第四十集 新居

  5月20日 16:00 帰路


  任田祭一日目が終了し、俺たち5組は帰路についた。見事優勝を勝ち取り、対抗戦の切符を手に入れた。


  そんな帰宅途中、電話が鳴った。


  「魁紀お疲れ様、お母さんよ、ちょっと大事な話があるんだけど。」


 お母さんからだった。


  「どうした、そんな意味深に。」


  「羽澤さんをうちで面倒を見るって伝わってると思うんだけれど。」


  「うん、今日聞いた。」


  別の人が面倒見てくれる!なんてことになったとか。


  「猛(たける)さんが工房近くに大きい家を空けてくれたから、これから魁紀と羽澤さんはそこに住みなさい。」


  え?うそ…でしょ…?


  「いや、でも俺の荷物とかないし…」


  「もう全部運んでもらったわ、じゃあよろしくね。あっ、ほかの友達を呼んでも構わないそうよ、家賃はお母さんが払ってあるから、心配しないでいいわよ、じゃあまた何かあったら連絡してちょうだい。」


  切れた…え、うそじゃん…急に家から追い出された気分だ…実際に追い出されたわけだけど…


  「おい魁紀、どうしたんだよ急に立ち止まって。」


  「あぁ…夏、俺の帰る家が変わった…」


  「どういうことだ?」


  「今日から一人暮らしだ…いや、同棲生活が始まる…」


  「それって…もしかして…」


  そのもしかしてだ…最悪だ…なんであの母は一欠片の心配もないんですかね!男女2人が同じ屋根の下で暮らすんだぞ!いいのか!あんなことやこんなことが起きるかもしれないんだぞ!!ああああああああぁぁぁ!!


  「という訳だ羽澤、今日から2人で暮らすことになる、よろしく…」


  「変なこと…しないでね…」


  しねぇよ頬を赤くするな上と下を手で隠すな。


  あと友達誘ってもいいとは言うけどさ、みんな呼ぶわけにはいかないだろ。


  「よし!じゃあ今日は新しい魁紀君の家で祝勝会だ!来れる人はみんな来てね!」


  「「行くー!」」


  「いや来るな!祝勝会もやらねーから!」


  こういう時に限って南江のやつ調子乗りやがって。


  16:15 新居前


 ドアの前に張り紙、えーと、家の前の配達用の箱に入ってると、俺の妖気を流せば解除できる。なるほどなるほど、ってそんなことより…


  「だから来るなって言ったろ!なんでほぼ全員付いてきてんだよ!」


  ちゃんと帰ったのは松永班くらいだな、つまり今ここには24人もいるわけだ。


  「だってなー、魁紀と羽澤の新居って聞いたら行きたくなるだろ!」


  「ならねぇよ、てか全員帰れ!」


  「私は帰らないわよ、あとこの家貸してるの私だから、ちゃんと感謝しなさいよね。」


  「げっ、鬼寅…」


  「げっ、ってなによ!」


  あっしまった、つい驚いてしまった。それよりいくら俺に家を貸したからと言ってなんでこいつがここにいるんだ。


  「いいかしら、私は言わばあなた達の家主なのよ、ちゃんと敬意を払って接しなさい。」


  今更何言ってんだこいつ。


  「で、なんでわざわざ俺に家を貸してくれるんですか?鬼寅様?」


  「な、なによ、その言い方…」


  「いやお前が敬意を払えって言ったろガハッッ!痛った!なにすんだよ羽澤!」


  「その言い方はデリカシーに欠けると思うなー魁紀。」


  今言われたことにそのまま従っただけなんだけど…


  「で、なんで俺らに家を貸してくれることになったの?」


  「それは…李英さんがそうして欲しいって…」


  なるほど、お母さんの仕業か、なら後で問い詰める必要があるな。


  「そうか…でもありがとな、こんな大層な家貸してくれて。」


  「別に…魁紀のためじゃないし…」


  「ん?なんだって?」


  「なにもないわよ!」


  なんで怒ってんだよ…


  「よし羽澤中入るぞ、荷物は届いてるらしいから、お互い荷物を片付けたりしよう。それとお前ら、来たからには全員手伝って貰うからな。」


  「あぁ、俺用事思い出したから!琴里!帰ろうぜ!」


  「私も家事やらなきゃ!千尋ちゃん一緒に帰ろ!」


  「ダメだ、てめーらは今から俺らに使われる無料の労働力となってもらう!羽澤、全員拘束だ。」


  「了解!」


  羽澤の陰陽で全員拘束してもらって、中に連れていった。


  家の中に入るとまあびっくり、2人で暮らす家じゃねぇ。てかこれワンチャンクラス全員入れそうなレベルだぞ。


  「でっかい家だな、よくこんなの鬼寅が貸してくれたもんだ。」


  「本当ですね、こういう所はさすが十二家と言わざるを得ませんね。」


  「なぁ朋実、これお前ん家よりでかくないか?」


  「そう…だね…でもうちはほぼ道場だからまた違うよ。」


  感心してる4人だが、こいつらに感心してる暇はない、働いてもらわなければならない。


  「お前ら、じろじろ見てないで働け。夏と龍太郎は俺と羽澤の指示に従って荷物の場所移動、大谷と五十鈴は他の奴ら集めて買い物と祝勝会の準備だ。」


  「え、荷物運ぶの俺と龍太郎だけ!?」


  「そうだ、大して多くはないけど、どれもこれも重いからお前ら2人で十分だ。」


  「「クソ上司だ…」」


  付いてくるなと言ったのに付いてくるからだ、全力で働いてもらうぞ。


  「丑崎さん、結局祝勝会はやるのですね…」


  「こんだけ人が来ちゃったから仕方ないでしょ、やるしかない。というわけで買い出しを頼む、近くにスーパーがあるからそこで買ってきてくれ、お金はあとで払っておくから。」


  「わかりました。」


  五十鈴達は心配なさそうだな、スーパーで大人数で行ってるけど、邪魔にならなければ大丈夫だ。


  「では、始めるぞ。」


  17:20 新居改め自宅


  「はぁ…終わったぁ…」


  「なんで…大した量じゃねぇのに…あんなに重いもんばっかなんだ…」


  「よくやったお前ら、今から飯作るぞ〜。作れても作れなくても手伝え〜。」


  「「これがブラック企業か…」」


  荷物の整理は終わった、夏と龍太郎の働きもあって意外と早く終わった。あとは料理作ってもらって適当に菓子つまんで祝勝会と言ったところか。


  「なぁ魁紀、なんか焦げた匂いしない?」


 夏に言われて少し嗅いでみる。


  「言われてみればそうだな、待てよ、まさかそんな定番な展開が起きてるわけないよな!」


  「ありえそうだぞ、これ…」


  羽澤、夏、龍太郎と4人で台所に向かって走った。


  そしてそこには、思いもしなかった惨状が起きていた。


  「これで完成です!」


  満足気に、五十鈴は炭なのかなんなのか分からないものを差し出してきた。


  「おい夏、お前これ知ってたのか?」


  「あぁ、琴里は昔から料理が絶望的に下手なんだ…」


  「なんでそれを早く言わなかった…」


  「だってまさか琴里が作るとは思わなかったじゃん…」


  正直、料理なんて大層なものを期待してたわけではない。唐揚げとかポテトフライとか、後片付け面倒だけど揚げるだけで簡単に出来上がるものでいいと思ってた。


  なのに…


  「どうしてこうなった…」


  「なにか焦げた匂いがすると思えば、なによこのザマは。」


  「なんだ、家主の鬼寅様じゃないですか、何しに来たんですか?」


  面倒なところにさらに面倒なやつが来てしまった。


  「なによ、来て悪かったわけ?あとその言い方はやめなさいって!」


  「あーはいはい、で何しに来たの?」


  「ご飯にてこずっているようだから私が手伝ってあげるわよ。」


  なるほど、いいところに来た。炭しか食べれないようじゃ祝勝会もくそもないからな、仕方ない。


  「じゃあ、頼む。」


  「珍しく素直じゃない。」


  「という訳だ五十鈴、もう二度と鍋とかに手をつけるな、いいな?」


  「は、はい…」


  夜は長く続く、別に変な意味じゃなくてな?料理をする者、それを手伝う者。それを他所に遊ぶ者、さらにそれを叱る者。みんな違ってみんないい、みんなそれぞれ自分のやりたいようにやる、学生ってそんなもんだろうな。


  5組の祝勝会なのに2組のやつがいるのはちょっと違和感があるが、本人が手伝ってくれるんだから、文句を言うのは野暮だろう。ともかく俺たちは2組に勝ち、対抗戦の切符を手に入れた、だからこれでいい。


  祭りのあとの祭りはそう長くない、だけどその短い瞬間はみんなの記憶に残る。簡潔に言うと楽しかった!片付け超大変だったけど!


  明日明後日は2年生3年生の試合、もう俺らは終わったからただただ観戦するだけでいい、気楽なもんだ。あとは対抗戦のために、準備するだけだ。

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