第四十四集 犬猿の仲
6月20日 7:00 新横浜駅
今日は対抗戦当日、大阪に向かうのに朝早く新横浜駅にいるわけだ。それにしても朝早すぎると思うんだよね、起きたの6時だし、羽澤が起こしてくれなかったら絶対寝過ごしてた。
そこでだ。
「なんでお前らもいるんだよ千代川。」
「観戦に決まってるだろ!負けたとはいえ観戦は自由だからな!」
「心配ご無用だ丑崎殿、拙者が見てる限り千代川にはなにもさせまい。」
「くそ!何しやがる張璇!服を引っ張るな!」
なるほど、ならば安心だ。
「全員揃いましたね、ではただ今より大阪に向かいます。年に一度の対抗戦、みなさん、張り切って参りましょう。」
すごく落ち着いてるように聞こえるけど、物凄い熱意を感じる校長先生の言葉であった。
「よしじゃあ5組行くぞ、俺たちは1番後ろの車両だ、早くしねぇと間に合わなくなるぞ。」
1番後ろか、1番後ろって階段登ってから遠いからあまり好きじゃないんだよね。やっぱり1番は階段登ってすぐのところだ、人は多いけど楽だからいいのだ。
「座る順番はそうだな、適当に奥から詰めてけ。それか今のうちに一緒に座りたいヤツらと固まれ。10秒で支度しな。」
出来るわけねぇだろ。まあ別に特に一緒に座りたいやつが居ないからいいんだけども。
「魁紀!出場メンバー5人で固まろうぜ!」
「それいいね!松永さんも一緒に話さない?」
「私、にゃーちゃんがいるからいい。」
「そんなこと言わずにー!ほらほら!」
仲良さそうで何よりだ、じゃあ俺も行くとしようか。
夏と羽澤の無理矢理の誘いで、出場メンバー5人で固まることになった。かと言って、新幹線の中でなにかするというわけではないけどね。
7:15 新幹線(新大阪行)
「にゃーちゃんって凄いよね、色んな動物に変化できて。ネコ科以外には変われないの?」
「それは、出来ない。にゃーちゃんはにゃーちゃんだからね。」
「にゃあー。」
なるほど、つまり猫は猫の範囲を超えられないって事か。まあ、唐突に象とかになってもビックリするだけだしね。
「そうかぁ、でもにゃーちゃんは可愛いからなんでも許されちゃうよね。」
可愛いは正義、可愛いは古今東西変わらぬ正義だからな、古事記にもそう書いてあった、読んだことないけど。
「あっ、せっかくだし、みんな恋バナでもしよっか!」
「「えぇ…」」
一同困惑であった、そして羽澤のその発言のせいで周りから妙な視線を感じる。みんな相当気になるんだろうね、俺らの恋バナ…
「せめて好きな人だけ!ね!」
なんだろこの感じ、南江を相手してるみたいだ。お前は違うと思っていたが、やっぱり同じだったか…
「じゃあ新井君から!お願い!」
「し、仕方ねぇな!」
おっとこれは答えてくれる流れ、期待してるぞ、夏。
「こ…ことり…」
「「ひゅーひゅー!」」
声ちっさすぎてたぶん本人には届いてないと思うけど、こういう時は煽ってやるのが礼儀ってやつなんだろう。
「あぁ…死にてぇ…」
「まだ死ぬな、副将の仕事が残ってるんだから。」
「魁紀、それ副将戦が終われば死んでいいって意味だぞ…」
「そんなつもりは無いだけどなー。」
「おいこっちを見て話せ!目をそらすな!」
なるほど、夏にも恋心があったというわけだな、これは略して夏恋とでも言っておこうか。
「ほら、次はてめぇらの番だぞ。」
「1つ提案だけどいいかな。」
なんだ龍太郎、今になって逃げるのか?
「一斉に言おうじゃないか。」
「なるほどそれはいいね、他の人の声で自分のが遮られるかもしれないからまだ普通に話せるという事ね。うん、それで行こう!じゃせーの!」
待て待て、そういうノリでいいのか?いいんだな!?
「ともみ…」
「にゃーちゃん。」
「秘密!」
「いない。」
おっとこれは…
「「お前らずるいぞ!」」
夏と龍太郎が同時に叫んだ。
「なんだよそれ!」
「松永はともかくだ、羽澤と魁紀、お前らはずりぃだろ!」
「だっていないから仕方ないじゃん。」
「女の子の秘密を暴こうなんて、龍太郎君はまだ懲りてないのかなー?」
「ひぃっ!」
羽澤のメンタル攻撃、効果はバツグンだ。
「それにしても、魁紀君いないはちょっと驚きだね。」
「そんなことないだろ、普通だよ普通。」
「これは鬼寅さんも苦労するね…」
「なんで鬼寅の名前が出てくるんだ?」
「いや、なんでもないよ。」
気になるな、でも鬼寅のことだし特に考えることはないか。
結局新幹線の中では、ずっと羽澤に振り回されながら5人で会話を続けた。夏と龍太郎が言い合いになったり、松永がずっとにゃーちゃんとイチャイチャしたり、ときたまにゃーちゃんが俺の所に来てスリスリしたりと、意外と心地よい時間を過ごした。
9:40 新大阪駅
「ここが大阪か!おこしやす〜。」
「それは京都だ。」
「そこはなんでやねん!だろ!」
うるせぇなこのゴリラ、さっきの死にたい顔はどこに行ったんだ。
「皆さん、今から洛陽高校の代表が迎えに来ますので、もう少しお待ちください。」
洛陽高校か、確か陰陽と武術の両方の専門クラスがある高校だったっけな?
「なんやなんや、えらい犬臭い思ったら、かの小戌丸様がおるやないか。」
あっ、これはなんか嫌な予感が…
「なんだ、猿の分際で鼻が利くではないですか、いっその事犬になったらどうですか?」
「なんやとわれぇ、その自慢の大典太たたっ斬ったろか?」
「やれるもんならやってみて下さい!」
「2人ともそれまでだッコ。」
ッコ?
「邪魔すんなや鳥!」
「邪魔しないでください酉脇(とりわき)さん!今こそこの猿を!」
「いい加減にしろッコ、いつも間に入ってる俺の気持ちも考えろッコ…」
ダメだ、語尾のせいで全く会話の内容が入ってこない…
「へっ、しゃーないわ、今回は鳥の顔を立てて許したるわ、感謝せぇよ犬。」
「こちらこそ、酉脇さんに免じて、許してあげますよ猿。」
「あぁ?」
「なんですか?」
小戌丸に突っかかった方が申喰藤十郎(さるばみとうじゅうろう)、十二家申喰家の現当主の次男。
んで間に入って止めてた方が酉脇湊(とりわきみなと)、十二家酉脇家の現当主の長男。
にしても、犬猿の仲とはこういうことかと言わんばかりのやり合いだったな。
「ではすみません、申喰(さるばみ)さん、酉脇さん、案内をお願いしてもよろしいですか?」
「「お任せ下さい。」」
そこはちゃんと丁寧なんだな。
喧嘩はあったものの、その後はちゃんと2人が案内してくれた。泊まる場所はらく道旅館、名前だけは聞いたことあるけど実際に来るのは初めてだ。聞いた限り日本一の旅館とのことだ、これは楽しみ。
10:00 らく道旅館 ロビー
歩いてざっと20分、らく道旅館に着いた。
「よし、じゃ部屋は班別で別れろ、荷物を置いたらまたここに集まってくれ。」
先生の一言でみんながそれぞれの部屋に向かう、班別の部屋とかなんだか懐かしく思える。
10:03 らく道旅館 410号室
「みんな、荷物は置いたかな!ロビーに戻るよ!」
南江の指示を聞くのも久しぶりだ、ここ最近は代表メンバーで動いていたから仕方ないか。
「魁紀君!私たちの為にも頑張ってね!」
「まあ、やれることはやるよ。」
「自信なさそうじゃん魁紀、魁紀なら大丈夫だって!」
「ありがとうな健太、それより属性纏いはもう大丈夫なのか?」
「あ、あぁ…もうあのようなことは起きないよ…」
先生に怒られたもんな。
「では行くぞ!おー!」
「おー!」
「「おー…」」
相変わらずの男女によるテンションの差である、これもまた懐かしい。また第五班で任務とかやりたいな。
10:05 らく道旅館 ロビー
ロビーに戻ったら凄い人数が集まっていた、うちの学校は1組が観戦で来ているけど、他の学校も同じように他クラスが来てるのかな。
「全員!注目!」
上から声が聞こえた、すごくいい男の声が。
「よく集まってくれた!妖術学校の諸君!君たちは今日から1週間妖術学校実力対抗戦で戦ってもらう!会場は洛陽闘技場!君たちの若き青春の力!この辰仁大(たつにまさる)に見せてみよ!」
辰仁家現代当主、そして現干支十二家統括、辰仁大だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます