7話 我が名はウオノカミ。気軽にウオちゃんって呼ぶがいい!!
ガリッ。
ボリッ。
ブチっ……。
ガリッ。
ガリッ。
「うぅ……なんのおとだ……?」
俺は何かを噛むかのような音で目を覚ました。
辺りは若干薄暗くなっている。
「お。起きたか?」
「ぁぁ……え?」
少女の声がした方を見て、
「えっと……? は?」
俺は口が間抜けに開いた。
「お前も食うか? 美味くはないが、食っててスカッとするよ」
「……えぇ~と……何を食ってんの?」
「何をって、さっきお前が倒したゴブリン共だけど」
青髪の少女はそう言いながらゴブリンの腕を後ろに放り投げた。
それは歯型や引きちぎられた痕跡がいくつもある。
そして少女の周りには無残に食い荒らされたゴブリンたちが転がっている。
「……」
「食わんの?」
「えっ……いや……」
「? 肉を食いたいって言ってなかったか?」
「確かに肉は食いたいけど……」
確かに肉は食いたい。
3年間、金が無く肉を食う機会は全くなかった。
だから肉を食えるのなら食いたい。
……。
……。
けどなぁ……。流石にゴブリンの肉はなぁ。
ゴブリンの肉は別に食べられない訳ではない。訳ではないが、その味は非常に不味い。
鼻の奥を殴られたと思うほどキツイ臭みに加え、ゴブリンの肉はとてもベタベタとした触感しており、さらにその肉は非常に硬くて噛み切るのが大変という感じで、到底美味しいとは言えない一品。
3年ぶりに食べる肉がそんな糞マズなモノだというのはなぁ……。
「遠慮しておくよ」
「そうか。まぁ食えたものじゃないしな」
そう話しながら少女はペッと何回も噛みしめられた肉片を吐いた。
……。
……。
あれ?
「てかお前俺の3年間を知ってんのかよ!?」
「ん? そりゃ知ってるぞ。だってずっとその【魚剣】の中にいたんだからな」
「……てことはやっぱりお前が元凶か! この野郎! お前のせいで俺の3年間は毎日3食焼き魚。クエストも細々と薬草採取。周りからは生臭って呼ばれる羽目になったんだぞ!」
「はぁ? そんなこと言われても我はどうでも良いんですけど」
「どうでも良いって!?」
「それにお前が【魚剣】を装備したのはちゃんとした契約に基づいたことだから、文句を言われるが分かんないね」
「は? 契約? 何の話だよ。そんなの俺は知らないぞ」
「ありゃりゃ? 忘れちゃったのかな」
目の前の少女は始めて見たし、この声とまともに会話したのだって今日が初めてだ。
「う~ん……まぁしょうがない。我が親切に教えてやろう」
少女はギザ歯を見せて笑いながら立ち上がった。
「あれは3年前のことだ。我が川の中で長い年月をかけてようやく形になり始めたとき」
「形になり始めた?」
「細かいことは気にすんな。今は契約のことを話すから、黙って聞いとけ」
「……」
俺はひとまず黙った。
「綺麗な月が出ており、なかなかに良い夜景だった。魚たちも元気に泳いでおり、我は心地いい気持ちの中、形を創っていた。そのときだ。そのとき突然我がいた川の中に何かが入ってきた。それはバシャバシャと川の中で暴れ散らかした。おかげで折角出来ていた我の形の4割が崩れてしまった」
川?
バシャバシャと……?
「我は邪魔された怒りのあまり、その暴れてた奴を怒鳴った。するとそいつは何と言ったかと思う?」
「……」
なんか変な汗が垂れてきた。
「何でもするから許してくれって言ったんだよ」
凄く嫌な予感がする……。
「も、もしかして……それが……」
「そうだ。我の邪魔をして、なんでもすると言った人間。それがお前だ」
そう言って少女はニカッと笑いながら俺の前に立った。
その姿は確かに可愛い少女であるはずなのに、どこか底知れない恐ろしさを感じた。
「そういう訳で契約なのだ。全霊を持って我の顕現の手伝いをするという」
「……」
「どうした? そんな暗い顔をして。我の手伝いができるのだぞ。そこは泣いて喜ぶべきだろ」
「……」
「おーい。どうしたんだー」
「……」
「おーい。返事くらいしてくれないと、我泣いちゃうぞ」
「……」
「お~いってば」
「ああー!!」
「うぎゃ!?」
俺は腹の底から声を出しながら立ち上がった。
急に立ち上がったせいで少女は俺の頭部に顎をぶつけて、後ろへ転がっていった。
「うぅ……急に立つなよぉ……」
「なんで、なんで俺……何でもするなんて言ってんだよ! てか酔って川に入水してたんかよ! 本当に俺の馬鹿ッ!」
「う~ん。なかなかに良い声だなぁ~」
「うがぁー!! もう馬鹿野郎がッ!!」
俺は自分のやらかしの後悔からその場を転げ回った。
本当に何をやってんだよって話だ。いやまぁ何があったのかを言われた今もさっぱり覚えてはいないのだが、それでもあの日の酔い具合ならやらかしてても可笑しくない。
「うぅ……」
「ニッヒッヒ。人間の嘆く姿は気持ちが良いものだ」
「てかお前、結局何なんだよ……? 長い時間をかけて形を創ってたとか言ってたけど……」
「ふふふ。それを聞くか? 聞くのかぁ?」
「聞いちゃダメだったか?」
「いやむしろ聞け! 我が名とその理由。それを心して聞くが良い!!」
そう言いながら青髪の少女は沈む夕日をバックにバサッと髪をはためかせた。
「我が名はウオノカミ。魚たちの怨みの化身。気軽にウオちゃんと呼ぶがいい!!」
「え~と……魚たちの怨みの化身……?」
「そうだ! 我は魚たちが日々抱く『なぜこんなにも簡単に死んでしまうのか』『なぜ美味しく料理されないのか』『なぜ捨てられたりするのか』『なぜ意味なく殺されたりするのか』。そんな思いが集まり、形を得た神なのだ!!」
う~ん……訳が分からないし、意味も分からない。
「ニヒヒ。あまりもの偉大さに声も出せないのだな」
「いや。訳が分からなくて何も言えないだけだから」
「そう強がらなくてもよい。素直に偉大だぁ~と褒めたたえるがよい」
「話聞けよ……」
俺はため息を吐くようにそう言った。しかしウオノカミ?はさっぱり聞いておらず、ニカニカと笑いながら俺の周りを回っている。
てか魚の怨みの化身ねぇ……。
はっきり言ってギャグ?
それとも馬鹿にしてる?
そんな風に言いたくなるような存在だ。まぁ食べ物の怨みは恐ろしいとは言うからなぁ。
こんな奴が宿った剣の除霊ができなかったって知ったら、絶対あいつ泣くよなぁ……。
俺は現在街を離れている幼馴染のことを思い出しながらそう思った。
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