第十九集 過去との別れ

4月29日 18:00 童子切内領域 丑崎魁紀サイド


  じいちゃん…じいちゃん……クソっ!


  「カカカッ!我が助けてやろうか?小僧。」


  瞑っていた目を開くと、周りは何もなく、真っ暗な空間だった。そして、目の前に酒吞童子が座っていた。


  「なっ…ここはどこだ!って、ご、御先祖様!?」


  「初めまして、と言ったところか、カカカッ!ここは童子切の中、どうだ、何も無い虚空だぞ。」


  本当に何もないし、おまけに寒気もする。


  「まあそのことはよい。カカッ、まさか茨木童子とはな、奴は元々我の手下だ、倒すことなど容易いぞ?」


  「今はそんなことどうでもいい!じいちゃんの魂を引き留めないと!」


  早く、早くしないとじいちゃんが…


  「やめておけ。」


  「なんでだよ!じいちゃんが亡くなった最後の瞬間まで俺は傍にいてやれなかった、学校の勉強だって言って行けなかったんだ!そのことをどれだけ後悔してるか、御先祖様にはわからないだろ!」


  「あぁ、我にはわからぬゆえどうでもよい。それより茨木をだな。」


  「分からないならもういいよ!じいちゃんがくれた国順が俺とじいちゃんを唯一繋げてくれるものだったんだ!それももう折られた、宿っていたじいちゃんの魂も抜けていった、もう俺は二度とじいちゃんと…」


  「はぁ…ぬぅん!」


  酒呑童子に思いっきり殴られた、頭が吹っ飛ぶかと思った、現実世界だったら即死だった。


  「たわけ!!魂をいつまでも現世に留めることがどういうことかわかっておるのか!」


  「え…」


  「魂はあの世に帰るものだ、現世に留めるものではない。現世に勝手に留まる魂もおるが、それはなにか未練がある時だ。小僧、貴様の祖父がその大太刀に宿ったのは未練があったからだ。だが離れたということは、もう未練は晴れたということだ。貴様は未練が晴れた自分の祖父を自分の都合でいつまでも引き留めるつもりなのか馬鹿者が!」


  なんで…こいつが俺にこんなに怒ってんだ…どうでもいいことだろ…


  「わかったなら茨木のことだが…」


  「なんで…そんなに怒るんだよ…御先祖様…」


  「あ?グダグダ考えてる我の子孫に叱るのは当然のことであろうが、人間の血がいくら混ざろうとも貴様は我の子孫だ。つまりほぼ親ということだ、ならば貴様に怒ることくらいは当たり前のことよ。」


  本当に…もうよく分からない…だけどじいちゃんのことも…


  「なぁ、御先祖様…」


  「今度はなんだ、また殴られたいのか。」


  「いや違くてだな、じいちゃんにもっかい会えたりとか、できる?」


  「はぁ…我にならできぬことは無い、だがなんのためだ?」


  「最後に…もう一度話がしたい…」


  じいちゃんの最後に立ち会えなかった俺の後悔、出来るならもう一度チャンスが欲しい、最後に…もう一度…


  「いいだろう、それ、話がしたいらしいぞ。」


  「えっ!?じいちゃん!?」


  突然目の前にじいちゃんが現れた、今度は霊体ではなく、実体として。


  「……」


  やっぱり…なにも話さないのか…でも、俺から話さないと!


  「じいちゃん、俺、最後に会いに行けなくてごめん、ずっとずっとこのことで後悔してた…」


  「……」


  「初めて墓参りでじいちゃんの墓を見た時に、本当にじいちゃんはいなくなったんだって思って、ボロ泣きしたし、しばらくなにも考えれなくなったし…でも…じいちゃんがいてくれたから、今の俺がいて、小さい頃は一緒に髪切りに行ったり、銭湯に行ったり、自転車乗せて色んなとこに行ったり、いい思い出ばかりだよ…」


  「……」


  「小僧、時間はあまりないぞ、早くしろ。」


  まだだよ、まだ言いたいことはいっぱいあるんだ…


  「従姉妹が産まれた時も、家族みんな構ってくれなかった時、唯一じいちゃんが話しかけてくれてたし、三国志や水滸伝の武将についてたくさん教えてくれたし、本当にいろいろ話してくれた……」


  「……」


  「もう時間はないけど、これだけは、伝えなきゃいけない……こんな俺と、ずっと一緒にいてくれてありがとう!こんな俺を、ずっと愛してくれてありがとう!俺は、これから先何があってもじいちゃんのことは忘れない!大好きだよ…じいちゃん……」


  もう泣きながらでなにを言ったのか自分でも整理できない、とにかく思ったことを全部言った、未練がないと言えば嘘になるが、これでいいんだ…


  「……」


  じいちゃんに頭を撫でられた、やっぱりこれが1番落ちつくな…


  「……」


  さよなら、じいちゃん、ありがとう…


  じいちゃんはゆっくりと上へ飛んでいき、静かに消えていった。


  じいちゃんが大太刀に宿ったって知ったのはじいちゃんが亡くなってから次の日だった。その時に童子切を握っていたからっていうのもあると思うけど、物に魂かなにかが宿った時はすぐに分かるようになっていた、じいちゃんの時もそうだった、明らかに大太刀が今までとは違う様子だった。大太刀からじいちゃんの気配がすると言うべきなのか分からないけど、その時の俺はそう確信した。だから大太刀に、じいちゃんの名前の「国順」をつけた、いつまでもじいちゃんが常に隣に居てくれるようにと。


  だけどそれも今日までだ、俺はいい加減前に進まなきゃいけない時が来たみたいだ、なら覚悟を決めるしかない。


  「御先祖様、ありがとう、じいちゃんを引き留めてくれて。それで茨木童子のことなんだけど…」


  「ああぁぁはあぁはぁぁぁ!!泣ける話じゃねぇかぁぁぁぁぁ!!!」


  酒呑童子がボロくそ泣いていた、いやなんでだよ、どうでもいいってさっき言ってただろ!なんでだよ!!


  「いや、あんた関係ないだろ、なんで泣いてるんだよ!」


  「我の子孫に、こんな祖父がいたなんて…我は誇らしいぞ小僧!」


  もう訳が分からん、とっとと話を進めないといけないのにリズムが狂う…


  「おっとすまんな、それで、茨木の話だったか。」


  やっと本題に入れる…


  「カカカッ!我が助けてやろうか?」


  「えっ、そこからやり直すの?」


  「まあよいではないか、茨木を倒すというのならば、我が手伝ってやろう。」


  「なんかそういう話、胡散臭いんだけど信じられるの?」


  「カカッ!我とあやつと一緒にするでない、あんなことをしてるからいつまでもあやつは成長しないのだ。」


  妖魔の中だとそういうもんなのか、わからんけど。


  「それでどう手伝ってくれるの?童子切を使えばいいの?」


  「そういうことよ。ただ小僧、貴様が童子切を握り、我の力をただ借りるだけでは力不足だ。」


  「なんでだ?」


  「貴様が我の力を十分に使えないからだ、我の力は我にしか十全に扱えぬ、故に…」


  「故に?」


  「小僧、貴様の体を我に貸すがよい。」


  まーたまたなんのご冗談ですか、そんなことしたら俺の体操って人間滅ぼしちゃうでしょうが、そんなん嫌だぞ俺。


  「そんな嫌な顔をするでない、言ったであろう、あやつのような妖魔と一緒にするな、格が違うのだ格が。」


  「そんなこと言ってどうせ嫌なことを考えてるだろ。」


  「ならばこうしよう、我がもし悪行を為したならば、二度と酒を呑まぬことを誓おう。」


  「それ俺の体返してくれなきゃ問題ないだろ、そんなんで貸せるわけないでしょ。」


  「問題などないわ、なぜなら貴様なら簡単に体を取り返せるからだ。信じられないのなら試してみるがよい。それに、我が酒を呑まないと言ったのだぞ、酒呑童子と名乗って約1500年経つが1度も禁酒したことは無い。そんな我が禁酒すると言っておるのだ、いい加減信じてみたらどうだ?」


  まあここまで言うならこいつも本気なのだろ、いざっていう時は体を取り返せばいいや。


  「よし、乗った。」


  「やっと分かってくれたか小僧、重ねて言うが、我はあやつとは格が違うのだ、今からその格の違いを見せてやろう。」


  「頼む、みんなを助けてくれ、御先祖様。」


  「カカカッ!容易いことよ、それと、もう酒呑でよい、確かに先祖ではあるが我はそんなに年取ったつもりはない、だから昔のように酒呑でよい。」


  「わかった、酒呑様!」


  「カカカッ!!悪くないぞ魁紀、さっきとは見違える程成長した面構えよ。」


  ああ、俺だっていつまでたっても後悔してるわけにはいかない。じいちゃんはもういないけど、今の俺には…みんながいる!

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