第四十五集 十二家集結

 6月20日 10:05 らく道旅館 ロビー


  辰仁大(たつにまさる)、妖術に関わる者なら知らない者はいない。辰仁家現当主にして現干支十二家統括、小さい頃からなんでも出来ていたことから全能之龍(ぜんのうのりゅう)とも呼ばれている。


  そしてこれも知れ渡った話ではあるが、今でも追っている妖魔がいるとの事らしい。学生時代に逃がしてしまって以来ずっと追っている、なかなかの粘着質でもある。


 んで唐突にステージに上がって大声で喋らないで欲しい、びっくりする。


  「今年は十二家の者が勢揃いするかなり珍しい年だ、しかも皆1年生と来た、期待してるぞ諸君!」


 へぇ、全員1年生か。確かに珍しいな。


  「お兄ちゃん!こんなところで何してるの!大阪城連れてってくれる約束でしょ!早く行こうよ!」


  「わかってるよ美也たん、後で行こうね!という訳で最初の試合は11時からだ、各自準備しておくように!以上!」


  なお、極度のシスコンとしても知られている、そんな干支十二家統括であった。


  「1つ言い忘れた、この後に十二家だけで集まりがある。十二家の者は先に洛陽闘技場に入っておくようにな。美也たんごめーん!今行くよーん!」


  締まらないな統括さん…


  それはそれとして面倒なことが増えたな、十二家の者は洛陽闘技場に集まれって?めんどくせぇ…てか洛陽闘技場ってどこだよ…


  10:15 洛陽闘技場


  さすがに初めて来る場所だから、豪に案内してもらった。


  「他のみんなには会うのは初めてなのか?魁紀。」


  「そうだな、だいたい十二家の集まりがあったとしても親に付いて行くことはなかったからな。」


  めんどくさいからね。


  「それは羨ましいな、俺は毎回毎回強制連行だったからな!あっはっは!」


  辰仁家は大変そうだな…


  「にしても、誰も来ないな。」


  「そうだな、他の学校の者はともかく、正(ただし)たちも見当たらない。」


  また申喰(さるばみ)と喧嘩してるのかな。


  すると、闘技場の入口から足音が聞こえた。


  「退けや犬!わしが先に入るんや!」


  「君こそ退いてください!邪魔です!」


  申喰と小戌丸(こいぬまる)が競走してた…


  「この犬、試合前に1発ぶん殴ったろか!」


  「やれるもんならやってみてください!」


  「2人とも!」


  「邪魔や鳥!」

  「邪魔です酉脇さん!」


  「最後まで言わせろッコ…」


  なんだかいつもの酉脇が想像出来てしまった、あの間に挟まるのは可哀想だな…


  「うるさいわね、もう少し静かに出来ないのかしら。」


  「ほんっと、もう少し黙れないわけ?」


  「2人とも、顔が怖いよ…」


  鬼寅、午上、卯道の3人が続いて入ってくる。


  「ヒッヒッヒッ、仲が良くで羨ましいですねえ。」


 さらにその後ろから子浦(ねうら)もやってきた。


  「いや、あれが仲良いに見えたら眼科行ってきた方がいいぞお前。」


  「おやおや、丑崎魁紀じゃないですか、話すのは初めてになりますねぇ。」


  そう言えばそうだったな、基本龍太郎が相手してたから構ってやれてなかったな。


  「うちの龍太郎がお世話になったよ。」


  「ヒッヒッヒッ、こちらこそ。次は勝たせてもらいますけどね。」


  やる気があるようで何よりだ。


  「さて、あとは北海道校と沖縄校だな。姉上もまだみたいだし、少し待とうか。」


  「豪見ぃっけ!!私と結婚しろーー!!」


  目の前から豪が消えた、おかしいな、今話してたはずなのにな。と思ったら1人の女性に抱きつかれて倒れていた。


  「真琴(まこと)か!久しぶりだな!だがその誘いは断らさせてもらうぞ!あっはっは!」


  その状況でよくそんなことが言えるもんだ、俺だったら発狂してるぞ、色んな意味で。


  「亥尾(いお)さん、あれだけ走らないでって言ったのに…人の話はちゃんと聞くものですよ。」


  これはこれはまた知らない人だ、制服は真っ白で肌も真っ白、なんだか不健康にも見える。ただ髪は長くて黒くてツヤツヤ、美人だ。


  そんで今豪に抱きついてるのは亥尾か、とにかく何事にも真っ直ぐで何も考えずに突っ込むという噂だったが、噂は本当らしい。


  「えっへへ!豪を見かけたからつい、ね!」


  「はぁ…まったく…お久しぶりですね豪。」


  「律(りつ)も久しぶりだな、これであと北海道にいる彼女だな。」


  律と言ったか、さっきはちゃんと見えなかったが、あれは蛇眼(じゃがん)だな。ということは巳扇(みおうぎ)か。


  蛇眼は巳扇家の者ならばみんな生まれつき持っている。瞳の色が金に近づけば近いほど、眼の力は強くなる。巳扇のあれは完全に金だ。


  「みなさーん、お久しぶりですメェ。北海道の十二家が私だけとかいじめですメェ…」


  メェってことは、未口(ひつじぐち)だな。わかりやすい語尾で助かる。


  「そんなことはないぞ遥乃(はるの)、俺たちはいつだって心は一緒だ!あっはっは!」


  暑苦しいを通り越してもはや気持ち悪いぞ豪。


  これで全員か、12人全員揃うのは初めてなんじゃないかな、今まで少なくとも俺は集まりになんて行ったことがなかったし。


  「みんな、お揃いの様だな。」


  「なんやなんや、全員揃えて何のつもりや。」


  最後に豪のお姉さんともう一人、誰だ?


 「兄貴、ええんかこんなとこ来て、犬の臭いが移ってまうで。」


 「今何か言いましたか猿。」


 「おう言うたわなんか文句でもあるんか?」


 「そこまでにせぇジブンら。」


 また口喧嘩が始まる2人だったが、申喰が兄貴と呼んだ人に止められた。そんで兄貴ってことは兄弟なのか、この2人。


  「うん、みんないい表情をしてる。これならこれからも安心出来るというものだ。」


  「どういう事だ?姉上。」


  「私と申喰は今年で卒業だからな、お前たちはこれからの十二家を担う者だ、それに見合う力を備えてなければならない。」


  担うって言われてもね、俺らまだ学生なんだけど。


  「特に豪、魁紀、正、律。お前たちは天下五剣の内4本を持っているわけだから、頑張ってもらわないと困るぞ。」


  残りは1本か、特に聞いたこともないから分からないけど、どこにあるんだろ。


  「豪の鬼丸(おにまる)、魁紀の童子切(どうじきり)、正の大典太(おおでんた)、律の数珠丸(じゅずまる)。残った三日月(みかづき)は未だにどこにあるか分からないが、いずれは回収しないとな。」


  回収って、そんなどっかで落ちてたり刺さってたりするもんじゃないと思うんだけどな。


  「さて、話は以上だ。お前達、対抗戦でも期待してるぞ。」


  そう言いながら、お姉さんは闘技場を後にした。


 「藤十郎、ジブンももっと精進しぃや。ほなな。」


 「そないなこと言わんでもわかっとる。」


 申喰の兄貴も闘技場から出て行った。


  さてと、俺もどうしよっかな。試合もうすぐ始まるし、準備でもするか。にしてもこの洛陽闘技場デカイな、同時に4試合くらい出来そうな広さあるぞ。


  「話終わったみたいやし、わしゃ帰らさせてもらうわ。」


  「そうですね、いつまでも猿臭いのは困りますし。」


  「あぁ?」


  「なんですか?」


  こいつらいつまで喧嘩してれば気が済むんだ?


  「んじゃ、俺もロビー戻るわ、また後でな。」


  「あっはっは!ならば俺も戻るとしよう!行くぞみんな!」


  引率の方なのかなこの人。


  10:30 らく道旅館 ロビー


  ロビーに戻ったあとは、ただひたすら校長先生達の説明を聞いていた。後遺症の残らない程度に技の力を落とすだのなんだの、任田祭の時にあんだけハチャメチャにやってみんな大丈夫だったかは特に心配ないと思うけどね。


  今日1日目は4試合、それが4コート分あるから、1日だけで合計16試合もある。順番は1年生、2年生、3年生の順に行われ、全試合終了後に点数集計の為1日休みを挟み、次の日から3位決定戦と決勝を行う。


  中々ハードなスケジュールだけど、最初で仕事が終わるようなもんだから楽っちゃ楽だな。


  10:55 洛陽闘技場


  「5組!集まってくれ!」


  根元先生が呼んでいる、どうせいつも通りのあれ。


  「田口さん、松永さん、羽澤さん、新井さん、丑崎さん。年に一度の2度目の祭りだ、遠慮は要らない、自分の持てる全ての力を吐き出せ、相手を蹂躙(じゅうりん)しろ!」


  年に一度しかないならなんで2度目なんですかね。んでなんかいつもと違って物騒な感じするし。


  「ただ俺が言いたいのは結局1つしかねぇ!全力で楽しんでこい!」


  「「はい!!」」


  最初の試合は北海道校、瀑海(ぼうかい)高校1年4組、陰陽のスペシャリストだ。

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