第二十六集 1年2組というクラス

  5月13日 14:20 討魔酒場 訓練場


  「よくやったぞお前ら!俺は誇らしいぞ!」


  根元先生が妖気纏いを教えてくれなかったら正直負けてた。夏と五十鈴の攻撃に妖気が纏ってなかったらきっと火力で押し潰されてた。でも先生のおかげでそんなことは無かった、万々歳だな。


  「にしても魁紀、最後に使ってたあれはなんだ?」


  「丑気(ぎゅうき)のことか?あれは干支十二家全員が使える技で、御先祖様の神の力を身に纏うんだ、俺の場合だったら丑(うし)だ。あの時頭に牛の角が生えてただろ?神の力、そしてその生き物の力を得るんだ。」


  「え、なにそれ、ずるくない?」


  いやずるいって言われてもな、代々伝わる力だから俺に言っても仕方ないだろ。本当にずるいのは辰仁家のやつらだ。


  「それより夏、逆にあの初夏のなんとかってやつはなんだ?」


  「夏ノ段のことか、単純に俺の名前が夏なのと、夏という季節が好きで、俺が編んだ技だ。」


  へぇオシャレ。武器が方天画戟じゃなかったらもっとオシャレだったのに。


  「2人とも凄かったですよ、私なんて援護で手一杯でしたから。」


  「何言ってんだ琴里、最初の攻撃を相殺(そうさい)してくれなかったら俺ら速攻で全滅だったからな。」


  「夏の言う通りだ、五十鈴の援護がなかったら俺ら氷漬けにされてたぜ。」


  「あ、ありがとうございます…」


  「これで今日の合同練習は終了だ、お疲れ様!」


  やっと終わったか、丑気は正直疲れるから今度使う時はちゃんとタイミング考えてから使わねぇとな。


  「丑崎殿、見事だった、さすがは干支十二家の者だ。」


  「丑崎!また勝負するぞ!今度こそは殺すからな!じゃあな!」


  なんなんだあいつは…千代川だけ未だにテンションがよく分からないんだよな。


  「ほほぉ、これは素晴らしいケツですねぇ、ぐへへへぇ。」


  「うわ!?」


 なんだ、急に尻を触られた…


  「雪代やめないか、見てるこっちが恥ずかしい。」


  「いやぁ、1度戦った仲だから許されるのかと、ぐへへ。」


  「許されるわけがなかろう、お主いい加減その癖を直さぬか。」


  「ケツは世界を救う!はっはっはー!」


  雪代だったか…


  「すまぬな丑崎殿、拙者のクラスは阿呆が多い故こうなることがあるのだ、許してくれ…」


  「お前も大変だな…」


  「もう慣れたのだ…」


  慣れちゃいけないやつだそれ、うちにもアホは多いから気持ちは分かる。


  「それと丑崎殿、明日は2組と練習するのだろ?ならば気をつけたほうがいい。」


  「なんでだ?」


  「やつらは化け物だ、歴代の1組を超えている。」


  張璇にそこまで言わせるってことは相当なんだろうな。だってそうでしょ、知ってる限りだと辰仁と鬼寅がいるんだから、絶対やばいよ。


  「ありがとな、肝に銘じておく。」


  「礼は無用だ、ではまた任田祭にてお会いしよう。」


  「またな。」


  2組か、そういえば今思い出したけど、鬼寅と仲良くしなきゃいけないんだっけな、あいつと仲良くとか絶対できないって…あの中華包丁お嬢様…


  17:00 討魔酒場 フードコート


  「お前らァ!飲んでるかぁ!?」


  飲むわけないだろ、完全に酔ってるよあの先生。


  今日の練習が終わったあと、両クラスで食事会することとなった。根元先生はあの感じでかなり酔っている。紫先生は根元先生を見て微笑みながらワインを飲んでる、うん、あれ絶対苦笑いだ。


  学生はと言うと、また例のことが始まろうとしている。


  「千代川、お前らのクラスの女子はどうなんだよ。」


  「もちろんボンのキュッのボンだよ、張璇はそうでも無いけどね。キュッのキュッのキュッだな。」


  お前それ聞かれたら今度こそ殺されるぞ。


  「なるほどなるほど、これはいい情報を手に入れたぞ。」


  前と同じで、夏が覗きを企んでるのだろう。たださすがに前にもみじつけられたんだし、もうやらないとは思うんだが。


  「前はバレてしまったからな、今回こそは…」


  「おやおや新井さん、なにをお考えで?」


  「ゆ、雪代だと!なんでもないぞ、なんでも…」


  雪代が混ざってきた、さすがにこれで作戦を遂行することはないだろ。


  「もしよければ、この雪代も協力しましょうか?5組の女子のケツも揉みたいのでねぐへへへぇ、あぁいけないヨダレが。」


  違ったー、協力してくれるタイプかー。


  「おや、その話、拙者にも聞かせて欲しいな。」


  「おお!張璇か!お前も!痛ったぁぁぁぁ!!」


  「あぁ張璇ちゃん痛いって!頬っぺ摘まないで!」


  「全く…丑崎殿、お互い大変の様だな。」


  「あ、あぁ、そうだな…全くうちの夏がすまないなー!」


  俺も前は同じだったなんて言えない、実はまだちょっと期待してるなんて言えない…


  「雪代、新井殿、これに懲りたら二度としないように頼む。では拙者これで失礼させていただく。千代川、お主も来い。」


  「わかった、わかったから手を離せ!!」


  千代川は摘まれなかった代わりに引きずられていった、合掌…


  「痛かったぁ…あの張璇ってやつ本当に女子か?」


  「えぇ、張璇ちゃんは1組でもトップの実力者だよ、干支十二家の者にも負けないくらいにね。でもまあ今年入って来た干支十二家は丑崎くん含めて誰も1組に入ってないけどね。」


  俺含めて全員か、あんまし考えたくはないけど一応聞いてみよう。


  「雪代、もしかしてそれって俺以外全員2組だったりするのか?」


  「うん、そうだよ。」


  そうだったのか…


  「1度だけ合同練習やらせてもらったけど、全員いいケツしてたねぇぐへへ…あぁじゃなくて、全員化け物だったよ。」


  張璇も言っていたが全員化け物か。明日のためにできるだけ聞いておこうか。


  「十二家のやつって、辰仁と鬼寅以外にもいるのか?」


  「辰仁くんと鬼寅ちゃん以外なら、1人目、玉兎温泉旅館の次代女将、卯道結菜(うどうゆいな)ちゃん、癒呪符の使い手だよ。」


  卯道家か、回復が得意と有名な一家だ。茨木童子の件で当代女将の卯道陽葵さんがお世話になったな。


  「2人目、変なところで頭がかなり回る、子浦慧(ねうらけい)。かなりの嫌われ者だ。」


  説明がおかしく聞こえるかもしれないけど何も間違ってない、ずる賢いって聞いたらまず子浦家の人間を思い浮かべる。


  「3人目、午上蘭(うまがみらん)、十二家の中では珍しいとんでもないギャルだ。男女関わらず謎に人気が高い。」


  午上か、1回だけ見かけたことあるけど、正直あれとは関わりたくない。なんて言うか、鬼寅以上に怖い…


  「最後に、十二家の中で1番誠実で忠実、小戌丸正(こいぬまるただし)、天下五剣の一振、大典太(おおでんた)の現在の持ち主だ。」


  小犬丸家、なにをやらせてもとりあえず真面目で、最後まで完璧にこなす。要領がよく、戦闘だと初見の攻撃や動きでも余裕で捌ける。


  「とまあこんな感じで、6人いるわけだよ、いやぁあいつらには勝てないよさすがに。」


  「なぁ雪代、そいつらってそんなに強いのか?」


  「強いよ、6人が同じ班だったら1年生全員かかっても勝てないじゃないかな、なにせ2組の総班長はあの辰仁くんだからね。」


  辰仁家、干支十二家において最強。これ以上の説明が要らないくらい最強、現当主は任田高校の現生徒会長、辰仁鱗(たつにりん)。そして俺らの代にはその弟の辰仁豪(たつにごう)がいる、入学式で猛威を振るってた上に、武器は天下五剣筆頭鬼丸(おにまる)だ。


  「ははっ!おもしれぇ!そいつをぶっ飛ばせば俺らが最強ってわけか!」


  「ははっ面白いこと言うね新井くん!だけどそれは無理だよ、2人とは戦った仲だしいいケツしてたから言うけど、あれとは本気でやりあっちゃダメだよ。自分の努力が否定されちゃうから。」


  「そうか!肝に銘じておこう!でも俺らが勝つぜ、なぁ魁紀!」


  「あ、あぁ、勝つさ。」


  正直、自信なんてない。1人だけだったとしても、辰仁家の奴に勝つのは不可能に近い。辰気(りゅうき)、あれを使われたら勝ち目なんてない。


  あと鬼寅のこともある、明日は1週間のうちで1番頑張らないといけない日になりそうだ。今日は早く部屋に戻って寝ようかな。


  「丑崎!今から俺と一勝負しろ!」


 千代川か、さっき張璇にしばかれたばっかだろ。


  「なんだよ千代川、今日1回戦ったろ、部屋に戻って寝ろよ。」


  「何寝ぼけたことを言ってやがる、今はまだ17時過ぎたばっかだぞ!」


  「ああ悪い、俺の家の決まりで18時には寝ることになってるんだ。」


  「おお!そうなのか!ならば仕方ないな!また今度やろうぜ!じゃあな!」


  アホで助かった。


  「魁紀、本当に18時で寝るのか?いくら疲れたとはいえそんなことはないよな、しかも決まりって…」


  「嘘に決まってるじゃん、千代川(アイツ)はバカだからこんくらい言っとけば帰ってくれると思ったからだよ。」


  「お、おぉ、そうだったのか。」


  お前もバカだったなそういえば、バカって言うよりゴリラか。ただゴリラにバカって言うとゴリラに失礼だからやっぱり夏はバカだってことにしておこう。


  「ところで新井くんさ、五十鈴ちゃん呼んできてくれない?」


  「いいけどどうした?」


  「いやぁケツを揉ませて…じゃなくて、1つ手合わせしたいなぁと!」


  今聞き間違いじゃなかったらケツ揉みたいって言ったよな、ダメだぞ、うちのクラスの女子のケツは俺が守る!


  「わかった、琴里!ちょっと来てくれ!」

 

  「どうしました?あっ、雪代さん、今日はどうもありがとうございました。」


  「いえいえこちらこそ!ところで本題だけど、ケツを揉ませてぇじゃなくて、団体戦、もう1回やらない?」


  「「はい?」」


  正気か?ついさっきのことだぞ、疲れてないのかこいつ。


  「団体戦とは言ったけど、やりたいのは個人戦なんだよね、五十鈴ちゃんに術をかき消されたのがちょっと納得いかなくてね、根に持っちゃった。」


  根に持つなよ…そんなことでもっかいやれるわけないでしょ、俺は寝るぞ。


  「いいでしょう、納得がいかないなら納得するまでやるだけです。行きましょう、夏、丑崎さん。」


  「おおよ!千代川のやつを今度こそは俺が叩きのめしてやるぜ!」


  「いや行かないって!って引っ張るな!おい夏離せ!持ち上げるな!ああああああああぁぁぁ!!」


  こうして夏に連行されて、もう一度団体戦のメンツで戦うことになった。俺、疲れたから寝たいんだけど…


  18:00 討魔酒場 訓練場


  「またすぐに戦えるとは、丑崎殿、今度こそ勝たせていただくぞ!」


  「おい丑崎!寝るんじゃなかったのか!嘘だったのかさっきのは!」


  「ぐへへへぇ、やっぱりいいケツだねぇ3人とも!」


  「魁紀、もう諦めろよ、こういうのが楽しいじゃねぇか!」


  「そうですよ丑崎さん、切磋琢磨というものです。」


  「お前いつから南江みたいなこと言うようになったんだよ…」


  あぁ、もういいよ、やればいいんでしょやれば…頑張れ魁紀、お前はやればできる子だ、YDKなんだ…


  「魁紀君頑張れぇ!第五班の力見せてやってぇ!」


  「夏!負けたら許さねぇからな!」


  「琴里!総班長の実力見せてやれぇ!」


  南江、龍太郎、早川、3人ともうるさい。


  「団体戦がまた始まろうとしてるらしいな、この根元先生が合図を取ってやろう!ヒック。」


  酔ってんな根元先生、てか飲みすぎだろ。


  「団体戦第2回戦!始め!」


  「「おおぉぉ!!」」


  6人の声が訓練所に響き渡る、やる気のない声が一つ、それが俺かどうかは誰にも分からない。1日の残った休み時間、それも団体戦で消える、眠い…寝たい…

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