第三十八集 隠れた優しさ
5月20日 14:00 任田高校 グラウンド
1つ気になったことがあったから、童子切を握り、酒呑様に聞いてみた。
(酒呑様、今のあの松永ってどういう状態なんだ?)
(なに、あの小娘も言っておっただろう、憑依だ。)
憑依、霊などが体に乗り移ることを指す、その場合、だいたい霊が体のコントロールを得るが、体の主導権は松永が持ってるっぽいし、なんだかよく分からない。
(あの小娘、随分とあの猫に信頼されておるな、力を貸してやってるというのに見返りはなしだ。カッカッカッ!世にも珍しい妖魔がおったものだ!)
前に酒呑様に助けてもらった時も割と見返りなしだった気がするんだけど…うん、何も言わないでおこう。
(それより魁紀、あの小娘、早くどうにかしてやらないと死ぬぞ。)
(それはどういう意味だ?)
(そのままの意味だ、明らかに体があの猫の妖気に耐えられておらぬ、あと数分もすれば死ぬだろう。)
それは流石に嫌だな、試合を止めるか松永を気絶させて憑依を解除させるか。しかも気絶させたとして憑依は解除されるのかどうかも不明、一体どうすりゃいいんだ…
「あんた、あたしをなめてるわけ?」
「そんなこと、ない。」
「じゃあなに?その自分の命を削る行動は?腹立つんだけど。」
「にゃーちゃんのためなら、私はなんでもする。」
「はぁ…あーっそ、ったく、これだから死に急ぎのやつは…」
午上の気配が変わり始めた、なにかブツブツ言ってたようだけど、何を言っていたかはよく聞こえなかった。
「午神(うまがみ)の裟瑪倶(さばく)よ、我に力を与えたもう、捧げるは我が魂の熱誠(ねっせい)、守れ、午気(ばき)!」
「凄い気迫だけど、負けない!」
「もう時間がないの、だからこれで終わり、白馬(はくば)。」
午上は松永に手をかざし、白馬とやらを放った。松永は反応することすら許されることはなく、その場でゆっくり倒れた。すると松永の体は元に戻り、隣にはにゃーちゃんも寝ていた。
「松永ダウン!勝者、午上!」
「こんなの、勝負にすらなってないっての。」
午上は松永に近づき、にゃーちゃんを討つのかと思えば、松永とにゃーちゃんを抱え、こちらまで歩いてきた。
「丑崎、見てないで手伝ってくんない?重いんだけど。」
「お、おー、すまん。」
松永とにゃーちゃんを受け取り、午上は歩き去っていた。
「流石蘭ちゃん!よくやった!」
なんだろ今の声、知らない声だ。
「えっ!小戌丸さん!!」
「兄上じゃないですか!来ているなら何故言ってくれなかったのです!」
なるほど、小戌丸のお兄さんか、それになんで梁も知ってるんだ?
「よっと、悪い悪い、ちょっとした縁があってな。おお!君はあの時の梁君か!もうそんなに大きくなったのか!」
小犬丸のお兄さんは観客席から飛び降りてきた。梁とは昔会ったことあるのか、ならば納得だ。だけどなんでこんなとこにいるんだろう。
「自己紹介が遅れたね、オイラは小戌丸強(こいぬまるつよし)、小戌丸家の長男だ!」
「で、なんであんたがここにいるわけ?大阪で任務なんじゃないの?」
「そうなんだけど、正(ただし)の初めての任田祭だから見たくて見に来たんだよ。それと蘭ちゃん、よく茉己ちゃんを眠らせてくれた、もし本当ににゃーちゃんを討つことがあればオイラが手を下さないといけないところだよ。」
「するわけないでしょ、あんなの見ればわかるよ。んじゃ、あたしは戻る。」
「相変わらず素直じゃないなー。」
話が全く見えてこない、なんの因果で小戌丸のお兄さんがここにいて、このタイミングで出てきたのか。
「よし、状況がわかってないようだから簡単に説明するぞ。オイラは約10年前に、オイラの独断と偏見でそこのにゃーちゃんを保護することにしてるんだ、ちゃんと許可証も出してる。だからにゃーちゃんはこの学校に入れてるし、オイラがここにいる。以上!」
いやいやいやいや、全くわからんって。10年前とかだいぶ前だな、でも確かに、妖魔が学校を簡単に出入りしてるってのもおかしな話だからな、それなら辻褄が合う。
「というわけで、茉己ちゃんとにゃーちゃんはオイラが陽葵さんのとこに連れてくから、みんなは試合の続きを楽しんでね!ほんじゃ!」
そう言いながら、小犬丸さんは松永とにゃーちゃんを連れて行った、正確には運んで行っただな。
14:18 保健室 松永茉己サイド
あれ、いつの間に気を失っていたんだろう。私は確か試合で、午上さんと…にゃーちゃん!
「にゃーちゃん!!」
「ほーらよしよし暴れないでよー。」
「もしかして、小犬丸さんですか?」
「おー!目が覚めたか茉己ちゃん!よかった!」
「にゃー!」
目が覚めて唐突にこの状況はちょっと理解に苦しむけど、にゃーちゃんが無事なら、よかった。
「なんでこんなとこに小戌丸さんが?」
「弟の試合を見にね、それと君たちの様子もね、オイラが君たちをこの学校に入れて、妖術の勉強もオイラが手配したんだから、オイラがちゃんと最後まで面倒を見ないとね。」
そういう事だったのか、それなら、納得。
「あと、もう少し成長するまで、あの術は禁止だ。茉己ちゃんの体はまだあの術についていけないんだから。」
「はい、すみません。にゃーちゃんのことを思ったら、つい…」
「それは仕方ない、でもね、蘭ちゃんは最初からにゃーちゃんを討つつもりなんてなかったと思うよ。」
「なんで、そう思うのですか…」
「蘭ちゃんはね、命の重さを知ってるからだよ。そして茉己ちゃんが命を犠牲にしてまでにゃーちゃんを守ろうとしてたのも分かっていたから、あの術を使ってくれたんだよ。」
そうだ、白馬と言われた瞬間に意識が飛んだんだった。
「あの術は相手の戦意を完全に消失させるものだよ、使う相手は状況によって限られるけど、あの時の茉己ちゃんにはピッタリだったね。」
状況、頭に血が上っていたとか、そんな感じなのかな。
「見た目と口調はあんな感じだけど、実は十二家の中で1番優しいんだ。だから茉己ちゃんも許してやってね。」
そうだったのね、午上さんは私たちを…
「じゃあオイラはここら辺で、任務サボってるのバレたら鱗(りん)ちゃんに怒られちゃうからね、またね!」
「はい、また。」
「にゃー!」
私は、何をしようとしてたんだろ…なんか、バカバカしくなってきちゃった…
「にゃぁ…」
「ごめんね、にゃーちゃん、ありがとう…」
14:20 任田高校 グラウンド 丑崎魁紀サイド
「続いて中堅戦、両者前へ!」
相手は鬼寅か、遠距離でも戦える羽澤なら互角に戦えるかどうか。
「あんた、さっき見てたけど、随分と魁紀と仲良さそうだったわね。」
「仲良いって訳じゃないけど、1回殺しかけた相手だからね。それと今後は居候させて貰うことになった相手だし。」
「い、居候!?」
「そ!」
何を話してるんだ、意外と距離あるから聞こえないんだよね。
「ふ、ふーん、あっそう。」
「なになに、気になるのかな?」
「そんなことないわよ!」
「始め!」
「雷呪符(らいじゅふ)・光雷(こうらい)!」
聞いたことない術だな、でもさすがだ、新しい術を構築した上に詠唱破棄も習得している。
「いきなりやってくるとか失礼なやつね、猛虎(もうこ)!」
「先手必勝ってやつだよ、炎氷呪符(えんひょうじゅふ)・爆牢(ばくろう)!」
なにその情報量の多い術は、炎が爆ぜて、その後に氷の檻(おり)が鬼寅を囲んだ。なるほど、わからん。
「これは呪符の同時発動、頑張って習得したから使わないともったいないでしょ?」
「虎落笛(もがりふえ)。」
「術を全部消されたか、全く酷いことするね。」
鬼寅の虎落笛で羽澤の術が全部消し飛んだ、やはり実力差がある上、羽澤の試合の経験不足ゆえか。
「なんてね、私はこんなとこでやられるために帰ってきたわけじゃないよ。」
羽澤が構え始めた、陰陽であんな構えは見たことがない、そもそも術を放つのに構えは必要としないはずなんだけど、わからない。
「陰陽というのは想像力だって教わってね、ここで私が今できる最強を見せてやる!雀呪符・四暗刻(スーアンコ)!」
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