彼女はコメディが好きだから、だから俺は

アキノリ@pokkey11.1

ホスピタル・クラウンという存在

コメディアンとか芸人になるのは楽では無い。

5本指に入れば妥当。

声優と同じであり、なれるとしても奇跡。


そんな言葉を誰かが言った気がする。

その言葉は俺、石破雄大(いしばゆうだい)はずっと聞き流していた。

何故なら俺に関係無いと思っていたから。

それから楽観視していたから、であるが.....。

とにかく引っくるめると俺自身は、そんな馬鹿な、と思っていた。


だけど今。

事故に遭ったコメディアン好きの幼馴染の為にコメディアンになるつもりだった俺は今は凄く辛い思いをようやっと感じている。

そもそも先ずテレビに出る出番が無く当たり前だが劇場に呼ばれる事も少ない。


給料も少なくバイトをしなくてはならない。

これが当たり前の日常だ。

当たり前の事が当たり前では無いのだ。


だからそのコメディアンというものからは引退した。

でもそれでも。

植物状態の彼女に絶対に戻って来てほしいと俺はずっと無名だが活動を続けている。

それは特殊なピエロとして。


「.....」


目の前の鏡に映っている道化の顔を見つめて白い化粧を付けていく。

赤い化粧もして、だ。

そして赤い鼻をしっかり着ける。

そう言えばこれを見ている人達はホスピタル・クラウンというものご存知だろうか。

知っている人と知らない人が居るだろう。


そもそもピエロというのは道化師。

つまり人を楽しませる為に敢えて戯けている仮定される。

俺はそのホスピタル・クラウンというものになる為に必死にずっと特訓している。

なった後もずっと、だ。


そんなピエロだが主な活動拠点は病院である。

病院に行っては癌患者の子供達などの子供に道化師として接したり楽しませる。

ホスピタル・クラウン。

因みにそんなホスピタル・クラウンだが人を楽しまセルコメディという割にはこれに対応した協会がちゃんとある。

日本ホスピタル・クラウン協会というものが、であるが。


俺は何度も、何度も、何度も特訓して学んできてからようやっとそのホスピタル・クラウンというものになった。

面接や正確診断テストなどそれを受けてきちんと特訓して合格しないとなれない。

それに病院での活動は非常にデリケートな為、活動には常に特訓が必要である。

この先もずっと死ぬまで、だ。


俺は道化師になった目の前の自分を見てから道化の顔をして真剣な顔をする。

幼馴染の為とはいえその目標だけでは生きていけないのがこの世の中。

だから俺は接する全てに強い意志を持っている。


その間に幼馴染が起きる事を。

いつか見てくれたら、と思い全てを頑張っている。

俺は考えながら控室から出る為に準備をした。


「.....さて」


俺はそのまま用意が済みゆっくり立ち上がる。

実の所俺も初めは苦労した。

子供が笑ってくれない時もあったのだ。

途中で去る人も。


その為に非常に心から苦労したのだが。

だけど俺の必死の活動で笑顔になってくれる人が現れた。

その事で世界は大きく変わってきたのだ。

それはまるで世界に色が着く様な。

そんな感じである。


例え幼馴染が永遠に起きなくても。

俺はずっと幼馴染の事を死んでも死んだ後でも思っている。

何故かといえば俺は幼馴染が心から好きだから。


告白する前に事故に遭ってしまったが。

絶対に起きてくれるだろう。

その様に希望を持ちながら控室のドアを開ける。

それから子供の前に現れた。


「はーい!子供達!僕が来たよー!」


「「「わーい!」」」


俺にずっとコメディを見ていて夢をくれたコメディが好きな幼馴染。

その幼馴染に何時かこの活動を見てほしい。

そう思いながら俺は.....笑みを浮かべて子供達に接する。

そしてハイタッチをしたりジャグリングをしたりしてから子供達を楽しませた。



実の所だが俺は道化師になるのは当初は嫌だった。

だってそうだろう。

下らない、と思っていたのだ。

それに人を嘲る道化師など恥ずべき存在、と思っていた。


だけどある日の事だが。

通学途中の高校3年生の幼馴染が飲酒運転の車に轢かれ事故に遭ってから。

世界がひっくり返る程に衝撃を受けたのだ。


俺の中で何かが変わった気がしたのだ。

そして俺はそのまま道化師になる.....のでは無く。

お笑い界に飛び込んだのだが残念ながら失敗した。

大学にも行かず流浪の旅といえる。

資格を持てば良かったとこれ程、思った事は無かった。


上手くいくと思っていた俺の見繕いは甘かった。

世界には通用しなかったのだ。

だから俺はコメディアン、芸人などは諦めてから。

何かお笑いとコメディを交えた別の何かがしたい!、と思い。


その中で俺はインターネットで見つけたのが.....ホスピタル・クラウンだった。

俺は必死にその門を叩き。

そして1年前にホスピタル・クラウンになった。

知識をようやっと身に付けた感じ、であるが。


俺の年齢は18歳だったが2年経って20歳になり。

幼馴染も2年間起きる事無く。

ずっと病院で入院して暮らしていた。

その姿を見ながら俺は道化として活躍して.....子供達を笑顔にする為に生きる。

そんな生活を繰り返していた。


そんな姿はみんなにこう見えている様だ。

本当に必死に頑張っている野郎、と。

俺はその言葉に、やってきて良かった、と。

その様に考える日が増えた。

必死に生きている姿を見せつけれていたのだ。


「.....」


オフの日。

目の前に寝ている頭に包帯をずっと巻いたままの幼馴染の横長灯火(よこながとうか)を見ながら。

俺は拳を握り締めてずっと椅子に腰掛けていた。

道化をしている事を幼馴染はどう見るのか。

そんな事を考えながらの日々だ。


「なあ。灯火。.....俺はどうしたら良いんだろうな。お前が.....起きて来る事を思って道化師をやっているけど。たまに挫折もするけど」


道化は肝心な時でも笑わないといけないけど。

ちっとも笑えないのが俺。

情けないよな。


目の前の呼吸器を着けている灯火は応える事は無い。

俺はその姿を見ながら真剣な顔をする。

だけどその真剣な顔に自然と涙が浮かんでくる。

それから俺は悔し涙を流した。


「謝って済むなら警察も要らないよな。あのおっさん」


灯火の飲酒運転のひき逃げで.....おっさんというか。

捕まったジジイが居た。

だけどそんなおっさんを捕まえても。

灯火は元気にならないと。

俺は会う気も起こらないのだが。


「じゃあ灯火。また来るからな」


明日もホスピタル・クラウンの仕事がある。

病院に向かわなくてはならない。

俺は思いながら夜になったのを確認してそのまま立ち上がってから.....歩き出そうとした時だった。


俺の手が掴まれる。

それは.....灯火にだった。

そんな馬鹿な.....、と思いながら俺は灯火を見る。


だがその顔は全く表情が変わってないまま。

寝ている。

無意識に掴んだ、という事か?

俺は驚愕しながら、おい!灯火!、と声を掛けるが灯火は応えなかった。

だが.....何か笑んでいる気がする。


「.....そうか。お前も面白く思っているんだな。良かったよ」


起きなかったが。

それでも灯火は俺の手を握った。

無意識だろうけど。

だけど.....奇跡は起きたんだな、と。

そう考えながら俺は灯火を見つめる。


「.....灯火。頑張るからな。俺」


「.....」


灯火は全く言葉は発さない。

だけど灯火は.....俺を見ている気がした。

俺はその姿を見ながら笑みを浮かべながら。

そのまま優しく灯火の手を握ってから。

消え掛かっていた明日を見据える。



それから1年が経った頃。

俺は灯火とニコニコしながら話をしていた。

灯火は奇跡的な回復を遂げて起き上がれるまでになったのである。

今はまだ病院に入院しているが.....その場所に俺はホスピタル・クラウンとしてやって来た。


笑顔を浮かべれるぐらいにまで回復した灯火。

実は俺の話を聞いたりしていたそうだ。

夢の中で、であるが。


そんな灯火の前で俺は戯けてみせる。

それはホスピタル・クラウンとして、だ。

それから恋人の灯火の彼氏としてのホスピタル・クラウンとして。


「雄大。有難うね。なかなか楽しみが無いから今日も.....楽しい」


「.....それは良かった」


今はホスピタル・クラウンだが。

俺と灯火と2人きりである。

ホスピタル・クラウンの仕事が終わってからこうして暇あれば専属のクラウンとして灯火の元で活動している。


それは灯火の笑顔を守りたいが為に、だ。

そして俺達は.....笑い合った。

2人だけの秘密の時間だ。


fin

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