第二十七集 実力の差

  5月14日 8:00 討魔酒場 305号室


  目覚めてしまった、結局昨日は20時くらいまで戦いっぱなしだった。張璇と千代川が納得行くまでひたすら団体戦を続けた。その間に、何回も雪代にケツを触られた、正直気持ち悪かったからもう二度と触らないで欲しい。他人にケツを触られる気分ってあんなにも悪いもんなんだな…


  1組との戦績は、団体戦2回戦目以降を除くと4勝6敗、まずまずってとこだな、1組相手によく戦えたと思う。問題は今日の相手の2組だ。まさか十二家のやつが6人も同じクラスに集まるなんて考えられねぇよ。本当に成績通りにクラス分けされるとしたら納得できるけど、それはちょっとチートかなさすがに…


  「ああああああああぁぁぁ!なんで6人もいるんだよちくしょう!うちにも2人くらいよこせや!」


  「はっ!?ビックリしたー、魁紀うるせぇぞ!」


  「かぁぁぁ…へへっ、五光だぜ、俺の勝ち…かぁぁぁ…」


  龍太郎のやつ夢の中で花札でもやってんのか?


  「ああすまんすまん、目の前に迫ってくる理不尽に対して文句を言っただけだ。」


  「よくわかんねぇけど、そうか!なら俺は2度寝させてもらう!すやぁ…」


  寝るのはっやいな夏。てか待て、あと1時間で集合じゃねぇか、朝ごはんとっとと食わないと、その前にこいつら起こさないとな。


  「おい!もう寝るな起きろ!あと1時間で始まるぞ!」


  「なに!?もうそんな時間か!魁紀、朝ごはん食べに行くぞ!」


  なんでいかにも俺が寝てるかのような言い方してんだ。


  「おい、龍太郎も起きろ!」

 

  「むにゃむにゃあと5分…」


  「1秒もやらねぇよこのハゲ!起きろ!」


  「誰がハゲだって!?」


  よし起きたな、今後なんかあった時はハゲって言ってやったらいいのか、覚えておこう。


  今更だが俺ら3人が同じ部屋なのは、単純に対抗戦のメンバーで男が俺ら3人と柿原しかいないからである。うちのクラス女子のが強いんだね、なんかよく分かる…


  9:00 討魔酒場 訓練場


  「魁紀、今から俺らはあいつらとやるのか?冗談だよな?」


  「冗談じゃないよ、全敗の覚悟はしといた方がいいかもね。」


  「私、十二家の者と戦うんですね…緊張してきました…」


  十二家のうち6人、この学校の1年2組に集まっている。それだけでも十分ありえないことなんだけど、よりによってそこに辰仁がいる、こんな奴らにどうやって勝てって言うのかな。


  辰仁豪(たつにごう)


  「うむ!今日は5組のみんなと合同練習だ!気を抜くなよ!」


  小戌丸正(こいぬまるただし)


  「はい、どこまでもお供します、この大典太(おおでんた)にかけて。」


  卯道結菜(うどうゆいな)


  「みなさん、お怪我のないように…」


  子浦慧(ねうらけい)


  「ヒッヒッヒッ、さぁてさぁて、5組の皆さんはどれだけ強いんですかねー?」


  午上蘭(うまがみらん)


  「ねぇ、あたし早く帰りたいんだけど、5組のためにわざわざあたしらが出てくるとかマジで気に食わないんだけど。」


  鬼寅真由(きとらまゆ)


  「なんでいつもいつもあんたと顔合わせしないといけないわけ?本当に吐き気がするわ。」


  最後だけめっちゃ悪口吐かれたな…


  「は〜い!2組のみんな〜!今日は5組と合同練習の日よ〜、いつも通りの実力を出して、5組の参考になるように戦うのよ〜!」


  「「はい!」」


  なんだあのおねぇみたいな人は、辰仁とか鬼寅とかじゃなくてあの人のが気になってきた。


  「本日はよろしくお願いします、霧雨(きりさめ)先生。」


  「いいのよお礼なんて、その代わり、根元先生といい事したいかも〜、チラッチラッ!」


  「あぁ、はぁ…」


  根元先生も対処出来てねぇじゃねぇか。それより霧雨ってなんか聞いたことあるな、テレビの特番かなんかで見たような、あっそうだ霧雨勝司(きりさめかつし)だ、妖術関わりの番組を漁ってた時に出てきたんだ、あの人うちの教師だったのかよ。


  9:30 討魔酒場 訓練場(観客席)


  「準備はできてるな、では合同練習を始める、まずは武術代表からだ。」


  「日高、早川、朋実、頑張れよ!」


  「「おぉ!」」


  「もう妖気纏いは出来るようになったから、そんな簡単には負けないよ、龍太郎こそ相手は干支十二家の子浦君でしょ?負けないでよね〜。」


  「うっせ、勝つに決まってるだろ!」


  この調子だったらとりあえずは大丈夫そうだな、実力差に絶望してくれなければいいんだけど。


  「第1試合、午上蘭(うまがみらん) VS 日高紀衣(ひだかのりえ)!始め!」


  「午上さ〜ん、よろしくね〜。」


  「なーにその喋り方、腹立つんだけど。」


  「そ〜か、ごめんね〜。」


  「だから、腹立つって言ってんの!」


  午上の武器は鞭(むち)か、なんだかあれだな、そういうプレイがお好きなのかな。


  「おっと〜、それは当たったら痛そ〜だね〜。」


  「はぁうっさ、もう黙っててくれる?」


  午上は鞭を日高の頭に巻き付けて口を塞いだ。鞭の使い方はともかく、実力は本物だ。


  「このまま窒息させてあげてもいいんだけど?土下座して謝ってくれるなら、考えてやらなくもないんだけど?」


  「ん〜ん!んん!!」


  「なーに?聞こえないんだけど?」


  「……んん!!」


  「なに!」


  すごい、日高のやつ無理やり鞭を解いたか。だけどだいぶ苦しそうだ。


  「まだまだ…」


  「なーんだ、普通の喋り方できるじゃん、でももう飽きた、さよなら。」


  午上による鞭の乱舞、見てると痛々しいなのは言うまでもない。手加減してるからか、日高に跡が残るような攻撃はない、だけどあの乱舞には手も足も出ない。


  「つまんな。」


  「日高ダウン!勝者!午上!」


  圧倒的力、午上を前に日高は文字通り手も足も出なかった。そして午上はなんと、最初から最後まで手以外動かしてない、ほぼ直立不動だった。これが干支十二家の力、ちゃんと見るのは久しぶりだな。


  第2試合と第3試合、続いて陰陽代表の3試合全部、俺らが勝つことは無かった。全員十二家ではなかったとはいえ、実力差がはっきりと開いていた、これが張璇と雪代が言っていた化け物か…


  「ちょっとすみません、一旦停止させてもいいですか、霧雨先生。」


  「いいわよ〜、生徒に話があるんでしょ、行っておいで〜。」


  「ありがとうございます。」


  タイムアウトだな、さすがにこのままじゃ士気に響くもんな、仕方ない。


  「いいかお前ら、何か勘違いしてるようだから言っておくぞ、勝とうとするな。」


  え?


  「でも先生が本気でぶつかってこいって…」


  「そうだ大谷さん、俺はそう言った、だけど勝てとは一言も言ってないぞ。」


  何が言いたいんだろ。


  「今回の合同練習の目的は、まずお前らの実力向上だ、これはもちろん強くなって欲しいし、相手からいろいろ学んで欲しい、でもな。」


  「「でも?」」


  「お前らは学生だ、学生の本分は勉強、確かにそうだ。だけどお前らには今しかない時間がある、今を楽しむんだ、何もかも本気で。自分の本気をぶつけて、それでもなお負けたなら、それは失敗じゃない。それは自分の経験となって今後生きていく、こういうことで本気になれないなら、俺が断言する、これからの全てにお前らは本気になれない。だから今本気を出せ!本気で楽しめ!それが今のお前たちのやることだ!いいな!」


  「「はい!」」


  「これはお前らの人生という日記のただの1ページに過ぎない、書き方はお前たち次第で変わる。楽しい日記にしたいだろ?だったら今お前らの本気を見せてみろ!」


  「「おお!!」」


  生徒思いのいい先生だ、時には先生と思えない発言をしたり、時には急に俺たちのために考えてくれたり…全く、もっと早くからこんな人に出会いたかったよ。


  「そんなわけだ、田口さん、柿原さん、松永さん。全力で楽しんでこい、特に田口さんと松永さん、相手は干支十二家の子浦さんと小戌丸さんになるけど、いい経験になるはずだ。」


  「わかってるぜ!」


  「頑張ろうね、にゃーちゃん。」


  「そして団体戦、辰仁さん、鬼寅さん、卯道さんが出てくる。新井さん、五十鈴さん、丑崎さん、大変だと思うけど、頑張れよ。」


  「おおよ!」


  「はい!」


  よりによってその3人か、辰仁と鬼寅が前線に立ったら勝ち目ないな。その上後ろには卯道がいる、回復されるとなと面倒だな、あぁくそ!どうすればいいんだ…


  「丑崎さん、聞いてるか?」


  「ああはい、頑張ります。」


  「よぉし、まずは午前最後の妖術代表戦だ、行ってこい!」


  「「はい!」」


  午前最後の妖術代表の個人戦、相手には小犬丸と子浦がいる、小犬丸はともかく、子浦は龍太郎の大嫌いな部類のやつだ、もしかしたら龍太郎がブチ切れて殺しにかかるかもしれない。ただそれだと子浦の思うツボだから、それだけは避けねば…

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