妖術学校実力対抗編

第四十三集 幕開けの前触れ

  6月3日 9:00 1年5組教室


  任田祭が終わってから約2週間、特に何事もなく過ぎていく毎日。授業やら訓練やらと、割と忙しかった、そう考えると何事もないわけではないな。


  羽澤がクラスに戻ったことで教室は前より少し明るくなった、羽澤も縛られるものが無くなって気分は楽そうに見える。ただ家族がいなくなったことは変えられない、忘れることも気にしないこともできない。でも今を楽しく過ごす義務はある、その手伝いを同居人の俺がやるべきだ。


  「まあ、なるようになるだろ。」


  「どうした魁紀、独り言か?」


  「そうだ、独り言だ。」


  「なんだ、そんなことより昨日柏井師匠が言ってた属性纏いを教えてくれよー。」


  昨日の午後、俺ら第五班男子メンバーは師匠のところで修行していた。師匠がそろそろ属性纏いくらい覚えないと、次に妖魔に襲われた時は何も出来なくなると言われたから、俺以外の3人は属性纏いについて修行し始めた。


  そして健太が今俺に教えを乞うてるという訳だ。


  「教えてって言ってもな、俺は教えるの下手だからイメージくらいしか言えないぞ。」


  「それでもいいから!お願い!」


  「はぁ…じゃあまず妖気を纏うでしょ?その後に妖気をイメージしながら、そのイメージを炎のイメージに自分の頭の中で変えるんだ、そしたら勝手に手に炎が纏うから。健太なら簡単に出来ると思うんだけどな、妖気の流れが分かるんだから。」


  「おけ、やってみる!」


  いや、教室の中でやっても怒られるだけなんだけど…


  「よしお前ら、席につけ、今日も授業やってくぞー。」


  「できた!!あっ…」


  「できた…じゃねぇ、村上さん、今から職員室まで着いてきてもらおうか。」


  「あっ…はい…すみません…」


  ほらね。


  「まあ今度から気をつけろよ、では今日の予定について少し話すぞ。」


  今日の予定、また珍しいイベントでも始まるのか?


  「対抗戦は20日から1週間弱、今年は大阪で開催される。それについての学校集会がある、もう少ししたら体育館に行くから、準備しとけよ。以上だ。」


  大阪かよ、わりかし遠いな。


  9:30 体育館


  「皆さん、おはようございます。校長の藤原です。本日は少しの時間を頂き、対抗戦についての説明をしようと思います。」


  対抗戦かぁ、果たして内容は任田祭と同じなんだろうか。個人的には先鋒戦から大将戦のような試合方式がいいんだけど。


  「試合方式は任田祭の決勝戦と同じく、先鋒戦から大将戦の団体戦を行います、それを全学校で行います。そして各校の1年生から3年生までの総合勝ち点で、3位と4位による3位決定戦、そして1位と2位による決勝戦を行います。」


  つまり、1年生から3年生、そして各2クラスあるから、決勝まで合計6試合やらないといけないって事か。


  「そして3位決定戦と決勝戦なのですが、学年関係なく、選抜された5名による団体戦で行われます。各学年から1名、さらに2名を大将に選んでいただきます。」

 

  対抗戦は任田祭と違って割と早く終わるのがいいね、しかも最後は俺の出番ないだろうし、自分の試合さえこなせればOKって感じだな!


  「ちなみに今年の選抜の確定枠は、大将、3年1組辰仁鱗(たつにりん)さん。副将、2年1組源拓(みなもとたく)さん。中堅、1年2組辰仁豪(たつにごう)さん。以上の3名となります。」


  よし、優勝クラスの大将だからって選ばれる訳じゃないんだな。これであとの2人は2、3年生から選ばれることになるだろ。


  「お話の途中失礼します。校長先生、大将に選んでいただき、誠にありがとうございます。残りの2名は私が選ぶという事なのですが、今選んでも大丈夫でしょうか。」


  「大丈夫ですよ鱗さん、お好きなように。」


  「ありがとうございます。では先鋒、1年2組、小戌丸正(こいぬまるただし)。」


  マジかよ、2、3年生のことは尊重しなくていいのかの。


  「そして次鋒、1年5組、丑崎魁紀(うしざきかいき)。以上の2名でお願いします。」


  聞き間違えかな、今次鋒のところで俺の名前が聞こえた気がするんだが。


  「承りました、ではその5人で団体戦を行います。小戌丸さん、丑崎さん、よろしいですね?」


  「わかりました、この小戌丸正、全身全霊をかけて!」


  「正直やりたくないですけど…選ばれたからには、全力でやらさせていただきます。」


  さらに正直に言うと、断ってしまったら辰仁姉に何されるか分からないからである。だって怖いじゃんあの人…


  「ふん、我が先祖の剣を持ちながら、名誉ある対抗戦に出たくないだと?ふざけるのも大概にしろ!」


  「源さん、そこまでにしなさい。」


  「ちっ、申し訳ございません。」


  あの源って人、もしかして源頼光の子孫なのか。我が先祖の剣って言ってたし、たぶん童子切の話だろ。あとで酒呑様に聞いてみよ。


  「では対抗戦の説明は以上です、質問のある方はいますか?いないのでしたらこのまま教室に戻って授業の続きをお願いします。ありがとうございました。」


  10:10 1年5組教室


  教室に戻り、とりあえずは自由時間だそうだ。オンスターでも買って今日の水分補給でもしようかな。(※水分補給にはなりません)


  「というわけだ、丑崎さんおめでとう!対抗戦頑張れよ!」


  まあそう簡単にはやりたいことやらせてくれないよね。


  「それはまあ選ばれたからには頑張りますけど、先生は源先輩についてなにか分かりますか?」


  ついでだし、ちょっと聞ける話だけ聞いてみようかな。


  「源拓さん、源頼光の子孫で、妖術陰陽武術と三拍子揃ってなんでもできるとんでもないやつだ。集会の時に丑崎さんに突っかかったのも仕方ない、許してやってくれ。元々自分の家の物が他人の手に渡ってるんだから。」


  「でも、史実上は源頼光が当時丑崎家の当主に渡したというのが事実ですから、俺に突っかかってもどうしようもないんですけどね。」


  「だからあんまり気にするな、あんな感じだけど実力は本物だ、2年生の中ではかなりの人気者だぞ。」


  そこら辺はどうでもいいけどね、人気だろうがモテようが正直どうでもいい。いや良くないな、モテたら良くない、俺が血祭りに上げたくなる。


  「わかりました、ありがとうございます。」


  よし、じゃあちょっと酒呑様にも聞いてみようか。


  (酒呑様、ちょっといいかな。)


  (頼光の子孫の話か、いくら頼光の子孫であろうと、あれでは頼光の足元にも及ばん。)


  (足元にも及ばないんだ…)


  (なに、あんな一言でビビったのか?カッカッカッ!心配いらぬわ、あんな小僧副将とかいう座についてるが、先鋒の小戌丸の小僧にも及ばぬわ。)


  そんなに実力の差があるのか…


  (だから魁紀、お前が心配することは無い。)


  (そうか、ありがとう。)


  (では我は一眠りするとしよう、昼寝の時間に話しかけてくるから眠気が酷いわ。)


  (今まだ10時過ぎなんだけど…)


  (うるさいわ、我が昼寝と言ったら昼寝だ、異論は許さん。)


  (あっはい、おやすみなさーい。)


  実力がそうでも無い…って言われてもな、経験の差はやっぱりあるだろうから、強いは強いだろ。にしてもあんなに突っかかって来る必要あったかな、なんだか最初の羽澤を思い出すよ。


  ではまあ、頑張るか。あと2週間くらいあるし、修行と学校の勉強、両立は難しいだろうけど頑張ろう。


  21:30 源宅


   真っ暗な夜の源宅の前に、怪しい妖気が漂っていた。それに最も早く、源拓は気付いていた。


  「貴様、姿を表せ、何者だ。」


  「クハハッ!まあまあ落ち着けって、お前の敵じゃねぇ。」


  黒いマントで身を隠す怪しい者が影から姿を現す。


  「ならばなんだ、俺の敵でなくとも、貴様を斬らない理由にはならないぞ。」


  「お前、童子切を取り戻したいだろ。」


  「なに?」


  「俺が協力してやるよ、一緒に丑崎魁紀から童子切を取り戻そうぜ?そしたら酒呑童子の力と童子切の力が両方手に入るって訳だ。悪い話じゃないだろ?」


  怪しい者は源拓に取引を持ち掛けた、お互いウィンウィンの話だ。


  「断る、童子切は既に頼光様が丑崎家に託したもの、今更取り返そうなどと…」


  「あらら、でもお前はそれでいいのか?あんな情けないやつで、人妖である丑崎が持ったままでもお前は納得できるのか?」


   一度断る源拓に、怪しい者はさらに畳みかける。


  確かにこいつの言う通りだ、なぜあんな奴に童子切が渡ってしまったんだ、そもそも童子切はもう抜かれることがないという話ではなかったのか!もしや丑崎家が…


   源拓は疑った、丑崎家が何かを企んでいるのではないか、妖魔と手を組んだのではないかと。


  「わかった、協力しよう。だが、童子切を取り戻すだけだ、それ以外のことについては協力はしないぞ。」


   いとも容易く、源拓は怪しい者の取引に応じた。


  「クハハッ!それでいい!!交渉成立だ!!じゃあ次は大阪で会おうぜ、じゃあな!」


   そうして、怪しい者は姿を消した。


  「何者だったのだ…あいつは…」


  21:40 姫路城 城壁上


  「クハハッ、上手く騙されやがって、やはり人間は愚かな生き物だ。いいか源拓、お前は童子切が欲しいだろう!クハハハッ!だがその願いは叶わない、全て俺様!そして!玉藻前様のためだ!」


   真っ暗な夜の姫路城を綺麗な月明かりが照らすが、邪悪な嗤いがそれをすべてかき消した。

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