【KAC20224】彼女がスマイルになる話

小龍ろん

第1話

「玲子! お願い、私に笑える話を教えて!」

「はぁ? いきなりどうしたの、愛瑠」

「私……、私、須磨さんの期待に応えられなかったの!」

「須磨先輩の期待……? いや、何の話? 昨日デートだったんじゃないの?」

「うん……。だけど、須磨さんをがっかりさせちゃって……。須磨さんの期待に応えるためにも、笑い話が必要なの!」

「まったく意味がわかんない。何か勘違いしてるんじゃない?」

「そんなことないよ! いいから、私に笑い話を教えて!」

「いきなり、そんなこと言われてもね……。ああ、職場の同僚がスマホと間違えてかまぼこ板持ってきた話でもする?」

「それ、私の話じゃない!」

「そんなこと言われても、私の知ってる笑い話は大抵あんたに関する話よ?」

「うぅ……、ちょっとうっかりしちゃっただけじゃない」

「うっかりしすぎなのよ、愛瑠は」

「もう! 私のうっかりなんてどうでもいいでしょ! 早く笑い話を教えてよ」

「無茶言わないでよ……。ああ、そうだ。ちょっと前の夜の話なんだけどさ、私、軽い事故に巻き込まれてね」

「えぇ!? 大丈夫だったの?」

「うん。幸い、怪我はなかったんだけど」

「あはははははは!」

「……いやいや、どうした。なんで急に笑い出したの」

「だって! 夜に怪我ないって……! あはは……!」

「……はぁ?」

「夜の英単語は『night』。これは騎士である『knight』から『k』がない形。つまり『k』がないと、怪我無いをかけてるんでしょ?」

「違うから! 勝手に深読みしないでくれない? というか騎士はどこから来たのよ。そんだけ一人で笑えるなら、笑い話とか必要ないでしょ……」

「えぇ! そんなことないって。話を続けてよ」

「……まあいいけど。ともかく、数日前の夜、駅から自宅に戻ってたら、前からおじさんが歩いてきて」

「あはははは! 禿親父って……!」

「待ちなさい、待ちなさい。どうして笑ってるの? 禿親父はどこから来たの?」

「え? そのおじさんが禿げ頭で毛がないっていうオチなんじゃ……?」

「違うから! もうそこから離れなさいよ!」

「えぇ……?」

「だいたいなんで、須磨先輩の期待に応えるために笑い話が必要なのよ」

「そういう話の流れだったんだよ。それなのに、私、滑っちゃって……。須磨先輩ガッカリしてたよ……」

「絶対、愛瑠が何か勘違いしてるんだって。須磨先輩はなんて言ってたの?」

「君といると笑顔になれるって。だから、一生一緒にいたいって……」

「……なんで、それで笑い話を所望されたと思うのよ! それはプロポーズよ!」

「えぇ!? そうなの!?」

「そうなのよ! ほら、早く須磨先輩に連絡してOKって伝えなさい。そんで、さっさと須磨愛瑠スマイルになりなさいよ」

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