第二十八集 田口龍太郎
5月14日 11:00 討魔酒場 訓練場(観客席)
「午前最後の3試合だ、両クラス気を抜くなよ!では第1試合、子浦慧(ねうらけい) VS 田口龍太郎(たぐちりゅうたろう)!始め!」
「これはこれは、どうも初めまして田口龍太郎殿、私は子浦慧と申しますどうぞよろしくお願いします。」
「ご丁寧にどうも、田口龍太郎だ、よろしく…!」
「ヒッヒィ!!!」
子浦は龍太郎が話してる最中に問答無用で殴りかかった、やはり評判通りだな。
「おやおや、躱されましたか、残念です。」
「人が話してる最中は手を出すなって教わらなかったのか?」
「私の家ではそうは教わってませんね、勝つ為ならばどんな手でも使う、それが私の家の家訓でありますゆえ。」
子浦家、干支十二家のうちで、最も嫌われてる一家である。理由は単純、正攻法が通じないからだ。どんなに汚くても、あの手この手を使って目的を達成しようとする。龍太郎が1番嫌いなタイプだ。
「そうかよ、なら俺はお前とはよろしくできねぇな。」
「なぜそう思うのです?」
「おめぇみたいなやつが大嫌いだからな!さっきお前についての話は聞いたけど、自分の目で確かめたいから流して聞いていたが、本当のクズのようだな。」
「クズとは聞き捨てならないですね、効率がいいと褒めて頂きたい。」
物は言いようだな、効率がよく見えるかもしれないけど、やってきたことは到底許されることではない。
「俺だって別に自分が正々堂々な人間だと言うつもりはねぇ、だけどな、そうやって言い訳して逃げたりはしねぇ。だからおめぇにだけは負けねぇ。」
10:55 討魔酒場 訓練場(観客席)
「田口さん、先生からの大事な話だ。」
「お、どうしたんだ先生。」
「田口さん、お前は子浦さんに勝てます、干支十二家と言えど、辰仁家以外は万能という訳ではない、前に丑崎さんと戦ってわかったと思うが、十分に勝てる可能性はある。」
「辰仁家だけはどうにもならないんだな…」
「あいつらは化け物だ、気にするな。そして子浦さんと戦う時に特に気にして欲しいことだが、絶対にまともに戦おうとするな、呑まれるぞ。」
11:03 討魔酒場 訓練場(観客席)
龍太郎のやつ、大丈夫なのか?さっきの根元先生の忠告覚えてるのか?
「その剣は飾りか?なめるのも大概にしろよ。」
「えぇ飾りです、私の武器はもう既に使いましたので。」
「あぁそうか、どうでもいいけどな!」
「ヒッヒヒヒ、いいのですか?そのまま斬りかかってきて。」
「なに!」
龍太郎が一歩踏み込むと、そこで爆発が起きた。なるほど、武器を使ったってそういうことか。
「私の話を誰かから聞いたのでは無いのですか?それなのにこんな手に引っかかるとは、どっちがクズなのかわからなくなってきましたねぇ?」
「てっめぇ!」
「龍太郎!よせ!それ以上耳を傾けるな!」
罠呪符(びんじゅふ)、見えない罠を張るというすごく珍しい陰陽で、子浦家のお家芸だ。
どこに仕掛けられてるか分からない以上、このまま龍太郎が子浦の口車に乗せられたら龍太郎の身が危ない。
「どうしました?近づかないと私は倒せませんよ?」
「待ってろ、今すぐにぶっ倒してやる!」
「待て!龍太郎!行くな!」
だめだ、完全に術中にはまってやがる、もうこのまま見守るしかねぇのか…
「地面に罠があるなら、空中に行くまで!」
「そうですね、その考えは正しいです、ですが。」
少し跳んで地面の罠を避ける龍太郎だが、爆発は起きた。
「空中に罠がないなんて一言も言っていませんよ?」
「くそぉっ…!」
空中にも罠ってことは、予め展開しておいた罠か。さらに爆発で違うところに飛ばされ、また爆発…連続した爆発が止まった頃、龍太郎はもう倒れていた。
「そろそろ諦めたらどうですか?あなたと私ではレベルが違います。私も人間ですので、人を傷つけるのは心が痛みます…」
「よく…言うぜ…お前みたいなやつが心痛むわけないだろ…」
「おやおや、よくあの罠に耐えれましたね。それはそうとして心外ですね、私とて干支十二家の者、そこの丑崎魁紀とは違い、妖魔になったつもりは無いのです。」
あの野郎…
「おいてめぇ、今の取り消せよ。」
「なんですか?友達の悪口を言われて気に食わなかったのですか?バカバカしい、妖魔を屠る者の中に、妖魔がいてはならないのですよ田口龍太郎。十二家でもないあなたが分からないのも仕方ありません。」
あぁ、やっぱりそう思うやつはいるだろうな…
「やはりお前はクズだ。」
「なんですと?」
「人を外見でしか評価できないお前をクズと言ってんだ子浦。」
「妖魔に中身があると言うのですか?」
「他の妖魔は知らん、魁紀の中にはいろんなものが詰まってんだよ、知りもしねぇで語ってんじゃねぇ。」
龍太郎…
「ヒッヒッヒッ!笑わせないでください、妖魔など全て中身のない空っぽなのですよ。あなた達も茨木童子と対峙して分かったはずです、私利私欲のことしか考えてないではないですか!それをいろいろ詰まってるですと?吐き気がしますね!」
鬼寅の時とは違う、言い方だけで分かる、本当の意味で俺の事を嫌ってるんだろ。
「やっぱりそこ止まりか、ならもうお前とはこれ以上話すことはねぇ、終わりにするぜ。」
ゆっくりと龍太郎が起き上がり、構えを取る。龍太郎のあの構え、今までに見た事ないな。そして妖気を纏ってるから、今までとは比にならないレベルの技が繰り出されるのは間違いない。
「そのボロボロの体で何が出来ると言うのです?大量の罠を張っておしまいです!」
「あぁ、体はボロボロだ、刀を握るのも割としんどいしな。でもな、俺は友達の悪口を言われてはいそうですかって聞き逃すわけにはいかねぇのさ!」
あの刀、童子切に似たような雰囲気だ…
「あなた、その刀は…もしや!」
「ほう?知ってんのか、今日このために持ってきたんだ。2組は化け物だって聞いたからみんなが寝てる間に持ってきた、妖刀(ようとう)・花怨(かえん)だ。」
妖刀、名前の通り素の状態で妖気を纏ってる刀。妖気を持ってない人間が握っても強い力を発揮できるが、その場合握ったあとに妖気を無理やり与えられ、体が耐えきれなかったら妖魔になってしまう。反対に妖気を持ってる人間が握ると、持ち主の妖気と融合し、とてつもない力を発揮する。ただし、コントロールが出来なければ、問答無用で妖魔になる。
「龍太郎!なんでそれを持ってきたの!?」
「へっ、悪いな朋実、もう使わない約束だったな。だけどここで使わないと、任田祭じゃ俺は役に立てねぇ。だから今回ばかしは許してくれ。」
「ダメだよ…前だって…」
もしかして前に1回失敗してるのか?それだとまずいな。
「健太!龍太郎の妖気はどうなってる?」
「今凄く不安定だ、というか龍太郎の妖気、あの刀と全く一緒だ。」
まさか、龍太郎の妖気はあの刀から来てるのか…
「龍太郎はね、昔から凄い正義感が強いやつだったの。ちょっと自分のことばかり考えてたのもあるけど、細矢君の時の件や、丑崎君達と出会ってからだいぶ良くなったの。」
「そうだったのか。」
「元々妖気持ちじゃなくて、妖魔を倒していく十二家の人達を見て、それに憧れたの。だけど私は妖気持ちで、家でも修行はしてたからまだ良かったけど、龍太郎はそれが出来なかった。だから今龍太郎が覚えてる技は全部我流なんだよ。」
あいつすげぇな、憧れてここまでやれる人間はそうそういないって。
「妖気持ちになれたきっかけは、あの刀との出会いだよ。一緒に遊びに行った時、通りかかった刀塚があったんだけど、龍太郎がこの刀だ!って言ってその刀を持って帰ったの、そして抜いた途端頭を抱え始めて、ブンブン刀を振り回してた。」
あぁ、俺が最初童子切を抜いた時のような感じか。分かる、凄くわかる。
「だけどそれも次第に収まって、元に戻った。そしたら気づいたら龍太郎にも妖気が流れていた。それには流石の龍太郎もはしゃいでたよね。ただ私はあれが妖刀だとは知らなかったけど、危ないからもう使わないように約束したの、それがまさか…」
でも刀から妖気が流れ込んで妖気持ちになる人間もいるんだな、初めて聞いた。そして使うのは実質これで1回目か、妖気纏いが出来るとはいえ、本当に扱えるのかどうか。
「今思えば懐かしいな、お前が俺に力をくれた、だけど今回は違うぞ、力を貸してくれ、その代わり、俺の力を貸す!」
「なんです!何をしたのですか!」
「お前には分からんだろ、俺にもわからん、ただ今思ってることは、お前に勝って!俺の力を証明する!」
「バカバカしい、たかが妖刀が私の罠をくぐり抜けられると思わないでください!」
「もうくぐり抜けねぇさ、躱すつもりもねぇ、いや、もう俺はここから動かねぇ。」
構えたところから1歩も動いてない、本当にそれで大丈夫なのか?
「ではこれでお陀仏です、全罠射出(ぜんびんしゃしゅつ)、鼠害(そがい)!」
罠を仕掛けるんじゃなくて飛ばすのか、もはや嵌めるための罠じゃない、当てるための罠だ。
「怨(えん)・花速刀(かそくとう)、水仙(すいせん)。」
一閃、龍太郎の技はまさにそれであった。一瞬という言葉すら遅く感じさせるその技で、子浦は倒れた。だけど同時に、龍太郎も倒れた。
「両者ダウン!引き分け!」
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