第三十九集 ズル

 5月20日 14:25 任田高校 グラウンド


  なんで麻雀なんだよ、もっといいネーミングなかったのかよ。しかも国士無双とか役満出てきたし、親なら32,000点、1発で終局だな。


  「大好きな麻雀を陰陽にしたんだ、威力は役満級、十二家の者とはいえタダじゃ済まないよ!」


  なんかよくわからんが、3つ同じ牌?が4組現れて、裏返しになって1枚すつ鬼寅に突っ込んでいく。


  「はぁ…寅神(どらがみ)の陀羅琥(たらく)よ、我に力を与えたもう、捧げるは我が魂の咆哮、蹴散らせ!寅気(こき)!」


  両手で受け止めた、だけど受け止めるので精一杯に見える、受け流さないと鬼寅が押し切られる。


  「さすがは鬼寅家だね、ではもう一手!雀呪符・一気通貫(イッキツウカン)!」


  さっきの陰陽の間を貫通するように鬼寅に向けて発射される。


  「間から!」


  「よっし!」


  羽澤の一気通貫が鬼寅を吹き飛ばした、勝負ありだな。


  「鬼寅ダウン!勝者、羽澤!」


  「陰陽は想像力!つまり麻雀!」


  それは絶対に違うと思うぞ。


  「勝ったよ!みんな!」


  これが本当の羽澤なんだろうな。麻雀好きなJKか、悪くは無いが違う意味で大丈夫なのだろうかと心配になる。


  それと家族を失った傷は癒されることは無い、たぶん今も我慢しながらみんなのために頑張ってくれている、だから特になにか言葉をかける必要はないだろ。


  「ごめん豪、負けたわ。」


  「あっはっは!気にすることはないさ、正が勝ってくれる!」


  「はい、お任せ下さい。」


  「続いて副将戦、両者前へ!」


  副将戦、相手は小犬丸正(こいぬまるただし)、対してこちらからは夏だ、力の正面衝突になることが予想出来るけど、果たしてどちらが勝つか。


  「オイラは小戌丸正、よろしくお願いします、新井さん。」


  「新井夏だ、よろしく。」


  「始め!」


  「天に向かって叫べ!哮天犬(こうてんけん)!」


  戌気(けんき)とはまた違うなにかかな、よく分からないけど、先程と比べて気迫が変わったのは見ればわかる。


  「オイラの戦い方、存分に見せてあげますよ、新井さん!」


  「上等だ!十二家がなんだってんだ!勝ってやるぜ!」


  さてさて、ここは是非夏に勝って欲しいのだが、相手は小戌丸と来た、しかも今の状態でも割かし強い状態だ。夏が身体強化できる術(すべ)を持っていればまだ相手になると思うけど、どうなるかなぁ。


  「よっしゃ!今日いろいろ見てきて思いついたことを試すぜ!」


  なんだ?危ないことする訳じゃないよな?


  「名付けて、夏祭(なつまつり)だ!おおぉぉぉぉ!!!」


  頭悪そうなネーミング…そんでなんの効果なのかもイマイチわからん…


  「面白い名前ですね、ではオイラはここで見てます、術の発動を邪魔するのは野暮ですからね。」


  「分かってるじゃねぇか、だがそんなに待たせることはないぞ、今に見てろ!」


  なんとなくだけど、夏の妖気が増加していくことがわかる。ただ武術をメインとする夏にとって、妖気をむやみに増やすのはかなり危険なんだけど大丈夫なのだろうか。


  「夏といえば、海、スイカ割り、そして祭り!騒いで、はしゃいで、一夏(ひとなつ)のいい思い出となる。さあよってらっしゃい見てらっしゃい!新井夏の夏祭(なつまつり)だ!」


  なんかもうわからん、どうでもいいしもうなんか見たくない…なんでそんな傾奇者みたいな構えなんだ、武器を担いで左手を前に突き出して、いかにもいよ〜とか言いそうな感じ。


  「面白そうな技ですね!ここからは参ります!オイラと大典太の力、見せてやります!」


  「テンションが上がる!力が漲る!行くぜ、夏花火(なつはなび)!」


  「爆発の攻撃ですか、では、犬牙相制(けんがそうせい)!」


  小戌丸の攻撃から犬の牙の様な衝撃波が飛び出し、夏の攻撃を相殺した。


  「次!蛸焼(たこやき)!」


  食べ物出てきたー!グルグル回ってるだけなんだけど!


  「これは強力そうですね、オイラも!狂犬(きょうけん)!」


  小戌丸も回り出した、なんだ、お互い同じような技を出し続けるゲームでもしてるのか?


  10分後


  「どうしたのです新井さん!もう終わりですか!」


  「まだだ…はぁ…まだ俺の夏は…終わってねぇ…」


  いやまだ夏入ってねぇよ、5月だぞ、気が早すぎるよ。


  「では終わりにしましょう、犬獰(けんどう)!」


  小戌丸の突きが入り、夏は倒れていった。


  「新井ダウン!勝者、小戌丸!」


  あぁ…来ちゃうよ…大将戦が…どうせ俺勝てねぇって…


  こんな考えしてたら根元先生に怒られるだろうけど、事実だから仕方ない。負けるとわかってて戦いたいやつなんてそうそういないだろ、ちなみに俺は戦いたくないタイプです。


  でも豪のことも考えるとちゃんと全力でやった方がいいしなぁ…あっそうだ、酒呑様に任せるという手はどうだろうか、今のうちに相談してみるか。


  (酒呑様、ちょっと相談があるんだけど。)


  (今度はどうした、やけに話しかけてくるではないか、暇なのか?)


  (そんなわけないでしょ、次大将戦なんだから。)


  (ほう、そうであったか。して、相談とはなんだ?)


  (大将戦、俺と変わらないか?)


  (カッカッカッ!!面白いことを言うじゃないか魁紀!いいだろ!我もこの領域にいては暇ゆえな、華麗に勝って見せよう!)


  よし、あとは念の為に豪に説明しておけば大丈夫だ。まあ、ちょっとずるい気もするけど、仕方ないよね、勝つためだもの。


  「いよいよ大将戦!両者前へ!」


  「豪!最初に言っておく、この大将戦、戦うのは俺じゃない!」


  「あっはっは!なら誰が変わりに戦うと言うのだ!」


  「酒呑様だ。」


  周りがざわつき始める、今から日本三大妖魔の一柱が降臨しますよって言ってるのと同じだからな、そりゃそうなる。


  「あっはっは!それは面白い!1度手合わせしてみたかったところだ!来い!」

 

  「大将戦!始め!」


  (酒呑様、あとは頼む。)


  (カッカッカッ!華麗に勝利としよう。)


  前と同じように、酒呑様に体のコントロールを譲る。前は意識が飛びかけてたから、外のことは全くわからなかったけど、今回はちゃんと全てが見える。


  「貴様が辰仁豪であるな?」


  「ああそうとも!酒の瓢箪、金棒、そしてその赤い髪と金色の角!お前が酒呑童子か!」


  「そうだ、魁紀の頼みだからな、我が相手してやろう。」


  頼むから俺の体で好き放題だけはしないでくれよー、後に反動を受けるのは俺だからね。


  「ではハンデだ、酒の瓢箪はここに置いておく。この意味がわかるか?」


  「なるほど、酒は飲まないということか、かの酒呑童子が酒無しで戦うとは想像もつかないな。」


  「カッカッカッ!今の世界の法がどうだのと魁紀が言っておったからな、子孫のためだ、今は仕方なく従ってやってるのよ。なに、それでも十分貴様と戦えよう、さあかかって来い、小僧。」


  「ならば遠慮は要らないということか!参る!」


  …


  あの刀、鬼丸か。この頼光の童子切と並ぶ天下五剣の一振、名前の通り鬼の強さを持ってして鬼を滅ぼす刀だ。かと言って我に通じることは無いがな。


  「どうした小僧!それで本気か!」


  「さすがは酒呑童子だ、これくらいじゃ届かないということか。」


  「カカッ!貴様に手加減出来るほどの余裕があるとは、我もなめられたものよ。」


  「なめてるわけではないさ、では本気で参ろうか!辰神(たつがみ)の普剱瓏(ふけんろう)よ、我に力を与えたもう、捧げるは我が魂の怒り!轟かせ!辰気(りゅうき)!」


 「よい、よいぞ!その妖気、間違いなく十二家最強のものだ!我が認めてやろう!だが我は妖魔酒呑童子にして妖魔の頂点である!我が力を持ってして、貴様ら人類最強の力をねじ伏せてやろう!」


  「画竜点睛(がりょうてんせい)!」


  また力を借りるぞ、頼光よ。


  「神便鬼毒(しんべんきどく)!」


  この技で我はやつに頭を撥ねられた。まあ宴の最中ゆえ、油断していた。だが我を討つ者なら、やつ以上の適任はおらん、ゆえに。


  「我を討てるのは天上天下、頼光のみぞ!」


  「辰仁ダウン!勝者丑崎!!」


  (勝ったぞ、魁紀。)


  (うん、いつもありがとうな、酒呑様。)


  (礼などするでない、気持ちが悪い。)


  (あぁ!礼くらい素直に受け取ってくれよ!)


  (そんなことどうでも良いわ!変わるぞ。)


  …


  「任田祭、1年生のトップは!5組に決まりだ!」


  「「やったーーーー!!!」」


  だいぶずるい気もするけど、勝ったからよし!

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