第十集 班別対抗戦

  4月10日 10:00 1年5組専用体育館


  「おぉぉら!!」


  夏の攻撃で一本踏鞴が倒れた、分身体を倒す前に直接本体を叩きに行ったらしい、夏らしいと言うべきかなんと言うか。


  「へっ、今日は俺らの勝ちだぜ。」


  だから勝負してねぇって。


  4月11日 10:15 1年5組専用体育館


  「健太君、場所はわかる?」


  「あぁ、ここから真っ直ぐ1km先だ。梁、射程距離内か?」


  「大丈夫だよ、最近の修行のおかげで弓の扱いが上手くなったよ、たぶん。」


  たぶんなんだ…最後の餓鬼の模擬戦終了後、男子勢を柏井師匠の所に紹介した。同じ班で今後一緒に戦う仲だからって無理言って師匠に弟子入りさせた。見込みはあるけど、今の実力はまだまだだから暇あったら来いってやる気満々だった。これを機に俺の修行が減るといいなと思ったけど、まさか全員まとめて修行だって言って1対4で修行すると思わなかった…


  「ここだ!対妖魔射撃術(たいようましゃげきじゅつ)・羽々矢(はばや)!」


  矢(剣)先が白い光を放ち、矢が真っ直ぐ放たれた。速度は決して速いとは言えないが、ここから梁の矢の操作が始まるから当たらないことは無い。


  「りょ、梁君!危ない!」


  ちっ、一本踏鞴の分身体か、本体が危ないから攻撃の元を断ちに来たか。


  「りょ、梁君を守る、断空(だんくう)の盾(たて)!」


  一本踏鞴の攻撃が唐突に止まった、止まったと言うよりは見えない壁に当たったような感じだ。


  「梁、矢の操作を続けてくれ、健太は梁のサポートをお願い!」


  分身体を片付けて、本体は2人に任せよう。それにしても凄いな通、南江をおぶったまま盾を構えたのか、あっちなみに今日も今日とて通は南江をおんぶしたままです、はい。


  「当たった!健太君、妖気の流れは?」


  「今ので無くなった!」


  「よし!」


  今日は俺らがトップだ、分身体も一応点数には入るらしいけど、結局本体倒した班が1番点数高いんだよね。


  それからも一本踏鞴の模擬戦は続いた。夏の班がまたいきなり決着つけたり、田口班の獲物を松永班が横取りしたり、俺らが追ってた本体が羽澤班と戦っていた分身体と共に羽澤の術に巻き込まれたりとか、いろいろあったけど1週間が経った。


  4月16日 9:00 1年5組教室


  「模擬戦は昨日で終了だ。結果は新井班、羽澤班、南江班が1位、松永班2位、田口班3位。結果はともかく、皆よく頑張った。」


  点数つけた意味ってあったのかね、全員模擬戦のおかげで腕は上がってるから、点数以上の結果は得られたと思うけど。


  「今日は実戦の説明をした後、ちょっとした班別対抗をやってもらう。班は五までしかないから一班だけやらなくていい。そうだな、班代表1人それぞれ出てきて、じゃんけんで決めよう。」


  じゃんけん、決め事をするときに一番手っ取り早いかつ批判もでない、いいね。


  「よぉし!私じゃんけんには自信あるから私行ってくる!」


  大丈夫か南江、それ俗に言うフラグってやつだぞ。


  「いいか南江、最初にグーは出すなよ、絶対だぞ。」


  南江のことだから最初にグーとか割と出しそうで怖い、じゃんけんはまあ勝率3割くらいってのが普通だと思うが、割とみんな最初に出したがるのってグーかパーなんだよね、でその時にその人がどう考えるかによってグーかパーを出すかが決まる。


  特に何も考えてない場合はグー、南江は多分これ。


  何出そうかなって考える人はパー。


  チョキは、ひねくれてるやつが最初に出す。(全部魁紀調べです)


  「大丈夫大丈夫!みんなどうせ戦いたいんでしょ?勝ってくるよ!」


  本当に大丈夫なのか…


  1分後


  「だから最初にグー出すなって言ったよね?」


  「はいごめんなさい何も考えずにグー出したら1人負けしました申し訳ございません…」


  ね、俺の予想当たってただろ!


  「仕方ない、もう負けたことは負けたんだから、じっくり観戦しよう、なにか学べることでもあるだろ。」


  「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい。」


  「遥ちゃんもう大丈夫だよ、ほらよしよし。」


  南江こういうことには弱いんだな、覚えておこう。


  「では第五班を除いて班別対抗を行う、その前にまず実戦の説明をしよう、と言っても前にも説明したから簡潔に話す。」


  1つの班に1人の先生または卒業生がつく、そして各地に出現する妖魔の対処、だったかな。なんか冒険者ギルドみたいなとこで任務受けて妖魔討伐で任務達成って、討〇伝みたいだな。


  「前にも言った通り、1つの班に1人の教師か卒業生がつく、関東地方各地の妖魔目撃情報を元に妖魔の討伐する。そして約1ヶ月間これをやってもらう、その間学校は来なくて結構だ、連絡は各班それぞれでやってくれ、何かあったら俺に連絡しろ。」


  学校行かなくていいのか、やったぜ。1ヶ月も学校行かなくていいのは大変ありがたい、家から遠いからな。


  「この間の交通費などの費用は全て学校が出すから安心してくれ、実戦が終わったら今から配るこの用紙に使った分の金額を書いて提出してくれ。そして学校は来なくていいが、行って欲しい場所がある、任務を受ける場所だ。」


  これ完全にギルドじゃん、なんか嬉しいね、ゲームでやってたことが現実で出来るのって。


  「名前は討魔酒場(とうまさかば)、場所は新横浜にある、酒は置いてあるけど絶対に飲むなよ?食事はただで出してくれるから1日3食ちゃんと食べろよ、宿もあるから借りるといい、ただし1つの班につき1部屋までだ、一般のお客さんの邪魔にならないようにな。」


  なに、6人1部屋ということか、これはつまり南江と松田の…ダメだ、そんなことは考えちゃいかん、南江に殺される…


  「聞いたか魁紀、6人で1つの部屋だぞ、これはつまり!」


  「バカ健太やめろ!南江に聞かれたらまずいって!」


  「あら健太君?今なにか言ったかな?」


  あら嫌だ南江さん凄いニコニコしてるじゃないの。


  「な、何も言ってないぞ、なぁ魁紀!」


  「うん何も聞いてないぞ大丈夫だ。」


  こっわぁぁぁ…心臓に悪いってマジで…


  「健太君、次も同じことが言ったらグーだからね?」


  あっ…健太、無事を祈ってるよ…合掌…


  「はい…」


  「任務は各班に付き添う教師や卒業生が決めるから指示に従え、任務達成数を競ったりする訳では無いから安全かつ素早く任務をこなすように、以上だ。では班別対抗戦を行う、対戦相手はくじ引きで決めるぞ。」


  任務はこっちで選べられないのか、出来れば楽なのがいいな、餓鬼一体の討伐とか。そして暇だな、対抗戦でどことどこが当たるかは分からないけど、第一班と第三班に分があるだろう、理由は第二班と第四班の実力を知らないからである。


  くじ引きの結果、第一班vs第四班、第二班vs第三班となった。まあどうせ見てるだけだしどうでもいいんだけどね。


  「1戦目は第一班vs第四班、2戦目は第二班vs第三班、フィールドは共通して平原、実力と連携が物を言うだろう。そして今思いついたことだが、第五班、お前たち暇だろ、2戦目の勝者とそのまま戦え。」


  は?嘘でしょ?今日このまま帰れると思ったんですけど?


  「喜んで!!」


  喜ぶな、じゃんけん負けたくせにこういう時に喜ぶな。


  「よし、体育館に行くぞ、各自準備しろ!」


  わざわざ戦わせようとするってことはまたなんか考えてるかもな、松田にちょっと頼んでみるか。


  「なぁ松田、悪いオーラどっかの班か先生から見えるか?」


  「ううん、全く見えないよ、どうかした?」


  「いや、なんでもない、気にしすぎただけだ。」


  なにもないか、なら特に気にすることないか、また羽澤達に勝たせて俺らを始末させようとか考えてたと思ったんだけど。


  9:15 1年5組専用体育館観客席


  「対抗戦のルールだが、基本的にはなんでもあり、殺すのと後遺症の残るような攻撃は禁止、危ないと思ったら直ぐに俺が止めに入る。勝敗はどっちかが降参するか、戦闘不能となったら終了だ、以上。では第1戦、始めろ!」


  1戦目は夏の班と第四班か、夏は優秀だけどバカだからなぁ、第四班は見た感じ陰陽で攻めてきそうだけど引っかからなければ夏達の勝ちだな。気になるのはあの二刀流の柿原(かきはら)、あとは班長の松永(まつなが)、猫を連れてるけど何してくるか分からないな。


  「行くぜ行くぜ行くぜ行くぜ!!」


  先制を仕掛けたのは夏だった。


  「来い来い来い来い来い来い来い来い!」


  だが…なるほど、柿原も夏と同じタイプか…


  「おぉら!」


  「キャハ!!」


  凄まじい剣戟を繰り広げる二人。凄いな柿原、あのバカの攻撃を全部受けきってる、うちのクラスって意外と強いやつ多いのかな、実力テストもなんのためのものかよく分からなくなってきた。


  そしてそんなやり合ってる2人を置き去りに、残りの班員での戦闘も始まった、基本的には呪符による術の飛ばし合いだが、その中で松永は、猫と一緒に静かに歩いていた。


  「ねぇねぇ魁紀君、あれってもしかして猫又(ねこまた)なのかな?」


  南江は松永の猫を指しながら言った。よく見れば尻尾が2本に分かれてる。松永のやつ、妖魔を飼ってたのか。


  「さあ行っておいでにゃーちゃん、あいつらの元気を奪って。」


  「にゃーー!」


  猫又が夏の方に向かって走っていった、けど特に何かをするわけでもなく、五十鈴達後衛の所まで走った、そしてそのまま松永の元へ帰って行った、何をしたんだろ。


  「ふふっ、お疲れ様、よしよし。」


  「な、力が抜け…」


  夏の班全員が唐突に倒れた、強いて言うなら夏だけがまだ踏ん張っていた。


  「これでも班長なんでな、簡単に倒れる訳にはいかねー。」


  「頑丈だね、元気を奪われたというのにまだ立てるなんて。」


  夏のあれは、うーん、ただの強がりだな、あと数秒したら倒れるだろうな。


  「待ってろよ、今すぐに終わらして…」


  確かに今すぐ終わったね、てか寝てるだろあれ。まさか夏達がこうも簡単にやられるとは思わなかった、もっとこう夏が満遍なく暴れる図を想像していたんだけど全然違ったね。


  「第1戦勝者、第四班!このまま第2戦に行くぞ。」


  松永茉己(まつながまみ)恐るべしだな、特にあの猫又、通った場所周辺の人間の力でも吸い取るのか、何か倒れるようなものを出していたのか、わからないことだらけだな。


  「第2戦、第二班vs第三班、始めろ!」


  2戦目、田口班対羽澤班、羽澤班は呪符使いが多いからだいたいわかるけど、田口班は全く分からない。そしてこの戦いの勝者と後で俺らが戦うことになる、ちゃんと見ておかなければな。


  羽澤班は俺らを殺す時と同じように、前衛に1人だけで残りは後衛で呪符を使う、シンプルかつ強力。


  それに対して田口班は逆だ、前衛が多い、やられる前にやるって感じだ。


  「魁紀君はどっちが勝つと思う?」


  「いやわからん、羽澤班の後衛と田口班の前衛、どっちが強いかがものを言うんじゃないかな。」


  正直全く分からない、田口班の実力を見たことある訳では無いから。羽澤班は俺たちに対しては上手い陣形を見せたけど、それはあくまで俺らに対して人数有利をとっていたからだ。ほぼ前衛で突っ込んで来る相手にはどうするかな。


  「相手は前衛が多い、なら一気に前衛を叩く、みんないいね?」


  なんやら羽澤班は後衛を集めている、力を合わせて一気に叩くのかな。


  「ねぇ龍太郎(りゅうたろう)、どうするの、突っ込む?」


  「いや、出方を待とう、戦い方が俺達と真逆だからな、だがまあどうせ前衛の俺達を一気に片付けに来るだろ。」


  田口班は特になにもするつもりは無いのか、その間に羽澤達の術が完成してしまうけど大丈夫なのか?


  「「炎よ、我が力を吸い取って燃え上がれ、その力で我が敵を燃やし尽くせ!炎呪符(えんじゅふ)・大文字(だいもんじ)!!」」


  前衛一人を除いた班員全員大文字を唱えた。その結果、前に俺らに放ったのとは全然レベルの違う大文字となった。


  「なんだあれ、凧(たこ)か?」


  「あんた馬鹿なの?どう見ても炎でしょ。そんなこと言ってないで早く指示出してよ班長。」


  「はいはい、朋実(ともみ)はあれを消せるか?」


  「あれ5人の陰陽でできた炎でしょ?無理だよ無理。全力出して受け流すのが精一杯かな。」


  「なら話は簡単、朋実は炎を消すのに全力を出してくれ、残りは俺達がやる、いいかな?」


  「了解だよ。」


  おっ、田口班が動き出した、先に走ってるのは大谷(おおたに)か、何するつもりだろ。


  「凄いあの子、あの小さい体でよくあんだけ動けるね!」


  南江が驚くレベルなら相当な腕前なのだろう、実際俺から見てもすごい、あんだけ走りながら後から撃たれて来る陰陽を避けてる。


  「南江は大谷みたいに動けるか?」


  「私は無理かなー、私は速さよりも一撃の強さを意識してるから。」


  そうか、てか自覚あったんだね、あの馬鹿力。


  「今失礼なこと考えてたでしょ。」


  「いえいえそんな、とんでもない…」


  危ない危ない…


 そんなこと思ってる間に、爆発が起きた。


  「噓でしょ、あの炎を消したっていうの!」


  「消したって言うより受け流して爆発させただけだよ、あんなのに触ったらほら、火傷しちゃったよ。」


  「降参よ。」


  「第三班の降参により、勝者第二班!ちょっと休憩を挟んだら次に行くぞ、第五班も準備しろ。」


  降参とか味気ねぇな、でも観客席で眺めてるのも悪くなかった、そして田口班か、大谷以外の実力は結局見れなかったな。


  「よぉ、お前細矢だな?」


  「え、え?は、はい!」


 こいつが田口か、終わったばっかなのにもう上がってきたのか。


  「覚えてるぞ、入学初日に、お前鬼寅の攻撃受け止めてただろ。見てたけど驚いたぞ、次は俺が試してやる。」


  「お、お手柔らかに、お願いし…ます…」


  田口はどっかに行った、そんなに通が鬼寅の攻撃を受け止めたのが気になったのか?俺も見てて驚いたけど、試してやるって言うほど田口は鬼寅よりも強いのか?


  「通、大丈夫か?」


  「う、うん、大丈夫…」


  「もしかしてあいつ、知り合いか?」


  「し、知られてはないと、思うけど、同じ中学で、2番目に強かった人だよ。」


  「2番目?あっ、もしかして1番目が鬼寅だった?」


  「う、うん…」


  なるほど、自分が勝てなかった鬼寅の攻撃を受け止めたのが認められないってとこか。意外と見た目に反して小さい男だな、坊主頭だし。


  「じゃあ次は勝たないとな、通が本当に強いって証明するためにも。」


  「あ、ありがとう、僕頑張る。」


  「頑張ろうな!」


  さてと、準備しなきゃね、田口と大谷だけじゃない、それ以外も気をつけないとね。

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