第七集 救援と企み
4月2日 9;45 1年5組専用体育館
あの武器、どこかで見たことあるんだけど、なんだっけなぁ…
「先生の言うことを聞いてなかったのかお前ら!生徒同士の妨害は禁止だぞ!」
一人の男が奥から歩いてくる。今の武器を投げたやつか、誰だこいつ。
「悪いオーラがしなかったチームの人だよ。」
松田が小声で教えてくれた、そうか最後のチームの人か。
「そこの丑崎は討伐対象の妖魔だよ、殺そうとして何が悪い。」
羽澤はどうやら意思を変えるつもりはないらしい、さっきの陰陽でほぼ力使い切ってるのにまだ言ってやがる。
「ん?どこに妖魔がいるっておっと本当だ、角生えてる!」
男は俺の角を見て驚く。
「なら1つ確認をしよう。丑崎とやら、俺と勝負しろ、一騎打ちだ。」
「一騎打ち?なんでそんなことをする必要がある。」
「いいから来い、その大太刀が飾りじゃなければな。」
煽ってんのかこいつ、おーいいだろ乗ってやる。
「その前に名乗ったらどうだ、同じクラスなのに名前知らないでやり合うのは性に合わん。」
「おっとそれもそうだ、俺は新井夏(あらいなつ)だ、夏でいいぜ。」
「なら俺も魁紀でいい、よろしくな!」
先手必勝、なにがしたいかわからないけどとにかく勝てばいいんだろ。
「よろしく!はぁぁぁ!!」
9;55 1年5組専用体育館
あれから何度か斬り合ったが、なかなか先が見えない。夏の武器もリーチがあるから、お互いに決め手が無い。このままだとただ消耗するだけだな。
「よぉし!ここまででいいや!」
「えっ?」
「この方天戟(ほうてんげき)が言ってくれた、お前、いや、魁紀なら信用できるとな!」
待てよ、今方天戟って言ったか?方天戟ってあの三国志最強の呂布が使ってた武器じゃねぇか!そうだった!やっと思い出せた!!ってえっ?方天戟喋るの?
「そしてこうも言ってくれた!だがそれでも、俺はお前より強い!!」
は?
「夏、あなたもう黙ってください。」
夏は後ろから来た女の子に頭を横から叩かれ倒れた。おい大丈夫なのか、顔面から倒れたぞ。
「すみません、うちのリーダーが余計なことを言いました。私は五十鈴琴里(いすずことり)と申します、お見知り置きを。あとちなみに、方天戟は何も喋りませんのでお気になさらず。」
喋れないのかよ、じゃあさっきまで全部夏の芝居かよ…あいつもしかして結構痛いやつなんじゃないか?
「いえいえ、こちらこそ新井君が来てくれなかったら大変なとこだったよ!あ、私はチームリーダーの南江遥!遥でいいよ!」
さすが南江、こういう時でもちゃんと話してくれる、今後とも頼りたいものだ。
「よろしくお願いします、遥。私のことも琴里で大丈夫です。それでは私たちこれで。ちなみに餓鬼の討伐はこちらで終了させましたので、皆さんも教室に戻る準備をした方が良いかと思います、では。」
え?もう終わるの??てか五十鈴さんすげー、あのデカい図体の夏を担いで運んでったよ…
「そこまで!模擬戦はこれにて終了とする!ご苦労だった!」
先生からの放送が入り、みんなそろって教室に戻った。羽澤はなにか納得行かない感じではあったが、気にするだけ時間の無駄だろう。
「あぁもう疲れた、風呂に入りたい…」
「遥ちゃん頑張って、まだ2時間目終わったばっかだから頑張ろ?」
「えぇぇぇ!!まだ2時間目なの!?!?辛い!帰りたい!!」
「そんな事言われても…」
松田も大変だな、南江を慰めるのに時間かかりそうだ。南江は南江であんな感じだけど、梁は矢を操作できるようになって嬉しそうだった、だけど問題は…
「通、大丈夫か?」
「だ、大丈夫、だよ、うん。ただみんなの役に立てなかったのがちょっと…」
そんなことを考えていたのか、盾だと全員の前に立って体を張るべきなのかもしれないけど、そんなに考え込む必要はないんだよね。
「通君、そんなこと考える必要はないよ。通君のおかげで、僕は矢を操作できるようになったんだから、まあまだちょっと不安定だし、健太君がいないと敵の位置も把握出来ないし…でも、お陰様で勇気づけられた!ありがとう!」
「梁君…」
「そうだぞ通、最後だって俺らを守ろうとしてくれたじゃん、ああいう時に前に立ってくれると凄く頼もしかったよ!」
「健太君…」
これ以上何も言わなくていいかな、まだ2日目だけど、これはこれでなかなかいいチームに仕上がってるんじゃないかな。
4月2日 9;45 1年5組専用体育館
「お疲れ様だお前ら、まだ疲れてると思うが結果発表するぞ。」
本当だよ、疲れてるからもうちょい休ませろよ。
「結果はこの通りだ、新井チーム15、田口チーム0、羽澤チーム0、松永チーム0、南江チーム0だ。」
ひっどい結果だなこれ、夏のチーム以外何もしてないじゃん、まあ模擬戦中あんな感じだったから当たり前だけどさ。
「お前ら一体何をしてたんだ?新井チームからの報告だと他の4チームが餓鬼放ったらかしにしてチーム同士で争っていたと聞いたが、羽澤、本当か?」
「はい、南江チームが唐突に襲って来たため、偶然場所が近かった田口チームと松永チームと連携し、対処していました。恐らくは丑崎が南江チームをなにかしらの妖術で操っていたに違いありません、今すぐ妖魔として処分するべきです。」
やっぱり先生もグルだな、わざわざ羽澤に聞くってことはこういうことを言わせるためなんだろうな。
「何言ってんの羽澤ちゃん、そっちから襲ってきたじゃん!いきなり死ね!丑崎!とか言って。」
「そうだ、ビルに逃げたら爆発でビルごと潰そうとしただろ。」
南江と健太が反論した、ここで俺が何か言ったとしても信用はして貰えない。だからといって俺じゃなくても信用されるのかって話なんだけど。
「いいえ、彼女達は今でも操られている恐れがあります、信用できません、事実上私たちは襲われました。」
「いいや羽澤さん、彼女らは操られてなどいないし本当のことを言っている。監視カメラに映った映像で全部見ていたからな。」
「えっ…」
何だこの流れ、羽澤と先生は手を組んで俺を殺そうとしたんじゃなかったのか?
「しかも丑崎さんがチームメンバーを操っていたと言ったな、それはむしろ逆だ、お前が田口チームと松永チームを操っていたんだろ、呪符を使っていたところは見てたぞ。」
「あなた、まさか!!」
「羽澤さん、この後職員室に来い、処分はその時に決める。というわけで今日はこれで解散だ、ゆっくり家で休んできてくれ。明日の予定だが、これから学生生活を過ごすにあたって、班決めをする。もちろん今日組んだチームメンバーそのままでもいい、そのままでいいなら明日は休みとする。どうだ、変更したいやつはいるか?」
無の時間が過ぎた、待て待て、情報量が多い。まず班決めって、俺らこれから班生活的な感じで過ごすのか、みんなで過ごすのも悪くないけど南江が問題だな…
それと羽澤だ、絶対なにか裏がありそう。職員室で先生に何されるか分かったもんじゃない、いや別にそんな変な意味じゃなくて、ね?
「よし、いないようだがら明日は休み、次は4日だから間違えのないように、ではご苦労であった、解散!」
1日休みくれるのか、やったね、思いっきり爆睡してやろ。よし帰るか!
10:00 職員室 羽澤幽奈サイド
「一体あれはどういうことですか!先生の指示でやったことなのに、なんで全部私のせいにしたんですか!」
「落ち着け羽澤さん、あの場でああいう言い方をしなければ俺がこの件に関わっていることがバレてしまうじゃないか。」
単純でわかりやすいクズ、私のことを駒としか思ってないのね、ただこれ以上は逆らえない、もし逆らったら家族が…
「あなたって人は…」
「それにしてもよく失敗してくれたな、洗脳の呪符を渡していたというのに、このザマとは。しかもあえてこのためだけにお前を5組に落としたのに、全く失望したよ。」
くそっ、何も言い返せない、言いたいことは山ほどあるけど、ここは我慢しなきゃ…
「仕方ない、では最後の仕事だ。これの出来次第で、お前の家族くらいは許してやらんでもない。」
「わかり…ました……」
なんで、なんでこんな奴に…
あれは2月28日、合格発表の日、合格通知表を貰ったあと、学校の中で迷子になってしまった。あまりにも広い学校だから迷子になるのもおかしくはないと思っていた。だが迷い込んだところが悪かった。
「クック、クッハハハハハハ!!人間の体か!こりゃあ面白い!なかなかいい感覚だ!あの方のために、存分に使わさせてもらうぜぇクハハハハハハハハッッ!」
な、なんだあれは…妖魔?に、逃げなきゃ、先生達に伝えなきゃ!と思っていたけど、体が動かなかった、恐怖で足が震えていた、産まれたての子鹿みたいに。そして思わずその場に座り込んでしまった。
「なんの音だ。」
しまった、座り込んだ音を聞かれてしまった、いけない、逃げなきゃいけないのに、立てない…
「お?なんだお前は?まさかこの体を乗っ取った瞬間を見たのか?」
教室のドアが開き、思わず悲鳴を上げた。
「ふーん、お、いい機会だ、お前合格者か?」
「は、はい…」
「クハハハッ!俺は運がいいな!いいだろ、ここで俺を見てしまったことは見逃してやる、その代わり、お前と同じ時期に入学してくる丑崎魁紀っていう男を殺せ。」
何を言っているんだこいつは、でも私に選択肢は…
「お前がもし裏切るようなことをしたら、その時は家族の命を貰う、お前の妖気の臭いはもう覚えたからなぁ、逃げても無駄だ。」
「なんでそんなことを…」
家族は関係ないじゃない、なんで…
「人質ってやつだ。あっそうだ、お前の名前はなんだお嬢ちゃん?」
「は、羽澤(はざわ)、幽奈(ゆうな)…」
「羽澤ね、こいつの名前はなんだっけな、確かここに名前があったな、ええとなんて読むんだこれ、ね、もと、根元か。」
本当に、なんなのこの妖魔、何がしたいの…
「てことで羽澤さん、お前の新しい担任は俺だ、よろしくな。クハハハハハハハハッッ!」
こうして、最悪な高校生活が始まろうとしていた。家族の命と引き換えに1人の男の命を奪わなければならなくなった。お願い…誰か助けて…
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