第五集 模擬戦

4月3日 9:10 1年5組教室


  最悪だ…オンスター1缶無駄にされた…もうまぢ無理…死のう…


  「丑崎君、何かあったの?」


  心配そうに南江は話しかけてきた。


  「大丈夫だ、お気に入りのエナジードリンク無駄にされただけだ…」


  「それ大丈夫じゃないよね…」


  大丈夫ではないけど今は気にしないでおこう、うん…


  「全員揃ったな、1時間目を始めるぞ。だいたい決まってる人もいると思うが、1時間しっかり使って決めろ、決まった人から俺のところまで来てくれ。」


  もう報告行こ、模擬戦で何をやるかは分からないけど準備しておきたい。


  「根元先生、妖術コースでお願いします。」


  教壇に行き、根元にコース選択のことを伝える。


  「丑崎さんか、大丈夫なのか、妖術コースで。」


  「はい、大丈夫です。」


  「妖術の使用で酒呑童子が暴走したりはしないのか?」


  「はい、問題ありません。」


  するわけないだろ、童子切抜かない限り酒呑童子の力なんて出てこないんだから。


  「ならばよし、模擬戦の準備でもしてくれ。と言っても特にやることはないから、ゆっくり休んでくれ。」

 

  「わかりました。」


  寝よ。


  席に戻り、机に伏せて目を瞑った。待てよ、このまま寝過ごしても嫌だし。


  「歌田君、今から寝るから模擬戦が始まりそうな時に起こしてくれ。ではおやすみ。」


  「えっ、ちょっ…えぇ…」


  ごめんね歌田君、あまりにもやることがないんだ…


  9:30 1年5組教室


  「丑崎君、丑崎君、今から模擬戦の説明が始まるよ。」


  「ん?もうか、早いな。」


  ちょっと変な体勢で寝たからか背中が痛い…腕も痺れてる…これは治るのにちょっと時間かかりそうだ…


  「ではこれから模擬戦の説明を始める。まず6人1組となるようにチームを組んでくれ、話はそれからだ。」


  6人か、だいぶ多いな。実力知ってなきゃチーム組むのも難しいけど、そもそもみんな初対面だから実力知ってるもくそもないか。ならやはり最初は歌田君と細矢君だな。


  「ねぇ歌田君、組もうよ。」


  「うん、僕もそう思ってた、組もう!」


  よし、歌田君勧誘成功。次は細矢君だな。


  「細矢君、俺達と組まないか?」


  「い、いいの?ぼ、僕でよければ、喜んで!」


  「じゃあ決まり!」


  細矢君も勧誘成功っと。さて、問題はあと3人、どうしようか。こういう時知らない人に話しかけるの苦手なんだよな…


  「丑崎君!私達も入れてくれない?」


  悩んでいたところに、南江さんが松田さんと村上君を連れてきた。お、これで6人揃ったじゃん!やっぱ頼れるのは人脈だな、まだ会って初日だけど。


  「うん!大歓迎だ!」


  これで6人揃った、俺、歌田君、細矢君、南江さん、松田さん、村上君。歌田君と細矢君以外はどう戦うかは分からないけど、まあ何とかなるでしょ。


  「あと南江さん、チームリーダーを任せてもいい?」


  「うん!まっかせなさい!」


  南江さんは自信満々に上げた腕を叩きながらそう言った。


  リーダーシップとかは分からないけど、人と話すのは俺より上手いと思うから任せた。いや、投げたが正しいね。


  「5チームになったな、よし、では説明を始める。これから体育館に向かう、全員武器を忘れずにな。最初はチーム戦だ。」


  チーム戦だって言ってもなー、どう戦えばいいか分からないからどうしようもないのだが。


  9:40 1年5組専用体育館前


  「専用体育館、これはうちのクラス専用の体育館だ。ここでは妖魔を発生させることが出来て、昨日入学式でもあったようにな。そして体育館内の景色も変更させることができる、森、市街地、海等いろいろある。」


  また妖魔か、どんな妖魔が出てくるんだか。


  「さらに安心してくれ、今回発生させるのは餓鬼(がき)、ちゃんと協力すれば倒せる妖魔だ。そこで今回チームで競ってもらうのは制限時間内での討伐数だ。」


  餓鬼なら安心と言いたいところだが、元々餓鬼はわざわざ協力してまで討伐する妖魔じゃない、つまりそれなりに強化されてるということか。面倒くさいなぁ…


  「今回のフィールドはビル街、東京の市街地を彷彿させるフィールドだ。全チーム同時に参加し競ってもらう、今回のターゲットは妖魔だ、生徒同士の妨害等は禁止とする。」


  よかった、また千代川みたいに殺しに来ようとするやつに会ったら困る。


  「では始めるぞ。あーそうだ丑崎さん、当たり前だが酒呑童子の力を使うのは禁止だ。」


  使うかよばーか、使うと疲れるってーの。


  「わかりました。」


  でもなんか違和感がする、確かに酒呑童子の力は危険だけど、そこまでして禁止にする理由がよく分からないな。


  「丑崎君、気をつけて、嫌なオーラが見える。」


  松田だった、嫌なオーラ?俺には何も見えないが…


  「その嫌なオーラってなんなんだ?」


  「私小さい頃から見えるの、悪い人に出てくる紫色のオーラ、それが先生と他の3チームから出てるの。」


  1チーム以外気をつけろってことか、なんだなんだ、たかが模擬戦で何やらかすつもりだ?


  「ありがとう、気をつける。」


  悪い人か、根元先生は分かるけど他のチームもか、多分1つは羽澤のチームだろ、昨日突っかかってきたし。千代川もそうだったけど、みんな俺みたいな半端者でも妖魔と同じ部類として見たがるのか。


  これだと餓鬼に集中できないな、どうしよう、どうにでもなるか、生徒同士の殺し合いは禁止されてるし、特に問題は無いだろ。


  「制限時間は1時間、それまでに妖魔を倒した数で点数が決まる。各チーム配置につけ!」


  根元の号令で全チームが指定された場所に向かう。


  「こんなとこでどう戦うんだよ…」


  「餓鬼を探すのも一苦労しそうだね。」


  「ぼ、僕妖魔探すの、苦手…です…」


  「大丈夫、妖魔探すなら俺に任せろ。」


  村上君、探知系の妖術が使えるのかな。


  「どうやって探すんだ?」


  「こうやってやるんだ。」


  そう言って村上君は地面に手を当てた、さっぱりやってる事の意味がわからん。


  「地面に手を当てることで、餓鬼から地面を伝って流れてくる妖気を感じ取れるんだ、それで位置を把握出来る。」


  なるほど、誰にでも出来そうっていうわけでは無さそうだ、手の感覚どうなってるんだ。


  「それで場所はわかったの?」


  「ここから2つ先のビルの中にいる。2体だ。」


  「それじゃ準備はいいか?始め!」


  根元のアナウンスが響き渡る。


  「オッケー!それじゃ私にまっかせなさい!」


  南江さん大丈夫か?すげー張り切ってるけど。


  「遥ちゃん待って!」


  「死ね!丑崎!!」


  え?俺?


  「な、なんのつもりですか、君は!」


  細矢君が盾で俺を守ってくれた、また助けられちゃったな。それよりこいつら、羽澤のチームだな、松田が見えたオーラの意味ってこういう事だったのか。


  「そこを退きなさい、君達に用はない。」

 

  「う、丑崎君に用があるのはわ、わかります!だけどここを退くことはできません!」


  「なら君もここで殺してあげるよ。」


  「こ、殺すって…!」


  いけない、細矢君の力が抜けてる、いくら盾が耐えてるとしても細矢君が先に持たなくなると意味が無い!


  「頑張れ細矢君、お前は死なない、みんながいる!」


  俺は細矢君を鼓舞すると共に細矢君の背中を支えた。


  「う、丑崎君…」


  「そう!私たちがいる!ってのぉ!!」


  激しい打撃音がして土煙が舞い上がった、声からして南江さんがやったんだろ、あいつ妖術よりも武術のがあってるんじゃないのか?


  「みんな今のうちに!!」


  村上君の誘導で近くのビルの中に全員で隠れた、ただ長くは持た無いな、次にどうすればいいか考えなきゃ。


  「どうしてあいつら丑崎君を狙ってるのかな。」


  「本当よ、いきなり死ね!なんて。」


  「た、たぶんだけど、丑崎君が人妖だから、だと思う。」


  「「え?」」


  なんだよその反応、むしろ今まで気づいてなかったのか、フードで隠してるとはいえ妖魔特有の角が生えてるんだぞ、松田さんなんてたぶんオーラで見えてたんじゃないか?


  「丑崎君、本当に人妖なの?」


  仕方ない、みんなにこう聞かれちゃ隠しても仕方ない、開き直ってフードを外そう。


  「そうだ、この角を見ろ。」


  「本当だ、でも丑崎君からは悪いオーラが見えなかったよ。」


  松田の目でも悪いオーラは見えなかったのか。


  「そうか、それなら良かった。じゃあもうフードなんて被る必要ないな、もう周知の事実みたいなもんだし。」


  「むしろなんでフードなんて被ってたの?」


  南江さんは何も気にせずに聞いてくる、デリカシーってものがあってだね、でもこれはこれでこいつのいいとこなのかもな。


  「この角を隠すためだよ、普通の人間として生きていたかったんだよ。それと羽澤達みたいに妖魔は殺すって徹底的に思うやつから身を守るためでもあった。」


  今までだってそうだ、角を見た瞬間斬りかかって来るやつとかね、正直もう慣れた。だけど普通に人間として生きていきたいんだよ俺は。


  「今まで何があったかは分からないけど、丑崎君は私たちを助けてくれた!」


  「そうそう、丑崎君がいなかったら私達は鴉天狗にやられてたと思うし。」


  「理由はどうあれ、俺達を助けてくれたのは事実、実際に関わったおかげで丑崎君がどういう人間かもわかったし、てか魁紀でいいかい?」


  「僕も魁紀って呼んでいいかな?」


  「ぼ、僕も…」


  いいやつらだな、偶然とはいえ助けただけなのに。


  「みんなありがとう、じゃあ女子以外は下の名前で呼ぶ!」


  「ええ!私も下の名前で呼んでよ魁紀君!」


  「私はどっちでもいいかな。」


  「女子の下の名前を呼ぶと何故か恥ずかしくなるから嫌だ。だから南江と松田で許してくれ。」


  「えぇぇぇぇなんでぇぇぇ!!!」


  そんくらい許してくれ…

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