第十七集 悪役登場

4月29日 17:30 日光東照宮


  「来たぞ、数は…いや、数えたくないなこれは…」


  「なら数えなくて大丈夫だぞ健太君!一気にぶっ潰す!」


  おいバカ南江やめろ、あの数一気に潰すとか無理だから、やらかす前に早く落ち着いて。


  「せいやぁぁ!!あっ、ああああああああぁぁぁ!!」


  ほら言わんこっちゃない。


  何体かの妖魔は潰したが、その他大勢の妖魔に追いかけられる南江だった。


  「仕方ないやつだ、通、フォロー入ってやって…」


  「う、うん、わかった…」


  さあて、どうしよっか、他の班と連携なんて取ったことないから何やればいいかわからん。


  「にゃーちゃん、行っておいで。」


  「にゃおぉ。」


  「柿原君、あとはお願い。」


  「キャハハ!任されたぜ班長!」


  猫又優秀過ぎないか?うちの班長と交換して欲しい。


  それより妖魔が意外と多い、主に餓鬼なんだが、入学式の時にお世話になった鴉天狗もいやがる、そして奥に大きな影があるのは見えるけど何なのかは見えない。ただあれがこの妖魔達を率いてるのはわかる。あとはどうやってあいつを倒すかなんだけど。


  「俺にぃ!任せとけぇ!」


  なんかどっかで聞いたことあるセリフだな、ただやらかす事のが多いセリフだからオススメしないぞ龍太郎。


  「痛ってぇぇぇ!」


  知ってた。


  「情けねぇな龍太郎、勝負は俺の勝ち確だな、初夏(しょか)ノ段(だん)・麦(むぎ)の秋風(あきかぜ)!」


  方天戟から繰り出される優しい風、に見えるけど餓鬼の首が次々と飛んでくからえぐい。それと夏なのか秋なのかハッキリさせろって、そういう言葉ちょっとわかんないんだから…


  「いいや負けてられるか、こんな傷唾で治るわ!第二班!全員突撃ぃ!!」


  「はぁ…もう好きにして…」


  唾で治るか、どんな民間療法だよ。大谷も困ってるだろ。


  「行くよ、にゃーちゃん、猫又変化(ねこまたへんげ)・黒豹(くろひょう)。」


  「にゃー…アアァァ!!」


  すげぇ、猫又が黒豹になった、尻尾2つの。次々と妖魔を噛み殺してる。


  それに比べて羽澤は相変わらずなにもする気がないのか、よく分からない。やっぱ根元先生となにか繋がりがあるんかな、今まで落ち着いてたと思ってたらまたなにかしだすのかな。


  「対妖魔格闘術(たいようまかくとうじゅつ )・外柔内剛(がいじゅうないごう)!」


  勢いの割には強い打撃には見えないな、本当に倒せるのかあれ。


  「あっ、今倒せるかどうか疑ってるでしょ!よく見ててね、排山倒海(はいざんとうかい)とはまた違うんだ!」


  おぉ、妖魔が倒れてく、何でやられてるんだ?


  「えっへん!排山倒海(はいざんとうかい )は完全な体術だけど、外柔内剛(がいじゅうないごう)は妖気を使ってるから、軽いタッチでも相手に強い妖気を流し込めば内部破壊できるんだよ!」


  こいつやっぱ天才なのかもしれない、バカだけど。


  「ほぼ片付いたな、あとは後ろにいるデカいのだけだな。」


  「ゴォォォォ…!」


  「魁紀君!あれって!」


  「あぁ、みんな大好き牛頭馬頭の片割れ、牛頭鬼だ。」


  まさか牛頭鬼がここで出てくるとはなー、観光地ぶっ壊してくれるなよー。


  「こいつはちょっと本気出さないとまずそうだな、だけど童子切は抜けない、自分の力の限りの本気を出そうか。」


  「なんだよ魁紀、こないだ俺と戦った時本気じゃなかったのかよ。」


  「そうだ、本気で戦ったら簡単に勝っちゃうからなー!」


  「チッ、俺が倒れた後に直ぐに倒れたクセによく言うぜ、それなら俺も本気を出すぜ!」


  「お互い様だな。」


  頼むぜ、酒呑童子よりもさらに昔の、俺らの祖先十二人に名前を与えた神、丑神(うしがみ)の吽那迦(うなか)よ、我に力を与えたもう、捧げるは我が魂の祈り!


  「突っ走れ!丑気(ぎゅうき)!」


  丑気を使った瞬間、背中から刺されたような感触がした。


  「魁紀!」


  「魁紀君!」


  「羽澤さん、なんで!」


  これは、ナイフか、なるほど、このタイミングでやってきやがったか…やべぇなこのままだと…


  「歌田君、ごめんね、でも、私、こうでもしないと…」


  「クククッ、クハハハハハハハッッ!!やっとやってくれたか羽澤、待っていたぞクハハハッッ!!」


  「ね、根元、先生…まさか、本当に…」


  「近づいちゃダメ!黒いオーラが溢れまくってる!」


  「あと、これは人間の妖気じゃない、妖魔だ。」


  妖魔、だと…つまりあれか、根元先生になにかが寄生してたわけか…


  「さすがだな、村上、前から思ってたがその妖気探知、大谷のとはレベルが違うな、人間が妖気に酔うとかありえないからなぁクックック!」


  「丑崎は殺したよ、家族を解放してください。」


  「そうだな、その前にこの格好、もう疲れたからやめだやめだ!」


  根元先生の体から妖気が飛び出て、どこかで見たことある妖魔を形作っていく、金色の長い髪、長い2本の角、体には赤い炎の刺青。酒呑童子の腹心の妖魔、まさか今でも生きていたのか。


  「俺は茨木童子(いばらきどうじ)!丑崎魁紀、貴様から酒呑童子の力を奪い、俺が三大妖魔に並ぶんだ!」


  「茨木童子、お前がずっと羽澤さんを!」


  「あぁそうだ、そのために羽澤の家族を人質にした。おっとそうだったな、その家族を解放する話だったな、ほれ。」


  妖術陣が現れ、そこに羽澤の母と弟であろう人が現れた。


  「お母さん!幽基(ゆうき)!」


  「だがね、羽澤。」


  母と弟が宙に浮かされ、苦しそうにしている。


  「妖魔が、人間との約束を守ると思うか?」


  「や、やめてぇぇ!!」


  「クハハハハハハハッッ!いいぞ、もっと聞かせろ、その喚き!その叫び!だが決して叶わないその願い、実にいいぞ!クハハハハッ!!!」


  「チッ!その親子を離せ!」


  「龍太郎!よせ!」


  「なんだ?虫は黙ってろ。」


  いとも簡単に龍太郎はぶっ飛ばされた、クソッ、こういう時に限って体が動かねぇ…って待てよ、なんでまだ意識が飛ばないんだ、おかしくね?


  「邪魔者はもういないか、んじゃこの親子にも用はねぇな。」


  「やめっ…!」


  血飛沫が舞う、考えたくもないが、羽澤の家族は、茨木童子に殺された。


  「あぁぁ…ああああああああああ!!!」


  「クハハハハッ!!!楽しいなぁ!!久しぶりだこの感覚は!あの方に感謝せねば!」


  あの方って誰だ、こいつを操っているやつすらいるのか。それよりこの感じなら、こいつを殺すくらいには動けるはずだ、頑張れ俺の体…!


  「あぁぁ…お母さん…幽基…私……ああああああああああ!!!」


  「羽澤…ちゃん…」


  「続きと行こう。丑崎、貴様の童子切を頂こうか、それを貰ったらもうお前たちに用はないから死んでもらうぞ。」


  「そうは行くか!」


  羽澤が致命傷を外してくれたからか、ギリギリ動ける、こいつが油断してるうちに殺れる!


  「あーはいはい、どうせそうだろうと思ったよ。」


  簡単にいなされてしまった…なんなんだこいつ、はなから羽澤のこと信用してなかったって訳だ、ちくしょう、妖魔のクセに頭が回りやがる。


  「あとそうそう、お前のその大太刀、お前にとって大事なものらしいな。」


  「それが…どうした…」


  「こいつを折ったら、どうなるのかな〜?」


  「や、やめろ…」


  それだけはやめろ、その大太刀はじいちゃんの…


  「クハハッいいね!その顔!是非やめてくれと懇願するその顔!実にいい!!だがその願いは叶わない!!」


  頼むから、それだけは、やめてくれ、それを折ったらじいちゃんが…


  (……)


  じいちゃん!


  (……)


  じいちゃんの霊体が現れ、無言で俺の頭を撫でる。撫でるだけじゃ分からないよじいちゃん!


  (……)


  じいちゃん…行かないでくれ…俺…最後の最後までじいちゃんに…じいちゃんが亡くなった時も!


  (……)


  じいちゃん…じいちゃん!!


  「クハハッ、絶望しやがれ!丑崎!」


  折れた、じいちゃんがくれた、国順が…国順にはじいちゃんの魂が宿ってたのに…


  ああ…じいちゃんの霊体が天(そら)に登っていく…やだよ、じいちゃん!!


  (カカカッ!我が助けてやろうか?)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る