1月5日

 満月の夜に散歩をしていた。

 頭のなかは静かだった。波打ち際も静かだった。冴えわたる冬の月は澄んでいた。

 夜の闇のなかはあたしは恐ろしい。

 自分と世界との境目がなくなってしまいそうだから。

 どこまでも溶けだしていって、どろどろと闇と一体化してしまいそうだから。

 外が明るいときは、決して起こらない不思議な感覚。

 散歩と言っても近所の自販機にまで行ってエナジードリンクを買いに行くだけなんだけどね。ああ。あれがないとあたしは力作を書くことができない。

 今晩は寝ないで作品を書こう。書けるといいなと満月に祈りを捧げながら、自販機のボタンを押す。海の音が聴こえる。地球の水の胎動。生き物で満ちた自然はきっと人間たちのことを、自分たちの主だとは思っていないだろう。あたしだって思わない。友達だとも思ってはないだな。人間が一方的に錯覚しているだけで、自然はいつだって我々に牙をむく準備をひたひたと底の方に隠しておきながら、しらっとした顔をして見つめてくる。怖いよね。たとえばあの満月が、人を狂わせるのはなぜなんだろうかとその原因を証明した科学者はいまだにいないはずだ。例えばあの満月が、今すぐ天から転がり落ちてこないとも限らないはずだ。落ちて来られても困るけど。ごろんと道に横たわる巨大な月。月は空に浮かんでいるから美しいのであって、隕石のように地球に落下してもらったら、いけないな。

 頭の調子が悪くなってきた。うまく動けあたしの頭。

 エナジードリンクを数本抱えて、あたしは家に帰る。

 父親と母親はきっと呆れているだろうな。こんな時間に外出したら、きっと怒られてしまう。なんともない顔で自宅の玄関の戸をそっと開けて、そっと自室に戻る。パソコンを立ち上げて、窓を開けて夜風を部屋に通してみる。潮の香り。満月は、ただ笑っていた。



 








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