5話 【真打・秋刀魚】
まるで幼子のように白い肌。
腕や足は太すぎず、細すぎずという丁度良い。胸も大きすぎるわけではなく、その体に見合った普通のサイズ。まるで黄金比に従って創ったかのような体だ。
パサッと宙をはためく青い髪には髪全体を1匹の魚に見立てるかのように、銀色に染まる箇所がある。
まごうことなき美少女。
それが俺が彼女へ抱いた感情であった。
「ウオノカミ。略してウオちゃん。ここに顕現!!」
そして光の中から現れた綺麗な青髪の美少女。
その姿に――
「ギャー!」
「ギャギャア!」
「ウギャッギャウギャッギャ!!」
「ギャギャッ!!」
「ギャッギャギャギャー!!」
ゴブリンたちはそれはそれは大興奮であった。
そもそもゴブリンという魔物は非常に女好きだ。それは物凄く女好きだ。
どのくらいの女好きかと言うと顔の出来に関係なし。
赤子でも老人でも関係なし。
目の前にいる人間の性別が女であるのなら、所かまわず襲いかかる。
例えそれが罠だと気付いたとしても襲いかかる。
食べ物を食べていなくても女がいるなら襲いかかる。
そのぐらいの女好きなのである。
なのでそんなゴブリンの目の前にこんな美少女が現れれば、
「ウギャッ!!」
「ウギャギャ!!」
「ギャギャッ!!」
「ギャギャ―ウギャー!!」
「ウギャッギャギャァー!!」
「「「「「ギャギャァァァァー!!」」」」」
こんな風に大興奮の大合唱が始まるのは当然であった。
「な、なんだこやつ等。何でこんなに喜んでんだ!?」
「いや、そりゃゴブリンだから……」
俺は若干呆れながらそう言った。
「ゴブリン……? ああ! ゴブリン! 魚の味も理解せず、適当に生で口の中に放り込む糞カス馬鹿野郎畜生生物か!」
なんか今流れるようにゴブリンを罵倒したんだけど。
てかこの声【魚剣】から聞こえてきた声と完全に同じだ。ということは俺にコレを装備させた元凶がコイツか。コイツなのか!
「ニヒヒ。よくも魚をあんなにもてき――うにゃ!? な、何をするんだ!?」
「何をするんだ、じゃねぇよ! お前だな。俺に【魚剣】とか言う意味不明武器を装備させたのは!」
「うむ。そうだよ! 我が与えたのだ!」
清々しく感じるほどに気持ちよく少女はそう答えた。
「……」
そのあまりもの清々しさに俺は何も言い返すことができなかった。
「いや~お前のおかげでたった3年で顕現できたのだ。褒めてつかわすぞ」
「いや、お前なんかに褒められても嬉しくないよ」
「何だと! 神だぞ! 神が褒めてやってんだ! 泣いて喜べ!」
「お前、どう考えても悪霊の類だろ。じゃなきゃあんな呪いの武器から出てこねぇよ」
「そんな言い方は無いだろ! むぅ~」
少女はそう言いながら頬を膨らませた。
何も考えずに少女を見ていればかなり可愛いのだが、俺の3年間の生活の元凶というのを考えると、全然可愛く見えない。
「ウギャ」
そのとき大喜びの大合唱をしていたゴブリンたちが合唱を止め、少女を凝視し始めた。その口からは涎がたらりと垂れ、吐息はかなり荒い。
「て、てかこのゴブリン何とか出来るんだろ。どうすんだよ?」
「うん? どうするってお前がそれを振るって、倒すんだよ」
「はぁ? それって……?」
「それって、それしかないだろ。【魚剣】」
「はぁ!? これ刃の部分が魚で攻撃力ゼロの意味不明武器だぞ! こんなのでどうやってゴブリンを倒すんだよ。というかさっき3匹目を抜いたから、もう魚すらないから!」
「?」
「何言ってんだお前みたいな顔すんなッ!」
「おお~人間の癖に我の思ったことがわかるとは、なかなかやるな~」
俺たちが言い合っている間もゴブリンたちはジワジワとこちらににじり寄ってくる。その瞳は俺のこともチラリと見たりはするが、一番に見ているのはやはりこの少女の方だ。
これコイツ置いて逃げればいけんじゃね……?
どうせ俺の3年間の元凶だし。そもそも人間ですら無さそうだし。
……。
……。
流石にそれはないか。
うん。流石にない。人として流石にそれは酷すぎる。
あまり良く思っていない相手だとしても、少女を身代わりに逃げる。
そんなことやったら気持ちよく寝ることも、生活することも二度とできない。
「ニヒヒ。初陣としては良い敵ではないかな」
「初陣?」
「さっき言ったよな。攻撃力なんて無いと。まぁ確かに以前のままであれば攻撃力の無い剣だ。だが今。我が顕現した今、【魚剣】は覚醒し、真の力を発揮する」
「し、真の力!」
「そうだ。さぁ今こそ抜くのだ。そして【魚剣】の真の力を見せるのだ!」
俺は柄に手をやった。すると以前とは違い、何か重さを感じる。いつものような魚の重さではない。
「ひとまずこれやったら話を聞かせて貰うからな!」
そう叫びながら俺は一気に引き抜いた。
「へ……?」
「「「「「ウギャア?」」」」」
現れたのは銀色に輝く細い柳葉形のモノ。
きれいに真っすぐ伸びている。
長さはだいたい30センチメートルぐらい。
そして
「ニヒヒ。初陣だからな。ボーナスで怨みポイントを消費しないで使わせてやる」
「……えぇっと……これは……?」
「よくぞ聞いた! これこそ怨み技の一つ。【真打・
ゴブリンたちは驚きのあまり口をポカーンと空けている。
もちろん俺も同じように開けてしまっている。
「なんて?」
現実を理解できない。いや理解はできている。理解をしたくない俺は血の気が引いていくのを感じながらそう尋ねた。
「【真打・
「えっと、これは?」
「サンマだ!!」
少女の堂々たる宣言を受けて、目の前にいるゴブリンたちは同情的な目をしていたり、可笑しそうに笑っている。
「……」
あぁ……これ無理そうだ……。
俺は逃げれば良かったと後悔した。
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