第四十六集 瞬殺

  6月20日 11:00 洛陽闘技場


  いざ対抗戦の初戦、相手は瀑海高校(ぼうかいこうこう)1年4組。陰陽を得意としており、近距離戦闘よりも遠距離戦闘が強い。


  実戦含めて根元先生にいろいろ叩き込まれたおかげで、俺たち5組は完全に仕上がっている。もはや怖いもの無しと言ってもいい。


  5月27日 11:43 体育館


 任田祭が終わって1週間も経たない頃、根元先生は俺たちを鍛えると言い、通常授業を短期間集中で済ませ、それ以降はずっと特訓が続いた。


  先生が1人で俺ら各班の6人を相手すると言ってきたが、さすがに6対1は勝てると全員が思っていた。


  「どうした第一班、もうくたばったのか。」


  「実際に戦うの初めてだけど、はぁ…先生強ぇじゃねぇか、はぁ…」


  だが違った、結果は根元先生の圧勝だった。これは単純に力の差なのか、それとも培ってきた経験の差なのか。


  「俺はこれでもお前らを教える先生だからな。丑崎さんはともかく、今のお前らには負ける気がしねぇな。ほら次第二班!3回戦目だ、かかってこい!」


  ちなみに先生とはもう2回戦ったが、全てギリギリで負けた。改めて先生は先生だなって思い知らされた。


  「今度は負けねぇからな先生!」


  「いい顔だ田口さん。さあ来い!」


  この特訓はしばし続いた、俺たちが先生に勝てるようになるまで続いた。そうだな、だいたい1週間ってとこかな、ああそうだ、土日も含めて、ね…


  6月20日 11:04 洛陽闘技場


  だから今は負ける気がしない。これは決して傲慢ではない、先生と戦ってきた俺たちの経験故のものだ。俺たちは先生を信じてるし、俺たち自身の力も信じてる。だからこそ勝てると思ってる。


  「各校、準備はよろしいか?では、妖術学校実力対抗戦1日目!第1試合!始め!」


  うちの先鋒は龍太郎、最初に言っておく、一瞬で決着が着く。


  「陰陽の構えが遅いぜ、羽澤のが何倍も早いぞ。」


  「おおっと!!任田高校1年5組!先鋒の田口龍太郎が相手を瞬殺だぁ!!」


  ほらね。龍太郎の花速刀の速さはもはや同学年で追いつくのは片手で数えれるレベル、任田祭の頃とは大違いだ。


  「悪いなみんな、すぐに終わらせちまった。」


  「大丈夫大丈夫、全部中堅で終わらせてくれていいからね、俺戦いたくないから。」


  「お前はそれでいいのかよ…」


  そうだ、俺は極力戦いたくない、めんどくさいから。


  「じゃ、私たちも行ってくる。」


  「にゃおー。」


  「茉己ちゃんとにゃーちゃん頑張って!」


  実はあの2人、正確には1人と1匹なんだけど、うちのクラスで1番の癒しなのでは?見てると凄く微笑ましくて癒されるんだよね。みんな分かってないかもだけど、松永がにゃーちゃんとじゃれ合ってる所が1番かわいいぞ、和む。


  「行くよにゃーちゃん、よしよし。」


  「にゃー!」


  「猫又変化(ねこまたへんげ)・猟豹(りょうひょう)。」


  「にゃぉー…」


  二つ尾のチーターの登場である、たぶん持ち前の速さで先手を取る、龍太郎と同じような感じかな。


  「今だよ、にゃーちゃん!」


  「にゃおー!!」


  「1人と1匹なんて!ずるいじゃないか!」


 そんなこと言ってる間に、相手はにゃーちゃんの突進で倒れた。


  「私たちは、1人と1匹で、1つなの。あなたには分からないことだよ。」


  次鋒戦も余裕勝ち、友情の勝ち。と言いたいところだけど、俺が思ってるような関係ではないな、あの1人と1匹は。


  「さて、次は私だね、行ってくるよ。」


  「おー、行ってらっしゃーい。」


  中堅戦、陰陽が得意な羽澤だが相手も陰陽が得意、どういう戦いになるか。


  「私だって、陰陽が得意なんだからね。」


  そう、羽澤は俺らのクラスで1番の陰陽使い。だからこの中堅戦、結果は明白である。


  「雀呪符(じゃんじゅふ)・海底撈月(はいていらおゆえ)!」


  地面から光の玉が現れ、相手に向かって放たれた。


  「決まり!」


 相手は陰陽で反撃をしようとしていたが、構えの段階で羽澤に速さ負けしたから羽澤の術をもろに食らってダウン。


  これにて決着、3本先取だから、俺らの勝ちだ。


  「おっとぉ!任田高校1年5組!早くも決着だぁぁ!!」


  「よくやったぞお前ら!」


  根元先生も大感激である、てかあれ泣いてね?


  「俺は嬉しいぞ!お前らと特訓した甲斐があった!」


  龍太郎、松永、羽澤は先生に抱きつかれた。すごく嫌な顔をしてるのは言わないでおこう。


  「先生…離してくれねぇか…」


  「にゃーちゃんが汚れる。」


  「ちょっと先生、暑苦しいかな…」


  「おま…お前ら…流石の先生でも泣くぞ!」


  俺が言う前に言われてしまった、可哀想な先生だった。


  何はともあれ、最初の試合は勝利だ。これで勝ち点は3点、とりあえずはトップに立てた。


  次の試合は全ての試合が終わって、休憩時間10分を挟んで始まる。次の相手は同じく瀑海高校1年1組で、さっき会った未口(ひつじぐち)のクラスだ。そう、さっきメェメェ鳴いてたあの未口だが実力は不明。


  休憩時間10分とは言うけど、俺らは早く試合を終えたから少し長く休憩できる、作戦会議でもしようか。


  「みんな、ちょっと集まって作戦会議でもしようか。」


  「お、いいじゃねぇか魁紀、ちょうど副将戦が回ってこなくて暇してたとこだ。」


  「お前らは気楽でいいよな、戦わなくていい時があるから、それに比べて俺は…」


  確かに、先鋒の龍太郎は必ず試合しなきゃいけないから大変だよね、知らんけど。


  「んじゃあとりあえず、未口について知ってることだけみんなに教える。どこの位置にいるかはわからないけど、全員知っといて損はないだろ。」


  とはいえ、俺が知ってることなんて大したもんじゃないけどな。


  「未口の術は行動不能にさせるものが多い、ダメージを与えて来るというより拘束して行動不能にするものが多い。具体的にどういうものかはわからないけど、拘束されたあとの対処法を各自でそれなりに考えて欲しい。」


  拘束による行動不能、これがどういう感じで行動不能にさせられるかわからないから適当なことは言えない。


  「なるほど、つまり拘束される前にやっつければいいんだな。」


  「にゃーちゃんがいるから、問題ない。」


  「術の展開で負けなければどうにかなりそうね。」


  「筋肉に負けはない!勝てる!」


  最後だけゴリラだったけど大丈夫なのかな…まあいいや、みんなそれなりに自信あるようだし大丈夫か。


  「さーてさて!休憩はもう少しで終わりだ!各校!第2試合の準備を頼む!」


  「よし、行こうぜ!」


  第2試合、瀑海高校1年1組、干支十二家、未口遥乃(ひつじぐちはるの)の登場だ。

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