうじゃなくて。何で一人で考えこむの?」

「それは……」

「私もいるから。私にも考えさせて。それはクロ一人で考えなきゃならないことだったの?」

 それは……違う。多分、癖だ。俺はいつも一人で何かを思い、一人で考え、一人で行動してきた。それは俺が一人だったからだ。

 シロの事はまだよく分からない。でも、俺の言葉を聞き、意見を言ってくれる。

 まだわからないけど、シロを頼ってみよう。

「違う……。違ったよ。シロ」

「うん」

「ありがとう」

「今度考える時は私も一緒だよ?」

「わかりました。で、何かいい案があるんですか?」

「う~ん。わからない」

「そっか」

 あれだけ言っておいてなにも無いのか……。

 ……でも、この状況も同じか。どちらか一人の力で解決する必要なんてないんだ。

「シロ」

「ん?」

「二人で同時に攻撃するのはどうかですか?」

「……うん。いいと思う」

「よし。やりますか」

 取り敢えず背中に乗らなきゃいけないんだけど、どこかに分かれ道は……。

 先の方まで見てみると側面にそれらしきものは見当たらない。

 更に奥を見ると。

「い、行き止まり?!」

「みたいだね」

「みたいだね。じゃないです! どうすれば、どうすれば?!」

「クロ、落ち着いて。落ち着いて考えれば何かが思いつくはず」

「シロは自分で考える気あるんですか? ってそうじゃなくて!」

 そんなことを言い合っている内に壁にどんどんと近づいていく。

「クロ。こうなったらもうやってみるしかないよ」

「? なにをですか?」

「べアリオンを倒すの」

 ……。う~ん。でもこれ以上何も思い浮かばないし、やってみるか。

「やってみましょう!」

「うん!」

「それじゃあ、取り敢えず一番柔らかそうなお腹を狙って行きましょうか」

「わかった。同時に攻撃。だよ?」

「わかりました」

 シロと意見が合致すると俺たちは壁を背にしてべアリオンと対峙した。

 べアリオンはその目をいっそう赤く輝かせ後ろ足二本で立ち上がりグオオォォォ!

 と咆哮を放った。

 今だ!

 俺とシロは同時に剣を抜き、走り出した。

 その行動は予想外だったのか、一瞬遅れてべアリオンはその巨体で俺たちを潰そうと体を地面に下ろしてきた。

「行くぞ。シロ!」

「え? うん!」

「速撃・壱!」「閃光斬!」

 二人同時にそう言うと同時にべアリオンの腹に攻撃を当てた。

 すると二つの大きな爆発が起こった。

 その爆発のおかげでべアリオンは吹き飛び、逆さまになって床に落ちると、その体は光の粒となって消散した。

「倒、した?」

「そう、みたい」

 そう言い顔を見合わせると同時に叫んだ。

「「倒せた~!」」

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ぼっちの俺にできたAIの友達 春山 隼也 @kyomu_hy10

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