第8話 109にしておけばよかったのに
爺さん(結局この呼び方でいいと言われた。名前は聞いてない。後で質問したら教えてくれるだろうか?)の話は長かった。
いや、「年寄りの話は無駄に長い」的な意味じゃなくて、気になる情報がわんさか。それに流石異世界。男のロマンを掻き立てる話題も盛りだくさん、思わず脱線して理論とか聞いてしまったのだ。
一つ例を挙げると、きっかけは爺さんの話が長くなると感じて、眠りっぱなしの身体のことを思い出した時だ。交代時間になっても俺が起きないと新さんが心配してしまう。まだまだ聞き足りないが早めに切り上げて身体に戻してもらうか。また神爺さんの話を聞けるチャンスはあるんだろうか。ないならせめて朝まで時間をもらおうか。でもそうすると新さんの休む時間がなくなってしまう。ああ、どうしようと葛藤していると、心を読んだ神爺さんが答えてくれた。
なんと、この部屋の時間はある程度自由に調節できるらしい。流石ファンタジー! リアル『精神と時の部屋』だ! と思ったが、よく考えてみれば同じ白髯のアインシュタイン博士も同じようなことできたはず。確か「光の速さに近づくほど時間の進み方は遅くなる」だったか。魔法もない世界なのに正に天才だ。うん、イメージしようと思ったけど全く想像も付かない。
とにかく俺がここで神爺さんの話を納得するまで聞く時間は十分にあることがわかった。
余裕があると判って少し脱線して、他に時間停止のアイテムボックスがあるかとか、相手の時間をゆっくりにして自分の動きを早くしたり、思考を加速させたりすることはできるかといった質問もしてみたのだ。
答えは、ある程度、だそうだ。
どういう意味か再度尋ねると、結局は使用する魔力、つまりエネルギー次第だということらしい。
人と神の違いも、使えるエネルギーの量と質の差だそうだ。あれだな、よく物差しに例えて「単位が1mの物差しでは1㎜と2㎜の差は測れない」とドヤ顔するキャラ。その理論でいくと、単位が1万mの物差しでは1mと1㎜の差は測れない、ということになる。この世は常にNDKされる可能性があるということを感じさせてくれた説明だった。
それに関連して、連想ゲームのように脱線していき、この世界の神様たち(後述するが大量に居るらしい)も全知全能ではないんだな、という話から、無限、永遠、絶対折れない剣、何でも斬れる剣、などというのは結局のところ言葉としてあるだけで証明不可能だがありえないことだろうという話になった。
なるほど、「無限収納」スキル、ほしかったのにな。誇大広告だったらしい。
ああ、面白かった。
おっと、これじゃあ一向に話が進まない。本題に入らないと。
『話を戻して……俺たちをこの世界に呼んだのは、108人の神たちなんだな?』
地球で例えるとその108人? 柱? の神は各国指導者、或いは国連代表みたいなものだろうか。しかし、108とは、意味深な数字だ。煩悩全開じゃないのか? 109にしておけばよかったのに。
『ああ、そうじゃ。ワシは疾うに引退しておっての、口出しは憚れるんじゃ』
なんとこの神爺さん、前代表だったようで、後輩のおイタが見逃せなくって密かに俺と接触してきたようだ。そのせいで俺が眠るまで待っていたのでタイムラグが発生したらしい。
『それも、「魔王を倒せ」とか一応善意からの理由じゃなくて、「魔王になって暴れてから勇者に倒されろ」っていうマッチポンプ的な理由から……』
『すまん、としかいいようがないのう……』
神にも色々いるようだ。もうそれって「邪神」じゃねえ? とは思うが、人間にも善人と悪人がいることを考えれば変じゃないのかもしれない。日本にも大量にいる。特に政財界上層部には多そうだ。ただ、本人は少しも自分が悪いとは思ってもいないだろう。人を虫けら扱いしていれば罪悪感は微塵も感じないということか。
その点本物の神にとって人間と虫けらの区別はそれこそ付くまい。目の前の神サマ爺さんが人間相手に頭を下げているのが不思議なくらいである。
ま、この神爺さんに拾われたことを幸運と思うことにしよう。
『で、これからのことなんだが……俺たちは呼ばれた揚句、廃棄されたってことなんだよな?』
爺さんの説明によると、始めに一人召喚して「魔物が人間に虐げられている。助けてほしい」と魔物サイドの味方をさせて済し崩しに「魔王」に就任させるつもりだったらしい。人間側にも神のスパイみたいなのがいて言い訳不可能な状況にさせられるそうだ。神怖い。
積極的でも消極的でもその結果魔物軍の士気は上がり、人間サイドは未曾有の危機に陥る。そこで今度は「神の慈悲」とやらで勇者が召喚される、というシナリオだったらしい。
ところが、俺たちはほぼ同時刻にこの世界にやってきた。
その時点でシナリオと食い違った。爺さん情報では、計画担当の神はアドリブ性がなかったみたいで即時計画凍結、俺たちは廃棄処分にされた。廃棄というのが単なる無視のことなのが神と人間の感覚の違いだろうか。殺されなかっただけでも幸いと言わねばならないのが悔しくて、ある意味俺の内なる魔王が目覚めそうだ。
『うむ。やつらの眼中にないうちは自由に生きられよう。じゃから、ワシを通じてお主らの帰還を申請しても、逆に目を付けられて新たな遊びに巻き込まれかねん。これがワシではお主らを帰せんと言った理由じゃ』
まいったね、どうも。
異世界人の召喚も送還も技術的には爺さんにも可能だそうだが、必要な魔力? 神力? そのエネルギーを管理しているのが代表神たち。要するに、政府の金庫にいくら金が唸っていても一般人はびた一文自由に使えない、ということだ。
『大体、何でわざわざ異世界人を召喚するんだ? 金も労力も無限じゃないんだろ?』
『それこそ、遊び半分としか言いようがないの』
『それ、横領ってことじゃねえか! そんな政府、不信任決議でも何でもして引っくり返せや!』
『全く以ってその通りじゃな。耳が痛いわ』
こんなバカな計画が曲がりなりにも神たちの中で承認された理由は、この世界の管理方法のコンセプトに沿ったものであるから、だそうだ。
一応聞いてみると、そのコンセプトとは「幸福感は持続せず、堕落を生む」という、如何にもどこかのラノベに書いてあったようなものだった。
他の言い方をすれば「不幸は幸福のスパイス」「他人の不幸は蜜の味」だろう。
この世界では数年間隔で小規模な、数十年間隔で中規模、数百年間隔で大規模な魔物の氾濫が起こる。場所はランダム、に見えて人間には察知されないような綿密な計画が立てられているらしい。今回の俺たちの召喚もその一部だ。破綻したけど。
『でも、大氾濫の計画自体はそのままなんだよな?』
『うむ。異世界人のお主には納得できぬかもしれぬが、これがこの世界じゃ。完璧な世界などどこにもないぞ』
わかる。納得できないが理解はできる。日本だって「完璧な世界」とは口が裂けても言えない。だから「理想郷」とか「極楽浄土」なんていう信仰があるのだろう。ただし、そこに住んでてもきっとすぐに飽きる。つまらなそう。或いは強制的に洗脳されるとか。ぎゃー! 怖い!
『今更だけど、人間の俺にそこまで教えて大丈夫なのか?』
確かに質問したのは俺だが、これは国家機密、いや、神界機密なのではなかろうか。
『なんじゃ? 帰還を諦めてこの世界に永住するつもりなのか?』
神サマ爺さんはいい笑顔でそう答えた。
新さんに続いて新たな同志を得た気分になった。
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新作始めました。二作品あります。是非よろしくお願いします。
『鋼の精神を持つ男――になりたい!』https://kakuyomu.jp/works/16816927861502180996月水金19時投稿予定。
『相棒はご先祖サマ!?』https://kakuyomu.jp/works/16816927861502718497火木土19時投稿予定。
連載中の『ヘイスが征く』は日曜日、週一投稿に変更します。ストックが切れそうなので。
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