第三十集 試合後の練習

 5月14日 15:00 討魔酒場 ロビー


  どうしてこうなったんだろう、友達になってくれと言ったものの、本当になってくれるとは思わなかった。いわゆる自業自得というものか…


  というかあいつ前に俺に関わらないとか言ってたくせに、なんで一言で手のひら180°返ししたんだ。妖魔だって言って吐き気がするとも言ったのに、あの時の鬼寅はどこに行ったんだ…


  「なぁ鬼寅、前に俺が妖魔だからって吐き気がするだのなんだのって言ってたけど、あれはどうした?」


  「過ぎたことグチグチ言わないでよね、あんた無害そうだし、特別に許してあげてるのよ、感謝しなさい。」


  「あ、はい…」


  鬼寅はどこかに行ってしまった。こんなんでいいのか?少なくともおやっさんとの約束はこれで守れそうだからいいとして、今後どうするかだな。


  「あっはっは!よかったな魁紀!真由とと、も、だ、ちになれて!あっはっは!」


  「お前、バカにしてるのか?」


  「いやいや!そんなことはないさ、ここだけの話、真由はクラスに馴染めていないんだ、昔も友達の1人もできたことも無い、だから俺はすごく感心してるのだ!だけどまさか、真由の友達1号が魁紀になるとは、いやはや何が起こるか分からないものだな!あっはっは!」


  こいつやっぱバカにしてるだろ。まあ今となってはどうでもいいや。


  団体戦は結局豪の言う通りに、俺たちは降参した。結局ちゃんとした勝負は出来なかったし、また今度にお預けとなった。1日通しての戦績は1勝8敗1分、最悪の戦績だ、これだと金曜日にもう一度2組と当たることになりそうだ、正直もう嫌だ。


  「丑崎さん、ちょっと5組で話があるから、集まってくれないか?」


  「あ、はい、わかりました。というわけだ豪、また今度な。」


  「おー!またな!あっはっは!」


  相変わらずやかましい、そしてやりづれぇ。


  15:10 討魔酒場 訓練場


  根元先生の招集で、5組全員が訓練場に集まった、一体何の話があるんだろう。


  「みんなお疲れ様!今日はよく頑張ってくれた、今はここにいないが特に田口さん!あいつは相手が十二家であったにも関わらず素晴らしい戦果を上げてくれた、賞賛に値する!」


  でも龍太郎はしばらくは安静だ、少なくとも金曜までは。


  「だがみんなも分かってるはずだ、みんなが2組を相手に全く歯が立たなかったことを。経験の差というのもあるが、実力不足は否めない。」


  もしかしてもっと厳しい訓練とかさせられるのかな、師匠のとこでも修行してるからもういいんだけど…


  「だから明日から2日間、3組と4組との合同練習の予定を、自主練に変更する!誰と戦うのもよし、俺に聞いてきてもよしだ!なんなら1組と2組のやつらを誘え!俺が許す!それでみんな強くなるんだ!そして金曜日、2組にリベンジだ!」


  なるほど、自分のやりたいように成長しろってことか。


  「では解散!みんなゆっくり休むように!そして明日からはくたばらない程度に訓練だ!」


  「「おー!」」


  俺は…程々に練習するとしよう…うん。あとなんかいろんな視線を感じる。やめろ、俺を練習相手に誘うんじゃない。そうだ、これはあれだな、捕まる前に…


  「逃げる!」


  「「魁紀(君)待てぇ!!」」


  やる気だけは十分だけど、もう今日は勘弁してくれ!


  「待ちなさい、丑崎。」


  「き!鬼寅ぁぁ!!」


  目の前に急に出てきたから急ブレーキを掛けた、そして後ろからは足音がいっぱい、これはいかん!


  「魁紀捕まえた!!」


  「あぁぁ離せ!」


  夏に捕まってしまった、やめろ!俺はまだ清楚のままでいたいんだ!


  「ねぇ、私が丑崎に用があるの、離してくれないかしら。」


  「あ…はい…」


  あの夏が素直に離した、鬼寅すっげぇ。


  「着いてきなさい、丑崎。」


  「お、おー。」


  悪いな夏、俺はこのまま逃げさせてもらうぜへっへっへっ。


  そして鬼寅に着いてって10分ほど経つが、どこに行こうとしてるのかが分からない。


  「鬼寅、どこ向かってるのこれ?」


  「…らない…」


  「ん?なんだって?」


  「わからないわよ!」


  いやなんでだよ!着いてこいって言って行先わかんねぇのかよ!仕方ないな、こういう時は男がエスコートするんだっけ?エスコートで合ってるのかどうかもわかんないけど、とりあえず練習にでも誘うか、風情もくそもないけど。


  「鬼寅、俺と試合しないか?」


  「し、試合!?あ、あんたと!?」


  「そうだけど。」


  そんなにテンパることないだろ、さっきだってやったんだし。


  「ふん、い、いいわよ、仕方ないから付き合ってあげるわ。」


  「ありがとうさん。」


  なんだよこれ、俗に言うツンデレってやつか?こんなお嬢様にツンデレは似合わないって。


  まあなんやかんやあって訓練場に戻ってきた、周りには他の奴らが練習してた。試合したり、術の練習したりと、任田祭の為にみんな頑張ってるようだ。


  「じゃあ行くぞ鬼寅、俺は丑気(ぎゅうき)の継続時間を長引かせたいからずっと丑気(ぎゅうき)状態で戦う、よろしく。」


  「いいわよ、かかって来なさい。」


  なんだか楽しそうだな鬼寅のやつ、何かいい事でもあったのか?


  「丑神(うしがみ)の吽那迦(うなか)よ、我に力を与えたもう、捧げるは我が魂の祈り!突っ走れ!丑気(ぎゅうき)!」


  「寅神(とらがみ)の陀羅琥(たらく)よ、我に力を与えたもう、捧げるは我が魂の咆哮!蹴散らせ!寅気(こき)!」


  そっちも使ってくれるか、上等、練習になるってもんよ。


  「遠慮はしねぇ!丑火損(ぎゅうかそん)!」


  「そんなもの!猛虎(もうこ)!」


  「まだまだ!凌水(りょうすい)!」


  「ふん!虎落笛(もがりふえ)!」


  こんな感じでお互い技の応酬となった、やられたらやり返し、さらにまたやり返す、そして気づいたら30分も過ぎていた。


  16:00 討魔酒場 訓練場


  「はぁ…はぁ…もう疲れた…ここら辺で終わりにしよう…はぁ…」


  「なによ…はぁ…情けないわね…こんなんで終わりなのかしら…はぁ…」


  お前もめっちゃ疲れてんじゃん、まあいいや、十二家同士で戦うとどうしてもこうなる、お互い疲れる。


  「いやぁ…悪いな…付き合ってもらって。」


  「付き…合う!?」


  「どうした?」


  「な、なんでもないわよ!バカ…」


  なんなんだ?なんかこんな言葉を聞いたことあったな、女の子は砂糖とスパイスと、不思議な何かで出来ている、だったかな。本当にその通りだ。


  「じゃあ俺は風呂にでも入ってくるわ、あっそうだ、もし良かったら明日からも相手頼んでいいか?」


  「な、なによ、私は便利屋じゃないんだけど。」


  「まあ嫌ならいいんだけどさ、そしたら豪に頼むけど。」


  「べ、別に嫌とは言ってないじゃない!いいわよ、やってあげるわ、感謝しなさい。」


  「はいはい、ありがとうさん。」


  こいつこんな感じだったっけ?前ならもっと吐き気がするわとか言ってたのに、妙に付き合いいいじゃん、見直したわ。


  「じゃあ、またな。」


  「また、ね…」


  なんか寂しそうな猫の目をしてたけど、まあいいか、特に気にしなくて。それよりとっとと風呂に入りたい、大浴場に入って思いっきり足伸ばしてはぁーってやりたい。


  「待て、風呂にはまだ早いぜ、魁紀。」


  その声は…もしかして…


  「なぁ、夏、今日はもう許してくれないか?」


  「いーやダメだね、今じゃなきゃ俺の生まれそうな新技が完成しないかもしれないんだ!」


  かもしれないならいいじゃん別に、明日も明後日も時間あるんだから。


  「丑崎さん、夏の相手はいいので、私の陰陽の的になってください。」


  「おい五十鈴待て、それはどういう事だ、やられろってことか?」


  「はい。」


  真顔で言うな、ただ的が欲しいなら隣にいるだろもっといい的が!


  「とにかく、俺は風呂に入って寝る!いいな!」


  「おやおや、もしかして十二家の丑崎魁紀様はご自信がないのかな?」


  なんだその安い挑発、今度こそ乗らないからな、風呂に入りたいんだから。


  「あぁ?上等だこら、とっとと構えやがれ!」


  「よっしゃ!やってやんよ!」


  またまた安い挑発に乗ってしまった。成長しねぇな俺。


  合同練習の後も休めない、なんやかんや俺たちはもしかしたら戦闘民族なのかもしれない、こういう時は向上心が高いと言うべきか、何はともあれ、もっと成長できるチャンスを手に入れたんだ、大事にしないと!

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