第二十三集 合同練習 VS 1組
5月13日 9:00 新横浜 討魔酒場前広場
刀を貰ってから3日、酒呑様の血筋だからか、回復も意外と早かった、それでも約2週間かかったけどね。
任田祭まであと1週間、根元先生曰く、俺らだけで訓練するのもいいけど、他のクラスと一緒に訓練した方がみんなのためになると思って合同練習を企画してくれた。ここまで聞くと、また疑われない術がかかってるのではないかとついつい思うんだけど、校長や生徒会長はぜひそうしてくれと言ってくれたそうだ。
だから今週は5日間全部、1年生同士による合同練習だ。場所は討魔酒場の訓練所、なんだか懐かしい、クラスメイトとは何回もやり合ったが、他のクラスの奴らとやるのは初めてだな。何事も経験というものか。
「今週はずっと合同練習なわけだが、今日から順番で、1組、2組、3組、4組、そして最後の日は戦って一番俺らが負けた相手とやる。」
マジかよ、一番負けた相手とかほぼ確実に1組か2組とは2回戦うことになるじゃん。
「スケジュールとしては、午前中に個人戦、午後に団体戦だ、手の内全部晒してもいい、本気でぶつかって来い。」
いやダメだろ、手の内全部晒したら本番の時どうするんだよ。
「あーそうだ丑崎さん、童子切もじゃんじゃん使っていいからな。反動が怖くても大丈夫、陽葵さんを呼んであるから、心配ないぞ!」
使っていいのかよ…てか陽葵さんって卯道陽葵さんか、準備万端すぎるだろ。
「というわけだ、みんな覚悟を決めろ、今日から地獄のミニ合宿の開始だ!」
「「お…おー…」」
ダメだ、もうみんな根元先生のテンションについて行けなくなってる、本当にこれでいいのか…?
9:30 討魔酒場 受付
「おーおー!丑崎!此処で会ったが百年目!今度こそ殺させてもらうぜ!」
どこかで聞いたことある声だと思ったら千代川だった。こっちに飛びかかる前に隣の女の子にほっぺを摘まれて悲鳴をあげている。よかったよかった。
「千代川、お主いい加減にせんか、見ていて恥ずかしいぞ。」
「いってーな張璇(ちょうせん)、わざわざ頬っぺつまむ必要なかっただろ!」
なに、貂蝉だと?あの傾国の美女であの三国志最強の呂布が唯一惚れた女性のあの貂蝉なのか!?
「お主が丑崎殿か、お初にお目にかかる、拙者は1年1組の張璇(ちょうせん)と言う、以後お見知り置きを。」
今ほっぺを摘んでいた女の子が張璇というやつだった。うーん美女は美女だけどこの人武人ってタイプだ。
「そしてこいつ、今今度こそ殺すと言っていたのはなんのことだ?」
「あぁ、前に1回会ったんだけどいきなり妖魔だから殺すって言われてな。」
「なるほど、そういうことであったか千代川?」
ちょ待って、めっちゃ怖いじゃん!なんでか知らんけど髪の毛逆立ってるよ!
「待ってくれ張璇!違うんだ!話を…!」
「お主、それでも我ら1組トップの実力者か?なぜ拙者がお主なぞに負けたのかわからなくなってきたぞ…あぁいっその事、ここで斬り捨てるとしよう。」
俺も斬り捨てられる前に離れよ、この張璇とかいうやつ、南江よりおっかねぇわ…
「1組ぃ、集まってぇ、準備するよぉ。」
「すみませんね紫(むらさき)先生、今日はどうかよろしくお願いします。」
「いえいえぇ、大丈夫ですよぉ。5組も大変でしたからねぇ。」
紫香乃(むらさきよしの)先生、1年1組の担任である。妖術の使い手として知られていて、任田高校にスカウトされたとかなんとか、とりあえずすごい人らしい。
「5組も準備するぞ、まずは武術代表だ!」
武術からか、つまり日高、早川、大谷の3人、相手に男3人とか出てきたら困るな。
「あらあら〜、お相手さん全員男子みたいだね〜。」
「へっ!上等だ、この翠様の力で試してやるぜ!」
「やれやれ、なんだかガラの悪い相手みたいだね。」
やる気満々で何よりだ、あとはお相手さんなんだが。
「おい見ろよ、3人とも女だぜ?」
「俺たちを試せるかどうか試してやるぜ!」
「怪我しても文句は言わないでくれよなぁ?」
ガラ悪いなー、でもこういうのって、だいたい弱いんだよね、セリフ的に…
10:00 討魔酒場 訓練場(観客席)
「準備はできたようだな、では合同練習を始める!第1試合、百目鬼祐介(どうめきゆうすけ) VS 日高紀衣(ひだかのりえ)!始め!」
根元先生が司会進行役かよ…てか妙にやる気満々な声だな。
「よろくしね〜、百目鬼く〜ん。」
「へっ!呑気な喋り方だぜ、瞬殺だ!」
「おっと〜、女の子にいきなり斬りかかってくるのは〜、めっ!」
あ、あそこはダメだって…
「百目鬼ダウン!勝者!日高!」
「いぇ〜い!」
まさかの金的…めちゃくちゃリアルな悶絶とした声だからこっちまで痛くなってきた…あの優しそうな顔と喋り方なのにやることえぐいな…
それにしても本当に瞬殺だったな、百目鬼が。
「第2試合、角平暁夫(かくひらあきお) VS 早川翠(はやかわみどり)!始め!」
第2試合、進行早いな、この後時間余らない?大丈夫?
「おら、かかってこいよチビ。俺が試してやるよ、覚悟しとけ。」
「……」
「どうしたよチビ、何か言ったらどうだ、それとも緊張してその金属バットを持ち上げることすら出来ないのか?」
「えぇっとね、チビって、翠に一番言っちゃいけない言葉なんだよね…」
「真木、それはなにか理由でもあるのか?」
「えぇっとね、実は小学校のころからもう身長伸びてなくて結構気にしてるの、今確か138cmくらいだったかな。」
あっ、それは気にするわ、もしかしたらそれをいつも言われた結果あんな性格になったのかな。とにかくうちのクラスにおっかない女子が増えたのは間違いなしだ。あの角平ってやつ、死んだな。
「てめえ、人の容姿をバカにしちゃいけねぇって親に教わらなかったのか?ならばいいだろ、この翠様が教えてやるよ、その頭蓋をかち割ってやる代わりにな!」
「ひっ!ひぃぃぃぃ!!」
「おらぁ!逃げんな!!」
終わったな、もはや鬼ごっこだこれは…
10分後
「角平の棄権により、勝者!早川!」
「しゃおら!」
かっこいい、かっこよすぎて惚れそうになる。ちなみにあの後、角平が逃げ続けていたが、早川が1回のジャンプで角平に追いついて殴ろうとしたところ、角平が降参と叫んだ。見てる側としてはいつ角平が殺されるのかなとハラハラドキドキであった。
「第3試合、兵田雅行(ひょうだまさゆき) VS 大谷朋実(おおたにともみ)!始め!」
「さてと、やられる前にやるぜ、怪我しても文句言うなよ?」
「残念だが2人が勝ってるから、私も負ける訳にはいけないのでね。」
「そうか、俺らに武術コースはねぇが武術には自信があってね、妖術と混ぜたらどうなるか知りたいか?」
「じゃあぜひご教授願おうかな。参る!」
大谷がちゃんと戦うところは班別対抗の時以来か、人が相手だとどう戦うのか。そして兵田が言っている、妖術と武術の融合、やることは1つ、妖術においての基本。
「「妖気纏い、だ。」」
「なに!」
兵田が構える刀に、紫色の妖気が纏い始める。
「お前らは妖気を物に流したり、全身に流したりはすると思うが、纏うっていうのはやったことないだろ。」
「えぇ、まだ教わってないからね。」
そう、妖術科ならばもう既に全員使えるであろう妖気纏い、なんなら入学前から使えてたかもな。
妖気纏い、妖気を流すのとは違い、纏う。まあ文字通りなんだけど。妖気を流す場合、これは内部からの強化を意味する、物に流した場合、武器の強度、素の力が増す。体に流した場合もあまり変わらない、身体強化による肉体の強化、そして行動速度の上昇。
だが纏う場合、物や体の内部では無く、外部に放出される。流すのと違い、体の内側にある妖気を放出しなければならない、扱い方しだいで妖気が暴れてしまうからな。その代わり、武器に纏ったならば、強度が上がるだけではなく、破壊力も増していく、しかもそれは流す時の比じゃない。体に纏った場合、それはもはや妖魔と同等、少しの油断が命に関わる危険な行動。
「妖気の纏ったこの刀、受け止められるか試してみるか?」
「やってやるよ、真剣白刃取りならやったことあるよ、龍太郎のでね!」
あぁなるほどね…でもあれを真剣白刃取りした時、大谷の両手が落ちる。それだけは避けねばならない。
「さあ来い!」
「大谷!よせ!」
避けてくれたか、よかった。見ればわかる、武器に妖気を纏ってるから、地面に当たってないけど大穴が空いた。
「これが妖気纏いだ、妖気流ししか出来ないお前らには絶対に越えられない壁だ。」
「降参…」
「そこまで!大谷の降参により、勝者!兵田!」
「ふん、百目鬼と角平はなんでこいつらに負けたんだ、わっかんねぇや。」
「朋実が負けた、だと…」
信じられないけど、これが起きた事実だ。妖気纏いが出来てるがどうかの違い、今になって俺らはそれを実感しなければならない。
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