第二十二集 初授業
5月10日 9:30 1年5組教室
任田祭、それは任田高校で言う体育祭である。みんなが想像する、赤組白組、100m走、綱引き、リレーなどのようなものは無く、学校の各クラス代表による実力勝負である。
1年生から3年生、各学年の成績上位2クラスが、妖術学校実力対抗戦に出場できる。妖術学校は他に3つあって、それぞれ北海道、大阪、沖縄にある。
妖術特化のクラスがあるのは、神奈川にあるうちの学校だけだが、ほかの学校には陰陽特化だったり、武術特化のクラスがあったりする。つまり俺らが妖術で負けたらシャレにならないということになるらしい、なにそれ嫌なんだけど、辞退していいかな。
任田祭の開催日は5月20日、意外ともう10日後である。そして他のクラスはもう既にそのための訓練に取り掛かっているらしい、俺らは模擬戦やら実戦任務やらで遅れを取っている、おまけに主戦力がほぼ怪我人だ。さぁてどうしたもんかねー。
「じゃあ今日はちょっと授業をしよう、体を動かすことは無いからみんな安心して大丈夫だぞ。」
授業か、腕上がらないからペンすら持てないのだが…
「あとノートも取らなくていい、話すことを全部頭に叩き込め、任田祭はもう10日後だ、できる限りわかりやすいように教えるから、頑張ってついてきてくれ。」
おー、なんか高校生活っぽくなってきたじゃないの、それと根元先生のこのやる気、前とは大違いだ。
「ではまず陰陽についてだ。陰陽と言っても、実際には陰陽道として知られている、そして陰陽道の使うものとして、呪符がある。これは陰陽コース選択者の人はよくわかってると思う。」
そうだったのか、知らなかった。確かに陰陽陰陽とは言うけど、実際に陰陽がどうのこうの言われることはないな。
「そして呪符について、詠唱を唱え、その詠唱を元にした術が放たれる、例えば。」
根元先生は呪符を出し、窓を開けた。
「炎よ燃え上がれ、収束して敵を撃て。炎呪符(えんじゅふ)・球(きゅう)。」
小さい火球が放たれて、空に向かって飛んで、消えていった。
「これが炎呪符の一番基本的な術だ、みんなは今までこのようにして術を使っていたと思う。だがこれからはやり方を変える、これじゃ全くもって使い物にならん。」
嘘だ…と撃沈したのは五十鈴と松田だった、そういうば2人とも陰陽コースだったな。
「詠唱して術を放つのは確かに正確かつ威力も保たれる、ただそれでは使えん。ここで、もっと効率よくかつ火力を保たせて使うためには、詠唱を破棄するんだ。」
詠唱破棄、聞いたことはあるけど、実際にやってる所は見たことないな。
「あ!それ茨木童子が言ってた!呪符は別に詠唱なしでも出来るって。」
そうだったのか、俺が気絶してる時に言ってたのか。でもそれは今の根元先生の前で言ってよかったのか南江。
「あいつ…俺より先に教えてたのか…」
いやめっちゃ落ち込むじゃん、そんなに嫌だったのか、茨木童子に先を越されたの。
「ま、まぁいいや、続けよう。詠唱なしで唱えられるには色々やり方がある。まず、直接呪符に詠唱を書いておく、そしたら念じるだけで術を起動できる。だがこれだと術1つに付き呪符1枚を用意しなければならなくなる、これじゃ効率は良くない。」
それだと呪符書(じゅふしょ)みたいなのを作ったらいつでも起動できそうな感じがする、燃やされたら即終了だけど。
「次に、呪符の紋章と詠唱を体のどこかに書く、これは呪符に書くよりバレにくい、だが結局効率が悪い。」
そうだよな、風呂入る度に書き直さなきゃいけなくなるしな。
「最後は、脳内に直接、呪符の紋章を叩き込むことだ。」
「「え?」」
そりゃ驚くわ、脳内に直接?直接書くってことなのか??
「心配するな、頭蓋骨を開けて脳みそに直接書くわけじゃない。見ての通り、呪符に書かれてあるこの紋章、どうやって書かれてるか分からないよな?それを今から教える、そしてそれを頭で記憶しろ、頭の中でその紋章を完全に再現出来た時、頭で考えるだけで術が即座に発動出来るというわけだ。」
なるほど、難しいな。まずこの紋章、書き方ってレベルじゃないぞ、なんだよこれ、ピカソが描いた絵の方がまだ理解できそうな感じがする。
「先生、こういうことでしょうか。炎呪符・照。」
五十鈴が席を立ち、窓に手を向けて陰陽を放った。
「おお!凄いぞ五十鈴さん!素晴らしい!」
流石と言うべきだろうか、俺らの総班長は伊達じゃないってとこか。
「ただまだだ、火力が足りない、いいかみんな、呪符というのは想像力だと覚えろ、陰陽コースじゃなくてもできる、なんなら既存の術よりも強い術を作れる可能性だってある!」
芸術は爆発だみたいな言い方だな、呪符は想像力だ!
「まずは全員、少なくとも陰陽コース選択者、頭の中に紋章を叩き込め、術を起動できたら、いろんなやり方を試してみろ、強めたり、弱めたり、いろんなものを混ぜたり、なんでもいい!自分らしく、自分の思うように!」
「私も…遥ちゃんやみんなの役に立てるように…」
「これくらい、羽澤さんならすぐに出来てしまうのでしょう。ならば、私は彼女の出来ないことをやるまでです。」
「ただみんな、1つ忘れないで欲しい。みんなは学生だ、勉強や学校行事も大事だが、自分達のやりたいことを、一番大事にしろ。お前たちにとっての1番大事なのは、お前たちの青春だからな!」
やばい、涙が出てくる。本当はこんな先生だったなんて…
「うぉぉ!根元先生!俺感動しました!!」
「俺もだ先生!みんなのため、先生のためにも、俺ら頑張るぜ!」
「新井さん、田口さん、ありがとう…」
相変わらず暑苦しいな、ゴリラと坊主の2人。
「では今日は解散!紋章も覚えて欲しいが、休日をゆっくり楽しめ!」
「「はい!」」
よし、終わったか。さてと。
「梁、出かけるぞ。」
「うん、わかった。」
「あれ、魁紀君と梁君どこか行くの?」
「あぁ、ちょっと行かなきゃ行けないところがあってね。」
前の戦いで武器が壊されたからな、今から新しい武器を取りに行くのだ。梁のも壊されたらしいから一緒に頼んでおいた。
「おーそうなのか、行ってらっしゃい!」
ではお言葉に甘えて、行ってくるぜ。
15:00 鬼寅工房(きとらこうぼう)
鬼寅工房、鎌倉にある干支十二家の鬼寅家が所有する鍛冶屋である。鬼寅家は戦う家系と共に、刀を打つ家系でもある、いわゆる刀工だ。だけど問題がある。
「なんであんたがここにいるのよ。」
「いや、新しい武器をだな…」
鬼寅真由(きとらまゆ)、最初に同じクラスになったけど、すぐに違うクラスに分けられた、だから会うのは久しぶりである。
「あなたにやる武器はないわ、帰りなさい。」
「いやあるだろ、2つ頼んでおいたんだけど。」
「魁紀君、知り合いなの?」
「まあ知り合いっちゃ知り合いだ。」
正直こいつを知り合いだとは言いたくない、なんか言われそうで怖い。
「あらあら、来たのかい、丑崎の坊っちゃん!」
「お久しぶりです、鬼寅のおやっさん。」
この人は鬼寅家当主、鬼寅猛(きとらたける)。今回俺が刀を2本打ってくれと頼んだ。
「お、お父さん!なんで来たのよ!」
「なんでって、坊っちゃんに刀を渡すためだけどどうかしたのか?お!もしかして2人付き合ってたのか!」
「なわけないでしょこのバカ!ふん!」
鬼寅はおやっさんの腹にグーパンをかまし、どこかに行った。
「バ…バカって…親にバカとは何事だ…」
何だこの親子…
「あぁ痛かった、ところで坊っちゃん、真由と付き合ってるのか?」
「いえ全くそんなことないです。」
「そうなのか…あいつあんなんだから、みんな近づきづらいんだよ。だから仲良くしてくれると助かるんだが、あっそうだ坊っちゃん、この刀2本やる代わりに、あいつと仲良くやってくれねえか?」
無理だ、と答えたいところだが、それだと刀が…
「はい…善処します…」
「おお!助かるぜ坊っちゃん!」
「魁紀君、よかったのか?」
「そうじゃないと俺らの刀が手に入らないからな、仕方ない…」
こればかしは俺が耐えなければならない、耐えなければ…
「それで坊っちゃん、この2本だ。打ったのは俺だが、名前は坊っちゃんらが決めろ。ではまたな。」
「さてと、梁、名前は決まったか?」
「そうだね、武器に名前を決めるなんて初めてだけど、決まったよ。」
「俺もだ、この新しい大太刀、名前は刻巡(こくじゅん)だ。」
「僕の刀は、不撓(ふとう)だ。」
刻巡(こくじゅん)、前と読み方は一緒だけど、意味は全く別だ。魂は巡り巡る、その事を忘れない為に、心に刻む。酒呑様が教えてくれたことだ。
(カカカッ!やっと前に進めそうだな、魁紀よ。)
こうして、怪我はまだ治ってないが、新しい武器と共に、新しい高校生活を始めることができた。
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