第2話 バガボンド?

 


コンビニから出ると、そこは森の中だった。


「どこの異世界転移じゃ! 責任者出て来やがれ!」などと軽く精神錯乱を起こしながらの遭難中、同じように森林踏破中らしいお武家様を見かけた。何言っているか自分でもよくわかっていない。編み笠被って腰に刀差してて、槍を担いでるんだもの。ザ・サムライ、としか言いようがない。というかこちらも発見されたようだ。


「(はは~ん、なるほど。ジャンルが違うのか。異世界じゃなくてタイムスリップね。こりゃ魔法は無理だな。無念でござる……いや、よくある東方の島国出身の奇妙な片刃の剣使い、って線もなきにしもあらず……)」


 錯乱状態は続いているが、出て来いと言われたのなら従うしかない。猛獣や魔物じゃないだけマシ、いや、はっきり言って地獄に仏である。


「ど、ど~も~」


「面妖な! 何やつ!」


 コミュ力と彼女のあるなしは関係ないと思う。だが、更に関係ないのがお侍様に対する初対面の挨拶の仕方だ。コアな時代劇ファンでもいきなりは難しかろう。少なくとも俺の志望大学の受験科目にはなかったはず。よって不審者扱いされた俺は悪くない。と思う。


 仕方がないので、攻撃の意思はない、と言うことを伝えるため両手を挙げてみた。爆竹は既にポケットに収納済み。人相手じゃ逆効果だ。


「おのれ! 刃向かうか! その着物、南蛮の者だな! 成敗してくれる!」


 あれ? 降参のポーズは万国共通ではないの? 俺はどうすればよかったの? こうなると知っていればネットでって……マズイ! 現実逃避してる暇なかった! お侍様、荷物投げ捨てて刀に手をかけたよ!


「ま、待って待って! お、俺は南蛮人じゃねえ、でござる! き、斬らないでほしいでござる!」


 必死の人畜無害アピール。

「ござる」とか言って恥ずかし~、とか思ってる余裕なし!

 欧米では懐に手を入れただけで攻撃の意図アリと見做されることもあるそうだ。物騒なことだ。あれもダメこれもダメと言われている気がしてならない。俺にできることは日本人らしく、深々とお辞儀をするだけだ。地面が平らだったら土下座していたところである。ここでやったら藪に隠れるようなもの。即エナミー判定だ。それは悪手。


「む……」


 お侍さん、考え込んでくれたよ。

 チラリと上目遣いで見てみたが、うお! 危ねえ。刀もう抜いてる。しまって! 早くしまってください!


 願い叶わず、お侍さんは刀を構えたままゆっくりと近づいてきた。

 じろじろと観察されているようだ。


 こちらも、相手を緊張させない程度にゆっくりと顔を上げて見る。勿論お辞儀のポーズのままである。命大事、だから。


 お互いおかしな体勢でお見合い。手の届きそうな距離になって、斬られることも覚悟したが、どうやらその気はなくなったようだ。いや、もちろん向こうが刀を振りかぶったらダッシュで逃げるけどね。スニーカー履いている分こちらが有利なはず。


 何故さっき逃げなかったって? 単にビビって思いつかなかっただけだ。言わせんな、恥ずかしい。

 少し心に余裕ができたし、こっちから話し掛けてみるか。


「あの~」


「そなた、名は?」


 おう。被せてきた。向こうも似たようなコト考えたのかな。俺逃げないし、お辞儀してるし、武器も持ってないから脅威度は低いと見たのだろう。


「え、えーと、ゆ、結城健人、と申します……」


「む、やはりな……」


 え? 何がやはりなんでしょう。今一お侍様の思考についていけません。


「顔をお上げくだされ。いずれ大身の出でござろう。出会い頭で確認も取れなかったとはいえご無礼仕った。ご容赦くだされたい」


「え?」


 チャキ、という音がしたと思ったらお侍さん、刀しまってくれた。納刀っていうんだっけ?

 しかし、何がどうなって信用されたかわからん。


 一応言われたとおり顔を上げる。無礼討ちはなかった。セーフ。


「あ、あの、どういうこと? でござる?」


「何がでござるか?」


「全て……いや、えーと、急に丁寧なしゃべり方になったり……でござる」


「その衣装はどう見ても南蛮の物。黒き髪の南蛮人もいると聞き及び申すが、貴殿の顔つきは我が国の者としか思えませぬ。お家の名も結城と申せば大から小までありまする。これは大身の出ではあるものの南蛮に被れて髷まで落とした若君の行状、見て見ぬ振りが上策かと愚考致したまででござる。それに……」


 うん、簡単に言うと金持ちのボンボンがコスプレしてたって判断して、触らぬ神になんとやらでスルーしようとしたのね。うん、説明させてごめんなさい。でもありがとう。納得です。

 あ、まだあるのね?


「それに?」


「奇遇にも某も結城と申す。結城新之助にござる」


「ぐ、偶然だな、でござる。あ、俺、偽名じゃないよ、でござる」


 暴れん坊な将軍様と同じなのがビックリですよ。まさか本人? 要確認。


「もしやお国言葉を気にしておいでで? 某、然る藩に仕官しては居りまするが、御徒歩組の端役。無役といえど若君が謙る程の身分ではございませぬ。普段どおりでかまいませぬぞ」


 あ~。吉宗の線は消えたか。

 しかし、身分で言えば、このまま現代に戻れなかったら、春からは浪人ってことになるのかね。そもそも武士ですらないし。俺の正体を明かさないと気まずいな。明かしても無礼討ちが待ってそうで怖いわ。


「あ、そう? じゃ、じゃあ、お言葉に甘えさせてもらいますね?」


 うっ、距離感がつかめない。

 ほら、新之助サマも怪訝な顔してる。


「お、俺のことは後できちんと話しますから、それより、お願いがあるんですが」


「……何でござる?」


「ここ、どこですか? 人里まで案内してくれませんか?」



 コンビニを出て道を失い早数時間。やっと情報収集ができそう。

 あれ? 様子が変。


「……恥ずかしながら、某も道を探しているところでござる……」


 えーっ! 迷子が二人になっただけ? それともバガボンド的な意味で武士道の修行中ってコト?


 どうなってんの、これ?



************


新作始めました。二作品あります。是非よろしくお願いします。


『鋼の精神を持つ男――に私はなりたい!』https://kakuyomu.jp/works/16816927861502180996月水金19時投稿予定。


『相棒はご先祖サマ!?』https://kakuyomu.jp/works/16816927861502718497火木土投稿予定。


連載中の本作品『ヘイスが征く』は次回3月20日から毎週日曜日、週一投稿に変更します。ストックが切れそうなので。

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