第三十三集 女の子は難しい
5月18日 10:00 討魔酒場 305号室
昨日のリベンジマッチ、結局豪に全て持ってかれたな。ただ酒呑様があんま納得してなかったな。
…
(おのれ!我の力でもあの小僧に負けるとは!魁紀!我と変われ、今度は我自身があの小僧に天誅を下してやる!)
(酒呑様、これただの練習試合だから、そんなに気にすることないぞ…)
(だとしてもだ!この我が負けたみたいで腹立たしいのだ!)
(まあまあ、また勝負する機会来るからその時にな。てか相手は1年生最強なのに、酒呑様でも勝てるのかな。)
(なめるでないぞ魁紀、たかが高校生1年生最強なぞこの酒呑童子には敵わんよ、こちとら妖魔最強ゆえな、カッカッカッ!!)
妖魔最強って、三大妖魔じゃなかったの?他の2体は強くないの?
…
とまあ昨夜は酒呑様とそんな話をしてた。納得してなかったとは言ったけど、俺が負けたことに関しては納得してるっぽい言い方だった、酒呑様は負けてないけどな!みたいな。
そして今なんだけど、俺と夏は疲れたのと怪我で布団に籠(こも)ってる、龍太郎はまだ起きちゃダメって言われてたけど、普通に動いてる、柿原は俺らの看病、いや病気じゃないんだけどね。
「なあお前ら、いつまで寝てんだ、俺のリハビリに付き合えよ!」
「キャハ!そいつは無理だぜ龍太郎、こいつら今疲弊しきてっるからな!」
「お前ら…うるせぇぞ…」
「すやすやすやすやすやすや。」
ぐっすりだな夏、これが熟睡ってやつか。
「龍太郎…柿原と一緒にリハビリしに行ったらどうだ…明後日には任田祭本番だから寝させろ…」
「おお!分かった!行こうぜ狂夜!」
「おおよ!」
行ったか、全くうるさいやつらだ。それよりも龍太郎のやつ、卯道さんに見つかったら大変なことになると思うけど大丈夫なのかな、まあいいや。
「魁紀君!夏君!お見舞いに来たよ!」
「2人とも、大丈夫なのですか?」
「大丈夫じゃないから静かにしてくれ…特に南江…うるさい…」
お見舞いはありがたいけど静かにして欲しい。
「まあまあそんなこと言わずにぃ!」
「南江さん、本当に静かにした方がいいですよ、卯道さんに見つかったら怒られてしまいますから。」
「わかった!」
実際のところ、大丈夫っちゃ大丈夫なんだが、本番の明後日までは休むかな。豪のやつ手加減ってものを知らないのかな、あんな派手にやりやがって、俺も人の事言えないからあれなんだけどさ。
「ではこちらに食べ物を置いていきますので、調子が良くなったら食べてください。」
「またねー!」
「ありがとう…」
行ったか、わざわざ食べ物とかありがたいねぇ…
「ほら夏起きろ、飯持ってきてくれたぞ。」
「俺ぁ疲れてんだ…もっと寝させろーすやすやすやすや…」
「五十鈴と南江が持ってきてくれたんだ、冷めないうちに早く食べろ。」
「なんだと!?琴里の手作りか!?」
「わからんが起きたならとっとと食べるぞ、いただきます。」
優しい味の弁当だった、今の自分の体に染みる味だった。
その後一日中ずっと部屋にいた、龍太郎と柿原が帰ってきて騒いだり、他のクラスメイトがお見舞いに来たり、なんやかんやあったけど悪くない1日だった。
5月19日 9:30 討魔酒場 305号室
体から気だるさが消え、動いても違和感が無くなった。ようやく自由に動ける、じゃないと体がなまる。今日は誰かと練習って言うよりは1人で素振りでもしたい気分だ。
「丑崎、いる?」
と思ってたらそこには鬼寅お嬢様がやってきた。
「珍しい来客だな、どうした鬼寅。」
「お見舞いに来てやったのよ、感謝しなさい。」
はいはいありがとうございます、頼んでないんだけどね。
「お前、任田祭本番はもう明日だけど、準備とかしなくていいのか?」
「お前じゃない、真由って呼びなさい、私も魁紀って呼ぶから。」
「断る。」
「なんでよ!」
そんなの恥ずかしいからに決まってるだろ、ちょっと仲良くなったからって下の名前で呼ぶと逆ギレする女子だっているから、俺は今までに1度だって女子の下の名前を呼んだことがないんだ…
「理由はどうでもいいだろ、今まで通り鬼寅で呼ぶからな。」
「ふん、じゃあ私は魁紀って呼ばせてもらうわ。」
唐突にどうした、言っておくけど俺は何があっても女子を下の名前で呼ぶことは無いから、その点よろしく頼む。
「好きにしてくれ。」
「それで準備の話だったわね、私たちは魁紀達とは違うの、変な妖魔に振り回されてたわけじゃないんだから。」
はいはいすみませんでしたねそれは、茨木童子なんかに振り回されてしまって。
「授業はどれだけ遅れたの?」
「そうだな、まず妖気纏いを教わらなかった、それと呪符の詠唱破棄とか、これはやらなかったな。でも根元先生のおかげで、1週間以内でみんなできるようになったよ。」
「そうなのね。」
聞いた割にはあんま興味無さそうだなこいつ。
「でも新井君と五十鈴さんだったかしら、あの2人は結構手馴れてる感じだったわね。」
「まあうちのクラスの班長と総班長だからな、あとクラスのみんなはアホばっかだけど、天才肌なんだよ意外と。」
「ふーん、そう。」
だからなんで興味無さそうなんだよ。
「ところでさ鬼寅。」
「なによ。」
「お前何しに来たの?」
今更になって疑問に思ってきた、見舞いに来た割には俺の心配なんて一切して無さそうだし、何しに来たんだ。
「だから見舞いだって言ったでしょ!」
「その割に心配してそうな感じはしないんだが?」
「あっそう、私があんたのこと心配する訳ないじゃない!もう帰るわ。」
「おい待てって!」
ドアを閉められた、マジでなんだったんだ、本当にわからん。
「聞いてたよ魁紀君。」
「うわ!ビックリしたぁ!なんだよ南江かよ、驚かすなよぉ心臓に悪い。」
「あぁごめんごめん、それよりさ、魁紀君ってバカなの?」
「いきなりバカってなんだよバカ。」
「あぁ!バカって言った方がバカなんだよ!」
はいはい、もうお互いバカでいいよ。
「でなんでそうなったんだよ。」
「だって、鬼寅ちゃんの意図が全く分かってなかったみたいだから。」
「いやわかんないでしょあれは、むしろ分かるの?」
「もちろんさ!」
なんか赤いアフロを思い浮かべたけどそれで合ってるのかどうかは分からない。
「まあ魁紀君はあれかな、俗に言う鈍感ってタイプかな!」
鈍感か、むしろこれでも敏感な方だと思うんだけど、特に自分に向ける害意とかに関しては。
「そんなことないぞ、女子に明らかに嫌な顔された時とか普通にわかるぞ。」
「それは普通にわかるよ誰でも…」
なんだと…あの何を考えてるかわからない女子という生物の心情を顔を見ただけで分かったんだぞ!凄いことだろ!
「まあこういうことは魁紀君自身に頑張ってもらうしかないね、頑張ってね!応援してるから!じゃあまたね〜!」
なんだったんだろ、本当にわからない、これ鈍感でわからないということなのか。なるほどどうやら俺は鈍感らしい、なんとなくだがわかった、いやわかってない。
まあ南江の言っていたことは気にしないでおこう、今は関係無さそうだし。それよりも明日の任田祭だ、学年同士で試合するわけなんだが、トーナメント形式で、1組がシード、2組VS3組、4組VS5組、2組と3組の勝者が1組と戦い、その勝者が4組と5組の勝者と戦う。
1組は妖術クラスだからシードなのは毎年のことだが、うちの学年の場合2組にした方が良かったんじゃないかな…
そして1番重要なのが、最後に残った2クラスがもう1つ上の妖術学校対抗戦に出場できる。俺らは1回勝てば出れるが、反対側の山は2回勝たないといけない、まあどうせ2組になるだろう、千代川達には悪いけどさすがに豪達が勝つな。
妖術学校対抗戦まで行くと決勝リーグ方式になって、勝ち点で順位が決まる。要するに勝てばいいって話だ、ただ他のとこにも残りの十二家が散らばってると思うから、そう簡単なことではない。
「でも、勝ちてぇな。」
やるからにはやっぱり勝ちたい、根元先生の言いたいことが今になってなんか理解できた気がした。普段だったら絶対めんどくさいとか言ってたのに、つい本気で勝ちたくなってきた。やっぱり何事にも本気で取り組んだ方が自分のためになるな。
「よし、勝つか。」
さすがに酒呑様の力は封印しなきゃいけないから、先に声かけとくか。
(酒呑様、起きてるか?)
(魁紀か、起きてるぞ、どうした?)
(今度の任田祭と対抗戦なんだけど、万が一のことがない限り酒呑様の力を借りることは無いから先に声をかけておこうと思って。)
(カッカッカッ!そんなことか、よいよい気にするでない。それよりその対抗戦というのはなんなのだ?)
そうか、そこから説明しなきゃいけないのか。
(対抗戦は日本にある4つの妖術学校で行うイベントのようなものだよ、各学校の実力を測るためなのか名誉がかかったものなのかはよくわかんないけど。)
(なるほど、それならやつが狙ってくるかもしれぬな。)
(やつって?)
(玉藻前だ。)
玉藻前、日本三大妖魔の一柱、酒呑様と同等の妖魔だ。ただなんでそんなやつの名前がここで出てくる。
(なんで玉藻前が今更こんなとこで出てくるんだ?)
(前の茨木の1件もやつの仕業だ、今回はこれだけ強者が集まるとなると、やつも放置は出来ぬだろ、おまけに我と魁紀がいるから尚更であろう。)
(それならかなり気をつけなきゃだな。)
(まあ我と魁紀の力があれば十分よ、カッカッカッ!)
(ありがとうな、酒呑様。)
また気をつけなきゃいけないことが増えた、でもその前に任田祭で勝たないと対抗戦もくそもない、だから今はとにかく、みんなで勝つことに集中しよう!
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