第三十五集 男の子は単純

第三十語  5月20日 10:50 任田高校 グラウンド


  「第2試合、1年4組 VS 1年5組、武術代表、前へ。」


  いよいよだ、俺たちの1週間の練習の結果を今ここで出す。必ずみんなで対抗戦に出場するんだ。


  「日高さん、早川さん、大谷さん、頑張って!そして全力で楽しんでこい!」


  いつも通りの根元先生の決め台詞、これが意外とやる気出るのよね。


  「始め!」


  「行きますよ〜。」


  「しゃーおら!」


  「やってやる!」


  武術において、現代では刀が主流だけど、うちの武術代表は3人中2人が素手、1人は金属バット。なんかもっと普通なやついなかったの?


  日高は足技、前に午上(うまがみ)相手に見せてくれた鷲勇脚(しゅうゆうきゃく)のような猛烈な技を使っていた。


  早川は金属バット、なにか仕込みでもあるのかなと思っていたがそんなことはなく、ただ金属バットを振っているだけ。でも見てるこっちからしたら凄い怖い。


  大谷は拳だが、未だにこれといった技などは使ったことがない上、練習でも勝利したことが無い。個人的な考えだが龍太郎と今までずっと鍛錬してきたから、龍太郎程ではなくてもある程度の強さは秘めていると思う、恐らく南江と同じくらい。


  「最初から本気で行くよ〜、対妖魔格闘術(たいようまかくとうじゅつ)・陸剃脚(りくそきゃく)!」


  「大将の命令だ、本気で行かせてもらう、薄緑(うすみどり)!」


  「私も、もう負けない!対妖魔格闘術(たいようまかくとうじゅつ)・降龍十八掌(こうりゅうじゅうはっしょう)!!」


  降龍十八掌(こうりゅうじゅうはっしょう)、昔の中国で使われていた技、まさかここで見れるとは思わなかった。ていうかやはり大谷凄いな、中国拳法の使い手か?南江もそんな感じがしたけど、もしかしたら2人はそういう師匠の元で修行してるのかな。


  10分後


  「そこまで!」


  「やった〜!」


  「よっしゃぁ!」


  「やっと勝てた!」


  3人全員勝利っと、スタートは順調だ、このまま全勝したいな。


  「次、陰陽代表、前へ。」


  新谷(しんたに)、井上、水間(みずま)、相性にもよると思うけど、問題ないとは思いたい。さすがに相手が全員弱点をついてくることはないと思うから勝てる。


  「始め!」


  「「氷呪符(ひょうじゅふ)・吹雪(ふぶき)!」」


  うちの3人全員同じ術を使いやがった。さては事前に打ち合わせしたな?


  3人が同時に吹雪を使うと、グラウンド全体が吹雪いてきた、まじ寒い。


  「なんということだ、グラウンドが吹雪に包まれた!さ、寒い!」


  実況の人も困ってるじゃん、早く決着付けないと寒さで死ぬ…


  「みなさん、私のところに集まってください!」


  五十鈴がみんなに声をかけると、自然みんなが寄ってきた。なにこれ、人口密度を上げて暖まろうってやつか。


  「これで寒くないですよ。」


  言いながら五十鈴は手に火を灯した。なるほど、呪符の応用で篝火(かがりび)を作ったってわけか。


  「暖けぇ…」


  「夏、近いです。」


  「琴里が集まってって言ったじゃん。」


  「それにしても近いです!」


  「あっちぃ!!」


  上手に夏が焼けた、うむ、これだとまだまだ生だな、もうちょっと焼かないと。


  そんなこんな言ってるうちに、試合中の3人が終わらそうとしていた。


  「「炎呪符(えんじゅふ)・爆(ばく)!」」


  おかしいなぁ、団体戦じゃないはずなんだけどなぁ、なんでこんなに息ピッタリなんだろー。そして3人の術により相手は全員ダウン、唐突な温度の上昇かつ爆発に耐えれなかったんだろう。


  「そこまで!」


  「「よーし!」」


  これで6勝、妖術で1戦勝てば俺らの勝ち確だ。だがもちろん狙うのは全勝だ。


  「次、妖術代表、前へ。」


  「龍太郎!無理しないでね!」


  「おー、わかってら!」


  「班長頑張れ〜。」


  「ちょっと魁紀君!応援するならもっとやる気を出してよ!」


  「行くよ、にゃーちゃん。」

 

  「にゃおー。」


  うちの班長達にとっちゃ負ける方が難しいかもしれない、全員目が本気だからね。あっ、ちなみに見えずらいけどにゃーちゃんの目も本気だ、たぶん。


  「始め!」


  「遠慮はしねぇ、全力で楽しませてもらうぜ!」


  「譲ってくれた枠だからね、負けないよ!」


  「猫又変化(ねこまたへんげ)・黒豹(くろひょう)。」


  「アアァァ!!」


  さすが松永、手が早い。龍太郎は体が心配だけど大丈夫として、うちの班長は果たして大丈夫なのか、試合経験1戦しかないけど。


  10分後


  「よっし!」


  「やったね、お疲れ様、にゃーちゃん。」


  「にゃー!」


  そして。


  「ごめんみんなー!負けたーー!」


  南江敗北、ほぼほぼ初陣だしまあ仕方ない。


  「次、団体戦代表、前へ。」


  いよいよ出番だ、パッと終わらせて対抗戦の出場券頂きに行こうか。てかもう勝ち越してるから対抗戦決定なんだけどね。


  「新井さん、五十鈴さん、丑崎さん、団体戦なんだが…」


  「「全力で楽しんできます。」」


  「お、おー…」


  そんなにしょぼんとするなって…


  「始め!」


  「よし、夏行ってこい!」


  「えぇ!打ち合わせとかなしかよ!」


  「夏、早く突っ込んでください。」


  「琴里まで…俺泣いちゃうぞ!行ってくる!」


  泣かないだろお前、そしてその勢いで突っ込むな。


  「ちくしょう!仲夏(ちゅうか)ノ段(だん)・黄雀風(こうじゃくふう)!死ぬほど熱い風にやられろ!」


  黄雀風とは梅雨の時に吹く南東の風、湿気を含んだ暑い風だったかな、確か。そしてその技で、敵は少し浮かされた。


  「夏!よくやった!五十鈴!あとは頼む!」


  「わかりました、炎呪符(えんじゅふ)・爆(ばく)。」


  よりによってそのチョイスか、空中で相手が爆散したらどうすんだよ…


  「4組全員ダウン!これにて決着!11対1で5組の勝利です!」


  「「よし!」」


  「お前らよくやったぞ!大好きだぁ!」


  やめてくれ根元先生、暑苦しい…ただでさえさっきの黄雀風で暑いってのに…


  「そして5組が勝利したことにより、対抗戦への出場が決定しました!おめでとうございます!」


  これで1歩前進だ、待ちに待った対抗戦出場、他の4校にはどんな奴がいるのか、楽しみだ。


  「なぁ魁紀、龍太郎、ご飯食べに行こうぜ、学食!」


  そういえば学食なんてあったなぁ、1回も行ったことないけど。


  「1回も行ったことないし、行くか。」


  「行くぜ!腹減ったしな!」


  12:00 任田高校 食堂


  「おい夏、これ本当に学食か?豪華レストランって言われても信じるぞ。」


  「最初に来た時は俺も驚いた、なにせなんでもあるからな。」


  「夏、魁紀、お前ら何食べるんだ?俺はラーメンだ。」


  この後も1試合あるのにそれでいいのか?胃もたれしないのか?


  「気が合うな龍太郎、俺もラーメン食べたかったんだ!」


  夏お前もか、団体戦で動けなくなっても知らんぞ。


  「ならば仕方ない、俺も同行しよう。」


  ラーメン食べます。


  「俺塩!」


  「俺醤油!」


  「俺みそ!」


  こんな綺麗に分かれることあるか?ちなみに俺が塩、夏が醤油、龍太郎がみそだ。


  「お前ら塩ラーメンの良さわかってねぇな?」


  「魁紀こそ醤油ラーメンの美味さ知らねぇだろ!」


  「くだらん!みそラーメンこそ至高だぞお前ら!」


  「じゃあこうしよう、それぞれ頼んでちょっとだけ全員のもらって食べて判決を下すのはどうだ?」


  我ながらいい案だと思う、雌雄を決する時はやはり全員の意見をちゃんと聞かねばならないからな、だから全員の好みをちょっと食べて判断するのだ。


  「「乗った。」」


  「よし、並ぶぞ。」


  漂ってくるラーメンの匂い、これだけでもう十分腹が満たされる。でも足りない、やはり食べなければ…


 待つこと5分


  「「いただきます。」」


  「行くぞ、まずは塩だ。」


  もぐもぐもぐもぐ。


  「次、醤油。」


  もぐもぐもぐもぐ。


  「最後、みそ。」


  もぐもぐもぐもぐ。


  「では判決、美味いと思ったラーメンに指をさせ!せーの!」


  誰も指を指さない、理由なら簡単、何故ならば。


  「「全部うめぇ!」」


  選べなかった…全部美味しかった…塩はともかく、醤油もみそも美味しかった…今まで知らなかった味だ…


  「夏、龍太郎…」


  「「どうした魁紀。」」


  「ありがとう…新しい世界を拓くことが出来た…」


  「俺もだ…今まで醤油の世界に引きこもっていた…」


  「俺だってみそしか食べてこなかった、いいものを知った…」


  こうして3人の仲は、ラーメンによって更に固いものとなった。

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