第2話 出会い 

「っはぁ~。疲れた」

 放課後。俺はいつも通りさっさと家に帰る。

 学校に行っているのは勉強のためだけだ。

 友達は一人もいないし、作ろうとも思わない。

 というか、作れない……。


 家に着くと玄関には一つの段ボール箱が置いてあった。

 宛名を見ると土倉 優 様と書かれていた。俺の荷物だ。

 え~と、今日届く予定だったものは……。

「あっ、今日はあれの発売日だったか」

 俺は学校から重かった足取りを軽くして箱を持ち二階の自室へ向かった。


 部屋に入り、箱を開けるとそこには『タッグ・ファイト・ファンタジー』と書かれたパッケージ。

 これこれ、通称TFF。


 早速やるか。


 俺はゲームソフトをセットし起動する。

 そして直ぐに意識はゲーム機ホームへと入った。


 それからTTFを選択する。そしてまたすぐに意識は吸い込まれる。


 TTFが起動するとそこにはユーザー名を入力してくださいと表示されていた。

 俺は長い間使っているユーザー名『クロ』を入力し決定を押した。


 すると先程表示されていた文字は光の粒となって消え、今度は目の前に緑色の肌をした人型モンスター。ゴブリンが現れた。

 それと同時に手にはショートソードが現れた。


 もうチュートリアルっぽいな。見た目は変更できないのか。

 この何の特徴も無い見た目が変えられればよかったんだが……。

 まぁしょうがないか。

 

 ゴブリンの少し上部には『武器種はメニューから変更できます』と表示されていた。

 しかしメニューの開き方が分からない。

 そう頭に思い浮かべると何か自分のものじゃない視界が流れてきた。

 その中では右手の人差し指と親指をくっつけそれを広げてメニューを開いていた。

 今度は開かれたメニューの上で逆の動作をしてメニューを閉じた。


 なるほど。


 すると、視界が元に戻った。

 試しに先程の動作を真似すると、メニューが開かれた。

 そこには沢山の項目があり、まだ未開放の者も混じっていた。

 取り敢えず武器を交換するつもりはなかったので直ぐにメニューを閉じた。

「よし、そしたらやってみるか」

 剣を構えゴブリンに切りかかる。

 刃が当たるとゴブリンはスパッと切れ目ができて、ゴブリンの頭上にあるHPバーが減っていき、0になった。

 するとゴブリンは光の粒となって消えた。

 

 今度はゴブリンがいた場所に大きく、丸まったダンゴムシのようなモンスターが現れた。鉄甲虫というらしい。

 その鉄甲虫に切りかかると今度は剣がカキンッと音を鳴らしてはじかれた。

 

 するとその直後、視界に透けた文字で


『このように攻撃力が防御力を越えていない場合ほぼダメージが入りません』


 と表示された。


 そしてまた、直ぐに鉄甲虫は消え、またゴブリンが現れた。 


『視界にはスキルを使ってみて下さい』


 と文字が出る。

 それから文字が


『スキルは以下のものが使用可能です

        ―――

 ・速撃・参(剣士)        』


 というものに変わった。


 スキルの使い方は……。


 そう頭に浮かべるとまた視界が別の物に変わり、やり方を見せられる。

 要するに構えを作り、それからスキル名を口にする。

「速撃・参っ!」

 すると感覚的に体が動き、ゴブリンに二度斬撃を与え、それから三回目で切り抜いた。

 なるほど、これはおもしろいな。


 例のごとくゴブリンのHPバーは0になり、ゴブリンが消える。


 すると、視界に


『チュートリアルは終了です』


 と出た。


 終わりか。

 どうやって戦おうか。

 そんなことを頭に浮かべていると、

『アイテムを獲得しました』

 という文字が。

 流れる文字に目を通すと、獲得アイテム:パートナーオーブと書いてあった。


 これか。パートナー。


 そしてそれを確認する暇も無く視界は白だけになった。


 そして今度は小さな村が視界には映っていた。

 周りにも多数のプレイヤーがいる。

 恐らくここが最初の拠点となるのだろう。

「で、これだ」

 メニューのアイテムボックスからパートナーオーブを使用した。


 すると、いつの間にか腰についていたポーチからパートナーオーブらしき玉が光り輝きながら宙に浮き、俺の目の前まで移動した。


 遂にパートナーとのご対面か。


「どういうパートナーなんだろうな」

 

 周りを見ると他のプレイヤーたちは龍、魔獣、悪魔、天使、ゴーレム、鳥、虫、蛇、蜘蛛、狼などを傍らに置いているようだった。


 俺は何を使役することになるのか。


 ……使役するんだったら何がいいんだ?


 単純に強そうな龍か? それとも天使か悪魔?

 でもやっぱり一緒に戦うんだったら連携って大事だよな。

 なら人型か? 獣人? 魔人?

 案をたくさん思い浮かべるともう一人の自分が俺に囁いた気がした。


 本当に強さだけを求めればいいのか? 


 答えは簡単だった。

「……なんかそうじゃなくて、楽しく友達みたいに接する事が出来たらいいなぁ」

 無意識にそう呟くとオーブが先程より明るく輝きだして視界が真っ白になった。


 目を開けるとそこには銀髪青眼の美少女がいた。

 まだ少し幼げだが、体つきや雰囲気にこれから大人になるのだろうと思わせるところがある。

 それにしても凄い美少女だ。


 ってそうじゃなくて。 

「俺のパートナーは?」


 ドラゴンも悪魔も天使も何もそれらしきものが見えない。

 周りを見回しても俺のそばには何もいない。


 仕方ない、人と話すのは苦手だが……。


「あ、あの」

 そう先程見とれていた少女に声を掛ける。

「何? 私のパートナーさん」

「えっ?」

 まてまて今なんて言った?

「どうしたの? 私のパートナーさん」

 やっぱりそう言ったか?

「お~い、大丈夫? 私のパートナーさん」

「あ、はい」

「大丈夫?」

「え~と多分大丈夫では無いです。はい」

「何で敬語なの?」

「それはちょっと……人に慣れてなくてですね……」

「ちょっと、さりげなく目をそらさない」

 そう言われ首をゆっくり元に戻す。

「私がAIだって言っても?」

「多分……」

「そっか。じゃあ仕方ない」

「はぁ。そうですか」

「はいそうです。なので取り敢えず名前つけて下さい」

 そう少女が言うと

『名前を入力してください』

 と文字の書かれた、ホログラムのパネル。

 ホロパネルが出てきた。

「名前か……」

 頭の中でいろんな名前を思い浮かべる。

「なににする?」

「えっ、あの、その……」

 急に話しかけられて俺があたふたしてると少女は少しがっかりしたような顔で

「あ、ごめん。ちょっと、離れてる」

 とだけ言って少し離れたところに座った。

 やっぱり感情とかAIでもあるんだろうな。


 俺はまた頭に沢山の名前を思い浮かべた。

 そしてその中から選び『シロ』と入力し決定を選択した。

 するとシロが嬉しそうに駆け寄ってきた。

「ありがとうクロ!」

 と言いながら抱き着かれた。

「あ、え~と。どういたしまして……」

「そしたら、行こ」

「え、どこにですか?」

「決まってる。クエスト」

 そう言えばまだ何もしてなかったな。

 久しぶりに人と、人なのか? まぁどっちでもいいけど話して疲れた……。

 が、俺はシロに手を引かれてクエストの目的地へと向かった。

 まだ敬語でしか話せないけどAIの友達? ができました。

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