第13話 苦労人と、宇宙聖女(その11)


 様々な思いが綯交ぜになったレインボーキャッツバレー。

 その、虹の海原を往く遊覧船をめぐる戦場へ一番槍を突き入れたのは、果たしてミラリィ達の乗るひっつき虫であった。


「“約呼さん! 間も無く遊覧船の航路に乗ります!”」

 

「了解! …………あっ、見えました! あれがあの目標の遊覧船ですね!」

 

「にゅうん! 横に憑けるよ~!」

 

「(`・ω・´)ヨロ」


 早速蔵智の操縦にて遊覧船へ近づいたひっつき虫は、速度を同期。

 すぐさま、約呼が遊覧船の乗組員らへ通信を起動する。


「ハロー、レインボーキャッツボート! こちら旅団”熱き冒険者”、応答願います!」


 ややあってレスが憑く。


「ハロー、”熱き冒険者”。私が船長です」

 

「にゅにゅん……何だかネズミの大群がいる洞窟に閉じ込められそうな気がする~(´・ω・`)」

 

「(; ・`д・´)エーマジ!?」

 

「!? そ、そうなんですか船長!?」

 

「!? ネ、ネズミ? 一体何の事ですか? 私が船長です」


 良く分からない蔵智のX(旧ツイート)はスルー。

 約呼は船長へ事情の説明を始めた。


「ンー、おほん! ……船長! こちらの調査で、この遊覧コース周辺に賊が潜んでいるかもしれない事が分かりました!」

 

「な、何ですと!?(;゚Д゚) 私が船長です!」


 この約呼の説明には、さしもの船長も驚いた!

 そして蔵智とミラリィも寝耳に水で驚いた!

 

「エ~!? そうなの約呼ちゃん~?」

 

「(;´Д`)マジカ」

 

「あっ、これは違うよ! えーと、違うけど違わないっていうか~? 貴将君がくれたファイルにそう書いてあったんですよう!><」

 

「“申し訳ない、小生としてもどうかとは存じますが、何分時間がなくて……気の利いた理由を思いつかなかったのです…………”」


 これは貴将から齎されたドキュメントにしたためてあった導入の文句である。

 

 現状、護衛対象が遊覧船に乗っている訳でも無ければ、運営側から警護の依頼があった訳でもない。

 平時であれば、私的団体であるスペースライダー達が勝手に振る舞う事等もってのほか。

 

 当然このままでは遊覧船にとり憑く事はおろか、近づく事すら出来ない。


 だが、周辺の安全が脅かされているとすればどうか?

 そういった可能性を仄めかせばその限りではない。

 

 言ってしまえば”噓も方便”であるが……。


 今の場合、”嘘だと言ってよ”と問われても完全に否定しきれぬのも事実である。

 少々グレーであるが、これなら合法的に遊覧船にとり憑く事が可能となる。

(なんにせよ、嘘は言っていない)


「なぁんだ、そういう事かぁ~(*'ω'*)」

 

「(*´Д`)ナラチカタナイ」

 

「ンン……まぁ護衛の押し売りみたいだけど、時間がないから……」

 

「“何も起こらなければ、我々がお上のお叱りをチクッと受けるだけですしね……”」


 最初、貴将から齎された時は吟味する暇など無かった。

 ぱっと見て、おお、ええやんかと思っていた約呼であったが……。

 

 こうして口にしたらば、かなり質の悪いセールス・マンチ・テクニックである事に今更ながら気づいた。

 

 その良心の呵責から少々歯切れが悪くなる約呼と貴将であった。

 とはいえ何事も最初が肝心。


 倫理的な問題は棚上げし、一気に押し切る決意をする約呼。


「追加調査も兼ねて我らが護衛しますが、よろしいですねッ!」

 

「むう……致し方ありませんな、正式に護衛を依頼します。そして私が船長です!」

 

「(・ω・)シツコイw」

 

「にゅっふ! やったね!(*'ω'*)」

 

「”お見事約呼さん! 早速緊急アルゴリズムを実行、システムをリンクします!”」


 かなりゴリ押しであったが、言質を取る事に成功したようだ!

 

 こうして両者のコンセンサスが確認されると同時に。

 遊覧船の運営を統括するAIが緊急時のプロセスを瞬時に実行。

 

 求めに応じて、貴将製データを提出、送信する約呼。

 

「ああ~……もう、こんな強引なやり方で大丈夫なのかなぁ……」

 

「“全く根拠が無いとも言い切れぬのがツライですね…………”」

 

「にゅふふw だって嘘じゃないもんね~! 大丈夫で~、問題ないよ~!(*'ω'*)」

 

「(*´Д`)タブンwシランケドw」

 

 この船長は何よりも安全を重視する人物であったようだ。

 アナザーホースボーンともつかぬキトゥンちゃんらの申し出を、殆ど迷う事なく承諾した事からも明らかである。

 

 それが軽率なのか豪放なのか判断に迷う所であるが……。

 果たして、約呼を訝しんで裏を取る等される手間は省けた。


 この事は、キトゥンちゃんらにとって僥倖であったと言えよう。

 

 約呼が善悪の葛藤に身悶えしている間に、全てのアップデートが終了。

 互いの敵味方識別信号が中立から友軍へと変わった。


 と同時に、”ポコッ♪”という軽快なSEが鳴り、宇宙電探上での遊覧船を示すアイコンが黄色から緑色へと転じた。


 これで”熱き冒険者”らが遊覧船に接舷しても、セキュリティシステムに通報されなくなった。

 余程常軌を逸した行動を取らぬ限りは、賊として判定されぬ。

 

 こわーいガーディアンのおぢさん達に可愛がられる事もない。


「”プロセスオールサクセスフリー。引き続いて、システムとのリンクを開始します!”」

 

「では”熱き冒険者”の皆さん、後はよろしくお願いします。私が船長です」

 

「我らにお任せください! お客様へのフォローはそちらでお願いします! では、これにて。オーバー」

 

 そう言って元気に通信を閉じた約呼であったが。

 その顔色は優れず、腹をおさえて調子悪そうにしている。


「うう……必要な事とはいえ、これで良いのかな……胃が痛くなってきたよ(´;ω;`)ウゥゥ」

 

「“小生がもっとマシな理由を思いついていれば…………すみません約呼さん!”」

 

「にゅう~、ごめんネ約呼ちゃん~。ご苦労様です~」

 

「(´-ω-`)乙」


 船内がなんだか微妙な空気になってしまったが今は作戦中である。

 キトゥンちゃんらは反省会を後回しにし、目下のイシューへ取り組む事とした。


「”電子的な事はこちらにお任せください! 約呼さん達は周囲の警戒をお願いします!”」

 

「了解! フゥ……何にせよ、これでミッションを進められます! 蔵智さん、憑けてください!」

 

「かしこまり~!(*'ω'*)(ラッパラドゥン~ドゥネキルカルネルビユエ~エ~エ~……グノウェッ♪)」

 

「(`・ω・´)キリッ」


 何処から聞こえてくる軽快なラップミュージックと共に、見事な操船で遊覧船との距離を詰める蔵智。

 

 その間、約呼は目を皿の様にして宇宙電探を凝視。

 ミラリィもまたひっつき虫の自衛用火器銃座で身構えつつ警戒する。

 

 やがて、ひっつき虫は自慢のマルチプルランディングアームを使って遊覧船の甲板へと接舷しひっついた。


「着艦完了~♪ 出口は左側です、扉にご注意くださ~い、てね~! にゅぷぷw(*'ω'*)」

 

「”航路順調、中心部の一時停止ポイントまで約25分!”」

 

「宇宙電探異常ナシ! 周囲1光秒に敵影ナシ!」

 

「m9っ`・ω・´)ヨシ!」


 キトゥンちゃんらが周囲を見渡す限りでは、特に何事も起こった様子はなかった。

 

 一先ずは異常ナシ!

 といってよいだろう。


 とりあえず胸を撫でおろし、”プルンッ!”とふるわせる一行であった。


「”遊覧船とシステム連携完了。セキュリティ連結、索敵開始……周囲に異常ナシ! 小生は索敵を継続します!”」

 

「了解、よろしくどうぞ貴将君! ……今のところは大丈夫で、問題無いみたいですね!」

 

「にゅふふ~、キレーなところだね~(*'ω'*)」

 

「(*´ω`*)フツクシイ」


 Gロジスティックライン内は、周囲の荒天とは対照的に、しじまが支配する凪であった。

 キトゥンちゃんらの傍らには、輝く妖精の様な光源以外、何者も存在しない。

 

 暫しの間、幻想的な虹の乱舞に魅入るキトゥンちゃんら。

 その後は特に強制イベントか何か(適当)が発生する事もなく……。

 

 やがて、四半刻が経過した……。(大体30分位)


 遊覧船は星雲中央部の景勝地にて一時停止。

 離脱のエネルギーを蓄えつつ、乗客らへ展望の一時を提供していた。


「ンー、お宿で理仁亜ちゃんを見失った時はパニック走りになってアレでしたけど……これだけ平和なら何も起こらないんじゃないですか?(ガサゴソ)」

 

「(´・ωc・`)ソウカモ?(バリボリ)」

 

「にゅ~、電車の時はたまたまだったのかもね~(*'ωc'*)(モグモグ)」


 思ったよりも何事も無い現状に、拍子抜けしたキトゥンちゃんら。

 メントスをぶち込んで爆ぜた後のコーラ位に気が抜けてスカスカカラッポスッカラカン。


 気分はすっかり観光気分。

 船内に備え付けてあったお菓子を取り出し、パクパクと大口を開けて貪り喰らいよる。


 仲良し三人娘ぶらり銀河旅行に逆戻りであった。


 

 

 ……一方その頃……。

 


 

「うーん、何か妙ですねぇ……」

 

 ウーアー……ウフフ……! 

 

 宙風のブリッヂにて、宇宙電探と睨めっこしていた貴将。

 モニタを見る限り何の異常は無かったものの、妙な違和感を覚えた。

 

 ブリッヂを出てすぐの通路ではジョーンズゾンビが徘徊しよる。

 その様を見て、嗜虐的な笑みを浮かべるムリフェル。

 

「ぬ、どうした貴将よ。何か問題でもあったのか?」


 アァア……アハハ……!


「いや、大丈夫で問題ないよ。でも何かひっかかるんですよね……」


 オォオーン……フフフ……!


「一人で抱え込んでいては何も解決せぬぞ。言ってみるがいい、この億代にも出来る事があるやもしれん」


 ウフフ……!(シャッ)

 ハギョ! イデデェ!(バグシャア!)

 アーハッハッハッハ……!


「確かにその通りだね。この航路って遊覧コースですよね?」

 

「然り。数十年も前に整備されて以来、作業目的には使用されておらぬ。落成を報じるジャーナルも残っているぞ……それがどうかしたのか?」


 ユルシテェ……タスケテクダサレェ……!

 フフフ……ユルサン……!


「うん、そうなんですよ……それにしてはデプリが多いんですよね……」

 

「ぬっ! それは確かに妙だな……遊覧航路にその様な危険物、何時までも放置される様な事などあるまい。貴将よ、こちらにもモニタを回せるか」

「いいですとも!」


 クイアラタメヨ!(カガッ!)

 アギャッ!? カ、カユイイイイ……!(*ドスン**ドスン*)


 億代の要請にこたえる貴将。

 素早いキータッチにて、モニタを操縦席へピピピと回す。


 手元のコンソールパネルに投影された電探を見た億代。

 途端、貴将が感じた違和感を実感し、瞠目した。


「むっ!? ……貴将よ、確かにこれはおかしい。数が多いのもそうだが……何らかの残骸にしては大きさが整いすぎておる。殆ど変わらぬサイズのデプリが遊覧船を取り囲んでおるではないか! 広大な宇宙にて、この様な事があるのだろうか?」

 

「やっぱり! いよいよ怪しいですね……早速分析してみます!」


 カユ……ウマ……アゲッ!(バッタリ)

 フフフ……アーハッハッハッハ!


 億代のリツイートを受け、デプリ群をスキャンする貴将。

 ややあって弾き出された結果に驚愕した!


「……なっ!? こ、これは! 約呼さん達が危ない!」

 

 

 ……………………


 

 突如変わってきた流れに、緊迫した空気に包まれた宙風のブリッヂとは対照的に。

 物見遊山に興じるおなごらの談笑が続いていた。

 

「ンー、ほんと平和ですねぇ……そうですよね~、そうそう事故なんて起こる筈ないですよね~」

 

「にゅ~ん、そうだよ~。何かわる~いやっこが~、宇宙電探にもひっかからないで、Dockerどっかからみてるとか~。……何てないよ~(*'ω'*)」

 

「Σ(・□・;)ハ!コレハマサカ!ナンチテ」

 

「アハハ! クラッシック・シネマみたいですね!」

 

「んでもって~、ドローンか何か(適当)仕込んでて、近くを通りがかったら撃ってきちゃうとか~、そんなつごー良くいかないよね~(*'ω'*)」

 

「(# ゚Д゚)コンナトコロニイラレルカ!オレハカエルゾ!ッテネw」

 

「フフフッ! 何ですかそれ? そのシネマちょっと見てみたいんですけど!?」

 

「にゅ~ん! まぁ~、無いよねぇ~(*'ω'*)」

 

「(*´Д`)ナイナイw」

 

「「「アハハハハ!」」」


 妙に具体的な例を挙げて盛り上がっている時。


「”約呼さん! 応答願います! 約呼さん!”」

 

「はわ!?(ビクッ♡)ど、どうしたんですか貴将君!?」

 

「うわ~、びっくりしたぁ~(´;ω;`)」

 

「(; ・`д・´)!?」

 

「”気をつけてください約呼さん、周囲に漂ってるデプリは……”」


 突如として入った貴将の通信に驚く暇もなく。

 

 ポーヒー……!

 ……キャッズオォオオオオム!


 まるで貴将の警告を遮るかの如く、虚空から迸った凶弾が遊覧船を襲う!

 ガタガタと大地震もかくやと言う程ゆれる船内に、食べかけのスナックが散乱しよる。


「な、何です!?(ビククッ♡)」

 

「ひゃああ~!><」

 

「(;゚Д゚)ナンゾ!?」

 

「”お、遅かったか! 大丈夫ですか約呼さん!?”」


 お化けなんて嘘さ♪と笑い合ってた直後のアンブッシュ!

 これにはたまらず、驚き戸惑うキトゥンちゃんら。


 刹那、アラートが”ピキー! 悪いやっこが来ましたよ!”と、まるでイクサの始まりを告げる法螺が如く響き渡る!


「あわわ……わ、私達は大丈夫で問題ありません! それより貴将君、これは一体!?」

 

「”周囲にあるデプリは全て偽装されたドローンです!”」

 

「な、なんですって!?」

 

 約呼の叫びを聞いた蔵智とミラリィが前方をフォーカス。

 スペースデプリに偽装したドローンが目視できた。

 

「にゅ~ん! ホントにドローン仕掛けてたのぉ~!?(´;ω;`)」

 

「(;゚Д゚)マジカヨ」

 

 ほんの数寸前まで交わしていた冗談が今、現実のものとなった。

 浮足立つキトゥンちゃんら。

 

「はわわぁ~! ホントになんか”来ちゃった♡”だよ~!(´;ω;`)」

 

「何ですかその嫌な”来ちゃった♡”!? 見たいとは言いましたけど、体験したいとはいってません~!><」

 

「アワ((゚゚ω ω゚゚ ))ワワ!!(オロオロ)」


 激しくとんらんしつつも、何とか気を取り直して持ち場に戻るキトゥンちゃんら。

 慌てて宇宙電探を覗き込んだ約呼が”ぎょっ”とする。


「ひゃあ! 前方をすっかり囲まれてます! 凡そ20機!」


 いきなり変わってきた流れに呆然とするキトゥンちゃんらを、更なる悲劇が襲う!


「こちらは船長です! 熱き冒険者たち、応答せよ! 私が船長です!」

 

「は!(ピピッ!) こちら熱き冒険者! ドーゾ!」

 

「本艦は先ほど砲撃を受け損傷、自力航行不能! このままでは非常に危険です! 私が船長です!」

 

「な! 一体どういう事ですか!?」


 不測の事態に激しく動揺し、対応に追われている所へ、船長から凶報が齎された!


 ……この遊覧船、レインボーキャッツボートは、元々はこの地で使用されていた貨物船を改装したものである。


 宇宙船としては最もポピュラーな、方錐型を横倒しにした形をしているのだが……。

(◀←こういう形)

 

 通常とは違う点として、ジェネレーター部分が艦首付近にある、フロント方式を取っているという事が挙げられる。

(この先っちょね→◀)


 スラスターは艦底を這う様な感じで取り付けられており、両舷にバイクのマフラーみたく配置されている。


 これは、後部にスペースを空ける事で、スムーズな荷運びを実現する為である。

 あと、ついでにペイロードも増やすという、なかなかゴウツバクリな理由からなる。

 (ここで余談だが、ゴウツバクリというのは、ブブセル・トレインダーという地球外知的生命体種族の言葉である。彼らは広大な宇宙を股にかける交易を生業とする流浪の民族で、独自の商売倫理を持つ。その民族の誇りともいってよい掟を逸脱し、悪銭を欲しいままにする者をこう呼ぶのだ。この言葉は、彼らにとって最大の侮蔑なのである)


 そんな欲どうしい構造の船が前方から攻撃を受け損傷したとなると……。

 

 余りの急転直下ぶりに眩暈すら覚えるキトゥンちゃんら。


 だが、何とか気持ちを奮い立たせ、必死に喰らいつこうと藻掻く。

 損傷を確認すべく、チェックプログラムを走らせる蔵智。


 何とか解決の糸口となればとの願いを込め、結果をモニタに出す。

 だがそれは寧ろ、キトゥンちゃんらを更なる死地へと誘うものであった!


「わわ、ひどいよ~! このままだと爆ぜちゃうよ~(´;ω;`)」

 

「はうあ!? 何があったというのですか!?」

 

「アワ((゚゚ω ω゚゚ ))ワワ!!(オロオロ)」


 蔵智の悲痛な叫びに合わせて、貴将が説明をつなぐ。


「”機関部をやられた事により、重力波制御装置の出力が低下しています! このままでは賊の追跡を振り切る事はおろか、推進の為に蓄えていたエネルギーが暴走し、爆発四散してしまいます!”」

 

「な、なんですってぇー!?」

 

「にゅにゅにゅ! 早く直しに行こうよ約呼ちゃん~(´;ω;`)」

 

「そ、そうですね……は! そうだ船長! シールドを展開して、ドローンの攻撃を阻む事は可能ですか!?」

 

「20分程度なら何とか……。如何なさるおつもりですか!? 私が船長です!」

 

「こちらにはメカニックが居ます! 直ちに修理へ向かいます!」

 

「了解、助かります! ですが、このままでは我が艦諸共賊にやられてしまいますぞ!? 私が船長です!」

 

「そちらも大丈夫で問題ありません! 腕利きの戦闘員がまもなく合流します!」

 

「おお!? それは心強い! では当方もメンテナンスボットを向かわせてサポートします! 私が船長です!」

 

「ありがとうございます! こちらは何とか持たせます! お客様へのフォローをお願いします!」

 

「心得ましたぞ! 私が船長です!」


 何とした事であろうか。

 謎の存在から受けたアンブッシュにより、致命的な致命傷を受けた遊覧船。


 先程までの長閑な遊覧状態であったステータスが一転、オールひろゆきモードとなってしまった。

 このままでは、もって後寸刻も猶予は残されておらぬであろう。


 船長との通信を切った約呼。

 状況を把握したところで逆に頭が冷えたのか、ふとした疑問をX(旧ツイート)する。


「くぅっ何てこと!……それにしても、宇宙電探には全く反応無かったのはどうした事でしょう? 賊は一体どこから来たんでしょうか……?」


 そのX(旧ツイート)に蔵智がレスする。


「にゅ~ん! 多分初めから置いてあったんだよ~!」

 

「( ^ω^)トユウト?」

 

「電源をオフしてたやっこに~、手動でswitchしよったんだよ~、きっと~(´;ω;`)」

 

「は! そうか! アイドルしてなかったから、量子反応にもひっかからなかったんだね!」

 

「exactry(その通りだよ~)!」

 

「(;゚Д゚)ソノテガアッタカ」

 

「”クッ、なるほど……単純ですが、秘匿の効果はばつ牛ンですね……ウカツでした”」


 意外にもそのからくりは極めて原始的であった。

 

 どんな剣呑な代物であっても、宇宙さんの片隅に漂っているだけなら、それは唯のスペースデプリである。

 あらゆるものの存在を検知する宇宙電探も、オブジェクトの詳細まではノータッチであった。

 

 これが旧世代の、目視も含めた電波探知であったならば……。

 鷹の目を持つ熟練見張り員(☆MAX)の報告で看破する事も可能であったかもしれぬ。


 便利すぎるツールを持ったが故の、贅沢な欠点であった。


 賊にしてやられ、項垂れるキトゥンちゃんらと貴将。

 だが、重ねて言うが、反省は後でも出来る。

 

 約呼は、何とか士気を奮い立たせ、呻きながらも覚悟を完了した。

 

 宇宙世紀にあっては、おのこもおなごもデジタル。

 ”やる”、”やらん”のどちらかしかない。


 今が正にその時である!


「”まもなく星永さんが合流します! それまでガンバッテ約呼さん!”」

 

「了解! うう……! 兎に角損傷をどうにかしなきゃ! 星永さんが来るまで持ち堪えるよ!」

 

「にゅん!(*'ω'*)」

 

 そう言うが早いが、ヘルメットを憑け、ひっつき虫のハッチをオープン!

 ”笹食ってる場合じゃねえ!”とでも言わんばかりの勢いで身を乗り出す約呼と蔵智!


 だが、飛び出せ大作戦しようとする二人の襟首を、ミラリィがむんずと掴んで引き留める!


「ぐぇ! ノΣ(;゚Д゚)(ガシッ)」

 

「に゛ゅ゛わ゛っ!? ノΣ(´;ω;`)(ガシッ)」

 

「( っ ‘ᾥ’ c)ダメ」

 

 そのままひっつき虫へと引き戻され、尻餅をつく二人。

 痛むケツをさすりながら、約呼が深刻なクレームを申し立てよる。


「あいたっ!? ちょ、ミラリィちゃん何でですか! 早くしないと……!」

 

「にゅっ、にゅへっ! にゅほほ~ん!(´;ω;`)(ゲホゴホ)」

 

「( っ ‘ᾥ’ c)……! そ、そのまま……ダメ……!」


 そう言って(珍しくしゃべりよった)二人をひっつき虫内へ引き戻したミラリィは、宇宙電探を暫く眺めると……。

 

 (^ω^≡^ω^)キョロキョロとしたのち。


 o(`ω´*)oビシッ! とファイティングポーズをとる。


「な……? 一体どうしたと言うんですか、ミラリィちゃん……?」


 その様子を訝しげに眺めていた約呼の隣で、蔵智がぽんと膝を打つ。

(その際に船外服越しであるにも関わらず胸が”プルンッ♪”と揺れた)


「あー、そっか~! ワカタヨミラリィちゃん~!」

 

「(・ω・)!」

 

「な!? 蔵智さん、どういう事ですか!?」

 

「手動でswitch入れたって事は~、賊の本体もDockerどっかそこら辺(適当)に居るって事だよね~?(*'ω'*)」

 

「(o´・ω-)b(グッ)」

 

「は! た、確かにそうですよね……ありがとうミラリィちゃん!」

 

「(*´ω`*)イイッテコトヨ」

 

「”ドローン以外の反応は今のところ確認できませんが、必ず何処かに潜んでいるはず! 気を付けてください!”」

 

「了解! 皆、武装して逝きましょう!」

 

「ほいさ~(>_<)ノ」

 

「(`・ω・´)オカノシタ」


 ミラリィの機転により、イクサ備えを思い出した約呼。

 余りにも気が動転していたせいで、武装をすっかり失念していた己を恥じる。

 

 危うい所で、賊の後塵を拝さずにすんだ。


 これで完全に戦うおなごの心構えとなった約呼と蔵智。

 ”バァンw”と勢いよくウェポンラックを開き……。


 約呼は弐参零八式重波動突撃槍銃、通称フミヤ式テラスマッシャーを。

 

 蔵智は彼女の身の丈よりも二回りはある程に巨大なモンキーレンチ、マルチプル・リペアリング・ジャレンチを。

 

 ミラリィもサイドアームズとして、ユニバーサル南部弐伍伍式自動光線小銃、通称フォトン・アサルトを。


 ”ドゥルン!”と引っ張り出したのち、それぞれ日の出立ちで構えた!


 キトゥンちゃんらがワチャワチャしてる間に、シールドが艦首付近に展開されたようだ!


 ……ポーヒー……チン♪

 ……ポーヒー……チン♪

 ……ポーヒーポーヒー……チチン♪


 軽快な音を発しつつ、ドローンの攻撃を力強く防ぎよる!


 ……数こそ多いものの。

 その一撃は軽めのようである。


 それは遊覧船がまだ原型を留めている事からも明らかである。

 とはいえ、シールドで完全に無効化できる程は弱くない模様。


 展開されたシールドを徐々に削り取る、絶妙な調整がなされているのが見て取れる。

 捕らえた獲物を喰らわずに弄ぶぬこの様に、哀れなる犠牲者を嬲りものにでもつもりなのだろうか。

 

 だが、それは不幸中の幸いである。

 これで僅かではあるが、時を稼ぐことが出来た。


 チャンス到来だ!


「【準備完了!】皆、逝くわよ!(ビシッ)」

 

「にゅ~ん!(*'ω'*)(ビシッ)」

 

「(`・ω・´)イクゾー!(ビシッ)」

 

「”皆さん、お気をつけて! ご武運を!”」


 キトゥンちゃんから戦姫へと羽化したおなごら。

 絶望の運命を切り裂くべく、颯爽と甲板へ飛び出していった。



 ……………………

 

 

 時はほんのちょこっと、襲撃を受ける前まで遡って……。

 

 緊迫感溢れる船外とは対照的に。

 

 船内の乗客らは、車窓を彩る虹の乱舞に歓声をあげたり、スクショを撮ったりと。

 皆、思い思いに旅情を満喫し、終始和やかな雰囲気であった。


 理仁亜もまた、クリボゥメタルガラスに頬を押し付ける勢いで移り行く景色を眺めていたのだが……。


 先ほどロリッ娘に指摘された後、好奇の目に晒されてしまったのが余程堪えたのか。

 身体が動かぬ様、手すりをガッチリとホールドし、両の脚を踏ん張っていた。


 だがそれは、傍からみれば”Come On♪(クイッ♡)”ってな感じでお尻を突き出し、見るものをテンプテーションしている様にしか見えない格好である。


 それだけでも絵的にかなりマズい。

 しかもフルパワーで力んで我慢しているせいか、全身バンビの様にプルプルしよる。


 あまつさえ、表情は先ほどと同じく恍惚としたものであるのだから、絵面のマズさは破壊力ばつ牛ン。

 サキュバスめいた妖艶さはピリオドの向こう側へと飛び出し、危険な領域に加速していた。

(当人は”こうすれば動かないよ……ね!”位にしか考えておらず、全く自覚はない)


 その煽情的な姿に、周囲は改めて”ぎょっ”となってフォーカス。

 男性諸氏はとうとう、前かがみの姿勢から動けなくなった。


 それを見て激昂し、技ゲージが無限になったそれぞれのパートナーたち。

 各々が繰り出すファイナル・アーツを受け、哀れ男性諸氏はボロ雑巾の様にされてゆく。


 ンンッ……!

 何と恐ろしい光景であろうか……!

 

 南無阿弥陀仏!

 

 ……結局は痴態を衆目に晒してしまった理仁亜。


「ママー! さっきのエッチなおねえちゃん、やっぱりすっごくエッチだねー!(キャッキャッ♡)」

 

「な!? 見ちゃいけません! 戻ってこれなくなるわよ!?(メカクシ)」

 

「ひぅん!?(ビクッ♡) はひ、あ、ううぅ~(カァァァ)」


 ロリッ娘に更なる追撃を受け、ライフは零となって激しく赤面した。

 

 こうして遊覧船の、極めて和やか(?)な旅情が、ゆるゆると過ぎ去ってゆく。

 

 …………

 

 だが、そのひと時の平穏は、儚くも崩れ去った!


 哀れなる男性諸氏がヤムチャしやがってとズタボロボンボンな姿でエビフライみたくあちこちに転がると共に。


「ご当地名物レインボーキャッツアイ、まもなく船内販売致します! 遊覧が終わるまでの限定販売ですよ!」

 

 スタッフが船内販売を高らかに宣言しよった!

 

 遂に、(ダメな大人だけが)待ちに待った限定スィーツの販売が。

 

 今まさに!

 おっ始まろうとしていた!


「! きらりん! 待っていたぜ、この刻をよォー! ってね! 逝くよ理仁亜ちゃん!(ガシッ!)」

 

「!? ひゃん! え、えぇ~? きらりちゃん待ってぇ~><(ズルズル)」


 遊覧船の売り子が鳴らしたゴングを聞きつけたきらり。

 傍らに居た理仁亜の手をむんずと掴むや。

 目をシイタケにして、ブースへ直行しよる。


「まだかな、まだかな♪ 限定の、スイーツまだかな~♪ がつけんぱ☆ ……ちょ、ホントにまだなん!? 今売るっていったよね!? 早くおっ始めなさいよ! おぅあくしろよこの野郎!(# ゚Д゚)ノシΣ(ガンガン)」

 

「ひ!? お客様お客様お客様! 困ります! あーっ! お客様! 困ります! あーっ! 困ります! あーっ! 困ります! お客様! 困ります! あーっ! あーっおお客様!」

 

「き、きらりちゃん……!? だ、駄目だよ、お店の人困ってる……よ!><」

 

 我先にと販売ブース前に陣取り、涎を垂らすのも構わずに鼻息荒く待ち構えるきらり。

 滴った涎が”ジュンッ♪”と音を立て、床を溶かしよる!

 

「あっ! ねーママー、あのエッチなおねえちゃんと一緒にいるぶっといおねえちゃん、必死杉内だねー!(キャッキャッ)」

 

「はわわ!? だ、駄目よ! 目を合わせちゃいけません!(メカクシ)」


 暴走するきらりを必死になだめる理仁亜。

 余りの剣幕に怯える店員。

 しょーもなく騒ぎだしよったきらりの姿をみて指さすロリッ娘。

 

「きゃん!?(ビクッ♡) あ、うう……! もう……きらりちゃん、駄目だ……よ! ンッ……エイッ!(ズドム♪)」

 

「き゛ら゛り゛ん゛!?(*゚Д゚)・:∴グハッ(バッタリ)」

 

 先ほどとは別種の羞恥に、理仁亜のライフは零を通り越してアンダーフローを起こし、赤面。

 尚も騒ぐきらりへ、思わず制裁の腹パンを喰らわせてしまった。

(準備行動中気合被害特大・痺れ時間最長・守護及び標的固定状態無視・防御力貫通)


 ……闘仙グランマダムが齎す薫陶レッスンの元に研鑽を続けた理仁亜のパワーは、既に一般的な体操部員フロイラインはおろか、往年の名選手であるまこと達をも遥かに凌駕していた。

 

 それは最早いにしえの戦姫らと同等、いや更に上回る程といっても過言ではない。

 

 彼女は体操部員フロイラインから戦乙女マドモワゼルへと進化……。

 所謂、戦姫覚醒イマージェンスを果たしていたのだ。

 

 そんな力を受けては、さしものきらりとて受け流すことは不可能。

 

 かつてない程のダメージを受け、ズシームと白目を剥いて倒れ伏すきらり。

 周りはドン引き状態であったが、ロリッ娘には大ウケであった。

 

 ようやっと静かになったきらりを脇に寄せ、周囲に頭を下げまくった理仁亜は、改めて列に並んだ。

 ビグンビグン痙攣して蹲るきらりの見苦しき姿を見て腰が引けつつも、後ろに並んで販売を待つ他乗客ら。


「はーい、レインボーキャッツアイ、只今より販売開始致しまーす! 如何ですか~!」

 

 やがて販売が始まり、待ちに待った限定スィーツが日の目をみる。

 

 店員の宣言を聞いたきらりもまた、墓穴より這い出たゾンビが如くぬらりと立ち上がるや。

 白目を剥き、口も開きっぱなしの、虚ろな表情のままこれをあがなった。

 

 その悍ましき意地汚さに恐れおののく人々。

 

 そんな周囲の怯えなどお構いなしに。


 ねんがんのスイーツを手に入れよったきらり。

 みるみる生気を取り戻すと、早速”バリッ♪”と箱を開封。

 

 封を解き放つや、途轍もないスピードで喰らい……いや、飲み下し始めよった。

 

「うっは! うっめ! それにこののど越し! 何ていうか~芳醇な香りがこう~シャッキリポンでぇ~……あ~もういいや! うっめ! まじうっめ! がつりんぱ☆(ゴクゴク) いやーホントここまで来たかいあったね! ホラ理仁亜ちゃん! スゴク綺麗だよこれ! きらりんぱ☆」

 

「え、えぇ~? ンー、眺める前になくなっちゃう……ね? それよりもきらりちゃん、噛まずに飲み込んじゃあぶない……よ?><」

 

「いやいや理仁亜ちゃん! こんな美味しいもの噛んで味わう暇なんてないよ~! キャッツアイ! 飲まずには居られないッ! なんてね! ごくりんぱ☆(ゴクゴク)」


 特急危険食品に分類されるスィーツを、あろうことか、丸のみにすらしよる。

 この暴食の権化にかかれば、弾力など無いにも等しいとでもいうのであろうか。


「ママー、見てみて! あのエッチなおねえちゃんと一緒に居るぶっといおねえちゃん、スゴク食いしん坊万歳さんだね~!(キャッキャッ♪)」

 

「ひぃっ!? だ、ダメよ! 近づいたら頭からバリバリ食べられちゃう! 危険が危ないわ!(ササッ)」

 

 人目も憚らずもりもり喰らうきらりを指さすロリッ娘。

 そんな彼女を背にかばい、身を挺して守るご母堂。

 

「はぅん!?(ビクッ♡) ひ、うう~……! もうきらりちゃん……! お行儀よくしなきゃダメだ……よ! ンンッ……ヤッ!(ズドム♪)」

 

「き゛ら゛り゛ん゛!?(*゚Д゚)・:∴グハッ(バッタリ)」


 完全に関係者認定されてしまった羞恥に、理仁亜のライフはアンダーフローを通り越して深淵へと至る!

 尚も喰らい続けるきらりへ、再び制裁の腹パンを喰らわせてしまった。


 痛烈無慈悲な裁きの鉄槌が、先程と同じ場所へ寸分違わず突き刺さる!


 会心の一撃をまともに受け、血反吐を巻き散らかして”ズシーム”と倒れ伏すきらり。

 だが、その飛沫の中には、一粒たりともスィーツは存在しなかった。

 

 胃に入った瞬間溶解されてしまったのだろうか?


 この制裁劇に周りはドン引き状態であったが、ロリッ娘には大ウケであった。

 米つき飛蝗となって頭を下げつつ、目を回して転がるきらりの襟首をつかみ、休憩スペースへと退散する理仁亜。


 ともあれ、エッチ(?)なおなごの活躍(??)により危機(???)は去った。

 再び船内は活気あふれる旅情の風景に戻った。

 

 限定スィーツの販売も再開され、美しき猫目石が各人の手へと行き渡った。

 

 或る者は早速開封して中をあらため。

 或る者はその美しさに嘆息し。

 或る者は煌めく宝物を手にした喜びを分かち合った。

 

 こうして、自らの手元を夢中になってフォーカスする乗客らを尻目に。

 

 ただひたすら任務を忠実に全うする遊覧船は、いよいよにこの宙域最大の難所なんどころさんと言われているエリアに差し掛かった。


 そこは「毛糸玉溜まり」と言う、舌を噛みそうな名前で呼ばれる場所であった。


 ただでさえ強烈に逆巻くイオン乱流が、特に激しく、そして複雑に絡み合って吹き荒れる。

 その様子は、まるで余りブラシで手入れされぬフッサーラのぬこに出来る毛の塊そのもの。

 

 故にその名がついたのだ。


 宇宙開拓時代にあって、何の対策もナシに”平気平気! 大丈夫だ、問題ない! ヨシ!”と意気込んで凸った船を悉く飲み込んできた。


 当然、その様な危険極まりない場所など放置されるはずもなく。

 

 遊覧コースとして整備される際に十重二十重にと安全対策を施され。

 現在においては航行になんら支障をきたすものでは無くなっている。


 寧ろ危険と背中合わせが故に、遊覧コース中でも特に美しい景観を楽しむ絶景スポットであり。

 また、逆巻くエネルギーを効率よく取り込む為の一時停止ポイントでもあるのだ。


 平時であるならば、事故など起こり得る筈もない……。


 そんな各方面の懸命な努力と、心理的盲点をあざ笑うがごとく!


 ……ポーヒー……

 キャッズオォオオオオム!


 ブッシュワーカーの仕掛けた罠が作動!


 攻撃ドローンが放ったそれなりの威力を誇る砲撃が艦首に着弾。

 遠慮がちに装甲を引き裂き、内部の機関を損傷せしめた。


 弾着の衝撃に激しく揺さぶられる船内。


 ワァ~!

 ナ、ナンダ!?

 コワイヨー!


 突然のアンブッシュを受け、パニック走りする乗客。


「ンアァッ!? な、何が起こってる……の? ま、まさか……!?><」


 理仁亜もまた、数年ぶりに体験する不幸体質デバフの凶行に身をすくませる。

 

 その後も、正体不明の攻撃は続いた。


 ポーヒー……ズォム!

 ポーヒー……キャンズ!

 ポーヒーポーヒー……ズガガン!

 

 威力は控えめだが、その分しつこく定期的に攻撃してきよる。

 断続的に続く揺れが、乗客の不安を煽ってゆく。


 イッタイドウシタッテイウンダ!?

 ナニガドウナッテヤガル!?

 ワタシタチシンジャウノ?


 先程までの和やかな雰囲気など雲散霧消し、船内はとんらんの坩堝と化した。


 それもそのはず。

 この場所から艦首側をうかがい知る事は出来ない。


 乗客らがいる旅客スペースは本来貨物エリアであった場所を改装したもの。

 つまりは、船尾に位置する。


 賊の攻撃はおろか、隔壁一枚を隔てた前方すら視認する事はできぬ。

 それがより一層彼らを恐慌させているのだ。

 

「ああ、何てこと……わたしのせいで……皆、ごめんなさい……うぅっ、哲人さん……(キュッ)」


 無関係の人々を己が不幸体質に巻き込んでしまった事への罪悪感から、贖罪の言葉を口にする理仁亜。

 お守りである銀河毛玉ストラップを無意識の内に握りしめる。


「神さん……わたしはどうなってもいい……です。関係ない人たちは、どうか、どうか……」


 この期に及んで尚、自身よりも、行きずりで出会った人々の身を案ずる理仁亜。

 まさしくこれが、彼女を宇宙聖女たらしめる所以であろう。


 そんな聖女の祈りが神さんの元へ届いたのか?


 怒号と悲鳴が飛び交う緊迫の船内に”ピンポンパンポーン↑♪”という、場違いなチャイムが鳴り響いた後、艦内放送が入った。


「乗客の皆さま、私が船長です! お知らせが遅くなり申し訳ございません。……本艦は予期せぬデプリ群に接触しました。艦の揺れはそのせいです。艦体確認と補修の為、緊急停止いたします。尚、シールドを展開しましたので、本艦に危険はありません。作業が済むまで、今しばらくお待ちください。私が船長です!」


 そう船長が事務的に告げると。

 ”ピンポンパンポーン↓♪”と、更に気の抜けるチャイムと共に放送終了した。


 それを聞いた乗客らは安堵し、ほっと胸を撫でおろす。


 ナァンダ~!

 ビックリシタナァ、モウ!

 ナラシカタナイネ~!

 ケシキデモナガメテマツカ~!

 オカシタベヨ!


 剽軽ひょうきんなチャイムは、人々から緊張感を奪い去っていった。


 折しも絶景の展望スポットで停船した事もあって、皆、ダイナミックな光と嵐の乱舞にたちまち夢中となった。

 先ほどまでのパニック走りが一転、再び和やかな雰囲気となる艦内。

 

「……(キュッ)」


 だが、理仁亜の表情は尚も晴れぬ。


 それもその筈。

 

 放送を傾聴する衆目の中でただ一人、理仁亜のみが。

 艦内スタッフらが緊張の面持ちで、虚空に手をかざして動かしている所を目撃してしまったのだから。


 このパントマイムみたいな動きは、地球人類なら誰でもたやすく連想出来る。

 

 それは、仮想デスクトップにて何かを操作する時、である。

 

 実際、この時船長は放送する傍らでスタッフには真実を告げ、乗客らがとんらんせぬ様、努めて平静に対応する指示をだしていたのだ。

 

 ……この、”視野を広く持って全体を俯瞰する能力”は、三年間の、好敵手とも達との切磋琢磨により得たものだが……。

 その体操選手フロイラインとしてのワザマエが、裏目に出てしまったようだ。

 

 不幸体質デバフは、未だ自身の事を諦めてはおらぬ。

 そう確信する理仁亜であったが……。


 それに抗う術は無く。


 事故ではなくちょっとしたアクシデント、取り越し苦労であってくれと。

 一縷の望みに賭け、唯々祈るのみであった。


 

 …………

 

 

 一方船外にて。

 

 猛烈な渦中の真っただ中に立ち往生する遊覧船の様子を窺うやっこが居た。


「ブシュシュ……! ちゃんと止まっとるな! 流石は俺様、計算通りじゃあ……!」


 ドローンを通じてみる映像にほくそ笑むブッシュ・ワーカー。

 こんなこともあろうかと仕掛けておいた罠が見事にハマってご満悦である。

(決められた航路を往く遊覧船の動きに計算も何もねーだろバーカw)

 

 やがて停止した遊覧船が、前方にシールドを展開した。

 それを見て、更にいやらしい笑みをニチャア……と浮かべよる。


「ブシュシュ! 慌てて防御しよるわ! そうでなきゃ面白くないわい!」


 そう言って手をたたいて喜びながら、コントロール・パネルを操作。

 ドローンにシールドを集中攻撃させた。


 激しく攻め立てられ、徐々に削られてゆくシールド。


「ブシュシュ……今頃艦内放送でデプリにぶつかったとかどうとか誤魔化しよる最中じゃろなw シールドが抜かれた時の言い訳が見ものじゃわい! 果たして何時まで持ちよるかのう……? ブシュシュシュ!(ニチャア……)」

 

 ……ここでブッシュワーカーが遊覧船にとり憑かないのは、時間をかけて人々を苦しめる為である。

 そうやってとんらんの真っ只中にある船を破壊し、絶望のどん底に叩き落とすのだ。


 まさに鬼畜の所業で、とんでもないやっこである。


 懸命に抗う遊覧船の姿を、ニヤリニヤリ眺めて悦に浸るブッシュ・ワーカー。

 普通ならばここら辺で、決壊したシールドを見て沸きあがる所であるが……。

 

 そうはメーカーが転売ヤーを見逃しはしなかった。


「ブシュ!? 何じゃあ奴らは!?」


 ドローンのモニタには、艦首へと向かう3人のおなごらの姿が映っていた。

 

 今遊覧船には、可憐なる我らのメカニック・おなごが居る事を忘れてはならぬ。

 勇ましき戦乙女達が、颯爽と修復へ馳せ参じる!


「ほ、ほほ~!? メカニックを用意しとるとは。中々やりよるわい! えーっと、どないしよ……せ、せや!(ピコン♪)ならば俺様が直々に可愛がってやる!」


 余裕綽々の台詞を口にするも、予想しえぬ展開に内心ちょっと焦っているブッシュ・ワーカー。

 (それぐらい想定しとけよ……)


「俺様の邪魔をするヤツは何人たりとも許さねぇ! ジワジワ嬲り殺しにしたあと、八つ裂きにして星雲にばら撒いてやるわぁ!」

 

 慌ててケツを浮かせ、遊覧船へと向かうのであった。


 

 …………

 


 藪賊が泡を食って追いすがると同時に。

 ミラリィ達もまた、艦首へとたどり着いた。


「ハァハァ、ここが艦首ですか……はうあ!? なんてこと……!?」

 

「にゅう~、酷いよ~(´;ω;`)」

 

「Σ(; ・`д・´)コイツァヤベェ」

 

「”何という事だ! 物凄い勢いでエネルギーが流出しています!”」


 余りの惨状に息をのむおなごらと貴将。

 

 ドローンの攻撃により装甲がズタズタに引き裂かれ。

 ジェネレーター部分が剥きだしになって乱流渦巻く船外に晒されていた。

 

 しかも流出したエネルギーがプラズマとなり。

 どえりゃあ勢いにてバリバリバチバチバッチバチと放電すら巻き起こしよる。


 破損個所の周囲には、緊急アルゴによって駆けつけたのであろう。

 多数のメンテナンスボットが、懸命に復旧作業に従事していた。


 だが、ジェネレーター部分の凄まじい放電に阻まれ、迂闊に近づけず、遠巻きにウロウロするのみであった。

 

「ウオウ、凄マジキ放電ナリ!(電撃いかつすぎ!)」

 

「コレデハウカツニ近ヅケヌゾ!(近づかれへんぞ!)」

 

「コレハユユシ!(くっそやべぇ!)」


 困惑するボットらと同じく。

 約呼もまた、稲妻逆巻く光景に、思わず尻込みする。


「”うっ、これは……!? 遊覧船とはいえ流石は船舶のジェネレーター! この電力は落雷の数倍に相当する数値です!”」

 

「くぅ! なんてスゴイ放電……! 蔵智さん、直せますか!?」

 

「にゅん! あれ位だったら回しながらでも桶だよ~! もっと酷いの見た事あるもん~!(*'ω'*)」

 

「(; ・`д・´)ソンナソウビデダイジョウブカ?」

 

「にゅふ、大丈夫で~問題ないよ~! あんなビリビリ、肩こりが取れるだけだもんね~!(*'ω'*)」


 何という事か!

 凄まじき人為の稲妻ですら、蔵智の身を灼く事は敵わぬというではないか。


 それもそのはず。

 

 地球人類は過酷な宇宙さんへ進出するにあたって、千変万化する環境に適応すべく、己が肉体を鍛え続けた。

 

 その三百年近くの研鑽により、過激にビルドアップされたボディ。

 それは生物としての限界を仏契ぶっちぎりで超越した。


 2㌧にも及ぶ重量物を片手で軽々と持ち上げ。

 

 100㍍を5秒フラットで駆け抜けるスピードを維持したままフルマラソンを走り抜き。

 

 高所から落下し、水面に叩きつけられて尚軽傷で済ませる。


 この類稀なる身体能力が、今の人類にとっての平均である。

 しかも、個々人の資質によっては、未だに伸びしろが存在する。


 当然それは蔵智にも当てはまる。

 

 彼女は幼少のみぎりから、家業の整備工作に従事していた。


 過熱する部品。

 漏電するバッテリー。

 配管を突き破って噴き出す冷媒……。


 そんな危険極まりないパーツを恒常的に扱ってきた。

 おかげで、熱や電気、冷気といった、所謂温度変化に対して非常に強い耐性を獲得。


 ジェネレーター部分の放電など、蔵智にとってはちょっとピリピリする程度の事なのだ!

(火炎反射・氷結無効・電撃吸収)


 そんな訳で、人類がうっかり強くなってしまった結果……。


「にゅん! 早速修理するよ~! 皆、危ないから~、下がっててねぇ~(*'ω'*)」

 

「オオ、カタジケナクサウラフ(有難い!)」

 

「ウシロヤスキ援軍ナリ!(頼もしい!)」

 

「ヤリキ! コレニ勝ル!(かつる!)」


 この通り、本来なら危険な作業に従事するはずのボットを下がらせるという逆転現象がしばしば見られる様になった。

 

 これについて、”だったら全部人間がやればいいだろ! ボットなんか捨ててかかってこい!”と言われるかもしれないが、そんな事はなく……。

 

「にゅにゅにゅ! ヤルゾー! まずボクがビリビリを止めるから~ その後皆で手分けして直していこ~(*'ω'*)」

 

「カシコマリキ!(了解!)」

 

「我ラニマカセタマヘ!(お任せあれ!)」

 

「我モココロバム!(頑張るぞ!)」

 

 如何に優れたワザマエを持っていようとも、蔵智の身はいっこしかない。

 オールひろゆき状態にあっては、幾ら彼女でも間に合わぬ可能性がある。


 そんな時、彼らのような、人々に寄り添う事を己がアイデンティティとするボット達の存在は実に頼もしい。


 コワイ顔した将軍の”戦いは数だよ兄貴ィ!”という名言通りに。


 何事も一人で抱え込む必要はない。

 

 人類は、お手伝いするボットやAIと共に、これからも歩んで逝く事であろう。


 ( ´꒳`*)人(*´꒳` )ナカーマと友誼を結んだ蔵智とボット達。

 それぞれ担う場所へ憑りつくべく、颯爽と駆け出す。

 

 例え大破寸前の損傷であろうとも。

 蔵智の手にかかれば、たちまちのうちに修復される。

 

 意気投合したメンテナンスボットらと共に、いざ修理にとりかからんとする、まさにその時!


「”約呼さん! 何らかの高速で移動する物体がそちらに接近しています! 遊覧船から見て2時の方向です!”」

 

「貴将君!? 一体何が……あ、あれは!?」

 

「(・ω・)ム!」


 貴将のナビ通りに前方右手を見やると。

 軍用機並みの重装MDFが、Gロジスティックラインを強引に突破し、甲板をフライパス!


 その後宙返りで取って返すと同時に人型へと変形、上方でホバリングしよった。


「ブシュシュ! 修理などさせるものか!」

 

「は! だ、誰ですか貴方は!?」

 

「(・ω・)ムム!」

 

「”ガーディアンズ・ライブラリに照会! そのやっこはブッシュ・ワーカー! 危険な宙域に潜んで船舶を狙う、レベル3のスペースローグです!”」

 

「な、なんですって!?」


 コックピット部分に憑いている顔が、下卑た笑いを浮かべ、得意げに名乗りを上げよる。


「左様! 俺様の名はブッシュ・ワーカー! 天の川銀河をナーバリアとする神よ! 頭が高いぞ蛆虫共! 控え居ろう~!」


 恰好よく登場したつもりのブッシュ・ワーカー。

 自身の威風堂々たる姿に恐れ慄き、跪くおなごらの姿を想像してにやついていたが……。

 

「”ええぇ……(困惑)”」

 

「(''Д'')huh?」

 

「は? 何ですかこの自分を神(笑)とか言っちゃうイタイ人?」

 

「イトヲコガマシ(ウゼー)」

 

「ヲコナラズヤ(バカジャネーノ)」

 

「フツツカナリ(シャバイ)」


 おなごらとボット達の反応は思てたんと違う、冷やかなものであった。


「ブシュ!? なんじゃうぬら! 寄ってたかって愚弄しおってからに! 滅茶苦茶恰好良いじゃろうが!」

 

「”それは無いです(断言)”」

 

「(''Д'')huh?」

 

「寧ろ気持ち悪いですね。何ですかその汚い顔。早くDockerどっかに捨てて来てくれません?(ゴミを見るような目)」

 

「心地悪シ!(キッショ)」

 

「イトイブセシ!(ダッサ)」

 

「ユユシククサシ!(クッセ)」


 尚も容赦ないおなごらとボット達の反応に、とうとう激昂!


「ブシュ~! 重ね重ね愚弄しおって! ゆ゛る゛さ゛ん゛! 皆頃しにしてくれるわぁ~!」


 喚きながら、鼻息荒く自らの攻撃ドローンを放つブッシュワーカー!

 手足を使わずにコントロールできる、藪賊自慢の小型ドローンがおなごらを襲う!


「ブシュシュ……! 氏ねぇーい!」

「「「ピキー!」」」


 ブォォン!

 四方から襲い掛かるドローン!


「アナヤ!(ウッワ!)」

 

「何トシタコト!(なんじゃこりゃあ!)」

 

「危フシ!(危ねぇ!)」

 

「”は! 約呼さん逃げて!”」

 

 すわ、このままではおなごらが危ない!

 

 モニタを注視していた貴将が叫ぶ。

 

 様子を窺っていたボット達もまた、ドローンが放つ攻撃によってズタズタにされるおなごらの姿を予測演算し、アイレンズを覆った。

 

 だが、そうはならなかった。


「……させません!」

 

 飛来する多数のドローンに対し、テラスマッシャーを腰だめに構える約呼。

 その、見るからに取り回しが悪そうな巨砲を巧みに操り。


 ”ニャニャニャン、ニャニャニャニャン!”とハッピートリガーするぬこミームが如く乱射!

 不可視の弾丸が、寸分違わずドローンに吸い込まれ。


 ”スポポン、スポポッポーン♪”と軽快な音共に、全弾命中!


「「「ピキー!?><(キャンズ!)」」」

 

 断末魔のような甲高いビープ音をあげ爆発四散する攻撃ドローン共。


「どんなもんですか!」

 

「”おお!? お見事約呼さん!”」

 

「(*´Д`)ワザマエ!」

 

「スゴシ!(すげぇ!)」

 

「ヤリキ!(やったぜ!)」

 

「メデタシ!(あっぱれ!)」


 おお、華麗なる銃さばき!

 沸きあがるミラリィらとボット達。

 

「ブシュ!? な、なんとぉ~!?」

 

 これには流石に瞠目するブッシュ・ワーカー。

 貴将もまた驚きを禁じ得ない。


「”何というワザマエ! 約呼さん、何時の間にこの様な技量を?”」

 

「フフッ! 私だっていつまでももやしじゃないですよ?」


 それもそのはず。

 特殊なスキルを持つのは蔵智だけではない。


 約呼はシューティングゲームを趣味にしている。

 とりわけ、ガンシューティングが得意で、そのワザマエはかなりのもの。

 

 幼少のみぎりより培われし反応速度とエイム性能は、眼鏡の劣等生少年をもかくやという程である。

(銃プロレマ+銃ギガプロレマ+必中+貫通)

 

 地球圏統一大会において成績が上位十傑にあった事からも、その実力がうかがい知れるだろう。


 哲人はこの技に感嘆。

 すぐさまガーディアン直伝の銃技を伝授し、それに耐えうる体裁きを指導。

 

 約呼は、高い射撃技術はそのままに、重火器の重さと反動に耐えうるボディをも獲得した。

 

 結果、天の川銀河随一といっても過言ではない、稀代の重銃士が爆誕したのだ!


「ブシュシュ……! おのれ~い! この小賢しい小娘……ンン? いや、言うてそんな若くねーなw この阿婆擦れがぁ~!」

 

「!? んな! どこに目憑けてるんですか! まだ全然ムスメなんだから!(プンスコ)」

 

「(# ゚Д゚)ソウダソウダ」

 

「”光学レンズが粗悪品なんじゃないですか!? さっさと交換なさったらどうです!?”」

 

 侮っていたおなごらによる、予想外の抵抗に阻まれたブッシュ・ワーカー。

 してやられた悔し紛れに、約呼を挑発しよる。

(確かに、院生である約呼はそれなりの年齢ではあるが、流石にまだムスメと呼んでも差支えはないので、怒るのはむべなるかな)


 とはいえ、このやっことて、今まで悪運強く生き残ってきた宇宙暴徒である。

 思い切りよく正面からは諦め、切り口を変えた攻めを展開しよる!


「ブシュシュ! なら、阿婆擦れなんか後回しじゃあ! そっちで機械いぢりしとる小娘から先に片付けてやるぁ~!」

 

「!? んな! 何で蔵智さんは小娘のままなんですか!?(プンスコ)」

 

「(# ゚Д゚)トンデモナイヤッコダ」

 

「ブシュ!? 怒るとこそこなのぉ!?」

 

「”いやいやいや、そりゃ怒るでしょうよ。言ってはいけない事というのは、何も人物名だけじゃないですよ?”」


「ブシュシュ!? まぁ何でもいいですけれど!? と、兎に角……氏ねぇーい!(ブォオン)」


「「「ピキー!」」」


 なんだか良くわからないキレかたと変なツッコミをされ、釈然としないものを抱えつつも。

 タゲを素早く蔵智に変更し、再びドローンを飛ばすブッシュ・ワーカー!


「は! なんですって!? しまったですー!><」

「(・ω・)ムム!」


 約呼とミラリィの脇をすり抜けたボットが、蔵智を取り囲みよる!

 

 すわ、このままでは蔵智が危ない!

 だが……!


「にゅにゅにゅ~ん……。ここがこうでぇ……こっちがこう……にゅう~、後一息~(`・ω・´)」

 

 彼女は、ひたすら目の前の作業に集中。

 自身に迫りくる魔の手すら一顧だにせぬではないか!


 何という覚悟!

 何という気概!


 実に感嘆すべき胆力である。

 とはいえ、その素晴らしき力は、今この場においては発揮されるべきではない!


「アナヤ!(ウッワ)」

 

「イトユユシ!(こいつはやべぇ!)」

 

「トクニゲタマヘ!(逃げて!)」

 

 ボットらの悲痛な叫びも、蔵智には届かぬ!

 ああ、無垢なる献身に尽くす乙女は、ここまま悪の手によって引き裂かれてしまうのか!?

 

 ブッシュワーカーもまた、己が成功を信じて疑わぬ。

 

「ブシュシュ! 見よ! 我が覇道の前に立ちはだかるものなど、ちり芥も同然よ!」

 

 ドローンが蔵智を取り囲む、その様を見て下らぬX(旧ツイート)を残しつつ、ニチャァ……とほくそ笑む。


「ブシュシュ……チェックメイトじゃあ! かかれ~い!」

「「「ピキー!」」」


 忌むべき下郎が放つ無慈悲な号令に従い、攻撃ドローンが倉智へと殺到!

 同時に無数の凶弾をボーヒー♪と浴びせかけた!

 

 危険が危ない!


「アレ!(うわあ!)」

 

「コレイトユユシ!(めっちゃヤベェ!)」

 

「ナントシタコト!(なんてこったい!)」


 様子を窺っていたボット達は、ドローンが放つ攻撃によってむらすずめにされる蔵智の姿を予測演算し、アイレンズを覆った。

 だが、そうはならなかった。


「にゅも~ん! 邪魔しないでよ~! にゅん!o(`ω´*)o」


 迫りくるドローンを前にして、作業を中断した蔵智。

 

 くるりと振り返って悪逆の傀儡らに対峙。

 背に帯びたマルチプル・リペアリング・ジャレンチを構えるや。


「にゅえ~い!(>_<)」


 見るからに重厚な鉄塊を軽々と横凪ぎに振り抜いた!

 

 ブォォン!

 

 するとどうだろう。


 振り抜きと同時に発生した力場がシールドの様に展開し。

 

 チン♪チン♪チチン♪と。

 軽快な音と共に、 直後に着弾した砲撃を見事はじき返したではないか!


 これぞメカニックジャレンチ・ジャストパリングだ!


 ……銀河に名だたる豪傑の手解きを受けたのは約呼だけではない。

 蔵智もまた、自らの工具捌きに磨きをかけていたのだ。


 まるで手足の様に数々のツールを操る蔵智に感心した哲人。

 自らの杖術を応用した武器術の数々を伝授した。


 その結果……。


 蔵智は水を吸い取るスポンジが如くchoochooチューチューと技術をラーニング。

 創出されたワザマエは、最早ひとつの武術といっても過言ではない。


 名付けて、ユニバーサル・メカニック・アーツ。


 そう、彼女は新たなる闘技の開祖となったのだ!

 銀河を股にかけ、全ての悪を分解し、全てを修繕する、究極の宇宙工員が。


 いまここに!

 爆誕、降臨したのだ!


「ブシュ!?」


「「「ピキ!?」」」


 これには瞠目する藪賊とドローンたち。

 だが蔵智の素早い追撃は、彼らに驚嘆の叫びを上げる余裕を与えなかった!


 「わるーい事するやっこは~、み~んな分解しちゃうぞ~! 逝くよ~!にゅえ~い!o(`ω´*)o」


 ジャレンチのアーム部分はビーム・ワイヤーにて接続されている。

 それは手元にあるトリガーを操作する事によって、自在に操る事が可能ッ!


 蔵智は、解き放ったアームを勢いよく振り回す!


 遠心力を帯びた鉄塊が、縦横無尽に戦場を駆け巡り。

 蔵智へと砲撃を浴びせんと殺到するドローンを薙ぎ払った!

 

 ディコンポゼーション・ワールウィンド!

 

 ジャレンチを巧みに操り、前方にいる敵を全て打ちのめす範囲攻撃である。

 

 それはまるで鋼鉄の嵐といっても過言ではない。

 ただただ、強烈なまでに、純然たる破壊の力!


 これにはたまらず、甲高い叫びを上げるドローン共。

 

「「「ピ、ピキー!><(キャンズ!)」」」

 

 欲望に塗れた牙が蔵智に届くことはなかった。


 愚かなる傀儡共は、勇ましき黒鉄の旋風に飲み込まれ。

 成すすべもなく蹂躙され、力なく甲板へと叩きつけられていった。


「どんなもんだい~(*'ω'*)エッヘン」

 

「わぁ! 蔵智さんすごいです!」

 

「(*´Д`)ワザマエ!」

 

「”おお!? 何と見事な工具さばき!”」


「ヤリシゾ!(やったぜ!)」


「ヨソホシ!(かっこいー!)」


「ヨキナレナリ!(いい気味だ!)」


 再び沸きあがるキトゥンちゃんらとボット達。


 だが、藪賊はというと……。

 驚愕の表情ではあるものの、余裕を失う程でもない様子。


 少々引きつりながらも尚、下卑た笑みを消す事はなかった。


「ブッシュ!? な、中々やりよるな小娘ェ! ブシュシュ……だが! そこの阿婆擦れが振り回しとる大筒に比べたら、うぬの小枝なんぞ軽いわぁ! その程度のパワーでは我がドローンを破る事などできーん! ブシュシュ!」


「まだ言いますか!?(プンスコ)」


「(# ゚Д゚)カサネガサネトンデモナイヤッコダ」


「「「ピ、ピキー……!(フラフラ)」」」


「”は!? ドローンの量子係数激減なれど未だ消滅には至らず! 皆さん注意してください!”」


 おお、なんという事だろう!

 

 あれだけの攻撃を受けて尚、悪逆なる傀儡共の糸は今だ千切れず。

 怨嗟のビープ音を上げながら再び勃ち起がってきよるではないか!


「イケボのにーちゃん説明乙! ブシュシュ……見よ! 我がドローンは滅びぬ! 何度でも黄泉返るのじゃあ~! 者ども、かかれ~ぃ!」


「「「ピ、ピキー!」」」


「はわ!? 蔵智さん危なーい!><」


「(・ω・)ムムム!」


「アナヤ!(おお!?)」


「サテモ!?(なんと!?)」


「ゾトカシテヨキテ!(何とか避けて!)」


 いきり勃った藪賊が再びドローン共をけしかけよる!

 

 ああ、だがしかし!

 蔵智は大技後の硬直により次の行動に移る事が出来ぬ!

 

 南無三!

 今度こそ蔵智が、血の通わぬ破壊者達によってズタズタにされてしまうだろう!


 ボットらはその様な惨劇を予測演算し、アイレンズを覆った!


 だが、そうはならなかった。


「にゅふふ~、それは~無理ぽだよ~! だってキミたちは~、もう爆ぜてるんだから~。にゅん!(*'ω'*)」


「ブッシュ!? そ、それは一体どういう……」


 馬力が違う余裕の態度を崩さぬ蔵智を藪賊が問いただす間もなく。


「「「ビ!? ビキキー!><(キャンズ!)」」」


「はわわ!? 何です!?><」


「(;゚Д゚)ハゼヨッタ!?」


「ブシュー!? 何じゃあこりゃあ!?」


「アレ、オドロキキ!(びっくりした!)」

 

「コハサレバ!?(これは一体?)」

 

「ナドカ爆ゼケム?(何で爆発したんだろう)」


 ドローン共が甲高い断末魔をあげ、全て爆発四散しよった!

 これには藪賊はおろか、蔵智以外の面々も驚いた!


「”は!? これはまさか……原子爆縮励起!?”」


「な!? 知っているんですか貴将君!?」


「ブシュ!? そうじゃそうじゃ! イケボのにーちゃん説明せい!」


「”!? ちょ、貴方少々馴れ馴れしすぎやしませんか!? と、兎に角……原子爆縮励起とはですね……”」


 突然の用語出現に訳が分からないよ状態な読者諸兄に説明しよう。


 原子爆縮励起とは、物体にある一定の周期をもったエネルギー波を流す事で強制的に量子加速させ、原子核を崩壊せしめる現象の事である。


 要は核分裂であるのだが、ただ単に超質量でぶっ叩くだけでそうはならぬ。


 ミクロン精密単位でもって特定の角度や衝突面を見極めるという、蔵智のワザマエが組み合わさる事で初めて実現できるのだ!


「ブシュシュ! 成る程! じゃ、じゃが! そんなエネルギーを生み出すには相当のパワーが必要じゃあ! 幾ら強化されとるとはいえ、そこの小娘に出せるとは到底信じられんわ!」


「”は!? た、確かに……。蔵智さん、これは一体どういう事ですか!?”」


「にゅふふ~ん、それはねぇ~……引っぱたく前に~、ジャスガしたからだよ~?(*'ω'*)」


「( ^ω^)トユウト?」


「ボクのレンチは~、弾いたパワーを取っておく事が出来るんだ~。えっへん(*'ω'*)」


 マルチプル・リペアリング・ジャレンチは攻防一体の万能武器。

 弾いた攻撃をそっくりお返しする機構が備わっているのだ。


 これぞユニバーサル・メカニック・アーツが誇る固有スキル。


 メカニックパリングアドバンスだ!


「なるほど~! 砲撃のパワーを利用したから爆ぜたんですね!」


「exactry(その通りだよ~)!」


「(*´Д`)ワザマエ!」


「イトスゴシ!(超スゲー!)」


「スズロニヨソホシ!(滅茶苦茶カッコイー!)」


「ワレトアヒタマヘ!(結婚しよ!)」


「”約呼さん、そして蔵智さん……素晴らしい進歩ですね! 小生らも精進せねば……”」


 このキトゥンちゃん達は、もう守られるだけのか弱い存在ではない。

 自ら戦う意思を示すという、おなごの矜持を貫き通せる力をもった戦姫なのだ!


 沸きあがる面々。

 甲板は清々しき青春の一項を紡ぎだし、爽やかなアトモスフィアを醸し出す。


 だが、一匹蚊帳の外に置かれた藪賊は面白くない。


 自らが決して得る事の出来ぬ、人々の絆への羨望。

 高みを志す者たちが切磋琢磨しつつ目指す未来の展望への嫉妬。


 そして何より……。

 自身が捨て置かれ、無視された事に対するみじめさと怒り!


 性根の深淵より溢れ出す、あらゆる負のエネルギーに即オチした藪賊が叫びを上げよる!


「ブ、ブシュシュ~! 俺様を無視するんじゃあないわい! それになんじゃあうぬらは!? 青春するのも、大概にせい!」


「”未だ若輩たる小生らが青春するのは当然の事ですよ?”」


「院生っていっても、まだ学生ですからね!」


「キミとちがって~、ボクらはまだまだこれからなんだよ~? キミとちがって~(*'ω'*)」


「(´・ω・)マダイタノ?」


「アハレナル(あわれなやつ)」


「イフカヒナキ(みじめなやつ)」


「アヂキナキ(しょぼいやつ)」


 やめて!

 藪賊のライフはもうZEROよ!


 という位のフルボッコ具合に、藪賊とうとう暴走!


 HA☆NA☆SE☆と言わんばかりに、むきになって喚き散らしよる!


「ブシュアアア~! なんじゃあうぬらは寄ってたかってぇ~! 俺様こそこの宇宙で唯一絶対無二の存在じゃあ! 賞賛と賛美の言葉以外など、決して認め~ん!」


 涙目になって悲痛な叫びを上げよる藪賊。

 全身から強烈な電波をビビビと発しはじめた!


「な!? あの人涙目になりながら何してやがるんですか!?」


「”は! 約呼さん危険です! この宙域にあるドローンであろう物体全てが、そちらへ向かっています!”」


「なんですって!?」


「(・ω・)ムムムム!」


「ブシュシュ……exactry(その通り)じゃイケボのにーちゃん……。これやっちまったら、俺様自ら後始末に動かにゃならんでな……。面倒じゃが仕方あるまい!」


 藪賊がそういうと同時に。

 数えるのが面倒な位のドローンがこの場へ殺到した!


 宙域の色が虹で、ドローンが黒だとすると……。

 虹が1で黒が9の割合である!


「こいつで一斉にやれば粉々になっちまうから後の楽しみがなくなっちまうが……それ以上に! うぬらは俺様を怒らせた! その罪は万死に値するんじゃあ!」


「そんな大層なものじゃ~、ないよね~(*'ω'*)」


「ですね!」


「”っていうか事実ですよね? 何がいけないんですか?”」


「(*´Д`)禿同」


「ブッシュ!? そーいうの止めろって言ってるんじゃあ! 泣いてる俺様がいるんじゃぞ! くっそ頭来た! ドローンを全部ブチ込むことに決めたぞ! 小汚いボロ船ごと星間物質になりやがれぃ! 者ども、かかれ~ぃ!」


「「「ピッピキキー!!!!」」」


 藪賊の号令と共に、ドローン共が甲高い鬨の声を上げて迫りくる!


「くう!? 流石に数が多杉内ですぅ!」


「にゅわ~ん、さばききれないよぅ~(´;ω;`)」


「”や、約呼さん~!? 逃げて~!”」


「モハヤコレマデナリヤ(ここまでか)」


「ウヨスガナシ(打つ手がない)」


「ヤラバヤレ!(くっころ!)」


 すわ、危険が危ない!

 このままでは遊覧船はおろか、この場に居る全ての者が塵と化し、星間物質となって宇宙を漂う羽目になるだろう。


 その様な絶望の未来を想像し、みな目を瞑った!


 だが、そうはならなかった!


 この場に居る者の中でただ一人。

 ミラリィだけが、悠然と佇んでいた。

 

「ブシュシュ……氏ねぇーい!」


 ドローン共のチャージが完了し、藪賊が号令を下すと同時に。

 

「ヽ(`・ω・´)ノ ムン!(→←→←P+K+G) 」

 

「はわ!? ミラリィちゃん!?」

 

「ブシュ!? なんじゃ!?」


 ミラリィが突如として、腕を大きく開いて気勢を放つと。


 バァン!


 一瞬で船外服を脱衣!

 美しき翡翠の輝きを放つ戦乙女が降臨した!

 

「ミ、ミラリィちゃん、その姿は!?」


「わ~、かっこいー(*'ω'*)」


「ヲカシ!(いいね!)」


「キヨゲ!(いかす!)」


「スキズキシ!(エロい!)」

 

「(`・ω・´)キリッ」


「”おお!? これはまさしく、コズミック・ヴァルキュリア・ガープ!”」


 コズミック・ヴァルキュリア・ガープ。

 宇宙を颯爽と翔ける乙女の戦装束である!


 しなやかな肉体にフィットするスーツは限界まで研ぎ澄まされた鋭角を描き。

 下腹部にこれでもかと食い込んでは、押しつけがましい程におなごの魅力を解き放ちよる!

 

 手足と要所のみを守る装甲の表面を走るモールドがミラリィの闘気と呼応。

 美しきエメラルドグリーンの煌めきを放つ!

 

「ブシュシュ~!? なんじゃその恰好はぁ~!? とんでもない食い込みじゃあ!? っていうかそれどうやって息しとるんじゃあ~!?」


「”G・コンヴェクションレイヤーという空気の対流層を発生させる機構で真空中の呼吸を可能にし、更には有害な放射線からも身を守っているからですよ!”」


「貴将君説明ありがとう!」

 

 約呼らとブッシュ・ワーカーの驚きを他所に。

 

 ふっと軽く身構えたミラリィ。

 両の手を広げ、大きく円を描く。


 そして、右手を天に、左手を地に向けた構えを取った!

 と同時に、そのしなやかな肢体から、瑞々しい心気が溢れ出した!


 おお、これぞまさしく、ノーザンライトスタンツの一つ。


 スタンスオブ・エクストラクション・コスモス!

(天〇の構え)


 人々の幸せを司る天女が、一切の害悪を清めて世に平穏を齎す祈りを天に捧げる際、神前にて捧げる神楽舞いの一部であるとされているが、詳細は不明である。


 神秘的な構えと共に。

 破邪の翠煌が宇宙の穢れごと、エメラルドグリーンの輝きで覆い尽くす!


「ブシュ!? 眩しッ!」


「”何と凄まじき構え! しかし計器の類は一切の危険を検知していません! こ、これは一体!?”」


「綺麗……でも怖くない。それどころか温かみさえ感じる……。ミラリィちゃん、貴女は一体……」


「ミラリィちゃんすごーい!(*'ω'*)キャッキャッ」


 目の前にある危機をも宇宙の彼方までぶっ飛ぶ衝撃。

 突如現れた、美しき戦乙女の姿に見ほれる面々。


「ブ、ブシュシュ~! そんな虚仮脅しなぞ通じん! 小賢しいピカピカごと、宇宙の塵にしてくれるわぁ~!」


 約呼らと同様に面食らい、フリーズしていたブッシュワーカー。

 そのままシャットダウンすればいいものを、眼前の光景を受け入れられなかったようだ。


 よせばいいのに、ムキになって再起動。

 再びドローン共をけしかけよった!

 

「者ども放て~い!」

 

「「「ピキキー!」」」


  ポポポポポポーヒー!

 

 ミラリィ達を取り囲む、無数のドローン共から一斉に砲撃が放たれた!

 重なり過ぎて、2㍍40㌢ある怪異の鳴き声みたいな音を立てながら遊覧船に迫る!


 と、同時に!


 ミラリィもまた、構えから技へ移行した!

 

「ノー、ザンライ、ユ……ニバーサルダゥ……レボ……ション!」

 

 ミラリィから放たれていた心気が収束。

 前方に突き出した両の手から一気に放たれた!

 

 グッ……シュオン!

 

 美しきエメラルドグリーンの奔流が悪逆なる傀儡共を飲み込む!


 一閃!

 

 「「「ピキー!?><(ズババン!)」」」


 ミラリィの前方扇状範囲に居る全てのドローンが爆発四散した!


「ブシュシュ!?」


「”おお!?”」


 この場に居る全ての者が瞠目した!

 だが、この程度で気高き宇宙の戦乙女は立ち止まる事はなかった!


 ”止まるんじゃねぇぞ……”と言わんばかりに、全方位へ向かって翡翠の浄火を解き放つ!

 

「((꜆꜄ ˙꒳˙)꜆꜄꜆シュッシュッ == ฅ͟͟͞͞= ฅ͟͟͞͞ =( •ω•´ ฅ )シュッシュ!」


「「「ピ、ピキキー!><(キャンズ!)」」」


「ブシュシュ!? なんとぉ~!?」


 ワザマエ!

 

 ミラリィの放った翡翠の尾を引く煌めきは流星群となり。

 縦横無尽に駆け回り、禍々しく脈打つ凶星を次々に打ち砕きよる!

 

 ミラリィ=サンのヒサツ・ワザ、ユニバーサルダウン・レボリューションだ!

(天〇活〇)


 断末魔のような甲高いビープ音をあげ爆発四散する攻撃ドローン共。

 

「(`・ω・´)ドウダ!」

 

「すごい! ミラリィちゃん、やったぁ!」


「やったねぇ~!(*'ω'*)」


「”素晴らしい!”」

 

「オオ!(うおおん!)」

 

「ヤリキ!(やったぜ!)」

 

「見事ナリ!(お見事!)」

 

 その戦いぶりは美しく、見事の一言。

 戦乙女の活躍に沸きあがる約呼とボット達。

 

 かくしてミラリィの手により、ドローンは見事迎撃された。

 小賢しいドローンなど、翡翠が如き輝きを放つ戦乙女にかかれば児戯にも劣るのだ!

 

「ブシュシュ~……! 重ね重ね小賢しい小娘共と阿婆擦れめ!」

 

「ちょ! まだ言うんですかそれ!(プンスコ)」


 一度ならず二度、そして三度までも。

 

 自慢の攻撃を退けたおなごらへ敵愾心を燃やすブッシュ・ワーカー!


「喧しい! 阿婆擦れは阿婆擦れじゃあ! うぬう~! かくなるうえは! この俺様自らの手でうぬらを葬ってやるぁ~!(ブオン!)」


 ドギン! 

 

 派手な音を立てて甲板へ降り立ちよった!

 かくして、銀河に広がる天獄の片隅にて、光と闇の果てしないバトルの火蓋が切られた!

 

「そこの変な髪の毛してハイレグがすごい食い込みの小娘から始末してくれる!」

 

「(´・ω・)ノシ カカッテコイヨハゲ」

 

 相対する両者。


 だが、片や巨大なMDFに対し、小柄なおなごであるミラリィ。

 その差は歴然で、見る限りでは勝敗を想像するまでもなかった。


 ミラリィを見下しながら、勝ち誇った様な声をあげるブッシュ・ワーカー。


「ブシュシュ……ちっぽけでスケベな恰好の小娘が……。楽に氏ねると思うなよ!」

 

「(`・ω・´)サンシタガホエヨルワw」


 すごむブッシュ・ワーカーであったが、ミラリィには些かの動揺すら見受けられぬ。

 むしろその目からは、強がるキッズへ向けるような、哀れみを含んだ生暖かいものを感じさせた。


「うぬぅう~! どこまでも愚弄しおって! 氏ね小娘! きえぇ~い!(ブォオン!)」

 

 これにはたまらず、とうとう飛びかかってくるブッシュ・ワーカー!

 

 楽には頃さぬとか言いながら、一撃で仕留めにかかりよる。

 ミラリィ目掛け、巨大な拳がミラリィに振り下ろされた!

 

 その攻撃は稚拙、技もなにもない。

 ただただマニピュレーターの質量とマシンのパワーで押しつぶすだけである。


 それもそうだろう。


 この質量差を前にしては、中途半端な技など無用!

 このままではミラリィは”やめなさい!”ってな感じで潰されたトマトの様に、グシャグシャにされるのは確定的に明らかである!

 

 だがどうしたことだろうか。

 ミラリィは身をかわすどころか、揺るぎもせずに立ち尽くすのみ。

 

「はあ! 避けてミラリィちゃん!><」


「あぶな~い!(´;ω;`)」


「”うう! 駄目だ間に合わない!?”」


「コレハイミジ!(ひでぇ!)」


「ミタラレズ!(見ちゃいられねぇ!)」


「ナドコトナリ!(何という事だ!)」


 約呼らが悲痛な叫びをあげる。


「ブシュ~! 勝ったッ! 氏ねい!」


 ガキィン!

 凶気の巨塊がミラリィへ振り下ろされた!


 勝利を確信するブッシュ・ワーカー。

 惨劇を想像し目を覆う約呼とボット達。


 だが、次の瞬間。


「ブシュ!?」

 

「……!? はぁ! こ、これは一体!?」


 恐る恐る目を開いた約呼の前には。

 なんと小指一本でマニピュレーターを受け止めるミラリィの姿があった!


 しかも面倒臭そうに、空いた方の手で鼻をほじってすらいるではないか。


 五色エクセレント・ペンタグラムの戦乙女たる彼女のボディは特別製。

 銀河に名だたる豪傑より賜りしその力は、何と常人の100倍にも達する!


 貧弱なMDFの出力など、蚊がさした程度でしかないのだ!

 ブッシュ・ワーカーの表情が驚愕に染まる!


「ミラリィちゃんスゴイ!」

 

「(`・ω・´)クチホドニモナイヤツ」

 

「ブシュ~!? 生身のままで俺様のパワーを上回りよるだとぉ! こ、小娘ェ! うぬは一体何者じゃあ!?」

 

「ウッセ!(o`・д・)≡〇)`Д゚)グハッ」

 

「ブシャバァ~!(キャンズ!)」

 

 答える義理は無いとでも言わんばかりのパンチがコクピット部分にあるブッシュ・ワーカーの顔面に炸裂!

 その巨体ごと30㍍は吹き飛ばされ、虹の乱舞瞬く虚空へと消え去った!


 藪賊のやられっぷりに歓声を上げる面々。


「”やりましたね!”」


「スゴイスゴ~イ!(*'ω'*)キャッキャッ」


「スズロニユユシ!(滅茶苦茶すげぇ!)」


「オモヒシリキヤ!(思い知ったか!)」


「トクハテヨ!(とっととくだばれ!)」


「やった! ……ミラリィちゃん?」


「( っ ‘ᾥ’ c)……」


 だが、そんな一同を他所に。

 ミラリィが残心を解く事はなかった。


「どうしたのミラリィちゃん……は! まさか、奴はまだ倒れていないのですか!?」


「ブシュシュ~! exactry(その通り)じゃ阿婆擦れェ!(ブオン!)」


「( っ ‘ᾥ’ c)……!」


「はあ! な、なんてこと!」


「”まだ息があったとは!?”」


「シツコ~イ! クサ~イ!(´;ω;`)」


 何という事だ!

 あれだけの一撃を受けて尚、藪賊は膝を折る事はなかった!


 復讐に燃える淀んだ眼を禍々しく爛々と輝かせながら、再びこの場へと舞い戻りよったではないか!


「ブッシュッシュッシュ! 滅茶苦茶効いたが、あれしきの事でこの俺様がくたばると思うなよ~? さぁ、第二ラウンドを始めるぞ小娘ェ~!」


「( っ ‘ᾥ’ c)ノゾムトコロダ!」


 to be continued.... なんじゃあ~!

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