第五十二集 反省

  6月21日 14:00 らく道旅館会議室


  「さてと、じゃあ今日の反省をしようか。まずは先鋒の田口さん、なにかあるか?」


  今日の試合後、俺たちが負け越して落ち込んでいた所を根元先生に呼び出された。飯食って少し休憩したら旅館の会議室の来いって、少し低いトーンで言われた。


  「最初の2戦はともかく、最後子浦と戦った時は、力を出し切れませんでした…」


  「なんでそうなっていると思う?」


  「それは…」


  そして今、こんな感じで先生とみんなで反省会をしている、という訳だ。


  「単刀直入に言うぞ田口さん、お前は思い上がりすぎてんだよ。」


  「なっ!」


  「反論出来んのか?確かに最後の最後まで田口さんは全勝だ、結果を見ても内容を見ても文句の言えない戦いっぷりだった。だけど子浦さんと戦った時はどうだ?油断したろ?」


  「ちっ…」


  「舌打ちしてどうにかなるのか?あんなわかりやすい子浦さんの罠に引っかかって、練習試合や任田祭の時の様な戦いっぷりはどうした?」


  確かに、さっきの試合での龍太郎の罠に引っかかる回数は多すぎた。罠の場所が分からなくとも、起動する前に躱せるはずなのに、それすら出来ていなかった。


  「お前は強い、だけどそれで油断は許される訳じゃねぇぞ。」


  「はい…」


  「次、松永さん。お前も、田口さんが勝ってくれるからって、少し負けすぎではないか?」


  「…」


  「にゃー!!」


  ちょっと問い詰められてる松永さんの前に、にゃーちゃんが出てくる、先生を威嚇してるみたいだ。


  「にゃーちゃん、元の位置に戻れ。」


  「にゃっ!にゃぁ…」


  嘘でしょ、根元先生の一言でにゃーちゃんが松永さんの元に戻って行った。


  「にゃーちゃんの気持ちは分からない訳では無いが、松永さん、もっと本気出せるだろ。みんなのためにでは無く、にゃーちゃんと自分のために、もっと本気出せ。」


  「…はい…」


  「にゃぉ…」


  「にゃーちゃん大丈夫だよ、よしよし。」


  松永は俺たち5人の中で1番負けている、最後に本気を見れたのは多分任田祭の決勝まで遡るだろう。でもあれは自分に無理した結果そうなったってだけで、しかもその試合は負けている。だから少し本気を出せないのは仕方ないと思う。


  「次は羽澤さん、経験がないから仕方ないかもしれないが、もっと周りを見ろ。実力は十分あるんだから、もっと周りのみんなの動きを見て学べ。」


  「はい…」


  羽澤は任田祭でやっと学校に戻ってきた、練習試合や授業に参加してない分、俺たちよりは経験は少ない。でも先生が言いたいのは、出来ないことなら、出来る人のことを見て真似て学べということなんだろう。


  「そして新井さん、丑崎さん。お前らは試合数が少ないから仕方ない、と言うつもりはないぞ。試合に出てないなら声を出してアドバイスしたりすることも出来るだろ、ただ前の3人に任せっきりならなんのための団体戦だ。」


  ごもっともだ、俺は俺の番が来るまで眺めてることしかしてない。そして自分の試合のことしか考えてなかった。


  「はぁ…いやすまんなお前ら、少し冷静さが欠けて酷いことを言ってしまった…」


  そんなこと言わないでくれ先生、先生も先生なりに考えてることがあるから、それは仕方ないよ…


  「なぁに落ち込んでんのみんな!まだ対抗戦は始まったばっかだよ!」


  「南江、何言ってんだお前、もう俺らの試合終わったぞ。」


  「だ!か!ら!これからはあと2年生と3年生の試合があるんでしょ!ほら!参考になる先輩がいるんだから落ち込んでる暇ないよ!」


  こいつこういう時に限って正論ぶつけて来るよな、最近はあんま出番なかったから話すこと溜まってるのかな。


  「はは、その通り。みんな、南江さんの言う通りだ。まだまだ始まったばっかりなのにしょぼくれても仕方ない、明日からの先輩たちの試合を見て、経験をつけろ!」


  「いや、しょぼくれさせたのある意味先生じゃん…」


  「い、いや!そんなことな、な、ないし!!」


  なんか、これはこれでいいな、まだ3ヶ月しか経ってないとはいえ、ちゃんとまとまりのあるクラスだ。


  「よし!んじゃそうと決まれば今日は思いっきり休め!夜飯は俺が奢ってやる!!」


  「「おおーーー!!!!」」


  20:00 らく道旅館 大浴場 男湯


  夜ご飯は先生の奢りでクラス全員で夜(よ)々苑(えん)、初めて食べる高級焼肉は最高だった。先生が泣きながら会計してたのは…うん、忘れよう。


  そして今、もはや恒例行事なのか、男湯で作戦会議が始まっていた。


  「鳥、カメラの準備は出来とるよなぁ?」


  「任せろッコ!」


  「よし、ネズミ。カメラ隠す罠は大丈夫かいな。」


  「ヒッヒッヒッ。なめないでください申喰藤十郎、完璧ですよ。」


  こいつら…


  「はぁ…猿のやつ、変わらないですね…」


  「昔からあんな感じなのか?」


  「えぇ、あぁ見えてかなりの変態ですので。」


  「お、おぉ…」


  知りたくないことを知ってしまった…


  「あっはっは!!みんな青春してるな!良いことだ!!」


  「お前何歳だよ、豪は混ざらないのか?」


  「うむ、そうだな。せっかくだ!俺も行こう!」


  行くのかよ…だがこう言ってる俺だが、俺も共に参らさせてもらおう。


  「どうなっても知りませんよ。」


  「あっはっは!正は万が一の時のために準備しておいてくれ!」


  万が一の時って…何が起きるんだよ…


  「そろそろやな、鳥!カメラを飛ばすんや!」


  「コッコーー!!」


  「ネズミ!罠や!」


  「それだと罠にかかった時みたいですよ、罠呪符・透(とう)。」


  おっ、凄い、酉脇が投げたカメラが消えた。


  「よし!作戦成功や!あとはこの画面でカメラに映った映像を!」


  「ついにやったッコ!!」


  「ヒッヒッヒッ、私が居れば当然のことです。」


  「あっはっは!成功したか!俺にも見せてくれ!」


  どうやら成功したようだ、俺もやっと男のロマンに辿り着ける。


  「おお!見てみい!蛇のやつ!めっちゃえっらい体しとるで!」


  「鬼寅も見えるッコ!」


  「ヒッヒッヒッ、これはこれは、楽しいですねぇ!」


  「おぉ、ってみんな待ってくれ、なんか女子全員の視線がこっちに向いてないか?」


  巳扇初め、どんどんどんどん女子の目線がこちらに寄ってくる。


  「まさか!蛇のやつ!」


  「巳扇は透明な物でも見えるってことか?」


  「せや、あいつの蛇眼だけは特別や。さすがは歴代最高の輝き、レベルが段違いや。」


  待てよ、それってさ、もう退散しないとまずくねぇか?


  「なあみんな!もう退散しようぜ!ってあれ?」


  俺以外みんないねぇ…おいおいおいおい!!


  「あらあら丑崎さん、私が持ってるこれは、どこから来たか分かりますか?」


  「いや、それは…申喰達が…」


  「でも本の人らはいないようですね、どう説き明るくするんですか?」


  「だから俺はなにも!」


  「蛇眼!!」


  あっ、終わった…もう体を動かせねぇ…あいつら、覚えとけよ…


  20:15 らく道旅館 大浴場 ロビー


  「すまんのう丑崎はん、わしらのためや、犠牲になっとくれ…」


  「合掌ッコ…」


  チーン…

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