第六集 模擬戦 弐
4月3日 9;35 1年5組専用体育館
状況を整理しよう、まずさっきは羽澤のチームが襲ってきた、最初に松田が言っていた悪いオーラがする3チーム、その残り2チームとも羽澤チームと同じ考えならば、この後どこかで襲ってくるはず、そうなった場合餓鬼どころではない。
そしてまだ模擬戦は始まったばかりだ、なんであいつらは俺達の位置がわかったんだ?さらに移動速度も速すぎる、開始直後に襲って来れるはずは…
「どうしたものかなー。」
もうほぼ詰みだな、3チームに襲われたらさすがに殺されるかな。
「ねぇ魁紀君、襲われたことを先生に報告するってのはどう?」
南江の意見はごもっともだ、昨日酒呑童子が言っていた悪意、今日松田が見えた悪いオーラ、偶然とは思えないが、恐らく先生と羽澤達はグルだ。ならば先生に言っても無駄だろう。
「それはやめた方がいい、朝松田が言ってただろ、悪いオーラがするやつらに先生も含まれてる。だから先生は信用出来ない。」
健太が代わりに言ってくれた。
「で、では、どうしようか…」
そうだなー、考えても仕方ない気がしてきた、先生は当てにならない、それに加え3チームが揃って襲ってくるかもしれない、残りは…
「あともう1つのチームに賭けるしかない、かな。」
そうなるね。
「梁の意見に賛成だ、残る悪いオーラが無かったチームに賭けよう。松田、悪いオーラがしなかったやつらの顔と名前は覚えてるか?」
「名前はわからないけど、顔なら覚えてるよ。」
十分、あとはどうやって探すだが。
「健太君、妖気を辿って人間は探せる?」
やっぱり南江リーダー向いてるかも、判断が早い。
「妖気を持ってるなら俺に探せないものは無い、任せろ。」
頼もしすぎる、なにこのチーム、優秀すぎないか?本当に何が理由でこのクラスにいるのか、全くわからん。
「なら、健太君に続いて、千尋ちゃんの目に頼り、私達は悪いオーラがしないチームを探すよ!」
「「おー!」」
俺も小さくおーと軽く手を上げた、南江のおかげでみんなのやる気も上がって、さっきの重い空気はかき消された。まあ原因は俺なんだけどね。
「では早速行こう。」
「炎よ燃え上がれ、爆ぜて敵を蹴散らせ!炎呪符(えんじゅふ)・爆(ばく)!」
爆発の音がした、それと共にビルが崩壊し始める。おいおい冗談だろ、なにもここまでやる必要は無いだろ。
「逃げるよ!」
「「了解!!」」
南江の指示に従い、全員でビルの外に逃げた。そして外で待っていたのは、羽澤チーム含めての3つのチームだった。
「やっと出てきたね。」
「羽澤、お前ら何がしたいんだ?」
直接聞いてみることにした、どうせ妖魔を殺そうとしてるだけだとか言われそうだが、一応な。
「妖魔の討伐よ。」
「ここに妖魔はいないぞ、さっき健太が確認してくれている。」
「いるじゃない、今現在私と話してる妖魔が。」
「俺は妖魔じゃねぇ。」
「じゃあその角はどう説明するつもり?」
それを突かれたら俺も反論できないけど…
「この角は魁紀君の趣味でつけてるだけだよ!」
庇ってくれる気持ちはありがたいが、おい南江やめろ、なんだその言い訳は、趣味でこんなもの付けるわけないだろ。
「そうだ!人がファッションで付けてるものを見ただけで妖魔だって決めつけるのはおかしいだろ!」
健太お前もか、お前も南江と同類だったのか…
「か、魁紀君、さ、流石に違うよね…」
小声で通が話しかけてきた。いや、昨日鬼寅との会話聞いてたでしょ、さっきも人妖だって言ってくれたのになんであの2人に引っ張られたんだよ…
「違うぞ通…これは本物だぞ…」
3年前から生えてるんだから、わざわざファッションだなんて言い張るつもりはないよ…
「笑わせないで!あんなのが趣味で付けてるわけないじゃない!」
なんで羽澤も若干引っ張られてんだよ、もっと自分を信じろよ。
「本当だよ!じゃあ今見せてあげる、魁紀君、それ外してやって!」
「外せるわけねぇだろ本物なんだから!!」
流石に焦る、角外させるとか本気でやらせようとしてんのかこの女、鬼虎ほどではないけど違う意味で怖いわ。
「乗ってくれないとバレちゃうじゃない!」
「アホか!もうバレてんだよ!!」
ダメだ、こいつアホだ。
「飛んだ茶番ね、みんな、標的は丑崎だけ、その他は放っておいても問題ないから、やるよ!」
羽澤の指示で3チーム全員で俺に向かってきた、流石にそろそろちゃんと戦闘態勢に入らないとまずいな。童子切は使えないから、国順は抜いておこう。
「みんな!戦闘態勢!健太君と通君は援護、千尋ちゃんと梁君は後ろから、魁紀君と私は前、あとは適当にやるよ!」
適当ってなんだよ、雑すぎるだろ。って言っても、ちゃんと全員の戦い方理解してる、松田はわからないけど、陰陽コース希望だから扱う術的に後ろからのが正しいんだろ。
「千尋ちゃん!敵の撹乱お願い!」
「あいあいさー!炎よ燃え上がれ、散り乱れて敵を焼け!炎呪符(えんじゅふ)・乱(らん)!!」
詠唱と共に大きな火球が出現し、そこから小さな火の玉が無数に敵3チームに向かって発射された。かなり広範囲に発射されているため、敵は動かざるを得ない。
「向こうにも陰陽使いがいたか、散開して奴らを囲んで!」
羽澤は慌てることなく指示を出した、これじゃ向こうから同時に攻撃されたら一溜りもないな。
「おっらぁぁぁぁ!!!」
南江が飛び上がって地面を殴りつけた。
おいまじかよゴリラかよあいつ…地面結構割れてんじゃん…おまけに何人か衝撃で飛ばされてったな…
「田口君!早速やられたか。」
順調と言いたいところだけど、人数有利は向こうが取ってる、こっちは人数も不利だしこのままじゃいずれは押し切られる、せめてもう1つのチームに頼れれば…
「僕もやらなきゃ、当たれ!」
矢、もとい剣のスピードは申し分ない、問題はやはり…
「当たらない…!」
コントロール、だな。矢の操作が上手く行けば梁はチームの最高の戦力になる、健太と合わせたら相手にしたくないところの話じゃない、一方的に位置が把握されていて、そこから速い剣が飛んでくるんだ、嫌だな…
「い、言い方悪いけど、さ。りょ、梁君はさ、僕と同じで、ちょっと、怖がってるのかな。」
「通君…その通りだよ、でも通君は僕と違って、守れる勇気がある、僕にはこの弓を引く度胸すら欠けているんだ…」
「で、でも、梁君は、せっかく力があるんだから、そ、その、なんて言えばいいのかな、もったいないよ。」
「そう、かもね…」
(僕は、本来ここにいないはずなんだ、力も言われるほどないし、度胸もない、剣は扱えなかったから弓に転向したけど、結局弓も使えないままだ。弓も剣もいい物なのに、使い手がこのままじゃ…)
通が梁に何か言ってくれてるな、なら最後にもう一押しだ。
「梁!自分がなんでここにいるかもう一度考えてみろ!!」
(僕がここにいる理由…そんなの、妹を…妹…そうだったね、僕は妹を守るために、妹を安心させるためにここにいる、もう茜(あかね)に怖い思いをさせないために!ありがとうね、魁紀君!)
「もう1回だ!」
外れ。
「まだまだ戻ってこい、もう1回!」
また外れ。
「なんだあいつ、全然当たらないじゃん。」
「避けてる方が当たりそうだね。」
完全に煽られてる、梁、こんなもんじゃないだろ!
「戻ってこい!当たれぇー!」
その瞬間だった、梁の矢はまるで生き物みたいな動きをした。
「なんだあの矢は、追いかけてくる!」
「さっきと全く動きが違うじゃない!」
やったな梁!すげーじゃねぇかあの矢!
「健太君、敵の位置を教えて!まだ操作できるうちに一気に仕留めたい!」
「はいよ!この妖気の流れ、3秒後に10時の方向に5人が一直線に並ぶよ!」
「了解!」
(3、2、1、今だ!)
急に梁の矢が加速し、一直線に並んだ5人が一気にダウン。剣は鞘に納まったままだから気絶で済んだ。
「田口チームが全滅か…ちっ、だけどこっちはまだ12人残ってる、まだ殺れるチャンスはある!」
あいつまだやるつもりなのか、いったい何のために…!
「ガァァァ…」
「ガガガギ、ギガァァァ…」
「みんな気をつけろ!この妖気、餓鬼の群れだ!」
健太が妖気を察知してくれたか、餓鬼が近づいてきたことがわかった。このタイミングで餓鬼かよ、羽澤達と同時に相手しないといけないのは辛いな。
「さあ羽澤ちゃん、そっちはどうするの?餓鬼がいっぱい来るみたいけど、まだ私たちを相手にするの?」
南江が交渉に持ち込んだ、多分羽澤は乗らないだろうな、人数が有利な分、俺らと餓鬼同時に相手できるっていう考えもできる。
「なんてことはない、まとめて蹴散らすだけよ。」
「なに?」
「炎よ、我が力を吸い取って燃え上がれ、その力で我が敵を燃やし尽くせ!」
「い、いけない!みんな逃げて!こ、ここは僕が!」
「通!無茶だ!いくら通の盾でもあれはきついぞ!」
「炎呪符(えんじゅふ)・大文字(だいもんじ)!!」
火球が収縮し、大の字になってこっちに向かって発射された。これは正直に言ってやばいやつだ、こんな術かき消せる技を持ってるわけが無い、逃げるしかないか。
「なにやってんだ!お前ら!!」
何かが空中から投げられ、大の字を消し、地面に刺さった。あの武器、どこかで見たことあるような…
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