第9話 これからはチートの時間だな!

 

 神と密約を結んだ。


 実は大したことではない。99%は神爺さんの事情だ。今の神界代表たちに不満を持っている一般の? 神サマたちも結構いるようで、近くクーデターを起こすらしい。地球の政治をそのまま当てはめることはできないが、そんな感じらしい。

 で、俺の1%の役割なんだが、単に被害者代表として名前を使うってことぐらいだそうだ。政権が変われば地球への帰還も叶うということで速攻承諾した。今なら悪魔との取引も辞さない覚悟である。

 不安なのは、神サマ視点で「近々」なこと。何年? 何十年? 時間を調整するのにもエネルギーがかかるんだろ? ちゃんとコンビニ前のあの時間に戻してくれよな。


『さて、面倒な政治の話は聞いてやった。これからはチートの時間だな!』


『なんじゃ? 急に元気になりおって。調子のいいやつじゃの』


 だって、仕方がないだろ! 

 男子高校生の憧れじゃん! 高校は関係ないか。

 戻れる可能性がゼロじゃない、無茶な試練もない、そんな異世界生活! 目一杯楽しまないと損じゃないか!


『あまり目立つでないぞ。ワシらのことを嗅ぎ付けられかねんからの』


 釘を刺された。わかってます。目立たない系、スローライフ系も読んだことがある。


『でも、大氾濫自体は起こるんだろ? 他に魔王役の異世界人とか勇者とかも再召喚される可能性があるんなら対抗手段ぐらい持ってなきゃ』


『わかっておる。詫びと協力に対しての報酬として望みどおりの「ちーと」を授けてやるわ。但し、お主の言葉を借りると、ワシの「ぽけっとまねー」レベルじゃからの、あまり大層な期待はするでないぞ』


『わかってるって。十分ありがたいさ』


 大したことがなくても「チート」。

 最終破壊兵器並みの力だけが「チート」じゃない。長年の修練も研鑽もなく手に入れた力、それが「チート」。正にズル。


 だが、今の俺たちには必要な力である。地球への帰還まではズルをしてでも生き残らなければならない。ついでに、精神の均衡を保つためにも生活にゆとりがほしいという名目もある。何十年も奴隷にされてから日本に戻ったって、その時にはPTSDになってるわ!


 ちなみに爺さんたちが首尾よく政権奪取した後で、俺たちに地球に帰還するかこのまま異世界に残るか確認してくれるそうだ。残る場合はチートはそのまま。帰還する場合は記念に記憶と何か一つスキルかアイテムを残してチート能力は回収、若返りと帰還のエネルギーに回すそうだ。う~む、今から悩んでしまう。




 そんなわけで、キャラ・メイキングの時間だ。


『と思ったけど、その前にこの世界の常識を教えてくれ。情報がないとどんな能力がいいかもわからん。大まかでいい。世界の地形、主要国の名前、存在する人種、それぞれの関係、通貨、物価、気候、文化、風習、魔物の種類、特性、あー、そんな感じで、神サマパワーで情報を頭の中に叩き込めないか? あ、それとか、「鑑定」に「ナビゲーション」みたいな説明機能つけて質問に答えられるようにしてくれれば助かるんだが。あっ、それよりここってレベル制? スキルとかって……』


『待て待て。そう一気にしゃべるでない。待っておれ……』


 ドキドキワクワクが止まらず、要望を捲し立ててしまった。反省。

 爺さんは俺の頭の中を読んで整理してくれてるみたい。相手が神サマじゃなかったら絶対ゴメンだがな。


『ふむ。「なびげーしょん」は何とかなりそうじゃ。一般の神たちのネットワークを使えば最低限のアクセス権限でも下界情報程度なら大半が検索できるじゃろう』


 ほう、流石は神サマ。見かけによらず進んでらっしゃる。或いは文明の進みすぎた人間が神サマになったってことかな……


『うわっ!!』


『お主たちが今いる近辺の情報じゃ。肉体はないのじゃから痛くはあるまい?』


 ビックリした。情報のダウンロードが始まったよ。何だか余計な事を考えるなって釘刺されたかのようなタイミングなのも驚いた理由だ。


 人間の記憶領域の小ささ(神族と比べて)を心配してか、情報量は多くなかった。考えようとすると、フッと思い出す程度。おお、やっぱり冒険者ギルドがあるみたいだ。でもそれ以上の情報はない。基本中の基本だけ覚えて後はネットを活用しろってことだね。現代日本人にはピッタリかもしれない。


 さて、この情報を元に能力を決めるわけなんだが……


『もう一回聞くけど、この世界レベル制なんだよな?』


『そうじゃ。何代か前の代表神たちが導入したのじゃ。ワシらも人類を滅ぼしたいわけではないからの。たまには恩恵を与えねば希望がなくなる』


 そんな裏情報はこの際必要ない。


『でも、俺が転移してきた時ステータスが表示されなかったぞ?』


『む? それはおかしいの……まあ、それも含めてイレギュラーということではないかの? 今は見れるはずじゃ』


 爺さんも理由はわからないらしい。まあ、召喚失敗の問題点に関して部外者の爺さんがわかってるくらいなら、そもそも代表神たちも失敗はしないか。


 じゃあ、とりあえず現時点の俺のステータスを見てみようか。


『ステータス・オープン』


 精神体だけど念のため声に出してみる。


 名前 : ケント・ユウキ

 種族 : 人族-普人種

 年齢 : 17

 レベル: 5

 HP : 40/48

 MP : 100/100


 所持スキル

 算術Ⅴ 錬金術Ⅴ 料理Ⅲ 剣術Ⅰ 格闘術Ⅰ 言語理解Ⅸ



 ふむふむ。たったのレベル5か。ゴミめ。

 それはいいとして、手抜きじゃね? 速さとか、攻撃力とか、防御とかパラメーターはどうした? 神の恩恵もそこまでこだわる必要なかったのか。小出しで将来アップデートでもする予定なのかね?

 来たばっかりなのにレベル1じゃないのは、リセットされるんじゃなくて現在の能力を表示してるだけなんだな。そうするとスキルも納得。他にもあってよさそうだけど、この世界にない概念なんだろうな。「ゲームⅤ」とか? 錬金術は科学全般かな? アインシュタイン博士ならレベルMAXだろうよ。文系高校生がその半分のレベルって、そんなものかね。それともレベルに限界がないのかな。そこまでは基本情報にない。


『なあ、言語理解ってスキル、レベルⅨっておかしくないか? あと、魔力値が100あるんだけど……』


 森で出会ったゴブリン君と会話できたのはたぶんこのスキルのせいだ。そういえば400年前の武士である新さんとなんだかんだスムーズに会話できてたのもそうなのだろう。


『それは……おそらく魔王役として魔物と意思疎通させるために与えられたのじゃろう。魔力も同じ理由じゃ』


 そんなことだと思った。でも、このスキル持ってるのばれたら魔王認定されるんじゃ……


『安心せい。レベルXでないと魔物と完全には意思疎通ができん。レベルⅨなら妖精どまりじゃ。おそらく二人召喚したことでスキルを分け合うことになったのじゃろう』


 9と10ってそんなに違うものなの? 二人で分け合ったら5ずつじゃないのか? 全く安心できないのですが……

 

 あと、魔王候補なのに魔力が100、二人分でも200って、逆にしょぼくない? ああ、あまり強すぎても勇者の手に負えなくなるから。そうですか。


 心の底から、魔王にならなくてよかったあ~!


 ************


 新作始めました。二作品あります。是非よろしくお願いします。


『鋼の精神を持つ男――になりたい!』https://kakuyomu.jp/works/16816927861502180996月水金19時投稿予定。


『相棒はご先祖サマ!?』https://kakuyomu.jp/works/16816927861502718497火木土19時投稿予定。


 連載中の『ヘイスが征く』は日曜日、週一投稿に変更します。ストックが切れそうなので。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る