第9話 情報屋
「なぁ堅持、お前最近隣のクラスの白城と一緒にいるってマジ?」
「あぁ、マジだよ」
次の日の朝、教室に登校してきた直輝にこっそりとそう尋ねてきたのは、入学時から付き合いのあるクラスメイトの男子だった。こんなドライな性格でも人懐っこくよく話し掛けて来てくれる彼の名は、
直輝は利用した事はないが、この高校に在籍している生徒や教師の情報は一通り把握しているという情報屋の一面もある。
「ふーん、そっか」
「……何も言わないんだ?」
「酷い噂ばかりだから関わるのは止めた方がいい、ってか? そう言って素直に聞くタイプだっけ?」
「う……」
確かに高校での直輝はわざわざ引き受けなくていい先生や他生徒の頼み事など、率先して受ける癖がある。
以前梶川が「都合よく堅持に押し付けてるだけだ」と指摘してくれたことがあったが、鋭い瞳を隠して真面目くんを演じている以上、断る訳にはいかない。
「ま、俺としてはさっさと本当のお前を見せて欲しいってのが本音だけどな?」
「何言ってるんだよ梶川くん。本当も何も、これが僕だよ」
「はいはい。さいですかっと」
軽い調子で肩をすくめながら返事をする梶川。
本当に不思議なのだが、どうやら彼はこの直輝が高校で演じているものだと薄々気がついているようなのだ。情報屋としての嗅覚というか、第六感的なものなのかは不明だが、保持している情報で無理矢理本当の直輝を暴いてこようとしないのは梶川なりのスタンスだろうか。
何はともあれ、ヘラヘラしていても根は優しい奴なのは間違いない。
「話を戻すけど、白城に関しては正直俺でもお手上げ状態でさ。高校中に信憑性のない噂が一人歩きしまくってて実態を掴めてないんだよ」
「そっか」
「———ぶっちゃけ、俺個人としての考察だと、白城ってそこまで遊んでるようなヤツじゃないって睨んでる」
「……一応訊くけど、どうしてそう思うんだ?」
「俺の勘♪」
「なにそれ……」
思わず脱力してしまう直輝だったが、梶川はからからと笑ってそのまま言葉を続けた。人差し指と親指で丸を作るジェスチャーをしながら。
「いやいや、半分は本気だぜ? なにせこの自前の観察眼と行動力で情報を手に入れて儲けてますからなぁ」
「そうですかー……」
「それに俺の聴き込みによると、その白城に関する噂は大体が又聞きで、その発信元を順番に辿るとフラれた男子による腹いせや彼女の美少女っぷりに嫉妬した女子によるデマ……つまり嘘だったっつー場合がほとんどだったんだ」
「……へぇ。すごいね、そこまで調べてるんだ」
眼鏡の奥で目を見開いた直輝は思わず舌を巻く。
梶川の行動力もそうだが、その考察の全てが朝陽から聞いたものと合致していたからだ。彼がこの学校のすべての人間の個人情報を握る情報屋だということは知っていたが、正直趣味の範疇を超えないだろうと高を括っていたのでその正確性は意外だった。
朝陽の不明瞭な情報でさえここまで正しいのであれば、確かに知りたい相手がいるならば金を払ってでも梶川に訊きたいだろう。
「まぁな。いやー胸糞悪かった。……ま、だからもし何か白城に関する情報があったら今度でいいから少しでも教えてくれると助かる。くだらない情報に踊らされたとなっちゃあ情報屋として名折れだからな。俺とお前の仲だし、なんなら代わりに堅持が気になってる女子の情報を教えても———」
「ねぇ梶川くん」
「うん? どうした?」
「そういう情報ってさ、逆に学校中に広めることも可能だったりする?」
初めはこちらの言葉にきょとんとした表情をしていた梶川だったが、次の瞬間、にんまりと口角を上げながら目を細めた。
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今回は少し短めです。
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