相棒はご先祖サマ!?
樹洞歌
第1話 ある日森の中、出会ったのはサムライであった
「お、俺は南蛮人じゃねえ、でござる。き、斬らないでほしいでござる」
俺、結城健人はサムライ・ファーストコンタクトにおいてそう叫んだのだった。
その日は高校最後の夏休み、の前日だった。
形式どおりの終業式を「受験生をわざわざ参加させんな!」とボヤキつつも終わらせ、「あ~あ、無駄な時間過ごしたな、この後何か食って行かね?」などと友人たちと駄弁りながら下校した。
コンビニで買い物した。
受験勉強は夏が本番。とはいえ、一日くらい羽を伸ばしてもいいではないか。徹夜でゲームでもするか。そう思い物資を調達した。
一人でか? だと!
受験生に友人などいらぬ! 彼女など以ての外! それを奴ら(元友人・現敵)「今日ぐらい彼女と羽を伸ばすわ。あ、お前彼女いなかったけ。わりーわりー」などとのたまいおった! 爆ぜろ! 恋のついでに大学にも落ちてしまえ!
思わずロケット花火と爆竹買ってしまった。青少年の半分はヤミ成分でできてます。コンビニで売ってた。何でもあるからコンビニ。流石コンビニ、略してさすコン。
「(どうしよう……一人花火? しかもロケットと爆竹……プチテロじゃん。線香花火だったらまだマシかな。交換してもらおうかな……)」
などと考えつつコンビニの外に出た。
「は?」
気が付くと周りは木々に囲まれていた。行ったことないけど富士の樹海レベル? 足元は靴が隠れるほどのブッシュ。振り返ってもさっきまで買い物していたコンビニの建物はない。
夢と考えるには、両手にぶら下げているスナック菓子やPETボトルの詰まったレジ袋(有料)が手に食い込んで痛い。ほっぺを抓るまでもなかった。
「(おいおい。これってアレか。そこまでオタクじゃなかったつもりなのに、たまにゲームしたり、ネットでその手の小説読んでただけなのに……あ、まさか、裏切り者どもに爆竹攻撃してやろうとか思ったから罰が当たったなんて……神サマ、そりゃないよ。思っただけでまだ実行したわけじゃないだろう。理不尽にも程がある。訂正と謝罪を求める!)」
混乱しながらも元の場所に戻る努力はした。
スマホは圏外。
出現場所(俺が突っ立っていたところ)から余り離れないように空間の歪み、みたいなモノがないかうろついてみる。
足元に魔法陣の類がないか雑草を掻き分けてみる。
神サマに祈ってみる。
などである。
万策(実際は4つ)尽きた。
荷物も重かったので疲れた。近くの木の根元に座る。足元は膝くらいまで草が茂っていたので選択肢はなかった。
衝動買いした荷物が役に立った。まだ冷たいままの炭酸飲料を一口飲む。色々葛藤した。このまま元の世界に帰れない上、原生林みたいなところでサバイバルを強制されるなら安全な飲料水は貴重だ。だが熱射病対策に水分補給は不可欠だし糖分も摂取しないと頭が働かない。第一、今を逃したら冷たい状態のコーラは二度と飲めないかもしれない。氷魔法でも使えれば別だが……
「……魔法使えないかな~……アイス・ボール!」
……天使が通った。元々静かだったけど。
「ステータス! ……ステータス・オープン! ……くそ、違うのか。じゃあ、メニュー!」
天使の大群。逆に賑やかなイメージだな。虫の声すら聞こえないけど。
「おいおい、ハード・モードかよ。チートスキルはお約束だろうが!」
不安が募る。精一杯の強がりだった。
考えてみれば、ネット小説のように王女様、聖女様に勇者召喚されたわけではない。居眠りトラックから子犬、子猫、幼女を助けて死んだところを神サマに拾われて白い空間に呼ばれたわけでもない。ぶっちゃけネット小説はあくまでもフィクション。あったらいいな~程度だ。
これからのことを考える必要はあるが、悲観に暮れる暇はない。いいトコ探しをしてみよう。
まず飲料水を含む食料品。コンビニで買い漁ってて良かった。レジで合計金額を見て一瞬考え直そうと思ったが、GJ! 当時の俺のちっぽけなプライドよ! スナック菓子ばかりだが、節約すれば三日は持つ。生きるだけなら一週間はいけるか。その間に人家或いは街道を探すか、最悪水場を確保しなければならない。
次に装備。半袖のワイシャツがネックだが、黒のスラックスにスニーカーは及第点。こんなこともあろうかと……ではなくて暑かったから通気性のいい靴を選んだだけだ。だが不幸中の幸い。流石にトレッキングシューズで通学はしないな。
更に幸いなことに通学用のカバンは肩掛け方式だ。後は二つのレジ袋の持ち手部分を結んで肩で前後に担げば両手はフリーである。
これで『ひのきのぼう』みたいなのを拾えば杖にもなって歩きやすいだろう。
後は……泣かないことだ。
異世界転移なんて非現実的なものではなく、同じ地球上でのテレポートかもしれない。アマゾン? ニューギニア? ひょっとしたら本当に富士の樹海かもしれないし、もっと近所の奥多摩山中かもしれないじゃないか。ちょっとこの藪を突っ切ればいきなりアスファルト道路に出る可能性だってなきにしもあらずである。
……まあ、それでもテレポートなんて十分非現実的なのだが……
歩いた。かなり歩いた。
拾った木の枝で藪を突付きながらの前進なので時間はかかった。蛇が出て来なかったのは幸いだが、アスファルトどころか獣道すら発見できない。やはりハードモード確実か。俺の中では99%である。
そうなると不安になるのが、異世界のお約束、『魔物』との遭遇である。
これまで一匹も動物を見かけていない。日本に生息する、いや地球に生息している動物の姿を見たら少しは安心できるんだが……蛇でもいいから出て来てほしい。うそ。取り消します。この状況で毒蛇にやられたら即アウト。
これが現実逃避というのだろうか。
くだらないことを考えていると、進行方向から「ガサガサッ」という最近聞きなれた音が聞こえてきた。
「っ!」
思わず息を呑む。
間違いなく藪を掻き分ける音だ。
「助けてくれ」と叫びたくなったが、何とか堪える。まだ姿は見えていない。人かどうかわからない。熊や猪、その他の猛獣だったらサーチアンドデストロイである。向こうが俺をな。
できるだけ音を立てないように、しかし迅速に近くの木の陰に隠れる。万一に備えて荷物は下ろしておく。捨てて逃げることになったら勿体無いが、命大事に、である。念のため爆竹と百円ライターを持っておく。野生の動物なら爆音で逃げてくれるかも。そうでなくても俺が逃げ出す隙ぐらいはできるだろう。
息を潜めて周囲に注意することしばらく、草を掻き分ける音が大きくなっている気がする。
そして、ついにその正体が判明した。
人だ。文明人である。
それは間違いないのだが、予想が掠りもしなかった。意外すぎて反応ができない。
「む? 誰かそこにおるな? 悪しき魂胆がなくば大人しく姿を見せい!」
ある日森の中、出会ったのはサムライであった……
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新作始めました。二作品あります。是非よろしくお願いします。
『鋼の精神を持つ男――に私はなりたい!』https://kakuyomu.jp/works/16816927861502180996月水金19時投稿予定。
『相棒はご先祖サマ!?』https://kakuyomu.jp/works/16816927861502718497火木土投稿予定。
連載中の本作品『ヘイスが征く』は次回3月20日から毎週日曜日、週一投稿に変更します。ストックが切れそうなので。
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