第11話 苦労人と、宇宙聖女(その9)

 宇宙に広がる星々の瞬きが、優しく宙風のブリッジに差し込む。

 それは、地表では決して得られぬ、安息の光。


 今という時を懸命に生きる人々を育む、星々の揺り籠である。

 

「提灯あんこう」でのどったんばったん大騒ぎなどつゆ知らず。

 厳しいミッションの合間に生まれた僅かばかりの休息を得た哲人ら。

 

 美しき煌めきが、傷つき蹲る宇宙の戦士達を優しく包み込み、一時の休息を齎す。


『……天の川銀河に、こんな沢山の観光名所があるなんて知らなかったよ。これでも宇宙の方々を駆け巡っていたんだけどなぁ』


「造船、航宙技術が進歩して行ける場所が増えましたからねー」


「ウム、この航路も最近になって解放されたと聞く。……それにしても賢台よ、ガーディアンには巡回中の余暇は無いのか?」


『うーん、4勤2休だから、4日に1回は休みもあるんだけどな。私の巡りあわせが悪かったのか、大概裏道ばっかで母船を降りる事はほぼなかったからね』


「あっ……(察し)それは流石に仕方ないですねー。では、ご当地B級グルメだとか、そういった物なんかも?」


『そも、人自体が最小限しか居らんからね。料理はおろか、店すら無かったよ』


「なんと……(´;ω;`)ブワッ……むう、では、防人達はどう気散じしているのだ?」


『それこそ飯位しか楽しみが無いからね。料理の出来るヤツが非番になったら、オートクッカー代わりに駆り出されるんだよw』


「フッ、さもありなん。賢台のワザマエを思えば当然であろうな」


「いやいやwwww非番の意味無いですよねソレwwww」


『ンフッ、まぁそうだねw 幾ら料理が好きって言ったってなぁ……最初の内は良かったんだけどね、流石に邪魔くさい時もあってね。そういう時、ホットプレート出してきてさ、お好み焼きの元渡しといて勝手にやってもらってたよw』


「あーっ! あの金属のボウルに入ってるのをかき混ぜるヤツですよね!」

 

「ほう……己で調理するスタイルなど、失われて久しいが……。よく受け入れられたな」


『意外と好評だったよ。後は、餡と生地だけ作っといて、皆で餃子作って焼いたりとかね』


「ハハハ、すごく楽しそうですね! では、手ずからはどの様な料理をなさってたんですか?」


『隊員たちには、手の込んだヤツよりも家庭的な……ハンバーグとかオムライスなんかの洋食系と……後は筑前煮とか……シンプルな奴が好まれたからそういうのが中心だな。だが……』


「だが? ( ^ω^)?キョトン」


『私はお菓子の方が得意でね……ウチ(もこやん)で出すデザートを考えるのが多かったから自然とな……。そっちの方を作ることが多かったね』


「ほう! そうなんですね!」


「だが、何故菓子ばかりを? ( ^ω^)?キョトン」


『一度供したら、以降女性隊員の圧がキツくてな……(トオイメ)』


「あっ……(察し)」


「むう……それは、な……(((´;ω;`)))ブルブル」


『まぁ、お陰でお菓子作りが上達したから、悪いことばかりではないね』


「フッ、そうか……(ニガワライ)」


「ン~……フフッ(ニガワライ) じゃあ、どんなお菓子が得意なんです?」


『あ~、それはだね……』


「ほぅ……」


「へぇ~……」

 

 ガーディアン時代の話から急転、何故か料理談義に食虫華が咲く。

 まるでOLみたいな、漢之娘達のノリが周囲を茶色い空間で満たしよる。


 それを横で聞いていた管まみれのジョーンズハゲは、絵面のヒドさに悶絶。

 これにはたまらず、身をよじりながら吠えよった。


「なんじゃあオヌシら、そのスィーツ♪な会話は!? 気だるい午後にダレる女子大生かOLとかかね!? むくつけきおのこらが膝を突き合わせてする会話じゃないぞい!(ジタバタ)」


『おおセンセイ、起きておられたんですか』


「あれは、今から10年以上前の話じゃ……ワシはソロで売り出そうと躍起になっちょる青二才……って違う! ワシは瀕死の怪盗なんかじゃない!」


「何を言ってるんですか(。´・ω・)?」


「勝手にボケておいて良くいうわ(。-`ω-)」

 

『はぁ……。それで、馬鹿やって散々ほたえちらかした挙句、古代文明に手を出した訳ですね?』


「ウム、何とか地球に逃げ戻ったのだが、もう身動きひとつ取れなんだ……って、ちっがーう! このノリまだ続けるつもりかね!? そうすると弱ったワシに震える手で「お水……」って給水しよる幼子は哲人君、君の役どころという事になってしまうぞ!」


『wwwwいやいや、そうはならないでしょうwwww』


「なっとるじゃろがい!」


「いやいや、なってませんてwwww 第一、その役はユリエルさん(ジョーンズハゲの孫)でしょ」


 ジョーンズハゲのヌルいボケにゆる~く突っ込む哲人と貴将。

 だが、とんでもない事に気づいてしまった億代が驚愕のツイートをする。


「それよりも……さらりと幼き賢台へと意識を向けよるとは……このハゲやはり衆道の気が!?(ドンビキ)」


「え!? しかもその上にショタなんですか!? うわぁ……(ドンビキ)」


『センセイ、前にも言いましたが、私は宇宙と武術だけのつまらぬ男とはいえ、流石にそこまで拗らせては……(((´;ω;`)))ブルブル』


 おのこらの軟弱っぷりを非難するつもりが、その矛先は己へと、しかも予期せぬ形で返り、見事頭部を貫通したジョーンズハゲ

 突然変わってきたこの流れに、更にキモく煽動し、ムキになって反論する!


「!? ち、違うぞい! 今のはネタの流れ的にそうなるじゃろって言うただけであって、そんな気は毛頭ないぞい! ワシャ至ってノーマルじゃあ! 恒星が放つ光の如く直進踏破あるのみ!(キリッ)」


 口角泡を飛ばす勢いで自己弁護しよるジョーンズハゲ

(必死杉内乙wwww)

 だが、その起死回生の試みは、無慈悲なる反論によって呆気なく雲散霧消した。


『そうはおっしゃいますがセンセイ、宇宙空間に於いて光線は様々な天体や星間物質の影響を受けますので、直進する事の方が稀ではないでしょうか(マガオ)』


「ですね。地表にあっても、物質を透過する際にはいともたやすく屈折しますしね(マガオ)」


「更には気象の条件次第で蜃気楼等のまやかしすら生まれる事もあるな(マガオ)」


「!? 何じゃオヌシら、急に理系っぽくなりおってからに! 違うの! ワシが言いたいのはそういう事じゃないの!(ドッタンバッタン)」


「いやいや、っぽい(夕立感)もなにも、小生らは理系の院生ですしおすし( ^ω^)?キョトン」


「この期に及んで見苦しいぞハゲ……(ヤレヤレ) では一体何だと言うのだ?┐(´д`)┌」


『二人とも中々容赦ないなwwww まぁそれは置いといて……。センセイは、我らが料理の談義をしているのに何かおっしゃりたい事があるのでしょう?』


「そ、そうじゃそうじゃ! ワシがオヌシらに一言物申したかったんじゃあ! やはり哲人君はワシの事をよく理解しておる! 流石哲人君! さす哲!」


「だったらボケなきゃいいじゃないですか(呆れ)」


「うぬが勝手にピンボールと化したのであろう……」


「ええい、もうその話は終わり! はいさい止め止め! それよかオヌシらじゃあ! なんじゃさっきから料理の話ばかりしよって!」


 勢いのみで何とか主導権を取り戻そうとするジョーンズハゲであったが……。


「いやいや、教授ハゲ、男性であっても料理ぐらいは出来て当たり前でしょう( ^ω^)?キョトン」


「然り。料理はもとより、家事ができて困る事等何もあるまい!(`・ω・´)キリッ」

 

 宇宙へと進出した人類にとっては、適材適所など当然の事。

 おのこであっても内務に勤しめば、おなごであっても肉体労働に従事することもあるのだ。

 出来るヤツが出来る事を精一杯するのに、何の瑕疵があるというのか。


「ムムッ!? いや、諸君らの主義信条嗜好を否定した訳ではないぞい! 気を悪くしたならすまんと思う! じゃが、ワシは謝らん!(# ゚Д゚)ウガー!」

 

 ワシは自分の意見を絶対に曲げたりはせぬ、絶対に!(キリッ)

 とかいう感じで言い放ちよった。

 

「ぬっ!? こやつ、開き直りよった!? うぬに文句をつけられる筋合い等無いわ! この宇宙坊主そらぼうずめ!」


「そうですよ!(便乗) 何を語ろうが小生らの自由ですよ! だからズル剥けにハゲるんですよハゲ!」


『センセイ、流石にそこまでおっしゃるのは我らの尊厳へのハラスメントですぞ(。-`ω-)ムムッ』


 普段は泰然自若とする哲人ですらちょっとムッっとさせ、まさに四面楚歌のジョーンズハゲであったが。

 それでも何か、ここは譲れませんという物でもあるのだろうか?


 よせばいいのに、よりヒートアップして漢之娘らへと、尚もカガッと見苦しくも食い下がりよる!


「ホントに諸君らの悪口を言うつもりはなくての! っていうかワシハゲてないし! ……その、幾ら何でも絵面がヒド杉内なんじゃあ! 諸君らの様な美丈夫の口から出ていい会話ではない! 保護院のキッズ達が見聞きしたらば、失望のあまり泣き出してしまうのではないのかね!? オヌシらが語ればキッズ達が喜ぶような話、何かこう……あるじゃろ!?」


 かなりの長文を一息に捲し立てよるジョーンズハゲ

 

 その顔は「鎧袖一触よ、心配ないわ」と言わんばかり。

 ヤリ♂切った感満点のどや顔であったが……?


 漢之娘らの反応は、これまた”思てたんと違う”ものであった!


「んなっ!? び、美て……!? 教授ハゲ、貴方はまさか我らまでをもその様な目で見ておられたというのですか!?((((;゚Д゚))))ガクガクブルブル」


「なんと、我が背後にブラックホールが!?(ゾクゾクッ) このハゲ、やはり衆道の真っただ中を疾駆しよるのか!?((((;゚Д゚))))ガクガクブルブル」


『クッ、途轍もない妖気を感じる!? 真なる恐怖の前には、私が積み上げてきた技など塵芥も同然なのか……((((;゚Д゚))))ガクゼンブルブル』


 ジョーンズハゲの言い放った破壊力ばつ牛ン、バチクソ歪みねぇセリフに恐れおののく漢之娘ら。

 あまりの緊迫感に、ブリッヂの空気が一瞬で凍り付く!

 

 空調が効いているにも関わらず感じるその冷気は、まるでこの場が、1ケルビンの熱量しかない宇宙空間の闇に放り込まれたと錯覚するほどであった!

 

「!? な、何を言うとるんじゃ諸君らはぁ~~!! ワシャ┌(┌^o^)┐ホモォでも無ければハゲてもいないッ! もうフルボッコだドン! ワシのライフはもう零~深淵の旅人~じゃぞ!? ワシ一応団長だよね!? 敬ったり労おうっていう気持ちは無いのかね!?」


「無いですね!(キッパリ)」


「そんな物は無い!(キッパリ)」


『ありません(キッパリ)』


 不用意な発言のせいで、ジョーンズハゲと漢之娘らの間には決して破れぬ障壁が生まれてしまった。

 その堅牢強固さたるや、通常空間とブラックホール内部を隔てる、事象の地平面もかくやと言う程であった!

 

 口は災いの元!

 自分の発言には責任を持とうヨシ!


「うおぉ~ん! あんまりじゃあ~! ワシはただ、論文を完成させた祝杯代わりに哲人君の武勇伝が聞きたかっただけなんじゃあ~! なのに、何故こうもズタボロボンボンに打ちのめされねばならんのじゃあ~!」


 まるで梅干しが如き渋面のジョーンズハゲから巻き散らかされる汁が辺り一面を汚染する。

 滅多に曇らぬクリボゥメタル製のウィンドウですら、うっすらと汗をかき始めた。


 ブリッヂ内の湿度はとうとう不快レベルにまで上昇!

 尚も留まるところを知らぬ!


 これには思わず眉間に皺がよってしまう三人であったが……。

 耳へと入ってきたワードにふと、首を傾げ、虚空を見つめる哲人。


『おや? センセイ、執筆懲役が終わったんですか?』


「おう! 何とか夜なべで頑張って終わらせたんじゃあ! 何せ、遺物がワシを四㌦けんのう! 今ならまだカシオペヤに戻れるからの!」


 汚い汁の放出を一時停止し、胸を張るジョーンズハゲ

 そのせいで今にも爆ぜ散らかさんとぷくーっと腫れあがる管。


 貴将と億代は、頭の中でスマートボールが乱反射する感覚をなんとか堪えながらジョーンズハゲを問いただす。


「この期に及んで、まだその様な事で我らを謀ろうと言うのか!?」


「そうですよ!(便乗) 実際そんなすぐに終わる量じゃなかった筈です! テレビジョン・チャンネルの見過ぎで、遂にそういう夢を見なすったんじゃないですか?」


「ぬほぉ! ワシは絶対に、絶対に、嘘なんぞ言っとらん! アニメイシヨンや仮想現実で無いこと位、流石のワシでも分かるわい!」


『常識というフィルターでは、センセイの世界を覗けやしないという事ですか……』


「ホッホゥ! exactry(その通り)じゃ哲人君! やはり君はワシの良き理解者であった! それに引き換えオヌシら院生連中といったら! 眼前の事象に惑わされておる様では、新たなる学へと通ずる扉を開く閃きを得る事なんぞ到底出来んぞ!?(`・ω・´)ドヤァ」


「ぬう!? このハゲ、我らを愚弄しよるか!」


「なんか、「ンー、確かにそうかも?」と少しばかり思ってしまう、それっぽい感じが余計腹立ちますね!?」


『センセイ、そこまで仰るのなら見せてもらいましょう……貴方が言う、冒険心アドベンチャー・センシズとやらを!』


「ガハハ! 望むところじゃあ! さぁ、見るがいいわい……。これがワシの情熱パッション! 究極まで高めた生命力ユニバースじゃあ! ぬぅう~……フン!(ポーヒー♪)」


 体に悪そうな蛍光色を放つマルチコンクフード・リキッドで妖しく脈動する繭と化したジョーンズハゲ

 その股間付近から、汚らしく脈打つ、濁った極彩色の光弾が勢いよく放たれた!


『おっと!?(サッ)』


「ぬう!?(ササッ)」


「うわ、きちゃなっ!?(サッサカサッ)」


 だが、誰からも受け止められずに、宇宙の闇へと虚しく消え去った……。


「!? な、何でじゃあ!? 何で誰も受け取らんのじゃあ!? 見せろって言うたのはオヌシらじゃろうがあ~!  汚いとは一体どういう事なんじゃ~~~~!(´;ω;`)」


『えっ? 我らに対しての意趣返しではなかったのですか?』


「そうですよ!(便乗) それに何でそんな所から放出ハナテンを……、と、兎に角! 先ほどの汚い光弾は一体何なんですか!?」


「あれはただの完成した論文じゃ!」


「嘘をつけっ! この汚い宇宙坊主そらぼうずめっ!」


『センセイ、紛らわしい演出は埒が明かないので、普通に渡してもらえませんか?』


 苦笑する哲人を見て、流石のジョーンズハゲもようやっと通常のやり方でフォルダを送信する気になった様である。


 渋々といった感じで視線を彷徨わせよる。

(仮想デスクトップは手を使わずに操作が可能である。しかも脳波コントロールも出来る!)


「エー! しょうがないのう……ホレ、貴将君に送ったぞい!(ピロリン♪) っていうかワシ汚くない!」


 しかし、先程の汚い演出が破壊力ばつ牛ンのインパクトであったせいか、普通の手段であって尚、貴将に嫌がられてしまった。

 

「うわっ!?(ドンビキ) 飛んできた! きちゃなっ!(2回目)」


「大丈夫か貴将!?」


「だからワシ、汚くないって言ってるもん!(´;ω;`)」

 

『そりゃあ……あんな放出ハナテンの仕方をされれば致し方無いでしょう。視線入力で通信出来るのに、何故誤解を招く様な事をなすったんです?』


「なんか勢いよく飛ばすイメージしやすかったからの! ガハハ! 後、そこの二人! いい加減しつこいぞい! 普通のフォルダは汚くないもん! ワシ泣くぞ!?」


 哲人と話してる脇で騒ぐ二人を見て、ウネウネとキモく蠢くジョーンズハゲ

 フォルダを受け取った貴将は、それはもう、心底嫌そうな表情であった。


『(……こんな嫌そうな表情をする人を見たのは人生で初めての事かもしれんな)』


 と、思わず顎に手を当て、考え込む哲人。

 この苦労人が思わず腕を組む程の表情とは一体、如何ほどに嫌そうなのだろうか……?


 そんな哲人をよそに、ただただ困惑する貴将。

 突如降りかかった厄介事(得体のしれないフォルダ)に踏み込むべきか葛藤しよる。


「いやいや、普通に送ればいいんですよ! ……それにしても、何か感じ的に汚くてフォルダを開きたくないなぁ……。ネチョッとしてそう……」


「100回は走査してからの方がよかろう。NAVI=OSのリカバリーバックアップは任せよ」


「有難う億代君! では、深呼吸して……ヨシ! いざ!」


 億代の熱い激励を受けて覚悟完了する貴将!

 勢いよくフォルダを展開した!


 そんな二人を見て、哲人は思わず吹き出してしまった。


『ンフフッwwww二人ともメタバース・ローグ(電脳専門のスペースローグの事)にでも相対するかの如き構えだなwwww』


「うぐおぉ~~~~! オヌシらには慈悲というものがないのかぁ!?」


 二人の過剰なまでの嫌がりっぷりを受け、屈辱の余り、より一層キモく蠢き散らすジョーンズハゲ


「フッ、そんな物は無い!(断言)」


「そう思うならあんな送り方しないでください! ……ンー、どうやらデータには異常ありませんね。」


「当然じゃろうがあ~! ナンデ!? ワシはナンデこんな仕打ちされにゃならんのじゃあ!」


 再び色々な汁まみれになりながら、尚もキモく蠢き三昧のジョーンズハゲ

 それをみて哲人は、「日頃の行いは大事」という事を痛感した。


『ンフフッ……! まぁ兎に角。貴将君、論文の出来はどうなのかな?』


「おっと!? そうでした! 論文でしたねコレ! ……どれどれ……(ビクビク)」


「貴将よ、少しでも異常を感じたら即時破棄するのだぞ(ドキドキ)」


「ぬぐおぉ~~! 億代君、君も大概しつこいの!?(ドッタンバッタン)」


 おいおい、忘れるなよとツイートしつつ貴将を見守る哲人。

 この調子だと、あの嫌そうな表情が崩れる事はなさそうだが……。


 その期待(?)は、いい意味でルラギられた。


 渋面から驚愕、そして一転、歓喜の表情を浮かべる貴将。

 

「(。´・ω・)ん? ( ,,`・ω・´)ンンン? おお~! すごい! ちゃんと完成してるじゃあないですか!? やれば出来るじゃないですか教授ハゲ!」


「じゃけん、さっきからそう言うとろうに、オヌシらと来たら、ワシの話をさっぱり聞いてくれんかったじゃろ!?」


 ここぞとばかりに己が無罪を主張するジョーンズハゲ

 だが、それでも億代は信じきれぬ。


「何ッ!? 本当か!? 視覚情報をARフィルターで欺瞞されているのではないのか!?」


『wwwwいやいやwwwwそれだとそのフィルターが論文だろwwww後、そんな芸当、ローグにだって出来ないからね』


 十重二十重に厳重なセキュリティが施された生体ナノマシンを欺瞞するのは限りなく不可能に近い。


 いつの時代も、こすっからいソフトキルはお馬鹿さんの常套手段である。

 当然にして、バッチリ対策がなされている。


「そうじゃそうじゃ!(便乗) ワシは探査と学問の事だけは絶対に、絶対に嘘なんぞ言わん! それにしても億代君、ワシに向けるその怒りと憎しみは一体何なのかね!? 君に恨みを買う様な真似をした覚えなんぞないぞい!」


 思わずツッコミを入れる哲人に便乗して勝ち馬にとり憑こうとするジョーンズハゲであったが……。


 億代は、ジョーンズハゲの糾弾に項垂れるどころか、益々怒りを爆発させた!


「このハゲェ……よくも抜け抜けと! 恨みならある! 蔵智を唆して危険なジャーニーに引きずり込んだという、恨みがな! 忘れたとは言わさんぞ!」


 突然のぐう正を突き付けられ、正面衝突にクラッシュしよった。(ざまぁwwww)

 だが、このハゲは謝らない。


「おひょっ!? そ、そうじゃった……かいのう? てへぺろ☆ まぁよかろ! 済んだことを何時までも言うのはおのこらしくないぞいっ!(キャハッ☆)」


「ぬく……! おのれぇ……! ゆ゛る゛さ゛ん゛!」


「確かに、諸君らには済まないと思うておる……。じゃがワシは謝らん!(2回目)」


 フジャケルナ! モアイ!

 アンタガナ、アンタガスベテワァールインダヨォ!

 オグャウゥン!

 オレノジャマヲスルナラカタイプロポッポデロ!

 ミダダァ! クサァ!


 何故かジョーンズハゲの周りをくるくる回りながら口論する億代。

 これまた妙なエコーがかかっていて、二人の言葉が聞き取りづらかった。


 一体何を見せられているのか分からず立ち尽くす哲人に、興奮した様子の貴将が語りかけてきた。

 どうやら、論文を読み終えたようである。


「星永さん、見てください! この論文すごい出来ですよ! 教授ハゲが以前書いたのより断然読みやすいですね!」


『ほう! そうなのか! しかし、門外漢の私が見て理解出来るかな?』


「いえ、だからこそ見てもらいたいですね! すごさを実感して頂けるかと!」


 貴将のはしゃぎっぷりに、目を見張る億代。

 口論していたジョーンズハゲ等放り出し、貴将の安否を気遣う。


「なに!? 本当に大丈夫なのか!?」


「有難う、小生なら大丈夫で問題ないよ! 億代君も見るといい! あ、走査は改めて108回したから!(ハイ)」


「む、なら一安心だな!(ピロリン♪)」


『ンフッ! 明確な意思を感じる回数だなwwww(ピロリン♪)』


「貴将君までひでぇ! 何たる言いぐさか! ワシ程欲望から程遠い存在なぞ居らん!」


「抜かせ! この煩悩の化身がッ! ヒドォチョグテルトヴッドバスゾ!」


『ンフフッ……! 禁ずるより欲するがまま、自ら欲望と一体化する事もまた、解脱する方法なのかもしれないねw さて、億代君。兎に角論文を見てみよう。どれ……』


「フンッ! どこまでも命冥加なハゲだ! 貴将と賢台に免じて見逃してやる! では、この億代も……ムムム?」


 尚もピュアだ無垢だ潔白なんだと騒ぎ立てるジョーンズハゲを放置し、暫しの間論文に目を通す哲人と億代。


 その猜疑に満ち溢れた表情は、貴将と同じく、見る間に驚嘆するものへと塗り替えられた。


『おお……。何と、私にも理解できる! これは素晴らしい!』


「むう、確かに……。こやつ中々やりよるわ……!(ワナワナ)」


 この世の罪咎を全てかき集め、グッチャグチャにかき混ぜた後、ギッチギチに凝り固めてお好み焼きみたいになった様な邪悪の化身ジョーンズハゲ

 そんなやっこから生まれ出たとは到底思えぬ、素晴らしき出来栄えであった。


 源泉たる存在がいかに因業深くとも、その子孫に罪は無い。

 これには、流石の二人も認めざるを得ぬ。


 論文の成果を確信していたジョーンズハゲは、今まで喚き散らしていた事などなかったかのように得意満面。

 その調子は有頂天となり、鬼の首を取ったかの様な勢いだ。


 今日一番のキモいうねり散らかし具合でもって、自画自賛しよる!


「ガハハ! そうじゃろうそうじゃろう! ワシ自身でも信じられん程、会心の出来栄えじゃからな! っていうか、己でもどうやって書いたか思い出せん! うっかりで偉大さを改めて証明してしまうとは、流石ワシ天才! ワシ天! 冒険計画ワシライマー! っつう訳でオヌシらもこれでワシを敬って労う気持ちになったじゃろ!?」


 その表情は「皆優秀な論文達ですから」と言わんばかり。

 またもやヤリ♂切った感じの、ウザいドヤ顔であったが……。


「「「いや、それは無い(な、ですね、ですな)!(キッパリ)」」」


 と、アッサリ斬って捨てられてしまいよった。

 (ファー、ざまぁwwww)


「!? な、何でじゃあ!? その論文の出来ならば、君らを改心させた上でワシの冒険心アドベンチャー・センシズに染め上げる事すら可能であったはずじゃあ!」


「それはそれ、これはこれですよ教授ハゲ!」


「さよう、うぬは小賢しくも、汚名を宇宙の彼方まで返上して名誉をより大きく取り返したつもりであろうが……この程度ではまだまだ。それこそはくちょう座V1489星よりも巨大な大赤字よ!」


「そりゃヒトが逝ける範囲で一番デカい恒星じゃろうがあ~!? どんだけ悪いの!? ワシはただ、己が欲するままに冒険心アドベンチャー・センシズを燃やしとるだけじゃん! こんな害のない老いぼれそうは居らんぞぅ! 兎に角脱稿したんじゃから、解いて! ねっ!? 解いて!(ドッタンバッタン)」


「ええい、黙れ黙れ! このハゲェ……ゆ゛る゛さ゛ん゛!」


 フジャケルナ! モアイ!

 アンタガナ、アンタガスベテワァールインダヨォ!

 オグャウゥン!

 オレノジャマヲスルナラカタイプロポッポデロ!

 ミダダァ! クサァ!


 何故かジョーンズハゲの周りをくるくる回りながら口論する億代。

 これまた妙なエコーがかかっていて、二人の言葉が聞き取りづらかった。

 

 己が悪評を包み隠さず、全力怪童怪物威力ハイスピンジャイロ剛速球ばりに叩きつけられて尚見苦しく喚くジョーンズハゲ


 その様は、万人をして「日頃の行いは何より大事」という事を思い知らせるに足る、破壊力ばつ牛ンの威力であった。


 そんなジョーンズハゲのブレないハートに苦笑する哲人。

 

 とはいえ、このままでは議論がどったんばったん大騒ぎ、押し合い圧し合いとなってメビウスの輪から抜け出せなくなり、幾つもの罪を繰り返してしまう事は確定的に明らかである。


 人という生き物は……運命を、そして未来をも変る為、時の向こう、闇の向こうへと。

 皆が幸せに、許し合えるあの日を探していかねばならぬ。


 ジョーンズハゲにもあるだろう、人の心の光。(多分……いや、あるかな……? 微妙なところ)

 哲人は、それを信ずる自身の姿を、義憤を募らせる若き勇士らへと見せて、これをなだめる事にした。


『ンッフフフッ……! まぁ二人とも。気持ちは分らんでもないが、ここはセンセイを解き放つ所だろう。現にこうして脱稿せしめられてしまっているし、我らが約束を違える訳にはいかないだろう?』


「!? そうじゃそうじゃ! やったよワシ、ワシやった! お仕事もする約束をちゃんと守ったぞい! やる事をやったらば、後は自由な筈じゃあ! ……それとも何かね、そんな小学生でも分かるような理屈を、諸君らは理解出来ぬとでも申すのかね? ンーwwww? それでも理系の院生かね!?」


 思いがけぬ哲人からの援護射撃に、調子が尚も有頂天となったジョーンズハゲ

 今一度鬼の首を取ったように、ここぞとばかり、二人をウザったらしく煽り散らかしよる!


「くっ、このハゲェ……言わせておけば……!(ギリギリ)」


「いかに論文が予想以上の仕上がりであったとて、教授ハゲを完全に信ずるには値しません……。ですが、難題をヤリ♂切ったのもまた事実……!」


 哲人の説得を持ってさえ、矛を収めきれぬ億代と貴将。

 やはり日頃の行いというものは何よりも大事である。

(重要な事なので三度目)


『ここは私を信じ、センセイを解き放ってはくれまいか? 私が見ている以上は、きっちり抑えてみせるさ。なに、次はそう不覚をとらないよ』


「そうそう。ワシだって、天の川銀河随一の豪傑から二度も不意を憑けるとは思っちょらん! あんなのはマグレじゃ! 大人しくブリッヂで天体観測しとるから、早いところ解いてくれい!」


 哲人の覚悟完了した姿を前に、妙にしおらしくなるジョーンズハゲ

(実際は、目を皿のようにして天体観測し、新たなる遺物を発見する気満々であった。懲りないやっこである)


 こんなものを見せられては、流石の二人も諦めざるを得ぬ。


「ンン~……! 仕方ありませんね。 今回は特別ですよ!」


「フン! 呆れ果てる程命冥加なやっこだ! 賢台に感謝するだな!」


「きゃっほう! そうこなくっちゃ! 流石はワシが見込んだおのこらじゃあ! 人はだれしもが話せば分かるもんじゃな! ガハハ!(ウネウネ)」


 解き放たれる期待にその身を激しくうねらせるジョーンズハゲ

 それは、どギツイ蛍光色の繭から今まさに羽化せんと蠢く毒蛾が如き見苦しさである。


『スマンな、二人とも。しかし、私もまだまだ修行が足らんようだな』


「フッ、それは言わぬ約束だぞ賢台よ」


「とはいえ、これから先、似たようなやり取りを何度も繰り返すんだろうなぁ……」


 哲人の説得(?)に応じ、渋々ジョーンズハゲを解放する貴将と億代。

 彼らは、これから訪れるであろうジョーンズハゲの尻ぬぐいに奔走する運命をまざまざと突き付けられ、眩暈すら覚える。


 それとは対照的に……。


「ホッホゥ! 自由じゃフリーじゃ最高じゃあ! ヨシ! 早速天体観測するぞ! まぁ恒星なんぞ何十年睨めっこしとった所で、今更分かることなんぞなーんも無いじゃろうけどなw ”星の寿命は長く、我らの寿命は短く、何も分かりません!(キリッ)”ってな! ガハハ!(ピョンピョン)」


 解き放たれたプロメテウスが如く飛び回り、狂喜乱舞するハゲ。

 そのうざったらしい姿は大変見苦しく、有体に言ってうざかった。


「ぬう!? このハゲェ! 少しばかり手心を加えただけでこの有様か!」


「いやいやいや! まだまだ沢山分かることはありますから! 観測してる人たちに、謝って! 謝ってください!」

 

『ンフフッ……! センセイ、確かにその通りではありますが、そんな身も蓋も無い事言っちゃいけませんよ』

 

「おっとぉ!? ガハハ、こりゃ失敬wwww じゃがな、ワシは謝らん!(本日3回目) 自由の身となった今のワシに、恐れるものなど何もない!(キリッ)」


 神聖なる戒めから、遂に解き放たれてしまったジョーンズ邪悪の化身

 

 そのテンションは爆上がり!

 とうとうこの場に居らぬ他の研究者らにまで、ウザ絡みし始めよる!


「ええい、黙れ黙れ! このハゲェ……ゆ゛る゛さ゛ん゛!」


 フジャケルナ! モアイ!

 アンタガナ、アンタガスベテワァールインダヨォ!

 オグャウゥン!

 オレノジャマヲスルナラカタイプロポッポデロ!

 ミダダァ! クサァ!


 何故かジョーンズハゲと共にブリッヂをくるくる回りながら口論する億代。

 これまた妙なエコーがかかっていて、二人の言葉が聞き取りづらかった。

 

 縛られていようがいまいが、結局はどったんばったん大騒ぎ。

 そんな彼らの様子を見てヤレヤレダゼと哲人が呆れていると。


 視界の仮想デスクトップ上に、ピピピと「着信アリ」の表示が出現した。

 

 当然、こうなると受話器を取りに向かうわけだが……。

 

 普段そうするように、何気なく通話開始のボタンを押下せんと指を伸ばした時。

 なんと、約呼らとさわこ、四人のおなごらが同時に通信を送っている事に気づいた。


 これにはさしもの豪傑も驚き、戸惑った。

 

 どちらか一方からならまだしも、双方同時、しかも全員とは尋常ではない。

 銀河の防人として向かい合ってきた、幾多の修羅場をも上回るプレッシャーを感じる。


 だが、ここで怯む訳にはいかぬと覚悟完了した哲人は、浮ついた気持ちを一気に戦場へと引き戻した!


『……貴将君、今しがた約呼君らとさわ吉の双方から通信を受けた。これは只事ではない。今すぐブリッヂで受信してくれまいか?』

 

「なっ……!? 分かりました! すぐにホロ・モニタへ投影します!」


 哲人のただならぬ気配に気圧されつつも、素早い操作で瞬時に仮想デスクトップを操作する貴将。

 

 そして間髪をいれず、ブリッヂのコンソールにて回線をひらくや……。


「デヅ兄゛ぃ゛~~~~! エグッ……! り゛に゛あ゛がぁ゛、り゛に゛ゃ゛あ゛がぁ゛! ぎゃっづでぇ゛え゛! ぶじゅ゛る゛る゛!」


「……!? ……! ……!(´;ω;`)ウゥゥ」


「星゛永゛ざん゛~~~~! わ゛だっ……! 太゛、ぶっど、ひぐっ! 担゛任゛に゛……! み゛、み゛う゛じな゛っ……! あ゛ぐう゛じゅる゛る゛っ!」


「デッ゛ぢゃ゛ん゛~~~~! ボグッ……! ぜい゛で……! ごめ゛……! ん゛に゛ゅ゛じゅ゛る゛……!」


 涙と鼻水でズルンズルンになったおなごらが、えぐえぐじゅるんじゅるんまくし立てよるではないか!


 その尋常ならざる様子に驚きつつも、必死になだめる貴将と億代。


「うわっ!?(ドンビキ)約呼さん、一体どうしたというのです!? ハッ、まさか! 教授ハゲに何かされたんですか!」


「ぬう!? そうなのか蔵智!? おのれハゲェ……ゆ゛る゛さ゛ん゛!」

 

「おほう!? 何でじゃあ!? ワシらずっと一緒にブリッヂこ↑こ↓に居ったじゃろがい!? それにしてもまぁヒドい有様じゃわい! 哭く程嫌じゃったのかね!?」

 

 ここで全く関係無いと言い切れぬ辺りからも、|ジョーンズの宿業が窺いしれる。

 だが、空気など読まずにただ吸い込むのみとでも言わんばかりのハゲ。


 訳が分からないよとわざとらしくも首をひねり、更にあろうことか、激しく動揺するおなごらに順を追って説明するよう煽りさえしよるではないか。


「何があったかは知らぬが、これではサッパリ分からん! 諸君らは院生で立派な社会人なわけじゃから、伝えるべき事をキチッと報告シタマエ! さわこクンもひと月せん内に大学生なんじゃから同様! 哭くならば成すべき事を成してからが大人じゃ! その後なら思う存分暴れまくりすればよいぞい! ガハハ!(`・ω・´)キリッ」


「エ゛グゥ゛ウ゛!? な゛に゛ぉ゛、ごの゛……ハゲの゛ぉっ……お゛っ! ……ぢゃん゛の゛……ハゲッ……ぶじゃ゛る゛る゛ぅ゛!」


「ン゛ア゛ァ゛ッ!? ぞ、ぞんな゛ごどッ……! ヒド、ハゲェー! え゛ぐう゛じゅる゛る゛っ!」


「ん゛に゛ゃ゛っ!? ハ、ハゲ……ハゲの……っぐぜに゛っ……! ん゛に゛ゅ゛じゅ゛る゛……!」


「……!? ……!? ……!(´;ω⊂`)メソメソ」


 言っている事は確かにその通りなのだが……。

 今この場に於いては、果たして口にしてよいセリフであろうか?


 ましてや、社会人と言った所で、彼女らはまだ駆け出しのおなごらに過ぎぬ。

(ミラリィに至っては、生まれてから幾ばくも経っていない赤子も同然である)

 強すぎる意気込みと理想に振り回され、足をもつれさせるのも致し方なし。


 奮戦空しく、傷つき倒れてしまう事もあろう……。

 

 そこを優しく包み込み、手を差し伸べて激励する。

 それこそ、ハゲズルムケがのたまう”社会人”の先達……。

 即ち、ハゲズルムケの務めであろう。


 だがこのハゲズルムケは、それとは全く真逆の……。

 例えるなら、画面端にて起き上がりにハンドレット・HARITEを重ねる様な真似をしでかしよった!


 血も涙も、ましてや毛髪すらもない、とんでもないやっこである。


 そんな事をすれば当然、おなごらはリバーサルに削りダメージを余儀なくされ、立て直しが困難になる。

 結果、あぐうぐじゅるるんじゅるりんぱと収集がつかなくなる事など、火を見るより確定的に明らかである。


「「「う゛あ゛ぁ゛ん゛ぶぢゅる゛る゛~~~~!(´⊃Д⊂`)ウワーン!」」」


「!? 教授ズルムケ! 幾ら何でもそれはあんまりですよ!」


「この汚い宇宙坊主そらぼうずが……! ゆ゛る゛さ゛ん゛!」


「何でじゃあ!? ワシゃ別に哭いてはならん等とは言っておらんぞ!? 報連相してからどったんばったん大騒ぎすればよかろうと申しておる! 後何でハゲっていう悪口はしっかり言えるの!? 実は嘘哭きなんじゃないのかね!? ワシハゲてないから!」


「ハゲをズルムケと言って何が悪い! うぬのような薄汚い宇宙坊主そらぼうずが、これ以上健気なるおなごらを辱める事など絶対に見過ごせん! あれをやるぞ貴将!(ガシッ!」


「OK、億代君!(ガシッ!)」


 荒事を好まぬこの二人も、とうとう堪忍袋の緒が切れた!

 空気も読まず喚き散らすジョーンズズルムケの脇に回り込むや、ガッチリとホールドした!


 二人の魂が義憤によって燃え盛り、溢れ出したパワーがジョーンズズルムケの体を万力が如く締め上げる!

 これにはたまらず、身をよじるジョーンズズルムケ

 

「ファッ!? な、何じゃあ!? こ、この力は一体!? ふ、振りほどけん! もやしっ子おのこである諸君らのどこにそんなパワーがあるというのかね!? 後なんかすごい嫌な予感がするぞい! 謝罪する! おなごらに謝るから許してくだされぇ!(ジッタンバッタン)」


 おお、何とした事か!

 荒事を好まぬ聖者らが、とうとう自らを縛る戒めを解き放ち、巨悪へと立ち向かった!


 おなごらへの愚かな愛、ただそれだけの為に!


 いかに薄汚れ、打ちのめされようとも。

 おなごの為ならどこまでも強くなれる!

 

 不器用なお馬鹿さん!

 それがおのこと言う生き様ッ!


「駄目です! もう泣いて謝って、ジャンピング土下座しても許しませんよ!」


「そうだ、駄目だ!(便乗) これはうぬによって虐げられた者たちによる裁きの一撃だ! ゆくぞ貴将! 呼吸を合わせよ!(ズアァッ!)」


「応ッ! はぁぁあっ!(ズアァッ!)」


「はひょお!? ちょ、待っ……! ぽひぇえ~!(ズアァッ!)」


 おお!

 二人のおのこらが、不届き者ハゲを抱え天高く舞い上がった!


 それはまるで宙を翔ける天馬が如く!

 気高く、そして力強かった!

 

「「喰らえッ! 愛と怒りと悲しみのッ! 罪狩りのツープラトン・ローリング・スープレックス!(ギャォオン!)」」


「ほ、ほぎゃあ~~~~~~っす!」


 二人は飛び上がった勢いをそのままに反転。

 イキりハゲ散らかしたジョーンズズルムケの体をキャプテン・シートへと叩きつけ、正義の槌を下す!


 キャンズ! ボグシャァ!


「グヘッ……!(ガックリ)」


 愛の戦士らの一撃を受け、SUKEKIYOとなって白目をむくジョーンズズルムケ


「「「じゅるるん! ざまぁwwww んじゅるる! (*´Д`)」」」


 歓喜に湧き上がるブリッヂ。


 普通の人間であるならば、これで再起不能リタイアとなってもおかしくはない。

 だが……。


「……!? やったか!?」


「駄目だ億代君! それはフラグだよ!」


 貴将の指摘マジレス通り、滅び去った筈のジョーンズズルムケが再び勃ち上がりよる!


「……ファファファ……! exactry(その通りじゃ)! オヌシらにしては良い一撃じゃったが、やはり日頃の運動不足が祟っておるのう! このワシを下す程ではなかった! これしきの力でワシの冒険心アドベンチャー・センシズは、砕けぬ! 折れぬ! 朽ちぬ! ガハハ!(ジッタンバッタン)」


 ああ、何という事であろう!


 一途な愛の戦士らが放った乾坤一擲、破邪の一撃ですら、このハゲには通じなかった!

 それどころか、穢れに満ちた欲望を糧に、更にその身をムクムクと勃起させてゆくではないか!


 一方、この絶望感あふれる光景を目の当たりにした億代と貴将。

 慣れぬ荒事で力を使い果たし、とうとう膝を折る。


「クッ、やはり小生らの力では討ち取れない……!(ガックリ)」


「気合だけで己が限界を超える等、所詮は不可能であるか……!(ガックリ)」


 精神論も強ち間違いではないのだが……。

 世の中全ての事象に於いて、気合や根性といった事で脳筋解決するなど実際不可能である。


 もやしボーイの二人にしては健闘したといってよい。

 だが、今回ばかりは相手が悪すぎた。


「ガハハ! これでどちらが正しいか証明されたようじゃな! さぁキトゥンらよ! 哭いてばかりおらんでキチンと事情を説明せい! この通りパピーらも困ってしまってワンワン哭いておるぞ!(ドヤァ……)」


 愛の戦士らの良識という戒めから、とうとう解き放たれたジョーンズハゲ

 ウザさのキレ◎なドヤ顔でもって、泣き叫ぶおなごキトゥンらを詰問しはじめよった!

 

「「「!? う゛へ゛ぉ゛ん゛べぢゅる゛る゛~~~~!(´⊃Д⊂`)ウワーン!」」」

 

 貴将と億代が斃れた今、ジョーンズハゲを止めるものは居らぬ。

 

 いや、一人だけ……。

 我らの苦労人がこの場に居るのだが。


『…………』

 

 一体、どうしたというのだろう?

 何時もならこんな事態になれば真っ先に対応するはずの宇宙戦士は、今この瞬間においてのみ、何故か腕を組んで瞑目したまま微動だにせぬ。


 そんな哲人の様子を見たジョーンズハゲは、自らの信義がこの宇宙戦士に承認されたと都合よく解釈しよったようだ。


 おなごキトゥンらをいぢめるその勢いは尚留まる事を知らず、危険な領域へと加速する!


「ほれ見たまえ! 天の川銀河に名だたる豪傑ですら、黙ってこのワシを認めておるぞ! さぁキトゥンらよ、事情を洗いざらい白状シタマエ! ガハハ!」


「「「じょん゛な゛ぁ!? う゛ひ゛ょ゛ん゛びゅぢぇる゛る゛~~~~!(´⊃Д⊂`)ウワーン!」」」

 

 哲人に見放された(?)ショックと、しつこく迫るジョーンズハゲの詰問に耐えかね、更に泣き叫ぶおなごキトゥンら。


 悲痛な叫びと、ジョーンズハゲの嗜虐的な高笑いのみがブリッジに響き渡る!

 

 ああ、ジョーンズハゲの蛮行を止める事は出来ぬのであろうか!


 


 と、その時、不思議な事が起こった!



 


「「いい加減にしなさいハゲよ……。これ以上の狼藉は、例え哲人が許したとしても、この私が絶対にゆ゛る゛さ゛ん゛!」」


 ジョーンズハゲの悪行を見かねたムリフェル。

 これには居ても立っても居られず、とうとう電異の世界から顕現した!


「ぬっ!? ムリフェルちゃんか! じゃが、おヌシのジツなど所詮まやかし! このワシに通じぬという事はQ.E.D、既に証明されておるぞ!」


「「フッ、それはどうでしょうか? ノウマク サンマンダ バサラダン……センダンマカロシャダヤ ソハタヤ ウンタラタ カンマン! ハッ!(カガッ!)」」


 ジョーンズハゲの跳梁を征伐すべく出現したムリフェル。

 手印を結び、悪霊退散の真言を唱える!

(天使が密教とか色々ごちゃ混ぜであるが、この際気にせぬよう)


「ぬっほぉ!? 何じゃこの触手めいたチューブは!? ……あぎゃあぁ~~~~っす!(ギュィィン)」

 

 おお、ワザマエ!

 点滴のチューブが触手の様にハゲへとおそいかかる!


 グギュィイイン!

 グギュルルル……ガキィン!(ガッチリ)

 

 悪逆非道の限りを尽くしたジョーンズハゲが、再びキャプテンシートへと括り付けられた!


「ほぎゃあ! またミノムシに逆戻りじゃあ!? ぬぐぐ、じゃが! このワシのクチはまだ塞がれておらぬぞムリフェルちゃん~! 例えワシを縛ったところで、キトゥンらへの詰問を止める事は出来ん! 実際何を言っとるのか今だ判明せんではないか! それこそ、一端の社会人として間違った事じゃろうがあ~!?(ジッタンバッタン)」

 

 シートへ磔となって尚、ハゲが凝りもせずにおなごらの訴えを理解不能と抗議の声をあげよる。


「「「!? う゛ひ゛ょ゛ん゛びゅぢぇる゛る゛~~~~!(´⊃Д⊂`)ウワーン!」」」


 そのせいでよりヒートアップするおなごら。


「うう……。だからそれが駄目だと言っているのです教授ハゲ!」


「そうだ、駄目だ!(便乗) 何でもかんでも、正論を振りかざせばいいというものではない!」

 

 気力を振り絞りなんとか回復した貴将と億代。

 さすがにそれはヒドいとハゲにつめよる。


「な~んでじゃあ!? ワシは別におかしなことを言うとらんじゃろうがあ!? 何が酷いのかサッパリ分からん!(ジャガー感)」


 おのこらの訴えも馬耳東風。

 全く己を引かぬ媚びぬ顧みぬジョーンズハゲは、より一層抗議の聲を上げ、キモく脈動する!


 このふざけハゲ散らかしたジョーンズハゲの態度に、とうとうムリフェルが逆上した!


「「おのれハゲェ……。やはり口で言っても分からぬようですね……。一途な愛に生きるおのこらの健気なる想いに答え、おまえに今! 天罰を下します……オン キリキリ バザラバジリ ホラ マンダマンダ ウンハッタ……真・痒光縛!(カガッ)」」

 

「うおっ、眩しっ! な、何じゃ、それはワシには効かぬと……。!? あいででぇ!?(グサグサグッサー)」

 

 真言を唱えるムリフェルの手印から眩い七色の神々しい光が、百万石の誇りよと言わんばかりにカガッと迸る!

 と同時に、点滴の針がジョーンズハゲの体中にグサグサグッサーと突き刺さった!


「「ノウマクサンマンダボダナンバク……ジャク! ウン! バン! コク! ……氏ねハゲ! 滅!」」


 そしてムリフェルが更なる手印を結び、開眼と共に掛け声を発した!

 

 瞬間!

 点滴から勢いよくマルチコンクフード・リキッドが、ジョーンズハゲの体に注入され始めた!


「あぎゃあぁ~~~~っす……ってなんじゃあ? これは先ほどの栄養剤ではないか!」


 ズギュンズギュン、ズギュンズギュン!

 およそ点滴とは思えぬ、凄まじい勢いで注ぎ込まれる生命の水アムリタジョーンズハゲの傷ついた身体を癒してゆく!


「ホッホゥ! こりゃエエわい! 五臓六腑に染み渡るようじゃあ!(チュイイン♪+HP500)」

 

 思てたんと違う展開に、いきり勃つ貴将と億代。

 慌ててムリフェルに詰め寄る。

 

「ぬう!? なんと、宇宙坊主そらぼうずが回復しよった!?」


「ああっ!? 何故ですムリフェルさん、どうして教授ハゲの手当を!?」


 だがこの大天使大悪魔は、不敵に笑って二人を制する。


「「フッ、慌ててはなりませんよ二人とも……。大丈夫で問題ありません。成敗はもう済んでますよ」」


「えっ!?」


「むう? というと( ^ω^)?キョトン」


「「フフフ……。これは必要な措置なのです。……そう、これより始まる地獄で簡単に氏なぬよう……より一層苦しむ様にする為の……布石! さぁハゲよ、この私の顔が引導替わりです……深淵へと還れ、招かれざる者よ! ……破邪ッ!(カガッ)」」


 そういってムリフェルが錫杖を掲げるや……。

 再び神々しい七色の光が引くに引けない譲れはしないと言わんばかりにカガッと迸った!


「フォッホッホゥ! 漲ってきたぞい! この力があれば! 忌々しい呪縛をも自力で解き放ってやれるわい! イクゾー! テッテッテテテ♪ ……ってなんじゃあ? 何かあちこちムズムズしてきたような……( ^ω^)?キョトン」


 おやっ、ジョーンズハゲの様子がおかしいぞ……?


 妖力が全快し、ウザったらしく余裕かまして呑気に蠢いていたジョーンズハゲの顔色がみるみると極彩色へと染まってゆく。

 と同時に、途轍もない痒みが旨旨とジョーンズハゲに襲い掛かる!


「ほ、ほ、ほっぎゃあああっす! か、痒いぃ! 痒いぃぃいいいぃぃいいいいい! ワシの身体、一体どうなて……ひいぃ~!(ドッタンバッタン)」


「うわっ(ドンビキ) 何です!? キモッ!」


「ぬぬう……。宇宙坊主そらぼうずにはお似合いの気持ち悪い顔色だが……。これは一体?」


 ジョーンズハゲの尋常でない悶えっぷりにドンビキする貴将と億代。

 怯える二人にムリフェルは、恍惚とした妖しい笑みを浮かべながら答える。


「「フッフフフッ……。ハゲに我が痒光縛を打ち破られた際、より強力な効果をもたらすナノマシンを開発していたのですよ。こんなこともあろうかと、ね……。フフフ……(ニチャァ……)」」


「な、なるほど……。それをマルチコンクフード・リキッドに仕込んだ訳ですか……。うわぁ……えぐい!」


「まさに体の芯から襲い掛かる痒みか……流石の宇宙坊主そらぼうずとて、これには耐えられまいな……」


「あぎゃあぁ~~~~っす! かっゆい! アッガィゆい! 体の隅々まで満遍なく痒いぃぃい! かいても効かん~! ひぃい~!(ドッタンバッタン)」


 ジョーンズハゲの身体に注入されたナノマシンは、自己増殖を繰り返し、元々あった生体ナノマシンと完全に同化。

 最早37兆ある細胞の全てが痒みを発するトラップである。


 こればかりは、欲望からなる勢いだけでどうにかなるものではない。

 ジョーンズハゲの命運は、完全にムリフェルが掌握したといってよい。


「はっひぃ~! 止めて! この痒いのを止めてくだされぇ! お願いムリフェルちゃん!」


「「フッフフフッ……! 様をみなさいハゲ。そのまま氏ね! と言いたい所ですが……慈悲を与えましょう……その痒みを止めるカギはおなごらが握っておるのですよ」」


「!? な、なんじゃとぉ~? ほ! ほっひいぃん! どういう事なんじゃあ! あひゃほぅ!」


「「おなごらが落ち着いて事情を説明し終われば自ずと痒みは収まります。それまで精々苦しみ悶えるがよい……フフフ……(ニチャア)」」


 いかなムリフェルとて、ジョーンズハゲの命を奪うつもりは無い様だ。

(自身の存続にも関わる故に当然であるが)

 解除の条件は優しく、何もしなければ解放されるものであった。


 だが……。


「なんとぉ~! それを早う言わんか! さぁキトゥンらよ! 哭いてばかりおらんで、何があったのか報告するのじゃあ! このワシの為に! このワシの為に! ひぃい~!」


 大人しくウネウネ蠢いておればよいものを、あろうことか、更におなごらを煽り始めよった!

 当然そんなことをされれば、おなごらもじゅるりん具合をより一層ヒートアップせざるを得ぬ!


「エ゛グゥ゛ウ゛!? ……ハゲの゛ぉっ……ハゲッ……ハゲー! ぶじぇ゛る゛る゛ぅ゛!」


「ン゛ア゛ァ゛ッ!? ハゲェー! え゛ぐう゛っ! ハゲェー! じゅる゛る゛っ!」


「ん゛に゛ゃ゛っ!? ハ、ハゲ……ハゲの……! ハゲ……! ん゛に゛ゅ゛じゅ゛る゛……!」


「……!? ……!? ……!(´;ω⊂`)メソメソ」

 

「ほひぇえ~! 違う、そうじゃない! 事情じゃ! 事情を説明シタマエ! っていうか何で悪口だけそんなハッキリ言えるの!? 実は諸君ら、嘘哭きなんじゃないのかね!? ワシハゲてな……はぎょ!? なんじゃあ! か、痒みが更に増したぞ! ひぎぃっ!」


 泣いてばかりいるおなごキトゥンらへ追い打ちをかけるような真似をしたジョーンズハゲに反射ダメージが返るかの如く、更に激しい痒みが旨旨と襲い掛かる!

  

「「ああ、言い忘れていました。おまえがおなごらを虐げる真似をする度に痒みもまた強く、鋭くなっていくのですよ……精々悔い改め、這いつくばっておなごらに許しを請いなさい。そして氏ね」」


「な、なんですっとぉ~!? はっひゃああ! キトゥンちゃんたち、頼むから泣き止んで! あく! はよ! はよ! あげへぇ!」


「「「!? う゛へ゛ぉ゛ん゛べぢゅる゛る゛~~~~!(´⊃Д⊂`)ウワーン!」」」


「!? はぎょほぉおん! また痒いのが強なったぁ!? そうじゃない、そうじゃないんじゃああ! 事情、事情! 説明! シタマエ! ほひぇえ~!」


「「「!? う゛へ゛ぉ゛ん゛べぢゅる゛る゛~~~~!(´⊃Д⊂`)ウワーン!」」」


 アギャアァアアッス!

 ウワーンジュルル!

 アギャアァアアッス!

 ウワーンジュルル!

 アギャアァアアッス!

 ウワーンジュルル!


 泣き叫ぶキトゥンちゃんらと、苦痛から逃れようと必死なジョーンズハゲが織りなす、負のスパイラル!

 円環の理から抜け出せず、幾つもの日々と出会いを繰り返す!

 

 ジョーンズハゲは容赦なく強まってゆく痒みに半狂乱。

 その際にあげる怨嗟が、より一層キトゥンちゃんらを苛む。

(無限ループってコワイ!)

 

 平和だったブリッヂは一転、混沌の坩堝と化し。

 留まる事はなく、より一層危険な領域へと加速する!


 愛の戦士らもまた、余りの赤とんらんっぷりに茫然自失。

 同時に、キトゥンちゃんらを苦しめる闇を切り裂けぬ己を恥じる。


 だが、先程の戦いで力尽き、一撃を放つことすら出来ぬ。

 精々、弱弱しいツイートを絞り出す程度である。


「うわぁ……ムリフェルさん、こうなる事を分かってて仕込んだんでしょう?(ドンビキ)」


「うぬう……正に無間地獄だな……。宇宙坊主そらぼうずに情状酌量の余地などないが、このままでは蔵智もまた落ち着かぬ……。むう、一体どうすれば……」


 泣いてばかりいるキトゥンちゃん達を前にして立ち尽くすパピー子犬ら。

 最早成すすべもなく、困ってしまってオロオロとするのみであった。


 ……ムリフェルのジツはジョーンズハゲを確かに懲らしめた。

 だが引き換えに、より一層の赤とんらんを齎してしまったようだ。

 

 おかげでたっぷり5分間、ブリッヂは阿鼻叫喚の地獄絵図と化した。

 

 

 ……………………



 やがて落ち着いたおなごら。

 しゃくり上げながらも、大声を出す事はなくなった。

 

 ジョーンズハゲは痒みのあまり気絶しよった。

 白目をむいてビグンビグンとキモく痙攣している様が大変キモい。

 

 意識を失って尚喧しいとは、随分器用にキモくなれるものである。

 

 そんなジョーンズハゲをみて顔をしかめつつも、ようやっと大人しくなった事に安堵する貴将と億代。


 このままキトゥンちゃんらを宥め、安心させたい所であるが。


 今下手に彼女らを刺激して号泣させようものなら……。

 

 キトゥンちゃんらの嘆きを敏感に感じ取った真・痒光縛がダイレクトに反応!

 痛烈な痒みを発し、折角大人しくなったジョーンズハゲが再起動して大騒ぎ……。


 そんな事態に陥るのは確定的に明らかであった。

 

 寝た子とオサーンはアンタッチャブル。

 触らぬハゲに脱毛無し。


 古事記にも記されている。


 よって、下手にキトゥンちゃんらに声をかける訳にもいかず……。

 さりとて、このまま眺めているのもいいかともいかず。


 今一歩を踏み込めないでいた。


 と、その時、不思議なことが起こった!


 腕を組み、瞑目するのみであった哲人が、遂に口を開いた!


『……なるほど、大体分かったぞ。……諸君らが目を離した一瞬のスキに、阿賀原女史が理仁亜を遊覧船に連れ去ってしまった……。そういう事だね?』

 

「「「「「「!?」」」」」」

 

 おお!

 なんという事だろう!

 

 我らが苦労人は、えぐえぐあぐあぐしよるだけの、難解なる”じゅるりん語”を見事に解読して見せた!


 素晴らしきワザマエ!

 流石は宇宙の護り手、見事な救出劇(?)である。


 これには貴将と億代のみならず、キトゥンちゃんらもビックリ!

 お陰で泣き叫んでいた事などすっかり忘れ、普段の調子を見事に取り戻した!


「ファッ!? 何で分かったんですか星永さん!?」


「むう!? そうなのか蔵智、それは真のことか?」


「ん゛にゃるる! そうだよぉ! てっちゃんスゴーイ!(*'ω'*)」


「うぐっ、んん! あの有様で良く分かったね哲兄ぃ!(゚Д゚;)」

 

「(*´Д`)サスゴシュ」

 

『フフ、スゴイだろう。これは”ショートク・ヒアリング”という、ガーディアン直伝の情報収集スキルなのさ』



 

 ……”何じゃあそのナ・ロウテイルズばりのご都合スキルは!?”と憤り、飛び上がる読者諸兄らに説明しよう!

 

 

 ショートク・ヒアリング!

 それは銀河の防人達に連綿と伝わる、事情聴取のジツである!


 赤とんらんする被災現場に於いて、情報を整理する事は喫緊の課題である。

 運よく避難出来た被災者らから聞き取りを行い、分析する事で一つでも多くの命を救うのだ!


 熟練者ともなれば、いかに取り乱した相手であっても、一度に10人もの人々から聞き取りが可能であるという。

 いかなる困難にも物怖じしない胆力と、冷静に状況を把握する鋭い洞察力をもつガーディアン達に相応しい、勇気と慈愛に満ちた技であるといえよう!


『大方、ウチのやっこ(ミラリィの事だな)が何でもchoochooチューチューラーニングするものだから、ついムキになって色々教えてしまって、理仁亜から目を離してしまった……といった所では無いのかな?』

 

「ぐすっ……。はい、exactry(その通りです)……。ごめんなさい星永さん、学生さん達の元気にあたって私たちも浮かれてしまいました……」


「にゅうぅ……ごめんなさーい(´;ω;`)」


「( ノД`)サーセン」


『なに、気にすることは無いさ。君らの本分は学を勉める識者。先達らの叡智に触れ、更にはそれを深く知ろうとする者と共に探求せしめんとするのは当然の事さ』


「フッ、確かにな……。賢台の言う通りだ」


「目の前にテーマがあれば研究せずにはいられぬのが小生ら院生という生き物ですもんね!」


「みんな……ありがとう……!」


「んにゅる゛る゛! にゅふふ~!」


『ミラリィもまた、生まれたばかりで何でも興味が尽きぬのは当然の事。うぬは何も悪くない。よく頑張ったな、偉いぞ!』


「(*'ω'*)ニッコリ」


『それにさわ吉、君も理仁亜のために奮闘してくれたようだな。見事に守り切ったそのワザマエ、まことに天晴! 【よくやった!】』


「うぐ、ずるるっ! ……へ、へへっ! そうだよ! どんなもんだい!」


 場が静かになったのを見計らい、おなごらの訴えをまとめ上げる哲人。


 これぞガーディアン直伝の技、ショートク・ヒアリングの真骨頂である。

 関心する貴将と億代。


 かくして、旅団の面々は落ち着きを取り戻す事が出来た。

 だが、それでも尚、さわこの表情は晴れぬ。

 

「……でも、肝心の理仁亜をきらりに攫われちゃったよ……ぐすっ」


 そう、場が収まったといって、なごんでいる場合ではない。

 

 本ミッションのマストオーダーである理仁亜の身柄はこくげいに無く。

 それをかどわかした下手人きらりは、今も尚逃亡中である。


 きらりのやらかしはまるで哀しみの欠片となり。

 街を閉ざす硝子色の雪となってさわこを苛む。

 あまつさえ、その明日を探す瞳さえも、闇の彼方へと曇らせよる!


 だが、見知らぬ力に流されて心が何処かへはぐれていく事など、我らの苦労人が許さぬ!


『おっと、泣くんじゃあないさわ吉……。大丈夫だ、問題ない!』


「えっ!? うう……でもぉ……」


『間隙を縫って理仁亜を連れ出した阿賀原女史は諸君らよりも一枚も二枚も上手だった……。これは流石に見事しか言いようがないな』


 ここへきて、あろうことか下手人きらりの手管を褒める哲人。

 それを聞いて”うっ”と呻き、更に哀しみの沼へと沈み込もうとするさわこ。

 

 しかし、間髪を入れず、”だが”と繋ぐ。

 

『過ぎたことを悔いても仕方ない。幸いにして理仁亜の行先は”遊覧航行”とハッキリして居るのだから、焦る必要はないという事さ』


「む、確かにそうだな。オプショナルツアーであれば、そこまでこくげいから離れる事はあるまい」


「そうですね、それに、目的地である巨大重力炉で合流しますしね」


 哲人の落ち着き払った様に得心する貴将と億代。

 さわこもまたそれを見て、聞き返す余裕が生まれた。


「つまり……どういうことなのさ( ^ω^)?キョトン」


『このまま何もせずとも、待っていれば理仁亜(とついでに阿賀原女史)は還ってくるだろう。……普通ならな』


「ンー、確かにそうだけどぉ……。絶対そんな事ないじゃんよ……。だって普通じゃないもん……(グスン)」


 どうしようもない事実を再認識してしまった挙句に上げて落とされてしまって、とうとう胸が張り裂けそうになるさわこ。

 だが、そんな哲人とさわこのやり取りに貴将と億代は疑問を持つ。

 

「えぇ~!? そんなに酷いのかい?(入り婿感)」


「にわかには信じがたいな……」

 

 そんな二人に、自らが幼少のみぎりより体験した出来事をかいつまんで説明するさわこ。


「もやしのあんちゃん二人にも分かりやすく言うとね……」


 カク……。カク……。

 シカ……。ジカ……。


 255年後(嘘)


「なっ!? それ程までに~!?(´;ω;`)(天翅感)」


「なんと!? 我が視界からミザールの連星アルコルが消え去った!?(ワナワナ)」


 ※北斗七星の六番目にある星、ζ星ミザールのすぐ横にある星アルコルは某漫画でいう所の死兆星である。

 フィクションではなく実在している。

 その存在は古くから人々に知られており、視力検査に用いられいた。

 四等星と微妙な強さゆえに、見えなくなると”お前ヤバくね?”と判断できる。

 漫画の設定とは、実は真逆。

 尚、両者は3光年程離れているので実際には連星ではなく、見かけ上のものである。


 初めは斜めに聞き流していた二人であったが……。

 

 さわこが齎した、理仁亜が持つ不幸体質のあり得ない無理ゲーっぷりは、見事に二人の心肝を寒からしめた!

 

 ……だが!

 それでも尚、おのこらの目からは、希望の光が失われる事はなかった。

 

「確かに大変ですけども……まだ何とかなりそうですね!」


「フッ、我らはまだKOされて氏んではおらんぞさわこ!」


「えっ……!?」


 二人の馬力が違う、余裕の音を聞き。

 哀しみで俯いていたさわこは、思わず顔を上げた。


『私たちには、理仁亜を救いに行く為の、”宙風”という翼がある事を忘れてはいないか?』


「うむ、然り。我らはその為に居るのだからな!」


「古くてボロいけど速さだけなら最新モデルに劣りませんからね! 今から追いかければ十分間に合いますよ!」


 絶望の淵からおなごらを救い出し、ニッコリと微笑むおのこら。

 その頼もしさを前にして、さわこにも再び笑顔が戻ってきた。


「そ、そうだよね! ”遊覧船が出ちゃって、憑いていくのは無理よ!”ってんなら、”だったら追いかければいいだろ!”って事だよね!」


『「「exactry!(その通り(だ、です!、である!)」」』


 おお、なんという筋肉理論!

 やはり物理、物理は全てを解決する。


 ……先ほど精神論を批判してた癖に?

 掌ドリル並みの回転するなって? 


 ……ンンッ!


 何はともあれ。


 見事この場を収めた哲人。

 満を持して、次なるイクサを告げる法螺を吹き鳴らす!


『ヨシ! 状況が明らかになったところで、新たなるミッションを発令するこれより修羅に入る! 目の前に動くモノあればこれを張り倒し、逃亡するモノあればこれを宇宙の果てまで追う! かどわかされた宇宙そらの神姫を、今我らの手に取り戻すぞ!』


「「「「応ッ!」」」」


『約呼君らは宙風へと直ちに帰還、ブリッヂに集合せよ!』


「「了解!」」

「(''◇'')ゞビシッ」


『貴将君、君はムリフェルさんと協力して遊覧船のスペックと、行先であるキャッツバレーの情報を収集してくれ!』


「はい!」

「フフ、私に任せなさい」


『億代君、さっそくアレの出番が来たようだ、準備を頼む!』


「心得た!」


 哲人の号令に闘志を燃やす宇宙戦士たち!

 己が役割を果たすべく、行動を開始した!


 メンバーが持ち場につくのを見届けた哲人。

 最後に、心揺れるさわこへと指示をだした。


『さてさわ吉。君はこのまま宿へと帰り、修学旅行のスケジュールに戻りたまえ』


「えっ!? でも……うん、そうだね……。アタシに出来る事はもう何もないよね」


 頼もしき宇宙戦士らの雄姿を見て尚、不安が晴れぬさわこ。

 更には自らの無力さを痛感し、目を伏せる。

 

『そんな事はないさ。君にも出来る事はある……我らを信じ、理仁亜の無事を祈るという、大切な仕事がな。それに、体操選手フロイラインはいかなる状況でも諦めないのだろう?』


「! そ、そうだよね! アタシがアキラメロンしてちゃダメだよね!」


『フッ、そういう事だ。……なぁに、理仁亜は私が必ず連れ戻してみせるさ。どうあっても不幸体質の手から護り抜いてみせる!』


「ワ、ワカタヨ……。哲兄ぃ、理仁亜(後ついでにきらり)の事、よろしくお願いします(ペコリ)」


『うむ、宜しくどうぞ! 大船に乗ったつもりで任せたまえ!』


「ンー? 大船? 確かさっき、もやしのあんちゃんがボロいって言ってたけど? そんな宇宙船で大丈夫なの?」


『大丈夫だ、問題ない!(キリッ)』


「wwww不安しかないwwww」


『おいおい、ヒドいな! ……だが、ようやっと普段の調子を取り戻せたようだな』


「うん! じゃあアタシ、帰ってまこっちゃんに言っとくね!」


『おう、頼んだぞ! ではこれにて。オーバー』


 哲人は、さわこに自分のクラスへ、ミラリィらには宙風へと帰還するように指示をだした。

 

 そして貴将には、おなごらが戻るまでの僅かな時間に、目的地であるキャッツバレーの観測と分析を。

 億代には、ハンガーにて出撃の準備を依頼した。


 哲人の冷静な指揮により気を持ち直した面々は、早速行動を開始した。

 

 メンバーが持ち場につくのを見届けた哲人は、不安に揺れるさわこをなだめつつ、通信を閉じた。


「頼んだよ哲兄ぃ、アタシはアタシに出来る事をするよ。……理仁亜、どうか無事でいて……!」

 

 さわこは理仁亜の身を案じつつも、その安全を哲人へと託し、宿へと戻った。

 

『これでヨシ! ……さぁ、時は残り少ない、私達も準備に取り掛かるぞ!』


『「そうね、何があっても困らないようにしないとね」』

 

 メンバーらの行動を見届けた哲人もまた、指差し呼称したのち、自身の準備をする為に格納庫へと向かうのであった。

 

 

 ……


 

 ……若さと希望あふれるやりとりが終わり、静まりかえったブリッヂにて。


「……………………(ビグンビグン)」


 ジョーンズハゲがキャプテンシートに括り付けられたまま、誰からも忘れ去られていた……。


……to be continued……なんじゃあ!

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