第十二集 初任務と男のロマン

4月18日 10:00 新横浜討魔酒場 


  対抗戦から2日、新横浜討魔酒場にて、クラス全員が集まっていた。そこには根元先生と4人の卒業生らしい人もいた。


  「おはよう諸君、今日から約1ヶ月間、任務での実戦を行う。まず部屋を借りて任務に要らない荷物を預けろ、そしたらまたここに集まってくれ。」


  部屋か、どんな部屋になるんだろ、出来れば全員くつろげるところがいいな。


  「ところで南江、なんでお前そんなに荷物が多いんだ?」


  「え?だって1ヶ月もお泊まりするんでしょ?こんくらいあって当たり前じゃない!」


  「それにしても多すぎだろ、何入ってんだよ…」


  「魁紀君、女の子にそういうこと聞くのは野暮じゃない?」


  「梁の言う通りだぞ魁紀、流石の俺もそんなことはしないぞ。」


  健太も前に同じようなこと言ってたよな…


  「まあ強いて言うなら、女の子の夢と希望が入ってるのよ!てへぺろ!」


  うわーうざ。


  「ほらほら!部屋取りに行くよ!私1番広い部屋がいい!」


  それに関しては同意見だが、そう簡単に取れるもんなのか?6人の部屋とか。


  10:05 討魔酒場 305号室


  なんだこの広さは、6人ところか10人くらい余裕で入るだろこれ。何畳あるか分からない和室、ベッドがないから敷布団タイプか、俺好みだ。どこから流れてるか分からない和風のbgm、部屋の電気は赤いランタン、おまけに外には露天風呂…なんていう豪華和風部屋なんだ!


  「「すげぇ…」」


  6人全員同じ感想なのは珍しい、それも仕方ない、まさか俺ら学生にこんな部屋を取らせてくれるとは思わなかった、これからの1ヶ月の間意外と楽しいかも。


  「よし、荷物置いたら武器と貴重品、軽食だけ持って外行くよ!」


  「「おー!」」


  10:05 討魔酒場事務所 羽澤幽奈サイド


  「羽澤、最後のチャンスだ、この1ヶ月を使って丑崎を殺せ。」


  「はい…」


  「もし出来なかったら、お前の家族の命はないぞ、いつでも起動できる術をお前の家にかけた。あぁあと、裏切るようなことをしたら結果は同じだから他人に期待しないようにな?」


  「わかりました、失礼します…」


  「クククッ、丑崎、貴様が持ってる酒呑童子の力、この俺様が回収してやるよ。その力さえ手に入れば、あの方はこの国を手に入れることが出来る、そうなれば俺も…クククッ、クハハハハハハハハッッッ!!」


  チッ、なんで私が、こんな…お願い、誰か助けて……


  10:15 討魔酒場前広場 丑崎魁紀サイド


  「全班集まったな、よし、では今から任務に向かうぞ、第一班から第四班は卒業生、第五班は俺がつくから、よろしく頼む。」


  うっわ、根元先生が俺らにつくのかよ、最悪じゃん、絶対面白くないじゃん。


  「私卒業生が良かった…」


  「おいバカそういうのは思ってもいいけど声に出すなって。」


  「南江さんも魁紀君も根元先生嫌いなのかな…」


  「「そうだよ。」」


  「ええ…」


  ごめんな梁、入学した時からあの先生好きになったことないから。


  「というわけで南江班、行くぞ。」


  「「はい。」」


  このやる気のなさである。


  「痛った、って羽澤さん?」


  「あっ、ごめんなさい。」


  「うん、大丈夫だよ。」


  「ん?梁、どうかしたか?」


  「いや、なんでもないよ。なんだったんだろ、今の。」


  任務を選ぶのだが、南江が楽なのがいいと言ったためか、本当に楽なものになってしまった。


  「よし、じゃあこの川崎大師の餓鬼の討伐に行くとしよう。」


  川崎大師、遠いな、ラウンドツーがあるくらいしか知らない、あそこのスポッチャで遊んだなー。


  「移動手段は電車で行こう、初任務だ、油断せずにやるぞ。」


  「「はい。」」


  11:30 川崎大師駅


  電車で乗り換えたりして約1時間、川崎大師駅。まだまだ昼だというのにこのまま餓鬼を討伐するのか、だいたい妖魔が現れるとしたら夜の森か川とかなんだけど、こんなとこに現れるのか?


  「目撃情報はここから北にある多摩川付近だそうだ、被害者はまだ出ていない、今はとりあえず昼食でも食べて、夕方から取り掛かるぞ。」


  「え、昼ごはん食べれるんですか!?」


  「そうだ、俺の奢りだから好きなものを食べるといい。」


  「やったー!!」


  南江のやつ呑気だなー、でも昼ごはんタダで食べれるのはありがたい、こういう時は遠慮なく頂こう。


  「で、何か食べたいものはあるのか?」


  「私とんかつ食べたい!!」


  嘘でしょ、動く前にだいぶ重いもん食べようとしてるな。


  「遥ちゃん、それはさすがにあとに響かない?」


  「大丈夫大丈夫!私消化早いから!」


  そういう問題じゃねーよ…


  「確かここ近くにとんかつ屋があったな、そこに行くとしよう。」


  こんな感じで昼ごはんはとんかつになった、とんかつ定食を食べたんだけど、これが異常な量だった、これ本当に1人前なのか疑うレベルだった、先生と南江以外食べ切れてないし…


  「あぁ美味しかった!先生ご馳走様!」


  「まあ初任務前だ、こんくらいは些細なことだ。」


  今更になるけど、根元先生前に羽澤と一緒になにやら悪いこと企んでたはずなのに、最近は全くそんな動きをしてこない、結局ただの気まぐれだったのかな。でも今はそんなことどうでもいいや、何もしてこないなら何もしないし、なにかしてくるなら対策するまでだ、今は任務に集中しよう。


  17:30 多摩川付近


  そろそろ時間だ、待機時間が長すぎて寝そうだった。ちなみに南江と健太は寝てた、俺と松田が叩き起してやった。余裕があっていいことなのかもしれないけどもう少し緊張感を持って欲しい、うん南江は多分無理だな。


  「時間だ、情報通りならもうすぐ餓鬼が現れる、俺は手出しはしないから、全員構えて戦闘態勢を取れ。」


  「「わかりました。」」


  「さあみんな、初任務ぱぱっと終わらせて帰って風呂に入るよ!」


  「「おー!」」


  いつもいつも早く帰りたいって言ってるようなもんだけど、これが意外と気合いが入る、なにせ俺も早く帰りたいからな。


  「健太、妖気の反応は?」


  「ちょうど今だ!川から出てくるぞ!」


  「ガァァァ…」


  「ガガギ、ギ、ガァ…」


  餓鬼が3体、意外と数が少なくて助かる。


  「餓鬼は3体、私と千尋ちゃん、魁紀君と通君、健太君と梁君で1体ずつ各個撃破を狙うよ!」


  「「了解!」」


  相変わらずの指示の手早さ、指示内容も文句なし、さすがだ。


  「対妖魔格闘術、排山倒海(はいざんとうかい)!!」


  「丑火損(ぎゅうかそん)!」


  「対妖魔射撃術(たいようましゃげきじゅつ)・羽々矢(はばや)!」


  それぞれの技で餓鬼を仕留めた、だけど油断は出来ない、目撃情報で何体の餓鬼がいたなんていう情報はないからまだ警戒しないといけない。


  「健太、周囲の妖気を探ってくれ!」


  「あいよ!えーっと、まだ2体川の中に潜んでる!」


  「おーけー!なら俺が!」


  1番得意なのは水系統の技なんでね、水中なら任せろ。


  「行くぜ、凌水(りょうすい)!」


  凌水(りょうすい)、これはお母さんの得意技だ、両手を開いて前に突き出し、水を細く鋭く溜めるイメージ、すると手の前に水の槍ができ、それを餓鬼に向けて発射する。


  「ガポオオオ……」


  よし、これで終わりだな。


  「凄いな魁紀君、水系統の技も使えるの?」


  「できるけど、ほぼ使うことない。」


  「ないんだ…でも凄い、私なんて殴る蹴るしか出来ないのに…今度私にも教えてよ!」


  「それはそうだな、うちの師匠の元で修行でもするか?健太、通、梁はもう弟子入りしてるんだけど。」


  「え!?3人とも!?」


  南江は3人の方に振り向いたけど、3人とも冷や汗をかきながら首を立てに振っていたからか、南江もそれを察したかのようにやめておこうと断った。


  「上出来だ、最後まで油断せず索敵をしたのは素晴らしかった、分担して各個撃破したのも良かった。よし、このまま帰るぞ、任務完了だ。」


  あっさりってほどでは無いけど、まあこんなもんだろ、昔森で修行してる時と比べたら全然マシな方だ。だって森に放り投げられて1週間妖魔と動物狩って過ごしたんだから全然マシだよ、うん…


  19:00 討魔酒場 酒場エリア


  「では、初任務無事成功を祝して!乾杯!」


  「「乾杯!!」」


  グラスの中はコーラなのでご安心ください。


  初日が無事に終わってなによりだ、他の班も特に問題は無かったみたいだし。それよりなんで南江が仕切ってんだ、30人クラス全員同じとこでご飯食べるってだけでもだいぶおかしいはずなのに。


  「なぁ魁紀、このあとみんなで大浴場に行かねーか?」


  「なんだよ夏、部屋内に露天風呂あるだろ。」


  「それがよー、大浴場はな、男女別れてるけど、壁1枚で隔たれてるだけでその上は空いてるんだ。だから向こうの音とか声まで聞こえるんだぜ。」


  なるほど、よく分かった、だが俺も紳士だ、ここは紳士らしくはっきり答えるとしよう。


  「言いたいことはわかった、では、女子達が入るタイミングに合わせて俺達も行くぞ!」


  「その話、俺も混ぜてくれ。」


  「田口か、お前も知りたいのか、男のロマンを。」


  「あぁ、でもお前らにいいことをひとつ教えてやろう、今朝実は1度朝風呂で大浴場に入ったんだけど、なんとな、壁に穴があったんだよ。」


  なん…だと…


  「お前にしちゃいい情報を寄越すじゃねえーか田口!」


  「龍太郎でいいぜ、夏。」


  なんでここで心の友が出来たみたいな空気になってんだ暑苦しい、てかお前らいつ仲良くなったんだよ、あっ今か…


  「よし龍太郎、男子全員集めるんだ、会議を始めるぞ。」


  「あぁわかった、任せろ。」


  こうして、男の、男による、男のロマンのための会議が始まる。


  19:50 討魔酒場 305号室


  「健太、お前の使ってる索敵で女子達の妖気を探ることは出来るか?」


  「大丈夫だ、容易いことだ。」


  何だこの会話…


  「よし、梁、お前の剣に小型のカメラを付けるから、そいつを射って壁に乗るように操作してくれ。」


  「わかった。」


  わかるな梁、お前もこっち派だったのか。てかその小型カメラどこから出てきた。


  「これで全てが整った、男子諸君、俺らのロマンのために、力を尽くすぞ!」


  「「おー!!」」


  こういう時に実感する、同じ到達点があれば、人間は強く、そして結ばれるのだと。


  20:30 討魔酒場 大浴場更衣室前


  「女子勢が動いた、男たちよ、出発!」


  夏の声に合わせて男子全員がこそこそと男子更衣室に動いた、そして流れで全員浴場に入った。


  「健太、女子達は動いたか?」


  「ちょうど今動いてる、もうすぐ浴場に入る。」


  「こないだの一本踏鞴マジ最悪でさー、凄い汚れちゃったの。」


  「それは大変でしたね、私も夏が走っていったせいで…」


  「みんなもみんなで大変だねー、私のとこは龍太郎がもう…」


  女子の声が聞こえてきた、そろそろだ、俺たちの新しい世界が見えてくる!


  「よし、梁、剣を射ってくれ!」


  「了解!」


  梁の放った剣もといカメラは無事壁の上に乗った、大きすぎるとバレるから射った後は直ぐに小さくするように言ってある。カメラの録画は既に始めていたから、後は女子達が出ていった後に梁に回収させれば俺達の勝ちだ。


  「作戦はとりあえず成功だ、では女子達が帰る前に…」


  「そうだな、その前に先ずは…」


  夏と龍太郎がゲスい顔をしていた、考えてる事は俺にもわかる、そう、穴を使って女子浴場を覗く!悪いことなのはわかっているが紳士ならば1度は通る道だ!


  「では男子諸君、第一班から順番に覗いていくぞ、いいな?」


  「「異議なし。」」


  ちょっとずるいけど、これは仕方ない。


  「琴里は小さいころから凄かったけど、今はどうなんだろうなー。」


  「朋実も凄いんだぜ、昔一緒に鍛えてたから凄い引き締まってるはずだぜ。」


  いいなお前ら、幼なじみいて…


  「よし、俺から行くぞ。」


  「ああ、夏、俺達を導いてくれ。」


  「では、行ってくる!」


  かっこつけちゃってもう、かっこいいじゃねーか。


  「なにをしているのですか?夏。」

 

  げっ…五十鈴が壁から顔を出してこっちに語りかけてきた、ちょっと見える胸元がこれまたふつくしい…


  「い、いや違うんだ琴里、俺は何も。」


  「妖気探知で丸わかりだっての、龍太郎、何か遺言はある?」


  大谷も顔を出してこちらを見てた、龍太郎の言ってた通り引き締まっていていい…


  「違うんだ朋実、これは全部魁紀がだな…」


  「おいバカお前俺のせいにしてんじゃねーよ!」


  「魁紀君、私前に言ってたよね、次同じことあったらグーだって。」


  まずいって、目なんか赤く光ったし殺気しかないって、てか南江もいいスタイルしてるな!


  「だから違うって、南江、俺達仲間でしょ、信じてくれって!」


  「わかった、じゃあ今回グーはやらないでおくよ。」


  はぁ助かった…命拾いした…


  「だからパーで行くね。」


  「えっ!?」


  「琴里ちゃん、あの3人縛って浮かせられる?」


  「任せてください。」


  五十鈴が手を前に伸ばした、特になにかを唱えた訳でもないのに、俺、夏、龍太郎の3人が拘束され、目の前まで浮かせられた。


  「では、あとはお2人にお任せします。」


  「琴里ちゃんありがとう。覚悟はいい?」


  「「お手柔らかに…お願いします…」」


  「二度とこんな真似が出来ないよう、しっかり痛めつけてあげるね、3人とも。」


  顔が笑ってるけど言ってることが笑えねーぞ。殺意しか感じない…


  「ふん!」


  3人とも思いっきしビンタされた、その後五十鈴の術なのか、大浴場にいた時の記憶が無くなった。術に関しては他の男子にもかかっていたらしい、見た全てを消すつもりだろう。あとカメラなんだが、無事に壊されていた。


  こうして、俺たち5組の男のロマンは、終焉を迎えたのであった。

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