第7話 ワシは関わっておらん


 異世界にて、サムライ、ゴブリン、そして次に出会ったのは白髯の神様であった。



『ここはどこだ?』


『ワシの私室とでも思うがいい』


 周囲を見渡す。予想通りというか、世間一般のラノベの表現どおり一面白い空間だ。手抜きにも程がある。質素を旨とする宗派なのか? 仮にも神を名乗るなら少しは威厳性があっても良くないか。

 それよりも、ここには神以外俺しかいないようだ。


『連れがいたはずなんだが、どうして俺だけ?』


『心配せんでもここに呼んだのはお主の精神体だけじゃ。肉体は元の場所で眠ったままの状態にある。しかし、神を前にして随分強気な態度じゃな。恐ろしくはないのか?』


 そうか、新さんを残して俺だけまた異世界転移させられるかと不安だったが、一応納得してやろう。ペタペタと精神体とやらの身体を触ってみるが、うん、区別が付かん。だが、重要なのは謎の原理ではないはずだ。


『神とか言うんなら心の中とかいくらでも覗けるんだろ? しない、できないって言うんなら、俺の態度で今の気持ちを伝えてやるよ! 大体今更出て来てどういうつもりだ。俺も新さんも異世界転移なんて頼んでねえよ。それとも爺さんにぺこぺこ頭を下げたら元の世界に返してくれるのか?』


 精神体にも表情筋があるのかは知らんが、今の俺の顔は相当ぶすくれているだろう。


『気持ちはわかった。それに、残念ながらワシではお主たちを元の世界に返してやることはできん』


 その回答内容はうれしいものではなかったが、特に過激な反応を引き起こすものでもなかった。


『落ち着いておるの。怒りださんのか?』


『予想はしていたからな。用があるから異世界に呼んだんだろうし、一方通行で神にも戻せないって設定ならよく聞く話だ。転移が事故で神様が事故処理として元の世界に戻す気があるんならわざわざこんなところに呼び出す必要もないだろ?』


『その若さで達観しておるの。そなたの世界の者は皆そうなのか?』


 おうとも! ネット世代舐めんな!


『それより爺さん、聞きたいことが山ほどある!』


『う、うむ。ワシもそのつもりで呼んだのだ』


『じゃあ……』


『まあ、待て。立ち話もなんだから、そこに座るがいい』


 勢い込んで質問を投げかけようとしたら機先を制された。ちっ、何か悔しい。

 気が付くと何もなかったはずのところに椅子とテーブルがあった。爺のくせに白のヒラヒラガウンみたいなのを着てるから洋風の家具が似合ってることがまたムカつく。

 紅茶セットみたいなのまであった。会社訪問とか実際したことないけど、マナーぐらいは聞いたことがある。しかしガン無視してワイルドに飲んでやった。うむ。普通の紅茶だ。


『そ、それでじゃな、まずはワシから説明しようと思うんじゃが』


 俺は黙って頷く。

 情報を持ってるのは向こうだ。教えてくれるというなら先に話を聞いてからわからない点について質問した方が効率的だろう。


『まず、そうじゃな、同族の遊びで迷惑を掛けたことを詫びよう。すまんかった』


『え? もしかして、爺さん、いえ、あなた様が俺たちを転移させたのではなくて……』


 予想外の情報に狼狽を隠せなかった。


『うむ。ワシは関わっておらん』


『さーせんでしたーッ!』


 椅子から勢いよく立ち上がって90度のお辞儀。相手は神様、土下座でも足りるかどうかわからない。


『何じゃな? 謝っておるのはワシなんじゃがの』


『いえ! 神様は関係ないのに俺が、わたくしが八つ当たりなんかしてしまい、態度なんて最悪で、どうかお許しくださいっ!』


『ふむふむ。素直じゃな。お主の態度も当然じゃ、気にせんでもよい。頭を上げて座って話そうではないか』


『で、でも……』


『ワシも神の一員として責任がないこともない。お互い謝ったということでこの話は終わりじゃ。お主の言うところの「効率的」にいこうではないか』


 ぐぬ……しれっと心の中読まれてたみたいだ。

 まあ、それでも神様のお許しが出たのだ。指示に従うのが吉だろう。

 

『それでは失礼して……』


『硬いの。先ほどのしゃべり方で構わんぞ』


『といっても、目上の方には敬語でって教育は一応受けてますから……』


 日本人って親しくない人には大概硬い話し方するよね? 校長先生だとか、バイト先の本社の幹部の人だとか。

 だったら神様も初対面の親しくない人? なんだから最初から敬語で話せよって話なんだろうが……俺も感情がコントロールできないガキだったということで……


『ここは精神体専用の部屋じゃ。言葉など飾りに過ぎんよ。元の世界のルールに囚われすぎると本質を見失うこともあるからの。そのこと、心に留め置くといい』


 そうか。日本語の中の敬語って難しいってよく言われるけど、結局日本人同士にしか意味はないんだ。本当に尊敬の念が篭ってないと言葉が薄っぺらくなるんだろうな。この世界で言葉が通じてるのは異世界転移特典なんだろうから、いくら日本語で形だけの敬語を使ったとしても相手には伝わらないかも知れない。英語に例えれば「おはよう」と「おはようございます」がどちらも「グッドモーニング」になるのと一緒だ。いや、よく知らないけどさ。何か納得いった。


『ほっほっほ。納得したところで、話の続きと行くかの』


『あ、はい……』


 くっ……また読まれた……






 ************


 新作始めました。二作品あります。是非よろしくお願いします。


『鋼の精神を持つ男――になりたい!』https://kakuyomu.jp/works/16816927861502180996月水金19時投稿予定。


『相棒はご先祖サマ!?』https://kakuyomu.jp/works/16816927861502718497火木土19時投稿予定。


 連載中の『ヘイスが征く』は日曜日、週一投稿に変更します。ストックが切れそうなので。

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