第十一集 細矢通
4月16日 10:10 1年5組専用体育館観客席
3戦目、俺ら第五班vs第二班、通のためにも勝たないといけない。それ以前にどんな理由があっても勝たなきゃいけないんだけどね。
それより田口もあの場にいたのか、ということは羽澤や通以外にも最初から同じクラスのやつがいたってわけだ、全く気づかなかった。
「3戦目を始める、第二班と第五班、早く準備しろ!」
はいはーい、さてと、催促されたし早く行こうか。
観客席からフィールドに移り準備運動を始めた、中でも特に通がいつも以上に張り切っていた。田口にあんなこと言われたから仕方ないか。
「ぼ、僕だって…もうあの時の僕じゃ…ないんだ…」
「ん?通どうした?」
「ううん、なんでも、ないよ。」
「うーん。」
なんか様子がおかしいな、見張るとまではいかなくても、様子見てないとな。
「準備は出来たな、では第3戦、始め!」
よし、行くか。
「細矢!!お前だけで来い!!」
「え、えぇ!?!?」
そう来たか、一騎打ちで白黒つけようってことか。
「根元先生!あれは大丈夫なの?」
南江が真っ先に疑問を訴えた。
「うん、断る理由が特になければ決める権利はそっちにある、俺が許す。」
まじかよ、なにが俺が許すだ、俺が許さんわ。
「通君は大丈夫なの?」
「う、うん、大丈夫だよ。むしろ、やらせて。」
強い意志を感じる、だけど穏やかじゃないな。
「ねぇねぇ魁紀君、通君からオーラが見える。」
「え、それってまさか悪いオーラか?」
通に悪いオーラが出るとは思えないけど、もしそうだとしたら全力をかけて抑える必要がある。
「いや、悪いオーラではなくて、赤いオーラなんだよね、赤いオーラは熱い意志がある時に出るの、ただ今の状態の通君ってたぶん危ないよね?」
「それなら俺も同意見だ、通の妖気が乱れまくってる、この後もし田口と戦うとなるとどうなるか分からない。」
健太もか、妖気の乱れは心の乱れ、そしてその乱れは普段の実力に影響を及ぼす。この場合はだいたい2パターン、1.妖気が乱れすぎてなんの技も発動することは出来ず、しばらく力を無くす。これならまだいい方だ。2.妖気の乱れにより、その乱れた妖気に襲われ、妖魔になる。これが1番最悪だ、これだけは避けなきゃいけない、通を殺すようなことはしたくない…
「いいか通、なにがあっても俺らがいることを忘れるな、たぶん一騎打ちになると思うけど、勝っても負けても気負うことないぞ。」
「うん…わかった。」
よし、とりあえず言うべきことは言った、あとは通に任せて、残りの俺たちは後ろに下がった。
「御託は済んだか?なら、やろうか。朋実、みんなを下がらせろ、なにもするな。」
「はいはい、ほどほどにねー龍太郎。」
あっちもちゃんと全員を下がらせたな、一騎打ちは嘘じゃなかったか。
「ぼ、僕も、行ってくる。」
「あぁ、行ってらっしゃい。」
さて、そろそろだな。
「健太と松田、常に通の妖気とオーラを観察してくれ、なんかあったら俺と南江が止めに入る。」
「「わかった。」」
田口と通は互いに向かって歩き始めた、俺でもわかる、通の妖気が乱れまくってる、本当に大丈夫なのかな。
「記憶にはないが、前は洗脳されて負けたらしいな。でもそんなことはどうでもいい、俺でも全く歯に立たなかった鬼寅の攻撃を軽々と受け止めたお前にどれだけの力があるか、俺が試してやる。」
「あ、あれはそんな軽々と止められたわけじゃ、ないですよ。」
「そうか、それもどうでもいい。鬼寅の攻撃を受け止めたのは事実だ、そんな事実を俺に認めさせてみろ!俺の1連の攻撃を耐えられたんなら俺の負けでいい、耐えれなかったらお前、退学しろ。」
「た、退学…」
あいつそこまでやる必要あるのかよ、ただただプライドが高ぇだけじゃねぇかよ。
「わ、わかりました、その提案に、乗ります。」
「通!?」
「だ、大丈夫、もし負けても、僕なんていなくても、みんな、なら…」
「馬鹿なこと言ってんな!」
「そうだよ通君!通君がいなくなったら誰が私をおんぶするの!」
おい南江今それ言うのはやめろ、空気読め。
「へへっ、南江さんをおんぶするのは、もう、ごめんかな。」
「そんなぁ…」
あからさまに断られらてて笑ってしまうわ。
「そうだ、言い忘れてたが、もし俺が負けたら、うちの班全員こき使っていいぞ。」
「ちょっ!龍太郎!!」
「男に二言は無い、いいな朋実。」
「わかったよ…」
かっこいいじゃねぇか、でもこっちも通を退学させるわけにはいかないからな、何かあったら勝負なしにしてしまえば。
「か、魁紀君、助けは、大丈夫だよ。」
「いや、でも通!」
「大丈夫、だから。」
「わかった…」
くそっ、何も出来ないのか…
「こ、来い、田口君。」
「へぇ、じゃあ遠慮なく、行くぜ!」
田口の武器は刀か、通の盾なら大丈夫だと思うけど、しかも鬼寅の方が強いとなると尚更大丈夫なんだけど。
「俺も中学の時から鍛えてるからな、今なら鬼寅にだって負けねー!おらおら!」
「くっ、まだ…まだ!」
「ほー、耐えるじゃねぇか、だけどこっちもまだだ!」
田口の攻撃速度がどんどん早くなってく、攻撃が当たれば当たるほど速度がそれに比例して上がる。これが続けば通の体力が…
「僕は…僕は…!」
…
あれは小学校の頃、歳はいくつかは分からなかったけど、多分高校生の人達にいじめられていた。
「おいおい男がピーピー泣いてんじゃねーよ!」
「ほらお小遣い貰ってるんだろ?それを出してくれりゃお兄さん達もうなにもしないから。」
お小遣いじゃないけど、お使いのためのお金だ、絶対に渡す訳には…
「そ、そんなお金、僕は持ってません、だからもうこんなことやめてください!」
「じゃあお前、ちょっとジャンプしてみろ。」
言われた通りジャンプしたら、チャリンってお金の音がして、しまったと思った。ビビっていたからつい言われた通りに動いてしまった。
「ほらチャリンチャリンいってんぞ、金をさっさと出せやガキ!」
「そこまでにしないか、若造ども。」
「ん?なんだよババア、長生きしたかったらどっか行け!」
「お、おばぁちゃん…」
泣き崩れた所におばぁちゃんが来てくれた、またいつもみたいにおばぁちゃんが来てくれた。
「また変なやからに絡まれて大変だったろうね、通、帰るわよ。」
「う、うん…」
言われるがままおばぁちゃんの所まで走ろうとしたけど。
「おっと、それは出来ねぇなガキ、持ってる金置いてけ。」
「はぁ…これだからこういう若造は、仕方ないのー、ふん!」
「がっ…なに…したんだ…ば、バァ…」
男たちは揃って倒れた、なにをしたかはよく分からないけど、いつもおばぁちゃんはこうして助けてくれる。
「ほら、ボーッとしてないで帰るわよ。」
「う、うん!」
僕はおばぁちゃんの手を繋いで帰路に着いた。
「お、おばぁちゃん、さっきのはなに?」
「あれはね、ばぁちゃんの気迫に怯えて、勝手に倒れただけだよ。」
「おー、おばぁちゃんすごい!」
「だろー?はははっはははっははは!」
だけど、かっこいいおばぁちゃんを見れたのは、それが最後だった。あれから1週間後、家の近くで妖魔が現れて、家にいなかった両親の代わりにおばぁちゃんが妖魔を討伐しに行った。
「通、おばぁちゃんちょっと出かけてくるから、家でじっとしていなさいよ。」
「お、おばぁちゃん、どっか行っちゃうの?」
「どこにも行かないさ、ちょっと悪い虫を退治してくるだけさ、心配ないよ。」
「で、でも、僕、怖い…」
「まったく、じゃあこの盾をあげるよ、おばぁちゃんの大事な盾だ。これを持ってる限り、通はずっと守られるから安心しな。」
今思えば結構情けないことを言った、でもあの時は凄く怖かったんだ、誰かが近くにいないと不安で仕方なかった。
「う、うん、直ぐに帰ってきてね。」
「わかったよ、ほらよしよし、もう怖くないからね。じゃあ行ってくるわよ。」
おばぁちゃんは行ってしまった、そしてそれっきり、帰ってこなくなった。たぶん、妖魔にやられたんだと思う。葬式に行った時、両親も特に何も言ってくれなかった、だから特に気にしないことにしてた。
だけどおばぁちゃんの残してくれたこの盾だけはずっと肌身離さず持っている、なんだかずっとおばぁちゃんが守ってくれてる気がして勇気が出るんだ。
「だから、僕はここで負けるわけにはいかないんだ!!」
(だめよ通、そんなに熱くなっちゃ。)
これは、おばぁちゃん?
(そうだよ、通、もっと冷静にだよ。通に守りたいっていう気持ちがあれば、守れないものなんてないんだよ、そこの若造の攻撃だって簡単に受け止められるさ。)
守りたい…気持ち…
(通は今の学校生活は楽しいでしょ?おばぁちゃんは死んでからずっとこの盾に宿って通を見てきたからわかるんだよ。通が今の友達と離れたくないのもよくわかるんだよ、だからこの関係とみんなを守りたいんじゃないのかい?)
そうだったのか…僕はずっとおばぁちゃんに守られて…そうだ、僕は今、みんなを守りたいんだ。みんなが大好きで、みんなが大切で、ずっと一緒にいたいんだ…
(ならやることは1つだよ、行ってきなさい、通。おばぁちゃんはこれからも通を見守ってるから、好きなようにやりなさい。)
うん、わかったよ、おばぁちゃん、ありがとう。
…
「こいつ、妖気が!?」
「か、魁紀君!通君のオーラが!!」
「まさか乱れてるのか!?」
「いや違う!通の妖気は乱れてるところかすごい落ち着いてる!」
「オーラも赤から青になってる、すごい冷静だよ!」
なん、だと…でも乱れてるよりは断然いい、このままなら田口の攻撃なんて余裕だろ。
「さあ、来い、田口君!君の攻撃に耐えてみせる!」
「よく言った!これで最後だ!うぉぉぉぉあああああああ!!!」
「はぁぁぁぁぁぁ!!!」
爆風が起きた、田口の攻撃と通の守りが衝突して爆発でもしたのか。
「どうなった!」
爆風は消え去り、そこには田口の攻撃により凹んだ地面と、盾を両手で支える通の姿があった。
「通!!」
「はぁ…はぁ……こ、これでどうですか…」
「はははっ、文句はねぇよ、お前の勝ちだ、通。」
「そこまで、第五班の勝利!」
最初はどうなるかと思ったけど、よかった、本当によかった…
「ぼ、僕…やれたんだ…僕にも、守れた…」
「「通!!」」
「「通君!!」」
第五班全員で通に向かって走り、抱きついた。嬉しすぎてこれ以上言葉が出ない、自分の勝利ではないとはいえ、嬉しいものだ。
「本当によかった、妖気が乱れてたからどうなるかと思ったよー!」
「オーラも赤かったから心配したよ!」
健太と松田が泣いてた、無理もない、2人には観察を頼んでたし。
「し、心配かけて、ごめんね、でも、大丈夫、だから。」
「よかったな通!それよりさっき田口に対してはすごい強気な口調だったのに戻っちゃったね。」
「あ、あれは、その、おばぁちゃんが、勇気づけて、くれたから…」
「おばぁちゃん?」
「そ、そう、おばぁちゃんが、ずっと一緒に、いてくれたんだ。」
通は盾を構えて言い出した、もしかして通のおばぁちゃんって…
「おばぁちゃんってもしかしてその盾か?」
「う、うん、おばぁちゃんの魂が宿っている、らしい。」
魂が宿ってる、か。俺の国順と同じような感じか。
「そうなんだ、よかったね、通。」
「うん!」
これで一件落着だ、健太と松田の2人には苦労してもらったから、このあといいご飯でも食べに行こうかな、通も頑張ってくれたし、祝勝会とは言えないがそんな感じで。
…
そして何故か田口とその班員がこっちに来た。
「ところでなんでお前ら着いてきてるんだ?」
「なに、通との約束だからな。俺が負けたら第二班全員こき使っていいって。」
「え、なに通そんな約束してたの?てかいつの間にお前も通と仲良くなってんだよ、さっきまでは認められねぇとか言ってたくせに。」
「何を言っている、男同士が1度戦えば友達も同然だろって痛った!!」
「うちの龍太郎がごめんね、いつもこんな感じだから殴っていいよ。」
痛そう…一瞬で頬にもみじ出来てるじゃん…
「通、これは通が勝って手に入れたものだから、通が好きにしていいぞ。」
「う、うん、大丈夫だよ、こき使うなんて、しないから、へへっ。」
「なーんだ、私らがこき使っていいなら色んなことやってもらおうと思ったのにー。」
「南江さん何やらせるつもりだったの??」
「えー例えばお買い物とか、なんかあった時の私の代わりとか、歩きたくない時におんぶしてもらうとか。」
「もうそれ奴隷じゃねーか。」
南江そんなこと考えてたのかよ…
「じゃ、じゃあ田口君、お願いがちょっとあって…いいかな?」
「ああ大丈夫、あと俺のことは龍太郎でいいぞ。」
「う、うん。なら龍太郎君、僕らと、友達になって欲しい。そして何かあったら、魁紀君の味方になって欲しい。」
俺の、味方?どういう意味だろ。
「そんなことでいいのか、なら簡単だ。というわけでお前さんたち、これからよろしく頼むぜ。」
「うん!こちらこそだよ!」
田口と南江が握手を交わしていた、なんかこう見てると和親条約でも結んだんじゃないかに見える。
「よしお前ら、今日の対抗戦はこれでおしまいだ、いい訓練になっただろう。ということで今日はこれで終了、各自解散で結構、次は討魔酒場で会おう。」
今日は長かったな、よし、片付けが終わったら早速!
「なあみんな、祝勝会という訳では無いが、ご飯を食べに行かないか?みんな疲れただろうし。」
「魁紀君いいね!行こう!」
「「おー!」」
「俺達も行くぜ!」
「え?」
え?田口お前、いや、お前らも来るの???
「いやなに、友達なんだから着いていくに決まってるだろ。」
そういえば、そうだったな…うん…
「魁紀!!俺も行きたい!!」
「夏!?」
また増えた…しかもうるさいやつが…
「ん?あいつは確か新井だったな、さっきまで寝てたやつ。」
「おーおー喧嘩売ってんのかお前。」
「よく気づいたな、売ってるんだよ。」
「なーに??」
そこで2人でバチバチにならないでくれ暑苦しい…
「こんだけいるけど通はいいか?今日の主役は通だから通が好きにしていいよ。」
「う、うん。僕は大丈夫だよ、人多い方が、楽しいと思うし。」
「わかった、そういうことらしいから、田口と夏も班員連れて来て大丈夫だよ。」
「「おっしゃー!」」
「「あん??」」
だからそこで2人でバチバチになるなって…変なとこで似てるなー、ほら五十鈴と大谷もお互い大変ですねみたいな空気になってるじゃん。
「よし、行こうぜ通。」
「う、うん!」
おばぁちゃん、見てる?こんなにも頼もしい仲間がいっぱい出来たんだ。守られることもあるけど、もう昔みたいに守られっぱなしじゃないんだ、僕もみんなを守れるから、ずっとずっと見守ってくれて、ありがとう、おばぁちゃん。
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