第6話 何やら青春っぽい



 コンビニから異世界転移。と思いきや、出現先の森で出会ったのは先祖かもしれない武士の若者。これはタイムスリップかと考え直したところで、更に出会ったのがファンタジーの定番、ゴブリン様であった。二転三転、やっぱり異世界?



「結城殿」

「結城様」


 月を見上げていた二人の声が重なった。思わず笑う。どうやら向こうもツボに入ったようだ。


「同じ家名というのも不便であるな。別世界というならば武士の権威も通じまい。そもそも仕えるお家がないのだ。もはや浪人と変わらぬ。さらば、これからは新之助と呼んでくだされ」


「まだどういう世界かわかりませんが……そうだな、じゃあ、俺のことはケントと呼んでください。いや、呼んでくれ。そっちは、新さんと呼んでもいいかな?」


「かまわぬでござる。言葉遣いなぞ、国が変われば違うもの故。好きにしてくだされ」


 異世界の月に目を奪われながら、何やら青春っぽいような哲学っぽいような話をした。心地よい。

 新さんは下級武士だからなのか、がちがちの権威主義者ではなさそうだ。しかもこの異常事態にそれほど混乱もなく、かなりの広い心の持ち主である。

 ああ、俺はいい人と巡り会ったのだな、と照れもせず素直にそう思えた。


「ありがとうな。そうさせてもらうよ。これからしばらくはよろしく」


「む? しばらくとはどういうことでござる?」


 俺の答えが気に触ったのか、新さんはこちらを向いて問い詰めてくる。


「いや、人の町に行ったら、もしかして元の世界に帰れる方法があるかもしれないし、それが叶わなくても世界は広いんだ。日本のような、サムライのいる国があるかもしれない。そうしたら新さんはどうする? その国でまた武士になれるかもしれないぜ?」


「む……サムライの国であるか……」


「いやいや。もしかしたらって話。まだこの世界の人に会ってもないんだから。どうなるかはどこかで腰を落ち着けて情報を集めてから考えよう。というか、それしか方法がないだろう?」


「むう……確かに……それにしてもケント殿は慣れておられるな」


「まあ、新さんから400年後の日本には仏教の三千世界並みに異世界の話が溢れてるからな。嘘か本当かはともかく対処方法なんかは何となく覚えてるもんだよ」


「400年後の世界か……生きてはいられないが見てみたいものだ……」


「ああ、話だけでいいならいくらでも教えるさ。それより、野営ってどうするんだ? 俺、したことないから新さんが頼りなんだが……」


 完全に夜である。街頭があるわけでもなく、ましてやコンビニなど存在しない荒野の夜。心細い。一人だったら泣いてたかも。


「うむ……街道筋には大概人が住んでいたゆえ、宿がなくても軒先を借りれば済む話なのだが、某もここまで人気のないところでの野宿は初めてでござる。ケント殿の知恵を借りたい」


「え~? そういわれても……」


 頼ったつもりが頼られてしまった。

 人事ではないのでない知恵を絞る。


 野営といえばキャンプファイヤーだが、必要か? 料理するわけでもないし、冬みたいに寒いわけじゃない。むしろ暑い。逆に火を焚いてると魔物や盗賊の目印になるかもしれない。大体薪を集めるのが面倒だ。あれ? 何で野営する人たちは焚き火をしてるんだ。砂漠みたいに異世界の夜は寒いのだろうか。


 新さんと相談してみた。

 メリットとデメリットを並べてみたところ、一応準備して気温が下がるようだったら火を焚こうということになった。


 こうして薪集めは決定となる。

 幸い月明かりが、少なくとも地球の二倍あるので行動に支障は出ない。いっそ街まで歩き通そうかとも思ったが、単純に体力の温存という点で却下された。半分くらいは薪集めで消費することになるだろう。ついでに川とか発見できたらラッキーである。


 方針が決まったところで行動に移す。


 森を出たときにも思ったことだが、この世界の自然はかなり極端だ。後ろは植生が豊か過ぎる。前方は枯れ果てた荒野。見晴らしは良くなったが、逆に場所を選べない。どこを見ても同じようなものだ。


 ラッキーだったのは、荒野にポツポツと見えていた木の影が、実は全て枯れ木だったことだ。薪取り放題! 斧がないので丸々一本を薪にすることができないが、落ちている枝の部分だけでも十分のようだ。


「ドーン!」


 予定していた消費エネルギーが余ったので、ついふざけてみる。何のことはない。枯れた立木を無理矢理押し倒したのだ。上手くポッキリと折れてくれた。悪ふざけと言ったのは掛け声のことで、実際は寝るときに背もたれ用にしたかったのである。


「さあ、準備も終わったし、メシにしよう」


 森で行軍中、水分補給はこまめにしていた。既に紅茶が空である。それ以外は口にしていなかったのでかなり空腹だ。


 本日のディナー。

 キノコの○

 タケノコの○

 以上。


 因縁の組み合わせだが、選ぶのにも精神力が無駄に消費されるなら一気に食べてしまった方が良いと勝手に判断。カロリーもそこそこあるだろうし、緑茶で腹を満たそう。


 新さん、チョコレートに感激。そういやチョコはどっかの国で『神の飲み物』扱いだったかな? マジで滋養強壮食品だったか。チョコはまだピーナッツチョコとアーモンドチョコが残ってるはず。明日疲れたときに食べよう。


「ケント殿。先に寝てもらえるであろうか? 某、目が冴えてすぐには寝られそうにない」


「え? 俺もそんなに眠くないけど……まあ、夜中に交代な。眠くなったら起こしていいから」


「心得た」


 お茶とチョコのカフェインが理由だろう。現代人にとっては慣れてしまった感覚かもしれない。別の方面で現代人は夜更かしに慣れてしまっている。今何時か現地時間はわからないがまだ宵の内なのは間違いない。

 だが二人で起きているのは不効率だ。俺が折れるべきだろう。現代人の日常では考えられないほど歩いたから疲れているはず。眠くなくても休息は必要だ。


 やはり砂漠と同じみたいで夜は寒くなってきた。火を焚こう。新さんが荷物の中から替えの服を毛布代わりに貸してくれた。助かる。


 念のため新さんにもライターの使い方を教えておく。花火用に買った電子式の使い捨てライターだったので押すだけで火が着く。教えるというほどでもない。それでも新さんは感心してくれてた。俺の手柄じゃないのに褒められた気分で、なんだかこそばゆい。知的チートで無双する異世界主人公の気持ちが少しわかった気がした一幕だった。


 焚き付け用にカバンに入ってた期末テストの答案用紙を使った。断じて赤点だったから燃やそうと思ったわけではない。


「じゃあ、おやすみ~」


「ああ、ゆるりと休んでくだされ」


 枯れた丸太にもたれて目を瞑る。意外とあっさりと眠れた。



『よく来た。異世界人よ』


 眠ったはずなのに、目の前に髯の爺さんがいた。


『あんた、誰?』


 九分九厘予想が付いたが、念のため確認してみる。


『神と答えた方がわかりやすいじゃろうな』


 コンビニを出てから異世界転移。そのあと半日経過してからの神との邂逅であった。




 ************


 新作始めました。二作品あります。是非よろしくお願いします。


『鋼の精神を持つ男――になりたい!』https://kakuyomu.jp/works/16816927861502180996月水金19時投稿予定。


『相棒はご先祖サマ!?』https://kakuyomu.jp/works/16816927861502718497火木土19時投稿予定。


 連載中の『ヘイスが征く』は日曜日、週一投稿に変更します。ストックが切れそうなので。

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