第四十一集 約束は守ろう

  5月21日 10:00 任田高校 グラウンド(観客席)


  今日は2年生、そして明日は3年生の試合。俺らはもう終わったから特に気にする事はないけど、先輩達の試合を見学して学べることもあるだろうから、こうして見学をしてるわけだ。


  隣には解説と実況の夏と龍太郎がいる。俺はというと、道連れだ。


  解説と実況って言っても観客席でただはしゃいでるだけだ、本当にこいつらに解説と実況やらせたら大変なことになる。


  「本日はこの眩しい日差しの中、2年生の試合が行われようとしています。本日実況を担当させていただきます、1年5組田口龍太郎です。よろしくお願いします。」


  「同じく1年5組、解説の新井夏です、よろしくお願いします。今日も暑いですなぁ龍太郎さん。」


  「全くです、昨日よりも暑くなるかと思われますので、選手の皆さんには水分補給を欠かさないで欲しいものです。」


  なんで意外とそれっぽいこと言えてる、センスあるな。


  「では早速試合の実況を始めたいと思います、最初は2組と3組の試合ですね。」


  「聞くところによりますと、今の2年生の代には十二家の者がいないとの事です、ゲストの丑崎さん、どう思われますか?」


  俺に振るんじゃねぇ、てか俺ゲストだったのかよ。


  「そうだな、十二家も別に全部大家族とか、全世代いる訳じゃないから、普通だよ普通。」


  実際十二家だって普通の家庭だ、子供多く欲しかったら多く作るし、欲しくないなら作らない。一応分家とかもあるけど、話すと長くなるからまた今度だな。


  「なるほど、ありがとうございます。では実況に移ります、龍太郎さん、よろしくお願いします。」


  「わかりました、ただいま武術代表の試合が始まりました。いやぁ、何をやってるか全く分かりませんね!」


  お前それでいいのか?実況なめてるのか?


  「そうですね、手に妖気を纏わせて戦ってるように見えますが、何をやってるかはよく分かりません。ゲストの丑崎さん、どう思いますか?」


  だからこういう時に振ってくんじゃねぇ。


  「あれは妖気纏いの次の段階だ、例えばこうとかな。」


  簡単に妖気を纏い、その妖気のイメージを炎に変えた。


  「おお!凄いな魁紀!どうやったんだ!?」


  実況のキャラどこに行ったよ。


  「イメージだ、拳を握って妖気を纏い、その妖気のイメージを自分で考えて変えるだけだ。簡単だぞ。」


  「なるほど!じゃあ俺は…ぐぬぬぬぬぬ!お!できたっあっちぃ!!」


  「馬鹿野郎!そんなにでっかい炎出してどうすんだ!」


  「全く、何をやってるのよ、ほら。」


  「羽澤か…助かった…」


  羽澤が水をかけてくれた、危ねぇ、そのまま燃えるところだった…


  「じゃあ今日の家事は全部魁紀がやってね!よろしくー!」


  「あぁ!ずるいぞそれ!」


  あまりにも卑怯である、やらかしたの俺じゃないのに…あっ、これは龍太郎を引っ張って来て家事やらせる他ないな、そうしよう。


  「でよう魁紀、これ普通に炎呼び出せたらさ、呪符とか要らないんじゃないか?」


  夏の疑問はごもっともだ、結果同じものを出せるなら呪符なんて要らないかもしれない。だけどそれは違う、呪符の場合、もう既に下地として呪符の紋章というのが出来ている。簡単に言うと、妖気の回路みたいなものだ、回路が出来れば、あとは妖気と自分の想像で術を放てる。


  じゃあこの纏ってる状態に意味はあるのかと言うと、ある。呪符による術は基本飛ばすことしか出来ない。例外もある、卯道の回復とかが主にそうだ。では留めたい時はどうするかと言うと、この感じで妖気のイメージを変換させるんだ。


  「そんなことないぞ、龍太郎はともかく、夏は武器に属性を纏えるようにすると、さらに強くなるぞ、前のあのふざけた夏祭とかよりよほどね。」


  「やめてくれ…もう思い出したくないんだ…」


  「照れんなって、かっこよかったぞ、な、つ、は、な、び。」


  「ああああああああぁぁぁ!!!」


  「というわけで、実況を続けましょう、龍太郎さん。」


  これを機に夏に成長してもらおう、色んな意味で。


  「おっと、ちょうど今武術代表の試合が終わりました。2対1で2組の優勢です。」


  「やっぱり、十二家がいない分、パワーバランスが偏ることはないか。」


  「そのようですね、続きの試合も実況私、田口龍太郎と、ゲストの丑崎魁紀がお送りします、ではまた、CMのあとで会いましょう。」


  なんだよCMって、誰がやるんだよ。


  でも、やっぱり2年生の試合は見本になるね、戦い方が俺らとまるで違う。要するにちゃんと考えてるってことだ、俺らみたいにとりあえず持てる力を出し切れ!って訳じゃないから。


  「あっはっは!昨日は惨敗だったな!魁紀!」


  「いつの間に隣にいたんだ。」


  「さっきからだ!」


  あっそう…


  「昨日は悪いな、ズルした。」


  「なんのことだ、身に覚えがないぞ。」


  「そう思ってくれるならいいや。」


  「なに、自分の内に存在する別の力とはいえ、それも魁紀の力の一部だ。だから俺はそれに負けたとしてもなんの悔いもない、だから謝ることは無いぞ!あっはっは!」


  「そうか。」


  実際酒呑様の力を借りたのはずるい、だってあれは俺の力じゃないんだからね。


  「では俺はこれで失礼するよ。あっそうだ、明日の姉上の試合、見ものだぞ。」


  「どういう意味でだ?」


  「なに、俺より強いだけだ。」


  お前のさらに上がいるのかよ、引くぞ。


  「あっはっは!上にはさらに上がいる、世の中は怖いものだな!」


  なんか冷や汗出てるのは気のせいかな…


  15:00 任田高校 グラウンド(観客席)


  2年生の試合が全て終了した。対抗戦に出場するのは1組と4組だ、やはり十二家が存在しない状況において1組は化け物だな、全試合において圧倒だった。


  そんなこんなんで今日も帰るとしよう、龍太郎と羽澤を連れて。龍太郎のせいで火事が起きたから家事をやってもらう、羽澤にも説明してある。


  15:15 自宅


  「「ただいまー。」」


  「お邪魔します…あの、マジで俺家事やらなきゃいけないの?」


  「そうだ、とりあえずご飯は羽澤が作ってくれるから、その後に食器洗い、洗濯物、色々やってもらうぞ。この家2人で片付けるの大変なんだから。」


  「なるほど…わかった、やっちまったもんは仕方ない、やってやるよ。」


  よし、タダで働いてくれる労働力ゲット。


  「じゃあとりあえず飯だな、羽澤、頼むわ。」


  「はーい。」


  16:00 自宅


  「「いただきます。」」


  16:40 自宅


  「「ご馳走様でした。」」


  「めっちゃ美味しかった!」


  「そう?ありがとう!」


  「という訳だ龍太郎、ここからは頼むぞ。」


  「任せろ!」


  果たして本当に大丈夫なんだろうか、少し心配だけど、まあ大丈夫だろう。


  15分後


  「よし、食器は終わったぜ。次は洗濯物か、魁紀、洗濯物はカゴの中のやつ全部洗濯機に入れりゃいいんだよな?」


  「おーそうだ、頼むー。」


  いや待てよ、全部ってことは全部ってことだよな…まずい!


  俺は洗濯機のところに向かって走った、そして時すでに遅しということに気づいた。


  「魁紀…こいつはもしかして…」


  「あぁそうだ…それで1つ約束を思い出したんだ…」


  「なんだそれは…ひぃ!」


  「そう、俺と羽澤の洗濯物は…え?」


  後ろから禍々しい気配がする、すぐに命乞いをしなければ死ぬって気配が…


  「魁紀、約束したよね、私たちの洗濯物は別々に入れるって…約束したよね?」


  「はい、しました…」


  「それで龍太郎君の手に持ってるそれはなんなのかな?」


  「は、羽澤の…下着だと思われるもの…です…」


  あれはもろに羽澤のパンツだ、てかなんで未だに握りしめてんだ…


  「まあ大丈夫だよ、仕方ないもんね、男の子なんだし。」


  「ふぅ助かった…」


  おいバカ、こういう時にそんな台詞言っちゃったら!


  「だから私がここで君たち2人を燃やすのも仕方ないよね、女の子なんだから。」


  「「え…?」」


  「まず家の外に行って。」


  「「はい…」」


  言われるがまま玄関の外に出た。何をされるんだ…燃やすって言ったからきっと炎呪符のなにかを使われる…


  「よし、もし死んだとしても、明日先生とみんなに言っておくから安心して!」


  「「待っ!!」」


  「炎呪符(えんじゅふ)・獄炎(ごくえん)!」


  みんなは地獄の業火と呼ばれるものを知ってるだろうか、そう、俗に言う蒼い炎だ。今まさにそれを放たれた、これは…無理だ…


  みんなは女の子との約束は、絶対に守ってね…

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