第四十七集 人をダメにする

 6月20日 12:00 洛陽闘技場


  「では!妖術学校実力対抗戦、1日目!第2試合!始め!」


  先鋒戦なんだが未口は出てこない、そして相手は陰陽が得意はずなのに武器を持っている。これはもしや相手の1年1組が瀑海高校の1年の中で1番強いということなのかな。どうしてそういう考えなったのかは俺も疑問なんだが、武器を持ってる陰陽使いはそうそういないからということだと思っている。


  「ほう、陰陽使いなのに武器持ってるのか、珍しいじゃねぇか。」


  「私は志子田大和(しこだやまと)、話は聞いてますよ田口龍太郎さん。」


  「なんだなんだ、俺も有名人になっちゃったもんだな。」


  「いえ、4組から情報を頂いたまでです。もしや、先程私たちと戦ったそちらの2組から情報を頂いていないのですか?なんと嘆かわしい…」


  なんだか陰湿なやつが出てきたな、確かに豪達からはなにも聞かされてないけど、それほど重要なのか?


  「勝手に嘆いてろ、情報がなくても対応してやるよ。ほら、俺らの情報持ってんだろ?さっさとかかってきな。」


  「ちっ、たかが妖刀使いの分際で!私をなめないでください!!」


  あーあ、ありゃ簡単に挑発に乗るタイプだな。それじゃ龍太郎の思うつぼだって。


  「ただ技が速いだけなら!いくらでも対処法はあります!」


  「そりゃそうだな。けど、俺の技以前に俺の動きについてこれてないけど、そこら辺どうなんだ?」


  「なに!」


  会話の最中、気付かぬうちに龍太郎は志子田の背後に回っていた。


  「ほれ、首トン。」


  「ガッ…」


  はい、決着。もはや龍太郎剣すら抜くことも無く試合が終わってしまった。


  「情報に頼るのもいいかもしれねえけど、それはつまりそれしか知らないということだ。隠されてることだってあるんだぜ。」


  まずは1つ、松永が勝ってくれれば王手。そうすれば俺の出番がなくなる確率が高くなる、よし。


  「松永、次は頼んだぜ。」


  「うん、頑張る。にゃーちゃんも頑張ろうね。」


  「にゃー!」


  珍しく龍太郎と松永がハイタッチ、そしてにゃーちゃんともハイタッチ。これはあれだな、俺たち5人の絆が深まったってやつだな。いやはや、嬉しいね、俺まだなにもしてないけど。


  「行くよ、にゃーちゃん。」


  「にゃぉー!」


  「情報通り、1人と1匹なのですね。僕は苦瓜天馬(にがうりてんま)、大和とは同じミスはしません、覚悟しておいて下さい。」


  なんだろ、今回の相手は情報戦がお好きなようで。ちなみに俺は情報とか聞いたら頭痛くなるから正直あまり関わりたくない。


  「よしよし、今日も可愛いねにゃーちゃん。」


  「にゃー!」


  「僕の話…聞いてますか…」


  完全に無視られて怒ってるって感じじゃん。あら嫌だ、さっきと同じ結果になっちゃう気がする!


  「うるさいな、今からやっつけてあげるから待ってて。猫又変化(ねこまたへんげ)・黒豹(くろひょう)。」


  「アァァァ!!」


  「来ましたね、猫又変化。前回は猟豹(りょうひょう)でしたが、今回は黒豹ですか。スピードよりもバランスを取ってきたわけですね。」


  猟豹はスピード重視、黒豹はバランス重視なのは間違いない。けどそれだけでどう対処するつもりだ?


  「バランス重視ならば対処は簡単です、猫に追いつかれないようにあなたを倒せばいい話です!」


  「にゃーちゃん、あの人を黙らせてやって!」


  「アァァァ!!」


  「こんなもの!」


  苦瓜はにゃーちゃんの攻撃を躱(かわ)し、松永に向かって走っていく。


  「これならば猫も戻ってこれまい!取った!!」


  「単純なんだね、あなたの頭は。」


  「なんだと!」


  「風呪符(ふうじゅふ)・嵐(らん)!」


  まさかとは思っていたが、松永が呪符を覚えていたとはな。いやはや、人はいつ勝手に成長するかわからんな。


  「私がいつまでもにゃーちゃんに頼りっぱなしだと思わないことだよ、おバカさん。」


  「にゃー!」


  次鋒戦も勝利!このまま未口が出てくる前に勝ってしまいたいな。


  「茉己ちゃんお疲れ様!にゃーちゃんもね!」


  「は、羽澤さん、私は撫でなくても大丈夫…あう…」


  「おー!可愛い声出すじゃない!ほれほれ!」


  「や、やめて!」


  おっと、これ以上は男子は聞いちゃいけないってやつだ。退散退散。


  次は中堅戦、うちの羽澤の相手は…おっとっと、こんなタイミングでお出ましか。


  「もう、だから言ったメェ、情報に頼りすぎないでって…」


  中堅戦でこいつが出てくるとはな、もっと後に出てきても良かったよ君。


  「羽澤、一言だけ言っとく。拘束されたら試合終了だから、気をつけてな。」


  「試合終了しちゃうんだ…わかった、気をつける。」


  さて、言うべきことは言ったから、あとは羽澤にかけるしかない。


  「羽澤さんだよメ?よろしくメ。」


  「何この子めっちゃ可愛いんだけど、めっちゃもふもふしたい!」


  「それは困るメ、だからそのまま動かないでメ?」


  言いながら未口は手を前にかざした。


  「羊解(ようかい)。」


  「え?なにこれ!凄いもふもふしてる!」


  羽澤の周りに羊毛的なものが溢れ出し、羽澤を包んでいく。


  「人をダメにする抱き枕とかってあるよメ?あれは凄いよメ、本当に人をダメにしちゃうんだから。」


  人をダメにする、なるほど、拘束によって行動不能にするってそういうことだったのか。


  「その羊毛には、人に安心させる効果の妖術を施してあるから、もう君はそのまま静かに寝ることしか出来ないメェ。」


  「ふかふかもふもふ〜…気持ちいい…」


  5分後


  「…zzz」


  本当に寝てしまった、まさか行動不能ってこんな形で行動不能にさせるとは思わなかったよ。今度試してみようかな、人をダメにする抱き枕。


  「でもメ、今回の私たちは勝てないメ。副将戦と大将戦はそっちのが上手だからメェ。また会えたらよろしくメ、丑崎君。」


  「あ、あぁ…」


  最後の最後で俺に話しかけなくても良かっただろうに…メェメェメェメェって言ってること聞きづらいし…


  中堅戦は取られたが、副将戦は未口の言った通り、夏の快勝で終わった。呆気ないと言えばそうかもしれないけど、未口1人だけだったから仕方ないとも言える。


  こう考えると、やはり特訓の成果は確実にあった。みんな実力が向上してる。俺たち5人だけでなく、他のみんなもそうなってるはずだ。


  次の試合は沖縄校、福天高校(ふくてんこうこう)。武術の達人の集まりだ。

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