第八集 一本踏鞴(いっぽんだたら)
4月9日 9:00 1年5組教室 丑崎魁紀サイド
最初の模擬戦から1週間、俺たちはひたすら模擬戦を繰り返した、その間俺は相変わらず羽澤達の集中砲火を受けていた。だが確実にチーム連携は前よりも上手くなった、梁は弓、通は守り、健太はサポートなど、みんなそれぞれ自分の技術も上げていった。
そして決まったチームについて、第一班新井班、第二班田口班、第三班羽澤班、第四班松永班、第五班南江班となった。これは全クラス共通で五班に分かれるらしく、なにか書類を提出する際には1年5組第五班丑崎魁紀みたいな感じで書かなければならない、正直長すぎて面倒くさい。なお1組だけ分かれなかったらしい、理由は全員が全員他人の下の着きたくないとの事だ、もうなんかよく分からない。
「お前ら席に着け、ホームルームを始めるぞ。」
もう根元の声も聞き慣れた。今までの模擬戦も最初ほどではないにしろ、生徒同士の妨害が起きても放置してやがる。餓鬼と戦ってる最中に陰陽を飛ばしてきたりとか、建物内にいるのに建物壊してきたりとか、わざとやってるのに事故だとかほざきやがる、本当にやめて欲しい。
「今日の予定だが、模擬戦を続けるつもりだ。」
またか、1週間続けたのにまだやるのか、そろそろちゃんとした事をやりたいんだけど…今思えばこいつ全然先生してないじゃん。
「模擬戦は模擬戦だが、相手は変わるぞ。今までは餓鬼だったが、今回からは一本踏鞴(いっぽんだたら)だ。」
一本踏鞴、関西地方、主に和歌山や三重、奈良に出没する妖魔である。1つの足と目を持ち、両手に斧を持つと言われる。妖魔としてのレベルは餓鬼より高いが、烏天狗には及ばない。大量に出てくることはないと思うけど、もしそうなった場合、クラス全員で対処しないと危ないだろうな。
「これからまた1週間模擬戦を行う、相手は一本踏鞴1体のみ、最後にとどめを刺した班の勝利とする。」
1体だけなのか、30人でかかると流石に倒せると思うんだが。
「それと、4月の後半から5月の前半にかけて、学校の外で実戦に取り組んでもらう。」
実戦か、これはまた唐突のことだな、いくら2週間程度妖魔の相手をしたと言っても、それはあくまで餓鬼と一本踏鞴だけだ、もし他の妖魔が出たとしたらどうするつもりだろ。
「実戦は卒業生や妖術科の生徒が主にやることだが、授業の一環として取り扱うこともある。今回は関東地方各地で妖魔の目撃情報をもとに、班ごとでその対処に当たってもらう。万が一のために、1つの班に教師や卒業生1人が着くことになる。」
それ安心だ、班で行動する上に先生たちが着いてきてくれる、殺されたりすることは無さそうだな。
「実戦の説明は以上だ、実戦が始まる時にまた説明はするから安心してくれ。では模擬戦を始めるぞ、一本踏鞴は一体だけだが決して油断するなよ。」
一本踏鞴ね、師匠にいきなりあいつを倒して来いって言われて何回も殺されそうになったな、今はそんなことないけど。
「準備が出来たら班ごとに体育館に向かってくれ、今回からのフィールドは沼地だ、視野が悪いから班員での連携が大事になる。」
まさかの沼地、俺制服汚れるの嫌なんだけど…
「えぇぇぇぇ沼地!い!や!だぁぁ!!制服汚れちゃうぅぅ!!」
南江も同じ意見だった。
「ほら遥ちゃん、沼に入る前に一本踏鞴倒せば汚れずに済むんじゃないかな。」
「そうだね!そうしよう!てことでみんなお願い!!」
お願いするな、お前何もしないつもりだろそれ。松田もそんなことを言ってあげるな。
「やっぱり千尋ちゃんは私のこと分かってくれる!泣いちゃう!!」
仲良さそうで何よりだ。最初の班決めで席替えをして、みんな1列になって揃って座っていた。南江と松田は前からだけど、健太、梁、通もだいぶ仲良くなっていた。
「な、なんか、南江さんらしいね。」
「そうだな、いつも南江のこのテンションに助けられてるしな。」
「僕らも、あんな感じでやった方がいいのかな。」
そう言って3人で俺の方を見るんじゃない、反応に困るだろ。
「大丈夫だ梁、南江のテンションに無理して着いていくことないぞ、だいたい俺と健太が抑えるのに疲れるだけだから…」
「そうだね…」
南江がテンション上がると走り回ったり暴れたり人の話聞かなくなるから、いつも俺と健太で抑えるようにしてる。松田は助長しちゃうからそこは頼りにならない、だから健太には言葉で、俺は万が一の時に無理やり抑えてる、無理やりって言ってもそんな変な意味じゃないからね。
「よしじゃあ行くよ!一本踏鞴なんて見たことは無いけどササッと倒して帰るよ!」
「おぉー!」
「「ぉぉぉ…」」
南江と松田のやる気に対して男子陣やる気無さすぎでしょ、俺もだけど。まあこれはこれでいっか、いつも通りにやるだけだ。
4月9日 9;10 1年5組専用体育館
体育館に着き、みんな準備運動をしていた。戦ったことない相手だからしっかり万全な状態で戦えるようにしているんだろう。
「こちら根元、先程は言い忘れたが今日こそ生徒同士で妨害でもしたらあとで1発ぶん殴るからよろしく頼む。それでは、これから一本踏鞴との模擬戦を開始する、頑張ってくれたまえ。」
物騒すぎるだろ、殺されそうになってるのはいつも俺らだから殴られることは無いけど、てか今回は不慮な事故とか起こせないだろ。
「よかったね魁紀君!今回こそは大丈夫だね!」
「そうだな、先生に殴られる心配は無いけど、一本踏鞴に殴られる可能性はあるから気をつけてね。」
「うぅそれはそうだね、気をつける!」
元気が良くて羨ましい限りだ。
「健太君、いつも通り索敵お願い!」
「あいよ!」
視野が悪いとはいえ、健太の索敵があれば一本踏鞴を見失うことはないだろ、問題は。
「ねぇ!ここめっちゃ水あるじゃん!こんなの聞いてない!!」
小さい水溜りを踏んだ南江が騒いでいた、教室の時でも言ってたけどこんなに嫌がるとはな…
「ほら、もう来たんだからそんなこと言っても仕方ないだろ。」
「いいや!絶対こんなとこに足突っ込まないからね!そうだ、通君おんぶして!」
「えっ…えええ!?!?」
おんぶ…だと…くっ、どうでもいいかもしれないが一瞬通が羨ましくなった…
「はい!出発!!」
嘘でしょ、あの状態で戦うつもりなのかよ…通めっちゃ嫌がってるじゃん、あのままなら盾構えられないでしょ…
「ごめんね通君、みんながすぐに終わらせてくれるからちょっと我慢してね。」
あいつ本気だったわ、本気であのまま戦うつもりだわ。
「見つけたよ!でもこれ…みんな下がって!!」
健太の慌てた声にみんなは大きく後ろへ跳んだ、そしてそこに着地してきたのが今回の標的、一本踏鞴だった。
「1つ目に1本足、間違えない、こいつだ!」
「向こうから出てきてくれるなら結構!みんなやっちゃってぇ!!」
お前も降りて戦えって、いつの間にか指揮官になってんだ。
「はいよー!みんな突っ込まないでねぇ!炎よ燃え上がれ、集いて敵を射て!炎呪符(えんじゅふ)・照(しょう)!」
火球からレーザーが放たれ、一本踏鞴を貫いた。これならもう終わりかなと思ったが、そう簡単にはやられてはくれなかった。
「うそ!あれじゃダメなの!?」
「なら!健太君、梁君、魁紀君、3人で連携よ!」
え?マジかよ、急に連携って言われてもな…
「魁紀、援護は任せろ。梁は俺の指示で矢を射って!」
「了解だ!」
「了解、じゃあ俺はなにも考えずに突っ込むぞ。」
正直安心して突っ込める、1週間も一緒にやってきたんだ、信頼はかなりしてる。俺は国順を抜き、一本踏鞴に突っ込んだ。
「班長命令だ、早く終わらせたいからこれで終わりにする!」
国順を握り、下から切り上げる、そしてさらに上から叩きつける、さらに斬りつけた時には発火する!
「丑火損(ぎゅうかそん)!」
一本踏鞴は真っ二つになって消えてった、終わったなとは思ったけどおかしい、あまりにも手応えがない。そして一本踏鞴はここにいたというのに、他の班が集まってこない、なぜだ。
「ナイス魁紀君!これで終わったね!」
「いやまだだ、何故か一本踏鞴の妖気がまだある、しかも4箇所!」
健太の索敵なんだから間違いはないだろう。でもおかしい、一本踏鞴は一体だけじゃなかったのか?これだと何体もいることになる。
「魁紀君、一本踏鞴って一体だけって先生言ってたよね。」
「うん、一体しかいないはずだ。」
だけど妖気があと4箇所から来てる、となると班1つに対して一体だったのか、それとも…
「待って、今他の所の妖気が消えた、もしかしたらこれで終了かもしれない。」
本当に終了だといいんだが、それなら先生からの放送が入るはずだ。だけどそれがない、つまりまだいるってことになる。
「ぶ、分身ってことは、あ、有り得るかな。」
分身か、ありえない話ではないが一本踏鞴では無理だ、あれは分身が出来るほどの妖魔じゃない。けどもし分身が出来るものだとしたら辻褄が合う、だとしたら本当に…
「かぁぁぁぁぁいぃぃぃぃぃきぃぃぃぃぃ!!!!!」
何だこの声、いや、夏だな…
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます