第3話 迷子が二人



 異世界転移か、はたまたタイムスリップか。

 運良く第一村人ならぬ第一サムライに出会ったものの、事態は好転しない。

 何故なら迷子が二人になっただけであるからだ。


「えーと……ちょっと一休みしませんか? なんだか力が抜けちゃって……」


「しかし、一刻も早くこの森を抜けねば……」


「情報の摺り合わせも大事です。聞きたいことや聞いてほしいことがいっぱいあるんです」


「だが……」


「喉渇いてません? 少しでしたら身体にいい飲み物ありますよ? 軽食もつけましょうか?」


「そ、それほどに言われるのであらば御相伴に与ろう」


 堕ちた。『武士は食わねど高楊枝』VS『腹が減っては戦はできぬ』後者一本勝ち。


 早速移動。新之助サマは放り出した荷物の回収、俺はカバンの置いてあった木の根元当たりの藪を踏みつけて整地する。大人二人が腰を下ろせるスペースがあればいい。


 新之助サマも戻って来たので座ってもらう。


「かたじけない」


 武士らしい感謝の言葉かな?

 それよりも、座る時に編み笠を取ったときのほうにビックリ。いや、別に覆面じゃないから顔は見えてたけど、よりはっきりと見えたから、ってコト。


 若い。俺と同じ年ぐらいじゃねえ? どうもマツケン様のイメージが抜け切らないので違和感がある。距離感が更に掴めない。うう……


「えーと。何かコップ……飲み物入れるものありますか?」


 気を取り直して話を進める。

 見た感じ竹でできたリュックみたいなのを背負ってたから旅の途中ってところだろう。便利道具を持ってても不思議ではない。

 なかったらラッパで回し飲みすればいい。


「しばしお待ちくだされ」


 そう言って取り出したのは……何故に『お椀』? 竹筒の水筒とかじゃないの? あ、そっちもあるけどまだ水が入ってるのね。わかってる。節約大事。


 飲料のラインナップは、緑茶、紅茶、ウーロン茶各1本。微炭酸○○レモン1本、ミネラルウォーター1本、コーラが2本だ。

 いやー、買いも買ったり合計7本、持って歩くの大変だった。

 始めに開けたのは、色々理由つけても、結局重複しているコーラ。もう戻れない予感がヒシヒシ感じられて思わず『コンプリート』精神が発動したのだ。

 もう、次の選択が辛い……お茶系にするか、糖分のあるなしで考えるか……


 あ、新之助様が待ってらっしゃる。


 ここまでチョビチョビ口を湿らせる程度に抑えたので1本目のコーラは残り三分の二ぐらい。

 この場で飲み干してもいいだろう。


 ブシッ!


 サムライに掛けたわけじゃない。

 大分暖まってしまったので炭酸の抜ける勢いが強かったのだ。

 あー、新之助様警戒しているよ。


 あ、このパターン、飲んだ瞬間口から噴出すイメージしか浮かばねえ。そういえば炭酸に慣れてない人は炭酸で酔っ払うって聞いたことがある。選択間違えたか。素直にお茶系にしておくか?

 まあ、一口試してもらって、どうしてもダメならその時考えよう。俺も脱水症状を起こしてまで後生大事に未開封のPETボトルを抱え込むつもりはないからな。


「えーと、薬みたいな味ですが、疲れたときにはいいですよ。ジヨーキョーソーですか、あ、少し痺れますから少しずつ飲んでみてください」


「滋養強壮……泡の出る黒き水薬でござるか……南蛮にはかようなものが?」


 お椀に注いでやったらシュワシュワという音にビックリ、色に二度ビックリされた。味でまたビックリするんだろうな……


「えーと、話せば長くなるので、休憩しながら説明しますので、俺も喉渇いたし……」


「……馳走になり申そう」


 俺が先に一口飲んだ。それでやっと新之助様も口を付けてくれる。言われたとおりゆっくりと。まあ、自分でも毒見はしたいだろう。


「む、これは……」


 あ、飲むペースが上がった。あ、最後はゴクゴクいった。慣れるの早いな。お代わりを差し上げよう。


「気に入りましたか? もう一杯どうぞ」


「これはかたじけない。不思議な味でござるが、何やら力が湧き出る気がいたしまするな!」


 あー、俺が散々薬だって言ったからプラシーボ効果だっけ? それよりも炭酸の刺激とカフェイン・糖分のコンボが効いたんかな? 何にしても良かった。


 二杯目はゆっくりと飲むようだ。

 ならお供は定番のアレしかないな。ポテチコンソメ味。コーラとの相性最強。異論は受け付けますよ?

 パーティー開けして二人の間に置く。


「こちらも摘まんでください。芋を……揚げた……干したみたいなヤツです」


 ここの時代がまだわからん。言葉には気をつけよう。コーラ出してる時点で手遅れ感満載だが心の持ちようだ。

 確か徳川家康がテンプラ食べたはず。そこら辺がボーダーラインか。新之助様はそれよりも前か後か。どうやって聞き出そうか。思い切ってストレートに聞いて見るか。


「これが干し芋でござるか。頂戴いたす……む! これは美味い!」


 コーラよりは抵抗がなかったようで、すぐに手に取っていただけた。あれ? ジャガイモの渡来したのっていつ? 教科書にあったかな。クソ、ネット使いたい~。


「それで、食べながらでいいですから、話を聞かせてください」


 パリパリ美味しそうに食べている新之助様。こうしてみると歳相応って感じだ。


「何でも聞いて下され」


「この森は結城……殿の地元の森ですか?」


「いや、見ての通り旅の途中でござる。御館様に付き従いて家中の者どもと一緒でござったがいつの間にか逸れてしまい、気付けば右も左もわからぬ体たらく。笑ってくだされ。狐にでも化かされたのでござろう」


「旅……じゃあ、大体の場所の見当は付いているんで?」


「うむ。おそらく奥州の山中でござろう。上役が山深き所だと愚痴を垂れて居り申した」


「おうしゅう……」


 欧州? ヨーロッパではないな。だとすると、奥州、奥羽山脈か。東北だな。


「も、目的地は?」


「出羽の国でござる。口惜しくも国替えを命ぜられ、それでも粛々とお従いなされる御館様のお気持ちを思うと……おのれ徳川! 許さぬ!」


 おおう、しっと。新之助サマ、激オコ。

 しかし、情報が一気に手に入った。場所も時代も。異世界転移の線は完全に消えた。


「も、もしかして、佐竹藩のことでしょうか……」


「む、いかんな。つい気が昂ってしまいもうした。許されよ。さよう、如何にも常陸の国佐竹家が家中の者でござった」


 ビンゴ! たかが一受験生、日本史に精通しているわけがない。でも、ピンポイントで知ってる歴史にぶち当たった。何故か。父親の出身が秋田。爺ちゃんが遊びに行く度に郷土の歴史を語ってくれる。そう、歴史マニアは爺ちゃんだった。

 あれ? もしかして新之助様は俺の御先祖様? 

 こりゃ何としても無事に領地に行ってもらわねば!



************


新作始めました。二作品あります。是非よろしくお願いします。


『鋼の精神を持つ男――に私はなりたい!』https://kakuyomu.jp/my/works/16816927861502180996月水金19時投稿予定。


本作品『相棒はご先祖サマ!?』https://kakuyomu.jp/works/16816927861502718497火木土投稿予定。


連載中の『ヘイスが征く』は日曜日、週一投稿に変更します。ストックが切れそうなので。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る