9話 【悲報】魚剣は相変わらず装備したまんま
「あっ」
「急に変な声を上げて、どうしたんだ?」
「薬草持ってかないと!」
俺はリュックを背負うとすぐさま立ち上がって、駆けだした。
「陽が沈んだら受付カウンターが閉まっちゃって、クエストの報告ができなくなっちまう!」
「むう? そうなのか。まぁ我にとってはどうでも良いことだが」
ウオちゃんはそう言いながら俺の真横を走っていた。
その手には【魚剣】が抱えられており、生臭さをまき散らしている。
「なんでお前も着いてくるんだよ!」
「なんでって契約だからな」
「お前の体はもうできたんだろ! ならどっか行けよ!」
「ニヒヒ。まさかお前、我が体を創っただけで満足したとでも思ったのか?」
「はぁ? 違うのかよ」
「違うぞ違う。全然違う。お前には我が崇高なる――って、おいお前! 我が話してんのに走んなよ!」
「知るかッ!! さっさと行かんと、金が貰えないんだよ!」
俺を追いかけてくるウオちゃんにそう叫びながら山を出た。そして草原を駆けていった。
陽はすでにほぼほぼ沈んでしまっており、辺りはかなり暗い。
「あぁ……もう……無駄話してたぁぁー! 間に合うかぁ? 間に合うのかぁ?」
「おい待てー! 我の話を聞けー!」
「うるせぇよッ! 今急いでんだ! 話しかけんな!」
「何だと、貴様―! 神に向かってその言い方、絶対罰が当たるぞ! 神罰。絶対神罰を落としてやるー!」
「はぁん。魚の神様の神罰? そんなもの何も怖くねぇわ!」
「言ったなー! 魚を馬鹿にしたなぁ!」
「馬鹿にしたわ! どうもすいませぇ~ん!」
「ウギャー! なんだその謝り方は! ちゃんと頭を水に漬けて、謝らんか!」
「そんなことしてる暇はねぇよ! というか水の中に頭を漬けるってどういうことだよ! 窒息するわ!」
「人間ごとき窒息してろ!」
「何だと!」
「貴様こそ、何だとだ!」
草原を越える街が見えてきた。
街の入り口には欠伸を漏らしている兵士が見える。
「通ります!」
「通るぞ!」
「あぁ~。あ? どうぞぉ~」
俺たちはなぜか互いに競い合うようにしながら街の中に入っていった。
そして街の中でもガミガミと言い合いながら、冒険者ギルドまで走っていく。途中「生臭冒険者」とまた呼ばれたりしたが、気にしない。今はとにかく報酬だ。
「受付空いてますかッ!!」
俺はそう叫びながら冒険者ギルドへの中に入った。
「え、えっと……もう受付は終わりました……」
* * *
「おい聞いてんのか! さっきの侮辱を訂正するんだ! 魚は最強。魚は無敵だ!」
「……」
「黙ってないでごめんなさいをしろよ!」
「はぁ……」
「ため息じゃなくて謝罪だ!」
薬草は新鮮なものの方が売れるため、採取してから1日が経過したようなものは全く金にならない。なのでギルドの人に無理を言って、何とか買取だけはしてもらった。
だがクエストに関しては規則であるため、クエスト失敗というのは変えられなかった。
おかげで本来稼ぐ予定であった額の半分以下。魔石はあまり買えなかった。
「本当ろくな目に合わん……」
俺はそう言いながら数枚の銅貨が入った袋を見た。
この程度の金では肉なんて買えない。
割引されたお惣菜とかも買えない。
「聞いてんのか!」
「はぁ……聞いてねぇよ。誰のせいでこんなことになってるんだか……」
「そりゃお前のせいだな。お前が酔って川に突っ込んだりしたからだ」
「うぐぅッ」
そこを突かれると痛い。
「いやだけど、発端が俺だとしても【魚剣】を装備させたのはお前だよな」
「お前じゃなくて、ウオちゃんな」
「てことはやっぱりお前のせいだろ。その呪いの装備のせいで俺はろくに戦うこともできなくなって、今日なんかはゴブリンに殺されるところだったし」
「む? だけどこれのおかげで助かったじゃん」
「いやいやいやいや。そもそもそんなもんを装備してなきゃ、ゴブリンに殺されそうになるなんて起きなかったんだよ」
まぁだがそれも恐らく今日で終わりだ。
何せ【魚剣】という呪いの装備を外せたのだ。めんどくさそうな自称神の悪霊もどきが現れたが、それでも装備を外せた。
だったらきっと普通の武器を使えるし、魔法だって使えるはずだ。
ならばもうこんな薬草採取の毎日は終わり。
明日からは魔物退治のクエストをバンバン受けて、美味い肉を食ってやる。
しばらく言い合いながら歩いていると家に到着した。
「う~む、相変わらずのボロ家だな」
「そう言えば、見てたって言ってたっけか……」
金が無いので、壊れてもまともな修理なんてできるわけがなく、俺の家はオンボロのボロ家になっている。
「そうだな。基本的にずっと見ていたぞ。じゃないと怨みポイントを貯められないからな」
「なんで見てないと貯められないんだ?」
「そりゃ我が集めるのは魚の怨み。それは【魚剣】から生える魚であっても同じこと。お前の毎日魚を適当に焼いて食べる――その行為に対しての怨みもまた、我が力なのだ」
「つまり怨みの自家生産ということか?」
本当にコイツ神かぁ……?
完全にやってることが悪霊とかのやり口だろ……。
そんな風に考えてるとウオちゃんは勝手に俺のベッドにゴロンと座り込んだ。
フカフカではないが、それでも俺の安住の場所。そこに彼女の服に付いたゴブリンの血が垂れる。
俺はそれをジト目で眺め、文句を言おうとして途中で止めた。
どうせこの悪霊もどきに何を言ったところで聞きはしない。
合計ほんの数時間のコミュニケーションであるが、その間ですでに十分すぎるほどコイツのことは分かった。
このウオノカミという奴は魚の神。そしてこいつは人間のことを下に見て、馬鹿にしている。逆に魚の神を名乗るだけあってか、魚に対してはかなり擁護をする。
俺はこいつをどうしようかと考える前にまず荷物を片付けてこようと、その場を離れようとした。
そのとき。
「うがぁッ!?」
突然背中に強い衝撃が走った。
「おいおい。人間がアホなのは知ってるが、流石にこれはアホすぎるだろ」
後ろを見るとそこには【魚剣】が転がっていた。
「まさか……まだ装備したまんまなのか?」
「そりゃそうだ」
「……さっきまではくっ付かなかったじゃん」
「そりゃ【魚剣】の範囲内にお前がいたからな」
「……」
「ん? もしかしてお前、強制装備状態が解除されたとでも思ったのか?」
「残念でした~。まだ契約中なので、装備したまんまだよ~」
クッソムカつく……。
だけどそれ以上に――
「…………糞ったれぇぇぇー!!」
甘々な希望的観測を抱いていた自分に腹が立った。
俺は怒りのあまり思いっきり頭を家の柱にぶつけた。
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