任田祭編
第二十一集 改めて始まる高校生活
5月10日 8:30 1年5組教室
あの事件から約2週間、1年5組の生徒は全員復帰できた。唯一羽澤だけは、精神状態がまだ回復してないらしく、復帰はしばらくあとになるらしい。
重症を負っていた俺ら第五班、夏、龍太郎、松永は、完治には至ってないが、軽く運動出来るまでには回復した。これも全部、卯道陽葵(うどうひまり)さんのおかげだ、俺が眠っていた間も、ずっと看病してくれたらしい。
そして学校の上層部は今回の事件を機に、妖魔への警備をより一層強化した。校長は今回のことに対し、俺ら5組に謝罪を述べた。正直最初から術をかけられてたならもはや対抗する手段はないし、仕方なかったと思う。
生徒会長に関しては、干支十二家筆頭の辰仁家の次期当主として不甲斐ないことをしたとして切腹しようとしたらしいが、さすがにそれは弟が止めた。
根元先生はずっと操られていたということもあったからか、お咎めなしとはいかないが、ちゃんと1年5組の担任を全うすることを条件に、1度許されることとなった。
そんな中、今日、羽澤を除き、久しぶりに全員で教室に集まった。
「なんだか懐かしいな。」
「よぉ魁紀!元気してたか!」
「夏うるさいぞ、それに、この包帯を見て元気に見えるか。」
茨木童子との戦いで、酒呑様が俺の体で戦って撃退出来たのはいいけど、反動がすごくて体のあちこちに傷が出来ていた。卯道さん曰く、俺だけしばらくは絶対安静だそうだ。
「体はダメでも!魂が元気ならばよし!」
「なんだそれ、精神論ってやつか?」
「俺にもわからん!」
わからんのかよ、まあいいや。
「みんな席についてくれ、ホームルームを始める。」
根元先生、か。なんだか気まずいな、前にあんなことがあったあとだから、俺だけじゃなく、みんなもそうなんだろ。
「とりあえずそうだな、改めて自己紹介をしよう。俺は根元洋海、今年からみんなの担任だ、よろしく頼む。」
「「…」」
まあ、そりゃそうだよな、数名包帯ぐるぐる巻き、残りはみんな軽傷と茨木童子によるトラウマがある。そんな状況の中で、前と同じ顔で自己紹介されても、受け入れ難いだろ。
「正直に言うぞ、俺だって今は気まずい!みんなの貴重な1ヶ月を無駄にした!授業もまともに受けさせられず、その上みんなを傷つけた!謝ったところで許されないのはわかる!だからせめて、みんなにもう一度ちゃんと教師として、受け入れてはくれないか!」
おいおい、大の大人が土下座とかやめてくれよ、俺らだってわかってる、寄生されてたから仕方ないって。だから土下座は…
「先生、もうやめてください、私たちは無事で、茨木童子は撃退できました。それでいいじゃないですか。先生はどういう経緯があったかは分かりませんが寄生されてしまいました、でももう過ぎたことです、悪いのは茨木童子であって先生ではありません。だから顔をあげてください。」
「五十鈴…さん…」
凄いな五十鈴、凄いって言うより大人だって言うべきだ、たぶん今みんなが思ってることを代弁してくれたんだ。
「今後からは、本当の根元先生として、私たちにいろいろ教えてください、私からお願いします。」
「五十鈴さん、ありがとう。」
感動的だ、正直こんなことにはしたくなかった、まあ全部茨木童子が悪いんだし、いっか。
「俺からもよろしく頼みますよ、先生!」
「新井さん…」
「私もです!ちゃんと妖術の勉強したいです!」
「南江さんまで…わかった、今日から失った1ヶ月を取り戻す!みんな!着いてきてくれ!」
「「はい!」」
こうして、改めて高校生活が始まった、ちゃんとした先生と、仲間達と。
「では気を取り直して、今日からしばらくクラスの役割とかを決めるぞ、任田祭、そして対抗戦も始まるから、駆け足で準備にかかるぞ!」
「はい!先生!」
「はい!田口さん!」
「対抗戦ってなんすか?」
「対抗戦とは、日本にある妖術学校同士による武術、陰陽、そして妖術を用いた実力対抗戦だ、個人戦もあれば、団体戦もある。」
ほほう、それは面白そうだ、実力を測るのと、実力向上にはちょうどいいイベントだ。
「そして対抗戦に出場するメンバーを、任田祭で決める。学校からは約15人前後出場できる、学年は問わない、つまりみんなにもチャンスがあるわけだ。」
「へへっ!腕が鳴るぜ。」
「おいおい龍太郎、本気で出れると思ってるのか?俺と魁紀がいるってのに。」
「うっせぇぞ夏、今勝負して白黒ハッキリさせてやってもいいんだぜ?」
「おーよ上等だやってやるよ!」
あーうるさい、ゴリラと坊主はいつも通りだな…それに俺まで巻き込まないでくれ、今童子切しか武器無いんだから…
「はいはい2人とも、勝負するなら放課後にしてくれ、今はとりあえず話を聞いてね。」
おー、これが本来の根元先生か、仲良くなれそう。
「ではとりあえずクラスの役割を決めるぞ、まずは班とか班長だが、これは既に決まってるね。次に総班長だ、これは別に各班の班長から選ぶ必要は無い、クラス全員を代表できる人なら誰でもいい、立候補とか推薦はいるか?」
こんなの、一人しかいないでしょ、今さっき俺ら全員を代弁してくれたやつが。
「それなら、琴里しかいねぇな。」
「うん!琴里ちゃんがいいと思います!」
「あなた達!私は…」
「2人から推薦されたけどどうだ五十鈴さん、やれそうか?」
いくら代弁できたからと言って、本人の心構え次第ってわけだ、ならここでダメ押しに。
「先生、俺らが茨木童子と戦ってる間、五十鈴が他のみんな全員避難させてくれました。そんで治療も玉兎温泉の卯道さんと一緒に当たってくれました、仲間思いで俺らを統率してくれるやつって言ったら、五十鈴以外いないと思います。」
決まったな。でもこれは全部本心だ、五十鈴は確かに当時いろいろ頑張ってくれたから、総班長として相応しいと思う。
「丑崎さんまで…わかりました、やらさせていただきます。」
「ふぅー!いいぞ琴里!」
「あなたは黙っていてください夏。」
「ひぇ!?」
夏、あんな情けない声出るんだ…
「総班長は決まったな、じゃあ次は妖術コース代表だ、みんなは確かコースとか決まってたよな、これは実力で決めたいのだが推薦や立候補はいるか?」
「妖術なら、一人しかいないでしょ。ニヤリ。」
「ああ、一人しかいないな。ニヤリ。」
2人してこっち見るなゴリラと坊主、気持ち悪いぞ。
「うちの班の魁紀君はいかがでしょうか!」
商品を紹介する時みたいに言うな南江、あとな、俺は今こんなんだぞ、いいのかそれで。
「だそうだが丑崎さん、どうだ?」
「そこのゴリ…いえ、夏と龍太郎もいいと思うんですけど。」
「いやいや!ほら!俺試合で負けてるし!」
「あーそうそう!俺も最初の模擬戦で負けてたなー、あと俺そもそも武術コースだしー!あは!あははは!!」
こいつら、やりたくねぇからって俺に押し付けやがったな。てか夏のやつ武術コースだったのかよちくしょう。
「そういう事だ、丑崎さん、頼んだぞ。」
「あ、はい…」
「次は武術コース代表、推薦や立候補はいるか?」
こればかしは日高か大谷だと思うんだ、夏には無理だ。
「では、私がやります。」
「大谷さんか、他にいなかったら決定にするがいいのか?」
返事がない、ただの…おっと、これ以上はいけねぇ。
「よし、では武術コースは大谷さんで決まり。次、陰陽コース代表、推薦や立候補はいるか?」
これが一番難問だ。正直に言うと俺は羽澤が一番適任だと思ってる、何度も殺されそうになったし、なんなら1回ナイフ刺された。それでも俺はあいつの陰陽は認めてる。班長としての班員の統率も、陰陽の使い方、実力も全て備わってる。だから俺は推薦せざるを得ない。
「先生、それなら俺は、羽澤が一番適任だと思います。」
「羽澤さんか、でも彼女は今病院で治療中だ、いつ戻ってくるか分からない。出来れば他の適任の生徒にしたいのだが、他はいるか?」
静かな空気が流れる。実際みんなも文句ないと思っているだろう、いつ戻ってくるにしても、あいつが適任だ。
「仕方ない、本人がいないのは気が引けるが、暫定で陰陽コース代表は羽澤さんで決定だ。」
めでたしめでたし、妖術コース代表になったのはいいけど、今ろくに妖術扱えないし戦えないからこれを早くどうにかしたい。
「どんどん行くぞ、次は任田祭の出場メンバーを決める。」
こんな感じで、色んなメンバーを決めていった。任田祭も割とシンプルで、個人戦、団体戦のメンバーを決めるだけ。ただ個人戦はそれぞれ妖術、陰陽、武術を3人ずつ、団体戦は各コースから1人ずつ決めて戦うらしい。
個人戦の妖術代表メンバーは、柿原、龍太郎、松永。陰陽代表は井上、中田、松田。武術代表は大谷、早川、日高。
団体戦代表は、夏、俺、五十鈴となった。ただもし羽澤が復帰出来るのであれば、陰陽代表のメンバーが変わる可能性がある。
「だいたい決まったな、代表メンバーはクラス代表であることを忘れるな。俺もみんなに任田祭で活躍してもらって、みんなで対抗戦に出場したい!そのためになんでもしよう、みんなで頑張ろう!」
「「おー!」」
ん?今なんでもするって…なんでもないです、俺そういう趣味ないから…
任田祭かぁー、団体戦に出場するわけだが、どこかで絶対辰仁か鬼寅とあたる可能性あるよなぁ、嫌だなぁ…
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