10話 焼きサンマ
「はぁ……」
「む? 落ち着いたのか?」
「あ、ああ……」
俺は柱にぶつけまくった部分を手でさすりながら椅子に座った。
結構激しめにぶつけたせいでかなり痛い。
「何だお前。もう寝るのか? ご飯はまだ食ってないだろう」
「だってその食うもんがないんだから仕方が無いだろ」
今日の報酬で買えたのは魔石のみ。
こんな家の中に食べられるものがあるわけもナシ。
「俺は寝るからな」
そう言って俺は使い古した毛布を自分の方へ引っ張った。
「食うものがない?」
「無いだろ。それとも自称神様はこんなボロ家に何か食えるもんが備蓄されているとでもお思いで?」
「そんな訳が無いだろう。お前が食うものがなくて、【魚剣】より生える魚を頼りにして生きていたのは我も知っているんだからな」
「じゃあ黙って寝ろ。明日も朝から薬草採取しなきゃいけないんだから」
「?」
「何だよ「?」って……」
「そりゃお前が明日も薬草を取りに行くとか、食うもんがないとか言うからなぁ」
「ああ? そりゃどういう……」
そこまで言って、俺の口が開いたまま止まった。
俺はゴブリンを何で倒した……?
そりゃ信じられないことではあるが……サンマで倒した……。
そしてあのサンマは……4回目。今日生えた4匹目のサンマ……。
それはつまり……
「まさか食い物がある……?」
「そりゃそうだ。なんだお前、まさか己の見た光景を忘れてたのか?」
「……」
「そりゃ……そりゃ忘れるだろうがッ!」
いやだってあんな奇想天外な光景だぞ!?
無意識下で忘れたくもなるわッ!?
というか第一今日は色々起きすぎて、頭の回りも最悪なんだぞ!?
「ニヒヒ。では良い機会だし、細かな説明をしながら飯をつくってやるか」
ウオちゃんはそう言うと【魚剣】を持った。
そして柄を持ってゆっくりと抜いていった。
現れたのはゴブリンたちを屠ったあのサンマ。
どこからどう見てもこんなものでゴブリンを倒せたのが信じられない。
「それにしても、やっぱり魚なのか……」
「ふん。その言葉、我が焼いたサンマを口にしたとき絶対に後悔するぞ~」
ウオちゃんはそう言うと指をパチンッと鳴らした。
すると柄から生えたサンマが火もないのに勝手にジリジリと焼かれ始めた。
「まずはさっきお前が聞き流した、我の崇高なる目的だ。我が目的、それは魚の怨みで暴れ散らかすことだ!」
全く崇高でもなんでもなかった。
「やっぱり悪霊だろお前……」
「悪霊言うな! 全く失礼な男だ」
にしてもスゲェ良い匂いだ。
思わず口角が上がってきそうになる。
「コホンッ……では話を続けるぞ。我が目的。魚たちの怨みで暴れること。そしてそれに必要なのがさっきも言った『怨みポイント』だ」
「確か魚の怨みをエネルギーみたいにしたものだったか」
「その通り。この怨みポイントを使えば、こんな風に魚を生やしたり、焼いたりするだけでなく、【怨み技】。要は魔法みたいなものを使えるのだ。そしてこれでお前には――ほれ焼けたぞ」
「あ。どうも……」
俺は柄を持ってサンマを口へ持っていった。
「!?」
瞬間サンマの旨味が口の中へ一気に広がった。
皮はパリッと、中はほかほか。今までの人生で食べたことがないくらい美味い魚であった。
「ニヒヒ。どうだ? 美味いだろ」
「……」
大変不本意だが凄く美味かった。
「んぐぅん。……それでお前はの続きは?」
「それはだな。お前にはこの【魚剣】で軽~く暴れて欲しいのだ」
「暴れる?」
「なぁに、別に人間を殺せと言ったりするわけじゃない。その剣を使って魔物を倒しまくって欲しいというだけだ」
「それってつまり……【魚剣】を持って冒険者として働けってことか?」
「う~ん……まぁ簡単に言えばそうだな。今の【魚剣】なら魔物を倒すことなんて簡単だぞ」
「ふ~ん。そう言うことなら……やっても良いが……」
確かにあのゴブリンを倒した攻撃力。
今までとは断然に違うというのははっきりと分かる。
見た目はふざけているが、あれなら他の魔物も倒すことができる。そうなると冒険者として、まともな収入を得ることができる。
この貧乏生活を変えられるならむしろ願ったり叶っ――いやそもそもこの生活をさせた元凶ってコイツ何だから、むしろそのぐらいのリターンを返すのは当然では? あ、だけど発端は俺が酔って「なんでもする」とか馬鹿なことを口走ったせいだし……。
……。
……。
なんか複雑な気分だぁ……。
「ニヒヒ。そう言うと思ったぞ。どれ、もう1匹食うか?」
「あ、いや。美味しいけど、魚は1匹で十分だから」
いくら美味しくても魚を食べるのはすでに飽き飽きである。
魚を振るって成り上がれ!?〜呪いの装備【魚剣】が怨みポイントを溜めて覚醒し、自称神を名乗る怨霊もどきの美少女が顕現しました!?〜 ZUMUIHE @tokai
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