さるもの

天田れおぽん@初書籍発売中

第1話

 オレは吠えた。オレは本気で京香が好きなんだ。結婚してくれ。結婚しようよ。そんな気持ちを声にしてみました、って感じで叫んだ。

「もう、うるさい。ホント、アンタってばサルなんだから」

 京香は長いサラサラストレートの髪をウザそうに後ろへと流し、次の瞬間、その手でオレを指さした。

「いつも、いつも。叫べば自分の思い通りになると考えてるなら甘いからっ」

 辛口ストレートなご意見を、ぷっくりとした可愛らしい唇から吐き出しながらオレを見る。その目はデカい。長い睫毛に縁どられた黒い瞳がオレをとらえた。

 見て下さい。見て見て、と、ばかりにオレがボディランゲージをとると、京香は溜息を吐いた。

「ホントもう呆れる。アンタは。怒られたって、ちっとも反省しないし」

 はい。自分でも分かっています。オレの辞書に反省という文字はない。

「自分を分かろうともしないし」

 はい。分かろうともしていません。オレってば本能に忠実なんで。本能に忠誠誓っちゃっているタイプなんで。諦めて結婚してくれよぉ、京香。

「ほら、鏡を見てごらんなさい」

 京香は鏡をオレの前に差し出した。

「アンタはホントにサルでしょ?」

「……」

 確かに。そこには一匹の猿が映っていた。

「ホントにもう。アンタは猿だから私とは結ばれないって、何度も何度も言っているのに信じないんだもの」

「ウッキー」

 オレは鳴いた。

「そーゆー思い込みが激しいトコが、女子ウケ悪い理由だぞ」

 京香は茶目っ気たっぷりに続けた。

「そんなキミのために、好みに合いそうな女子を手配いたしました」

 高らかに宣言すると、京香は襖をドーンと開けた。

 そこには。

 可愛らしい猿がいた。

「ウッキー」

 彼女は鳴いた。

「ウッキー!」

 オレも鳴いた。

 もちろん、オレは一目で恋に落ちた。

 『京香ってばオレのこと分かってるぅー』と、心のなかで叫びながら、オレは飛び跳ねながら吠えたんだ。

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