第十五集 休めない休日

 4月20日 12:00 討魔酒場 305号室


  久しぶりではないけど、感覚的には久しぶりの休日だ。昨日の山姥討伐は疲れた、童子切を使う羽目になるとは思わなかったし、絶対許さないからな山姥。


  そんなわけで今日は土曜日、学校と同じで平日だけ任務を受けて、休日は好きにしていい、なので俺は今でも布団でダラダラしてるわけだ。


  「よぉ!魁紀!訓練所で1試合手合わせしようぜ!」


  ドアが勢いよく開き、龍太郎が入ってくる。そのせいでゆっくりできる休日も、こんな感じでぶっ壊されることになる。


  「嫌だよ面倒くさい、龍太郎の相手なら夏がいるだろ、俺はまだ寝てたいんだ。」


  もちろん断る、龍太郎の相手とかごめんだ。


  「えぇ、夏ならもう何回もやって飽きてきたんだよ!」


  夏も可哀想だな、今頃疲労しきって布団から出られないんだろうな。


  「おっと?なんだ?俺に負けるのが怖いのか?なーら仕方ないな、通に相手を頼むかー。」


  なんだその安い挑発、俺が乗るわけないだろ。第1に俺が龍太郎より弱いわけないだろ、だからこんな挑発、聞く耳を持つ必要も無い。


  「おおなんだって?そこまで言うならボッコボコにしてやんよ覚悟しとけ。」


  やはりムカついたからか、安い挑発に乗ってしまった。


  「ハッハッハ!やはりそうでないとな!」


  こうして休日だけど、体を動かすことになった。不本意だが仕方ない、ほら、学生には友達との青春を過ごす時間も必要だろ?そういうことだ。


  12:00 討魔酒場 訓練場


  訓練所に到着、討魔酒場にも色々あるもんだ、ここにいる時だけゲームの中にいるみたいだ。


  「そう言えば魁紀、お前のその刀、抜いたとこは見た事ねぇけど使わないのか?」


  なるほど、童子切が気になるのか、てか入学式で1回は見たことあるだろ。


  「童子切のことか、入学式で1回見たでしょ、あーなるから先生に使うの禁止されてるんだよ。」


  「ほー、でもあれは確かに凄かった、急に本に書いてあった酒呑童子の虚像が出てくるもんだ、ビックリしたよ。」


  そうだろうな、日本三大妖魔の一柱、そして唯一討伐報告が上がってる酒呑童子が出てきたもんだからな、驚くのは無理もない。


  「という訳だ、こいつは抜けないんだ、抜いたら龍太郎に一瞬で勝っちゃうからな。」


  「はぁ?言ってくれるじゃねーか、ならその大太刀、へし折ってやるよ!」


  「おぉっと、こいつを折られると困るんでな、それだけはやめてくれよ。」


  じいちゃんの形見だ、今後ずっと変えるつもりはないからここで折られると困る。


  「そうか、でも手加減はしねぇぞ、行くぜ!」


  「おー来い!」


  数分後


  龍太郎の技は、前に見た通り、斬れば斬るほどどんどん速くなる、大太刀使ってるから速さについて行くのがやっとだ。


  「おらおらどうした!」


  「へっ、まだまだ!」


  とは言うが、さすがに速い、一撃で粉砕する技を使うのもいいが、それだと試合にはならない。さてどうしようか。


  「次で終わりだ!行くぜ魁紀、妖魔以外には使わない技だ!花速刀(かそくとう)・花見(はなみ)で一杯(いっぱい)!!」


  なら人に使うなよ、てかなんだよ一杯って。


  「加速する花の刀で花速刀、なかなか洒落(しゃれ)てるだろ?」


  はいはいおもいろいねそれ、こっちはそういうところじゃないってのに。不規則な斬撃、速すぎて残像すら残る、だけどどの斬撃も軽い、これだけでやられるとは思えないけどなにか違和感があるな。


  「タネが割れる前に仕留めるぜ!はぁ!!」


  重い一撃が唐突に来た。


  国順で受け止めたけど、だいぶ後方に飛ばされてしまい、両手が痺れた。なるほど、花見で一杯、本来どういう意味かは分からないが、花見、これは散る花を意味してるんだろう、それで軽い斬撃。一杯、花見の最中に飲む一杯、ということはどこかのタイミングで重い一撃が来る、と。なかなか洒落てるじゃねーか。


  「もう終わりか?」


  正直終わりたい、手が痺れてて上手く動かせん、だけどこっちが乗った挑発だ、ここで一撃返さないと失礼ってもんだ。


  「いーやまだだ、行くぜ?この技はまだ学校の誰にも見せてないから、覚悟しとけよ?」


  「ほー?ほんじゃご拝見させてもらおうか!」


  って言いながら斬りかかって来るんじゃねーよ、見てろよ。


  「艶艶(えんえん)!」


  「お、大太刀を、片手でだと!?」


  「ははっ!蝶のように舞い!蜂のように刺す!」


  そっちが不規則な動きをするならこっちもだ!大太刀だと速さはないけど普通の刀より読めない動きができる!


  「お前!それ俺の技とあんま変わらないだろ!今パクったな!」


  「はははははっ!!残念だが昔から習得してる技でな!行くぜ!蜂のように刺ぁす!」


  再び数分後


  「ハァハァ…いい加減降参したらどうだ……魁紀…」

 

  「そっちこそ…諦めたらどうだ…もうこっちは疲れてるんだよ…ハァ……」


  「なら降参しろよ…こっちはまだ体力残ってんだ…」


  「そうには…見えねぇな…」


  ダメだ、このままだと先に堕ちる…それだけは…


  「あ、龍太郎なにやってんのー?」


  「お!魁紀くーん!」


  大谷と南江か…今それところじゃ…


  「朋実か…今……」


  バタ……


  やったぜ…龍太郎が先に倒れてくれたぜ…


  「勝っ…た…」


  バタ……


  「ね!ちょっと龍太郎どうしたの!?」


  「魁紀君?魁紀君!?なんで倒れちゃったの!?!?」


  17:00 討魔酒場 302号室


  ん?布団?、なんだかデジャブだな、前にも同じようなことがあったな、また女子風呂でも覗いたのか俺…


  「いつの間に寝てたんだ…って魁紀!なんで同じ部屋にいるんだよ!」


  「龍太郎うるさい、頭に響く…あっ、試合は俺が勝ったからね、へへっ。」


  寝起きにいい知らせをしてやった、もちろん悪意を込めて。


  「嘘つけ!そんなの認められるか、魁紀が先に倒れてたじゃねえか!」


  「本当なんだよなーこれが、龍太郎が倒れたのを見てから寝たんだからな。」


  へへへっ、勝った。


  「うわ、もうこんな時間かよ、ほら龍太郎、飯食いに行こうぜ。俺ラーメン食べたい。」


  「くっ…ああ!俺もラーメン食べる!」


  こうして、貴重な休日が試合でほぼ潰れた。てか試合時間は数十分だろうけど寝てた時間のが長かっただろうな。


  だがこういう手合わせも悪くないな、せっかくの機会だし、この際クラス全員と1回くらい手合わせしても悪くないかもな。あっ、南江だけは却下だ、あれに殴られたらただじゃすまない。


  まああくまで一つの考えだけどな、実際にやるつもりは無い、うん。


  4月21日 11:00 討魔酒場 305号室


  「魁紀君!試合しない?」


  なんでよりによってお前なんだよ南江…


  「な、なんでお前まで…」


  「だって!昨日龍太郎君と試合したって聞いたから私もやりたくなっちゃって!」


  嘘だろ…


  「いや、ほらお前、俺武器持ってるし、南江は素手じゃん?戦ったら対等じゃないからさ!」


  うん、これしかない、素手と武器ありじゃフェアじゃないからな。


  「私は大丈夫!むしろ武器あった方が私の成長に繋がるし!なんなら妖術込みで戦ってくれても大丈夫だよ!」


  ダメだった…もう勘弁してくれ、昨日のでだいぶ疲れたんだ…もういいや…


  「分かった、1本勝負だ、南江が俺に攻撃を当てたらそれで終わりにしよう。武器持ってるからハンデはこれで十分だろ。」


  「私はハンデなしでもいいけどそれで行こう!」


  あぁ…面倒くせぇ…


  11:10 討魔酒場 訓練場


  「じゃあ行くよ!」


  「おー、早く来い。」


  「そりゃ!」


  踏み込みが強い、そのおかげでスピードが速い、体術においては文句なしだな。だけど妖術を使ってもいいって話だったな、へっへっへー、なら使ってやるぜ。


  「これでどうだ?」


  両手に紫の炎を生成した、妖術の中でも簡単なもので、俗に言う鬼火だ。鬼火は属性によって色が変わるが、俺のは1番普通の鬼火だ。


  鬼火は水をかけたくらいでは消えない、それほど特別なものだ、人間にも妖魔にも効く。対抗するためには同じ鬼火で相殺するか、妖気を込められた攻撃で消すかだ。もちろん鬼火より強い妖術を使われたら簡単に消される。


  「凄い!鬼火なんて私どんだけやっても出せないのに!」


  やっぱりお前妖術コースより武術コースのが良かっただろ。


  「鬼火くらいなら直ぐに出来るようになるよ。ほんじゃとっとと終わらすぞ。」


  鬼火を大量生成、そして合体。はい、とんでもないバカデカい鬼火球の完成だ。


  「南江行くぞー、それ!」


  でっかい鬼火を南江に向けて投げた、簡単には消せない大きさだからこれで終わりだな。


  「こんなもの!突き抜けてやる!はぁぁぁ!!」


  南江は鬼火に向かって走り出し、蹴りを突き出した。その蹴りが鬼火の中を突き抜けて俺のところまで届こうとしていた。


  まあ南江ならそうするだろうと思ってたから、国順をもう構えてたけどね。ああ鞘にしまったまんまだから大丈夫大丈夫。


  「痛ったーーーー!」


  はい、読み切った俺の勝ち。


  「俺の勝ちでいいよな、南江大丈夫か?」


  「大丈夫だよ、私の考えが甘すぎたかなぁ、でも楽しかった!」


  ならよかった…


  「じゃあ戻るよ、疲れたからもう寝る…」


  「うん!でも私はまだ試合したいから次の相手探してくるね!魁紀君ありがとう!」


  マジかよ、元気だなーあいつ。その元気俺にも分けて欲しい。


  今日も半日が過ぎた、南江との試合はまあ妖術を見せれたから良しとするか、本人喜んでたみたいだし、たまにはいいだろう。寝る前に風呂でも入ろうかな、そっちのが良さそうだ。


  「魁紀!昨日の続きだ!負けたまんまでいられるか!」


  「魁紀!その次は俺ともやってくれ!前に1回腕試ししたくらいだからいいだろう!」


  頼むから…部屋に帰らさせてくれ…


  こうして、俺の休日はクラスメイトとの試合で潰れたのであった。

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